由良と提督と鎮守府と。   作:UMC OGASOU

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その後

 

あの後、暴力団関係者らは逮捕され最も重い刑では死刑になったものもいた。

被害にあった人々は病院で治療を受け、今ではもうほとんどの人の傷は癒えたとのことだ。

だが、心にある傷は一生残り続ける。

大和は心にある傷で未だに退院出来ていない。

由良は、1週間前に鎮守府に復帰することができた。

そう考えていると声をかけられる。

 

「あ、また提督考え事してる。」

 

由良が無邪気に言う。

 

「悪かったな。考え事して。」

 

由良が立ち上がろうとする。

しかしそれはふらついていて危ない。

 

「リハビリにもう少しいたほうがよかったんじゃないのか?」

 

そういいつつも提督は立ち上がり、由良の隣へ並ぶ。

 

「どこに向かう?」

 

そういいながら静かに提督は手をのばす。

 

「食堂へ行きたい。」

 

少し由良は、はずかしそうにするも、提督の手をとる。

提督は由良の動きに合わせて歩く。

 

「最近2人とも仲いーじゃん。」

 

そう声をかけてきたのは重巡の鈴谷だった。

 

「そうか?」

 

提督はとぼけることはなく、正直に言った。

 

「目に見えてわかるよ?提督。」

 

「鈴谷さん…そんなことはないですよ…」

 

由良は顔を赤くしながら言う。

…全く説得力がない。

 

「ま、私は由良が戻ってきてくれて嬉しいよ!!じゃあね。」

 

鈴谷は背を向けて歩き出す。

 

「人騒がせな奴だな…」

 

「それは、あなたが言っていい言葉じゃないと思います。」

 

「そういう由良だって…!!」

 

提督は言い返そうとするが、言い返す気が失せた。

鎮守府に復帰して1週間。由良が初めて本気で笑っていたからだ。

提督はそれがたまらなく嬉しかった。

 

思わず提督は、由良の頭を撫でる。

トンっと手を置くだけ。

 

「お帰り、由良。」

 

「何言ってるんですか。もともと私はどこにも行ってませんよ?」

 

そう言う由良はからかうように言う。

でも、嬉しそうだ。

 

二人は、食堂へ歩き出す。

その足取りはぎこちなかったが、軽かった。

 

 

 

「鳳翔さん。焼き魚定食で。あ、強火で魚炙って。」

 

「炙るって…バーナーがないですよ…」

 

鳳翔は提督の無理な注文に困惑した声で言い、カウンターにもたれる。

そして、普段の穏やかな鳳翔らしからぬ上目遣いでこう言った。

 

「生姜焼き定食ではダメなのですか…?」

 

提督はうろたえる。

生姜焼きが苦手なのだ。

 

「いや…」

 

「提督は…私の料理が不味いと言いたいのですか…?」

 

鳳翔は涙目で言う。

とうとう提督は折れ、渋々言う。

 

「生姜焼き定食で…」

 

そう提督が言い終わると鳳翔は明らかに明るい声で言う。

 

「はい。生姜焼き定食。由良ちゃんはどうする?」

 

由良は元から決まっていたようで、はきはきと答える。

 

「私も生姜焼きで。あ、全体的に量を少なめにしてくれる?」

 

鳳翔は2人に呼びだしベルを渡した後、こう言った。

 

「席で待おまちくださ~い。」

 

 

 

提督と由良は空いている席に座る。

 

「どうして、俺には鳳翔さんは厳しいんだ…?」

 

提督は疑問を口にする。

 

「それは提督が好き嫌いしてるからですよ。」

 

由良が厳しい目線を浴びせてくる。

そんなことも気づかないのか、と。

沈黙がテーブルを包む。

それを破ったのは提督だった。

 

「そうだ。大和について話しておこう。」

 

その言葉を聞いた由良は少し、顔を下げる。

やけに周りの音が大きく感じられた。

 

「大和さんですか…」

 

「ああ。大和は身体的な傷は完治した。だが心が、治っていない。」

 

それを聞いた由良は何も言えず、黙り込む。

 

「見舞いに行くか?」

 

提督は、気を利かせ、そう言った。

二人の呼び出しベルが鳴る。

それによって由良の思考が遮られる。

由良も席を立とうとしたとたん、提督が由良のベルを取る。

 

「ゆっくり考えな。」

 

珍しく提督は気を利かせ、鳳翔のカウンターへ向かう。

由良は感心しつつ、大和のことを考える。

 

(私が、会いに行っていいのかな…?)

 

由良は大和に会いに行きたい。

だが、私とあっても大丈夫なのかと心配している。

 

提督はお盆を抱え、すぐに戻ってきた。

 

「決まったか?」

 

「いや…私が会いに行ってもいいのかな…って。」

 

「前に大和に会いに行ったら、あいつは"由良に会いたい"って言ってたぞ。由良は、行きたいんじゃないのか?」

 

提督は、由良に行けるかどうかではなく、自身は行きたいのかを聞く。

提督はお盆に乗っている定食を机に降ろす。

 

「会いに行きたいです。」

 

「よし、なら行こう。次の休みの日にでも行こうか。」

 

「はい!」

 

二人は食事を始める。

提督は、苦手な生姜焼きに苦戦しながら。

由良はそんな提督を見ながら。

食堂には和やかな雰囲気が漂っていた。

 

 

 

 

「提督、まだ執務してるんですか?」

 

確かに今は1500。

この鎮守府特有の休憩時間、おやつタイムである。

 

「まあ、な。今日は早く寝たいからな。」

 

提督は嘘偽りなく答えた。

が、由良に指摘される

 

「無理しないって言ったじゃないですか!!」

 

「いや…無理はしてない。夜に無理しないために…」

 

と言いかけて提督はハッとする。

 

「無理してるじゃないですかぁ~!」

 

この言葉で提督は折れた。

 

「分かったわかった。夕張特製メロンでも食べに行こう。」

 

この日、提督の財布は寂しくなったとさ。

 





(たぶん)つづく
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