由良と提督と鎮守府と。   作:UMC OGASOU

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誘拐

由良と提督と鎮守府と。

 

「…提督、起きてください!!」

 

その声で、提督は目を覚ます。

 

「いい加減、執務室で寝るのやめなさいってば!!」

 

そう怒るのは軽巡、由良。

長い髪にある飾りが揺れる、優しい艦娘だ。

 

「聞いてますか!?」

 

一気に提督との距離を詰める由良。

彼女の服から柔らかい、いいにおいがして、提督はドキッとする。

それを取り繕うように提督は言う。

 

「業務の効率が上がるから。」

 

それを聞いた由良は黙り込む。

 

「…大和さんが行方不明になって2日。焦る気持ちもわかりますが、なんで提督は自分の事を後回しにするんですか!!」

 

「無理なんてしていない。大和の件もあるのに、鎮守府の警戒は落とせない。」

 

「無理してるんですってば!!こんなに頑張って伝えているのに、どうして変わってくれないんですか!!このクズ!!」

 

そう言い残し、扉の前で一瞬止まっていたが、

由良は執務室を飛び出していった。

その直後、入れ替わるようにして曙が入ってきた。

 

「何しでかしたの?クソ提督。」

 

曙は呆れながら話す。

 

「無理して執務して、ここで寝てたら怒られた。」

 

提督はありのままに話す。

 

「で?それだけじゃないんでしょ?」

 

「効率がいいと言った。指揮官が弱音を吐くわけにはいかない」

 

それを聞いた曙は衝撃を受けた。

それと同時に覚悟を決めたように言う。

 

「…由良はね、食堂でも訓練中でもアンタのことを話してた。あの人は無理しすぎるから…って。」

 

提督はいつも怒ってばかりの由良の本音に少し驚く。

 

「それだけアンタのことを大切に思っていた。それに比べてアンタ。何も変わらないじゃない。」

 

曙は淡々と、しかし、厳しく言う。

 

「恩を仇で返して、男としても人としても最低で、クズじゃない!!」

 

言葉が提督に重くのしかかる。

 

「そうだよな…わかってたんだ。すまないことをしたな…」

 

そこでようやく、由良が一瞬、立ち止まった理由が分かった。

提督は胸が苦しくなる。

自分は最低だ…と。

 

「で?この後することは決まっているわよね?」

 

曙が珍しく優しい口調でいう。

 

「そうだな。謝らな…「提督!!」…どうした!?」

 

吹雪が息を切らして執務室に飛び込んできた。

それにより、提督の言葉が遮られる。

 

「五人組の男が、鎮守府の門を突き破って…さんを誘拐していきました…」

 

「誰が誘拐された!?」

 

「由良さんです…」

 

次の瞬間、提督は無線に飛びつく。

そして、緊迫した声色で言う。

 

「空母隊!!車は追跡できてるか!?」

 

無線はすぐに帰って来る。

 

『こちら加賀。例の車は北へ直進。今、ヤスダ商店通過。』

 

「了解した。これからも引き続き追跡頼む。」

『了解。』

 

提督は振り返り、覚悟した顔で言う。

 

「吹雪、鎮守府を頼んだ。曙、ついてきてくれ。」

 

「何をするつもりですか!?」

 

吹雪は困惑しながらも叫ぶように言った。

 

「…自分がまいた種だ。自分でケリをつけに行く。」

 

そう言い、提督は執務室を走り去ってゆく。

 

「…仕方ないクズ提督。」

 

そう言いながらも曙はついていく。

 

 

提督たちは鎮守府の駐車場に着き、軍用車両に乗り込む。

この車両は緊急走行が許可されている、スポーツカータイプの車両だ。

キーをまわし、エンジンを始動させる。

軍用車ならではのディーゼルエンジンがカラカラと音を立てて動く。

 

「どうして私を連れていこうと思ったの?」

 

曙はシートベルトをしっかり締め、それから聞いた。

 

「唯一事情を知ってるからな。」

 

提督は当たり前のように即答する。

 

「ほんっと面倒臭いクズ提督。」

 

曙は呆れるも、提督の行動力には内心驚いていた。

 

「こちら提督、車の追跡情報を下さい。」

 

『こちら加賀。ドウオウのガソリンスタンドに入っていったとの報を受信したわ。』

 

「了解。引き続き追跡頼む。」

 

そういいながら提督はギアを1速に入れる。

それによってエンジンの回転が車輪に伝わり、動き出す。

提督はアクセルを踏み、サイレンを鳴らす。

徐々に回転数が上がり、スピードが上がるのが音で伝わってくる。

「待ってろ、由良…」

―提督を乗せる車は、一直線に由良へと向かっていた。

 

 

 

 

時は少し戻り、執務室を由良が飛び出していった所。

提督なんてもう知らない。その一心で由良は走る。目的地は鎮守府の外。

足は止まらない。いや、止まれない。

今まで提督を大切にしてきたのに、提督自身が変わらないのなら、私はもう要らない。

門に着く。しかし、花壇に吹雪がいた。

 

「あ、由良さん。どうかしましたか?」

 

吹雪が持ち前の明るさで、聞いてくる。

 

「いや、まあ、提督さんと喧嘩しちゃってさ…」

 

「あの人は変人ですから、あんまり気にしないほうが良かったりしますよ。」

 

でも、由良の思いは違った。

 

「私は、あの人無理しすぎだと思うんですよ。」

 

吹雪がうなずく。

 

「秘書艦である私が大切にしてあげても、あの人は自分を大切にしない。変わってくれない…。」

 

そう由良が悲しげな表情で言う。

吹雪が腕を組み、考える。

そして言う。

 

「ビンタしてあげましょう。」

 

「え?」

 

由良は困惑する。

こんなことで、あの人は変わるのだろうか、と。

 

「多分ね、由良の事は提督、なんか特別に思ってる気がするんだよね。」

 

「そう…そうね。もう一回話し合ってみる。」

 

「頑張ってください!!」

 

そう吹雪が言い終えた瞬間、黒塗りの車が門を突き破ってくる。

それによって二人は左右に車を挟んで分かれる。

車から、5人組の男たちが出てくる。

由良は何かを察知し、吹雪に叫ぶ。

 

「吹雪!!逃げなさい!!」

 

その言葉によって吹雪は動き出すが、男の足の速さには勝てず、腕をつかまれる。

由良は走り出し、吹雪の腕をつかんでいる男に目掛けて蹴りを入れる。

その衝撃で吹雪は解放される。

 

「吹雪!走って逃げ…」

 

この言葉は言い切れなかった。

それは、男が由良の顔目掛けて殴ったからである。

それを食らった由良は倒れる。

吹雪はどうしたらいいのか、茫然と立ちすくんでいた。

 

「逃げて吹雪!!」

 

この言葉でようやく吹雪は動き出す。

由良はよろよろと立ち上がる。

 

「私をどうするつもり?」

 

男は答える。

「身代金。人質にするってわけだ。」

 

「いやよ!!」

 

「嫌もくそもない。」

 

 

男たちの腕が上がる。由良は体を守ろうとするが、衝撃に耐えきれずよろめく。

何とか立ち上がる。

しかし、次の一撃が体を襲う。痛みが走り、倒れる。

だんだん意識が薄れていく——

最後、かろうじて思った。

 

(提督、ごめんね。)

 

 

由良が目を覚ましたのは、見知らぬ道を走る車の中でだった。

無駄に広い車内で、由良は鉄の鎖と、重りをつけられ、ほぼ身動きが取れない状態になっていた。

 

「ようやく起きたか。人質。」

 

リーダーと思われる男が言う。

 

「どこに向かっているの?」

 

由良は質問する。が、男はあざ笑うように言う。

 

「言うわけねーだろ、バーカ。」

 

ザーザー音がする。無線が入ったようだ。

 

『囮作戦、成功だぜ。昔のアジトに軍用車が向かってる。』

 

ここまで早く鎮守府が動いていることに由良は驚くも、こちらの位置は全く分からないので、絶望した。

 

「ざまぁ見やがれ。」

 

リーダーの男はあざ笑うように言う。それと同時に後ろを見張っていた別の男が叫ぶ。

 

「後方、敵機発見!!急降下してくる!!」

 

由良ははっと窓を見る。

上空には普通の彗星とは少し形が違うが、瑞鶴の彗星が飛んでいた。

彗星は車の上を通過し、車の前方でターン。そうしてもう一度彗星が前方から急降下する。

 

「あ、あぶねェ!!」

 

運転手はそう言うも、彗星はぎりぎりを通過し、何かを投下した後、南の空へ消えていった。

 

 

その頃、提督と曙は…

 

「何もない…」

 

「囮じゃないのクソ提督!!」

 

何もない昔のアジトに困惑していた。

 

「手がかりゼロから再スタートか…」

 

提督はそう呟き、軍用車両に戻る途中で無線がなる。

 

『こちら瑞鶴。西のほうで怪しい車を見つけたので、写真とGPS追跡装置を投下しました。』

 

提督の携帯に画像が送られてくる。

瑞鶴の"二式艦上偵察機”によって撮られたものだろう。

そこには囮の車と同じ車種の車が写っていた。

しかし、今日はもう日が暮れていたため、一旦鎮守府に戻ることになった。

 

 

鎮守府に戻った提督は、主要艦娘を集めて会議を起こしていた。

 

「GPSの位置は?」

 

提督は一番最初にこれを聞いた。

 

「10分ほど前から、山奥で停車しています。少なくともそこには何かがあると思います。」

 

加賀が冷静に分かりやすく報告する。

 

「ほんとにあるのかなぁ?」

 

瑞鶴がはっちゃけた態度で質問してくる。

それに対して加賀は一瞬怒こったようなそぶりを見えたが、我慢した。

 

「衛星写真と照合すると、廃旅館のようなコンクリート製の建物がありました。」

 

「もう少し情報が必要だ。各員情報収集に励め。解散。」

 

「了解!!」

 

 

 

由良は車から降り、歩いてコンクリート製の建物に入り、とある部屋で壁に備え付けられている拘束具で拘束される。

鎖が床に触れる音が大きく響く。

ほかの部屋からは断末魔とも言える叫び声が聞こえてくる。

由良は絶望にも近い声のトーンで言う。

 

「ホントに人質なんでしょうね?」

 

「なわけないだろ!!」

この場にいた男が嘲笑う。

由良は逃げようと鎖を振りほどこうとするが、ガチャガチャ鳴るだけでびくともしない。

 

「ガチャガチャうるせぇぞ!!」

 

リーダーの男が部屋に入って来て、由良の右頬を思いっきり殴る。

由良は意識を失いかける。

だが、由良は意識をギリギリで保つ。

その様子を見て、リーダーの男は言う。

 

「今のに耐えたか。良いだろう。一時間、計画より遅らせてやる。」

 

しかしそれは今の由良にとっては余計に苦しむことになる。

それをわかって。何となく理由をつけ、猶予を延ばした。

計画まで5時間。

その間にも別の部屋から絶叫が聞こえてくる。

由良はこの状況に耐えきれない。

 

 

暫くして由良は、はっと顔を上げる。

部屋の外から扉越しに何か引きずっているような音がしたからだ。

引きずっている音は由良の部屋の前でとまる。

やがて扉が開き、女性が投げ込まれる。

それは、2日前に行方不明となった"大和"だった。

 

「大和…さん?」

 

そう由良が呼びかけると、彼女は顔を上げる。

だが、その顔は絶望に満ちていた。

 

「由良さんも…来て…しまったんですね…」

 

大和は途切れ途切れに言葉を紡ぎだす。

凛々しく、大和撫子という言葉が似合っていた姿とは、真反対の姿になってしまっていた。

 

「ここは、なんなんですか!」

 

「さあ…考えるのも…やめたしまったわ。」

 

その声には、絶望と失望がにじんでいた。

男達が部屋に入ってくる。しかし、彼らは明確に由良の時とは違った。

彼らは素手ではなかった。

 

「由良さん…目を…目をつむって…ください」

 

大和が振り絞るようにその言葉を発したとたん、男の一人がバットを大和に向け振り下ろした。

鈍い音が部屋に響く。

由良の視線の先には血を流し、倒れている大和の姿があった。

 

「大和さん!!」

 

思わず由良は叫ぶ。

だが、それに対しての返事はなかった。

 

「目を…」

 

大和はか細い声でそれだけを発した。

由良はどうすることもできず、目をつむった。

 

その後はひたすら殴打音が響き、大和の苦しそうな声が聞こえた。

男たちは以外にもすぐ部屋の外に出ていった。

部屋には言葉で言い表すことのできない状態の大和が倒れていた。

本来、艦娘は人を守るためにいる。しかし、その守った人間に今裏切られこのようなことになっているのが由良は許せなかった。

 

(私たちは守るためにいるのに。どうして守った人間に壊されなきゃいけないの…?)

 

左のポケットに由良は何とか手を突っ込み、四角い箱を取り出す。

それは、携帯式電信機だった。

 

(提督…気づいて…)

 

そう思いながら、携帯式電信機を打つ。

内容は、

『助けてください。今にも人が死にそうです。大和さんもいます。』

という簡素な内容だった。

だが、提督にはわかるだろうという自信が何故だかあった。

 

「もう少しの辛抱です。大和さん…」

 

返事はない。

やがて由良も眠りに落ちた。

 

 

 

「…提督!!山奥から電信です!!」

 

加賀が叫ぶ。

 

執務室の空気が変わる。

提督は身代金かと思い、こう言った。

 

「何円だ!?」

 

「いえ…『助けてください。今にも人が死にそうです。大和さんもいます。』です…」

 

「…由良から、だな。大和も同一犯による犯行か…」

 

提督は由良からのメッセージをしっかりと受け取った。

決意した顔で言う。

 

「突撃作戦を立案する。陸軍にも応援を要請しろ。」

 

「了解!!」

 

提督の顔は、覚悟を決めきった男の顔だった。

 

「やるじゃん。クズ提督。」

 

執務室の端で話を聞いていた曙はボソッと呟く。

彼女もまた、囮につられたことに関して復讐心を燃やしていた。

 

「陸軍と電話繋げます。」

 

加賀の行動は速かった。

妹のように接してきた吹雪を連れ去ろうとしていたことの怒りが、表れていた。

 

『こちら陸軍大佐、野巻だ。応援が必要と聞いたが、本当か?』

 

加賀が簡単に説明してくれていたのだろう。

応援に関して、聞いてきた。

 

「ああ。本当だ。」

 

大佐はしばらく考えていたが、やがて顔を上げ、言う。

 

『作戦内容は?』

 

「明日、山奥の廃旅館に奇襲を仕掛け、人質を救出する。」

 

『そんな生半可な事で、救出できると思うか?』

 

大佐は敵対するような態度で言う。

 

「いいえ。出来ません。だからこそ、陸上での作戦が優秀な君たちに応援を求めた。」

 

『本当だな?』

 

「はい。」

 

提督の言葉はそれだけだったが、強い覚悟が感じられた。

それを感じ取ったのか、大佐は少し、態度を柔らめた。

 

『良いだろう。我々は鎮圧を担当する。救護、救出は君たちに任せる。それでいいな?』

 

「ありがとうございます!!」

 

提督は、純粋な感謝の気持ちを伝える。

 

『いい返事だ。海軍のことは嫌いだが、君のことは好きになれそうだ。それでは明日、現地で会おう。』

 

そう言い残し、大佐は電話を切る。

 

執務室には安堵の空気が流れる。

陸軍と海軍は仲が悪く、応援に来てくれないこともあったからだ。

 

「にしても、なぜ、艦娘を狙うんだろうな?」

 

提督は独り言のように呟く。

だが、加賀はそうとは受け取らず、分析した結果を言う。

 

「彼らは暴力団の梳麗水(とよす)と思われます。瑞鶴の二式艦上偵察機が撮ってくれた写真の車には、暴力団の目印になる家紋がありました。」

 

「一応、私が撮った写真だし!!」

 

加賀と瑞鶴の間に険悪な雰囲気が漂う。

提督はそれに気づき、瑞鶴に声を掛ける。

 

「瑞鶴。そうだな。ありがとう。君がいなかったら今の状況になっていないからな。」

 

瑞鶴は褒められてうれしいのか、「えへへ~。」と言う。

 

「加賀、続きを頼む。」

 

「はい。暴力団梳麗水はこのあたりでは有名な艦娘兵器派の組織です。」

 

加賀は、瑞鶴が褒められたことに関して少し不満を持った口調で淡々と言った。

 

「そうなのか。となると、訳はなんとなく想像できるな。」

 

「どんなことをするのかも、わかり切ったことです。」

 

提督が、想像しようとした時に、瑞鶴が耳打ちをしてくる。

 

「加賀ありがとう。大好きだよって言わなきゃ。」

 

提督は想像することに集中していて、瑞鶴の言葉をうのみにしてしまう。

 

「加賀、ありがとう。大好き…「瑞鶴」…」

 

加賀が提督の言葉を遮る。

明らかに彼女は怒っている。

 

「提督に何言わしてるんですか?」

 

「うれしいくせに~。」

 

「…こっちに来なさい。」

 

そう加賀は言い、瑞鶴を執務室の外に連れ出ていった。

 

 

 

山のふもとにて

 

「今日はよろしく頼む。」

 

陸軍大佐野巻はゆっくり手を差し出す。

 

「こちらこそ、応援を出していただき、ありがとうございます。」

 

そう言い、提督はがっちりと握手をする。

 

「いや、実をいうとな、私の妻も、行方不明になった。」

 

大佐は、暗い表情で言った。

 

「今回ばかりは、私情も挟むが協力する事にした。何しろ、情報がなかったからな。」

 

「…私たちで、必ず助け出しましょう。大佐。」

 

提督は、覚悟を決めた。

 

「何を言うておる。助け出すのは私だ。」

 

その言葉には敵意はなく、むしろ信頼されているように提督は聞こえた。

 

「そうですね。救助は私が請け負っておりますので、戦闘に集中して下さいよ?」

 

大佐は静かに微笑み、こう言った。

 

「ああ、救助は任せる。妻を頼んだぞ。」

 

「ええ。勿論。」

 

そう言い残し、大佐は作戦本部へ向かっていった。

 

1200、作戦が開始される。

大佐率いる陸軍部隊が周りを包囲。そのあと、突撃し、海軍救出隊が続く。

提督は空を見つめ、静かに誓う。

 

(絶対、由良に謝る。)

 

輸送車に乗り込む。

そこには顔なじみの艦娘がいた。

 

曙、恨みを晴らすため。

加賀、吹雪を狙ったことを復讐させるため。

北上、同期の由良を助けるため。

明石、必ず人々を家に返すため。

 

それぞれ違った理由だが、思いは同じだ。

 

「お前ら、絶対助けるぞ。」

 

「勿論です。」

「それ聞くとか冗談やめてよ。クソ提督。」

 

「そうだな。すまん。」

 

戦車隊と、輸送車は進行を始めた。

 

しばらくすると、輸送車隊は停止した。

戦車隊を先行させ、ある程度の安全が確認されるまで、待機となる。

 

 

戦車隊はゆっくりだが、前進する。

戦車隊には軽戦車を前列に配置し、後ろには重戦車がついてゆく。

建物を包囲するため、一部の車両が車列を外れ、斜面を登る。

あくまで戦車は威圧なので、数は少ない。

だが、その存在は大きい。

軽快なエンジン音を奏で、軽戦車は進む。

 

やがて、目標地帯へと到着した。

 

「全軍停止!」

 

大佐の号令が飛ぶ。

 

「これより、建物内への突入作戦を開始する!!」

 

大佐がそう言い放つと、手榴弾が建物の入り口に目掛けて複数個飛んでゆく。

 

ドンッ!!

 

手榴弾が爆発し、入口を破壊する。

 

「突入開始!!俺に続けぇぇぇえ!!」

 

大佐自らが先陣を切って煙の立ち込める建物の入り口に突入する。

隊員たちは大佐に離されまいとついてゆく。

入り口には警備や見張りはいなかった。

 

「一班4人で構成!!打ち合わせ通りだ!!」

 

「「おう!!」」

 

建物の中は旅館の形をとどめていた。

大佐の班は事務所跡があると思われるところに走る。

扉を吹き飛ばす。

 

「手を上げろ!!」

 

そこには下っ端の団員がいた。

 

「やなこった!!」

 

そう下っ端は言い放つと銃を向けて発砲する。

 

「退避しろ!!」

 

各員が扉の影や壁に隠れる。

 

「うっ…」

 

「大丈夫か!?」

 

入隊して間もない少年が被弾し、左腕を負傷していた。

大佐は静かに手榴弾のピンを引き抜き、扉の向こうに投げる。

 

「少し我慢しろ!!」

 

大佐は手拭で少年の出血を止血する。

 

「いいか?無理はするなよ?」

 

「わかりました。ありがとうございます…」

 

少年は力なく答える。

 

「大佐ー。いつでも突っ込めますぜ。」

 

「行くぞ。」

 

そう言い、大佐はピンを抜かずに手榴弾を投げる。

それと同時に彼らは部屋の中に突入した。

事務所の机の裏に隠れていた下っ端に銃を向ける。

 

「武器を置き、手を上げろ。」

 

今度は指示に従った。

 

「リーダーは?」

 

「最上階の端の部屋です。」

 

「本当だな?」

 

大佐は威圧感を込めて言う。

 

「は、は、はい!!」

 

『全軍に通達。3階の端の部屋にリーダーはいる。3階へ続く階段で集合。』

 

『1班、了解した。』『2,3班連合、了解した。』

 

『輸送隊、前進を許可する』

 

『輸送隊、了解した。』

 

大佐は少し考えたが、すぐにこういった。

 

「少年、外にいる戦車隊に合流しろ。」

 

「しかしそれでは…」

 

人数が減る。そういいたかったのだろう。しかし、言葉は大佐に遮られる。

 

「いい。お前は死んじゃいけない。行け。」

 

「了解しました…」

 

少年は悔しそうに撤退していく。

 

「あれでいいんですか?大佐ぁ?」

 

他の隊員が聞く。

 

「ああ。いい。それよりも、鎮圧だ。」

 

 

大佐たちは3階に集結していた。

 

「手榴弾用意。」

 

大佐たちは一斉に手榴弾を投げる。

3階の端にあった違和感のあるスペースを破壊する。

 

「途中にある部屋に隠れながらあそこに突撃する。行くぞ!!」

 

「「了解!!」」

 

そういった通り、ところどころにある部屋に入る。

大佐も一番前の部屋に無事に入った。

だが、そこには大佐の妻がいた。

 

「…あなた?」

 

か細い声。だが、それは妻のものだった。

 

「トモミ…」

 

そう言い、大佐は振り返った。

だが、愛する妻の変わりように何も言えなかった。

行方不明になって4日。疲労困憊でやつれていた。

それだけじゃなかった。どう考えても、殴った後や出血の跡があった。

大佐の怒りは最高に達していた。

きっとほかにもこのようにされた人がいるだろう。

どれだけ苦しんでいる人がいるだろう。

 

「待っててくれ。トモミ」

 

「ええ。ここで待っていますよ。」

 

トモミは彼の意図を読み取った。

 

『煙が晴れたら突撃。』

 

そういった瞬間、たくさんの銃弾が廊下を走っていった。

反射的に手榴弾を投げる。

それと同時に告げる。

 

「全軍突撃!!」

 

床に転がっているさっき投げた手榴弾を蹴り、さらに遠くへ動かす。

男の悲鳴が聞こえ、手榴弾が爆発する。

その隙に太佐たちは入っていく。

 

「武器を置け!!手を上げろぉぉぉ!!」

 

以外にも、そこにいた男たちは素直に武器を離した。

大佐は直感的に窓の外を見る。

黒塗りの高級車が走り去っていくのは見えた。

しかし、チハが行き道を塞ぎ少年がドアを破り、男を捕まえていた。

 

『救出隊、到着しました!!』

 

「走れ!!」

 

提督は担架を何個も背負って走る。

これから助ける人々のためだ。

 

『提督さんや。救出対象は2階にはいない!!3階だ!!』

 

『情報に感謝する!!』

 

階段を提督は駆け上がる。

それに負けじと加賀も駆け上がる。

それに遅れて曙たちが続く。

 

「は、速い…」

 

「愛の力は偉大だねぇ」

 

「加賀さん、速くないですか…?」

 

どこだ?どこに由良がいる?

だめだ…任務に私情は挟めない…

 

「提督さんやーい。担架くれ担架!!あと、お探しの子はここにいるぞー!」

 

陸軍の連絡兵が言う。

提督は担架を渡し、その部屋に駆け込む。

 

「由良!!」

 

そこには、確かに由良がいた。

 

「提督…」

 

服はボロボロ、殴られた跡もある。

でも、由良は由良だ。

 

「由良、本当にあの時、あんなこと言って悪かった!!本当にごめん!!」

 

提督は今まで貯めてきた謝罪の気持ちが溢れ出て、言葉にならない。

 

「提督なら…来てくれると…思ってたよ…」

 

提督は由良の手を握る。

その手は亡霊のように冷たく、怖かった。

由良の目がだんだん閉じてゆく。

 

「これからは絶対みんなのことを考えて行動するから!!」

 

返事はない。

 

「戻ってきてくれよ!!」

 

提督が握る由良の手が動く。

必死に由良はこの先の運命に抗っていた。

 

「提督!!心拍数が落ちていっています!!胸骨圧迫を!!」

 

明石はそう叫ぶ。

提督は必死になって心肺蘇生を試みる。

 

(絶対、生きて、連れて帰る…!!)

 

提督を動かす原動力はその一心のみだった。

大佐も、陸軍通信兵も祈るように見つめる。

 

10分経っただろうか。

提督はその間も力を弱めず、ずっと胸骨圧迫を行っていた。

提督にとっては人生で一番に長い10分だろう。

だが、ここ数日に由良が受けた痛みと比べればと、提督は耐える。

 

「提督…もうやめてください…もうだめです…」

 

明石が涙声でそう言う。

でもそんなことを気にせずに提督は心肺蘇生を試み続ける。

 

「諦めたら、それで終わりだ…!!でも、まだ俺はあきらめたくない…!!まだだ、まだやれる!!」

 

その思いが天に通じたか、少し、ほんの少しだけ、由良が動いた。

 

『頑張れ。負けるな。』『戻って来い!!』

 

そんな声が部屋中に響く。

そんな中、提督も心の中で叫んでいた。

 

(戻ってこい。お前が必要なんだ!!)

 

みんなの思いは、由良に届く。

神様にも届いたのかもしれない。

 

 

由良が目を覚ました。

 

 

提督は由良を抱きしめる。

 

「絶対、無茶しない。神に誓う。」

 

「私にも誓って…提督。」

 

「絶対に無茶しない。由良、約束する。」

 

「ようやく、変わる気になりましたね…提督!!」

 

この狭い一室の中で身分関係なく大歓声が巻き起こった。

 

 





つづく。



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