禪院の逸脱者   作:シン2001

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第2話

「準特級術師で、禪院家次期当主最有力候補様だよ」

 

 真希の言葉が落ちる。

 

 釘崎がすぐに手を挙げた。

 

「先輩、先輩しつもーん。準特級ってなんですか?」

 

 総司は静かに問う。

 

「特級術師の定義は知っているか」

 

 伏黒が答える。

 

「単独で国家転覆が可能な術師」

 

「そうだ」

 

 総司は淡々と続ける。

 

「広域殲滅。戦略級術式。持続的制圧能力。国家規模で影響を与えられる存在。それが特級だ」

 

「じゃあ先輩は?」

 

「そこには届かない」

 

 即答だった。

 

「俺は近接特化だ。広範囲制圧能力は持たない。国家を転ばせる力はない」

 

 釘崎が腕を組む。

 

「でも一級でもないんですよね?」

 

 総司は続ける。

 

「特級相当任務への単独投入。特級呪霊の祓除。複数一級術師との模擬戦無敗」

 

 伏黒の視線がわずかに鋭くなる。

 

「それで“準特級”」

 

「制度外の暫定呼称だ。俺個人にのみ適用されている」

 

「ほぼ特級ってことじゃないですか」

 

 一瞬の間。

 

「力の方向性の問題だ」

 

 総司は言う。

 

「特級は面で制圧する。俺は点で潰す」

 

「だから国家転覆には届かない」

 

「そうだ。規模の問題だ。質ではない」

 

 沈黙。

 

「……失礼かもしれないですけど」

 

 釘崎が少し迷ってから言う。

 

「先輩の術式って、聞いてもいいですか?」

 

 総司は淡々と答える。

 

「他人の術式を詮索するのはマナー違反だ」

 

 一拍。

 

「だが心配することはない。俺には当てはまらない」

 

「どういう意味ですか?」

 

「俺は術式を持っていない」

 

 空気が止まる。

 

「生得術式は発現していない」

 

 釘崎が目を見開く。

 

「それで準特級……?」

 

「術式がない分、呪力運用に制限がない。それだけだ」

 

 伏黒が小さく呟く。

 

「一点突破型……」

 

「そういう分類になる」

 

 静寂。

 

 真希が鼻で笑う。

 

「禪院の落ちこぼれが、ここまで来たってわけだ」

 

 軽い調子。

 

 だがその言葉に、わずかな重みが混じる。

 

 総司は否定しない。

 

「事実だ」

 

「術式もない。家の期待にも沿えなかった。評価は妥当だ」

 

 真希の視線が僅かに鋭くなる。

 

「……そうかよ」

 

 短い沈黙。

 

 釘崎が腕を組んだまま言う。

 

「理屈は分かりましたけど……いまいち想像つかないですね」

 

 伏黒も頷く。

 

「一点突破型、と言われても具体像が曖昧だ」

 

 総司は短く息を吐く。

 

「そうだろうな」

 

 一拍。

 

「俺の戦い方は、理論立てて説明するよりも見せた方が早い」

 

 真希が口角を上げる。

 

「模擬戦か?」

 

 伏黒が言う。

 

「お願いできますか」

 

 釘崎も笑う。

 

「せっかくだし一年まとめてでどうです?」

 

 総司は三人を見る。

 

「二人では足りないだろ」

 

 総司の視線が真希へ向く。

 

「真希。お前の成長も見ておく」

 

 真希の口角がゆっくり吊り上がる。

 

「上からだな」

 

「事実確認だ」

 

 空気が張り詰める。

 

 そのまま、三人と一人で向き合う。

 

 伏黒がわずかに重心を落とす。

 

 釘崎が指を鳴らす。

 

 真希は静かに距離を測る。

 

 総司は動かない。

 

 微動だにしない。

 

 ただ立っている。

 

 そして、言う。

 

「いつでも来い」

 

 言葉が落ちた瞬間。

 

 最初に動いたのは伏黒だった。

 

 素早く手印を結ぶ。

 

「玉犬」

 

 影が揺らぐ。

 

 地面から黒い式神が跳び出す。

 

 低く唸りながら一直線に総司へ駆ける。

 

 牙が迫る。

 

 衝突するはずだった。

 

 伏黒の脳は、玉犬が総司をすり抜けたと認識する。

 

 確かに捉えた。

 

 距離も、角度も、速度も計算通り。

 

 だが、手応えがない。

 

 玉犬はそのまま総司の背後へ駆け抜ける。

 

 総司は動いていない。

 

 立っている。

 

 最初と同じ位置に。

 

 釘崎が声を上げる。

 

「伏黒! 今の何!」

 

 伏黒は総司から目を離さない。

 

「……分からない」

 

 沈黙を破ったのは真希だった。

 

「避けただけだよ」

 

 二人が視線を向ける。

 

「ただ動きが早くて、滑らかで、自然すぎるだけだ」

 

 真希は総司を見据えたまま言う。

 

「私たちが“動いた”って認識、実感できてないだけだ」

 

 総司は淡々と続ける。

 

「我々禪院家を含め、呪術御三家に伝わる“落下の情”という技術がある」

 

「その本質は、領域を構成している必中の乗った呪力に即座に己の呪力をぶつけ、相殺することに趣を置いている呪力のカウンタープログラムだった」

 

「元はあくまで領域対策のひとつに過ぎない技術だ」

 

 視線は揺れない。

 

「あくまで肉体の動き、カウンターへの流用はオマケに過ぎないものだった」

 

 一拍置いて、続ける。

 

「それを俺なりに改良した」

 

「物理的、呪術的攻撃に呪力が反応し、反応した呪力が適切に肉体を動かし最適な行動を取る直接戦闘特化にした」

 

 淡々と補足する。

 

「簡単に言うと、どんな攻撃にも考えずに身体が勝手に反応するようにした」

 

 そして、静かに付け加える。

 

「そして俺は、その状態を常に続けている」

 

 総司は動かない。

 

 ただ、静かに三人を見ている。

 

 間合いは変わらない。

 

 空気だけが、張り詰めていた。

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