去年の夏、立ち塞がった壁は、更に大きく、そして逞しく成長を遂げていた。
2連覇を目指す稲実か…去年の雪辱を果たし6年ぶりの栄冠を目指す青道高校か…西東京代表を決める運命の一戦が幕を開ける
「お、あったあった!」
「流石に東京の球場は広いなぁ」
「早くしろよ!…お前らすぐ迷子になるから」
「るせー!一言多いんだよ!」
「ほら!早く入れよ栄純!」「そうだよ栄純くん!」
俺たちは稲実と桜沢の試合後バスに乗り込む前にトイレに駆け込んでいた。なんで御幸先輩もいるかって?…それは…
『御幸!一年どもお前が面倒見て連れてけ!いいなぁ!』
『えぇ!?』
伊佐敷先輩に強制させられて俺たち一年のお守りとして着いてきてくれている。
そして数分後…
「あれなんか外騒がしくね?」
「確かに…」
「等々なにかやらかしたのかあの男!!」
「「栄純(君)じゃないんだから」」
「凛!はるっち!?」
俺たちがトイレから出るとそこいたのはーー
「あれ!あれあれ!君ら確か!」
「おうおう噂のゴールデンルーキー達じゃねぇか」
「…ふん…大したことない」
「…」
「お前らが噂の!」
そこにはいたのは稲実のレギュラー陣の面々…上から成宮にカルロス、白河に山岡、…最後の1人はどちらさん?見たことあるはずなんだけどレギュラーじゃなかった筈だからイマイチ分かんねぇな
「御幸先輩…」
「もしや裏切りを!?」
「…なんでだよ」
「ねぇそんなことよりさ!」
俺と栄純、御幸先輩の会話に入り込んできたのは成宮さん
「君たちなんで青道に行ったの!!」
「「へ??」」
「嫌だって君たちくらいの実力が有れば色んなとこから推薦とか来てたでしょ?」
「「…はぁ」」
俺たちはいきなりの質問に少し驚き回答に詰まる
「勿体ないなぁ〜"折角甲子園に出れた"のにさ」
「っ!?…その言い方だと俺たちが出れないみたいじゃないっすか?」
「え?出れないよ?東京は2校のみ。西東京は一校だけだからね!」
「っ!?じゃあ尚更出れますね。ウチが甲子園行くんで」
「…あははは!!面白いこと言うねぇ君」
「「…」」
そう言い互いに目線で火花を散らす夏目と成宮
「…はぁ…辞めろ夏目。それに鳴も」
「…ちっ!」「ちぇっ!良いとこだったのに」
御幸が間に入り止めに入った事で両者は身を引くことになった。…いかんせん不満そうではあるが
「まぁいいや!今日はそんだけだから!」
「…何しに来たんだよお前ら」
「あ、そうだ一也!」
「ん?」
去り際に成宮がこちらを振り向く
「お前が居なくても今年のチームは"最強"だよ。
ーー甲子園だけは譲らねぇから!!」
「…ふっ!…譲ってもらうつもりはねぇよ。…奪って行くからな」
「…ふっ!…じゃあ試合でな!」
「あぁ」
それだけ言い残すと今度はしっかり帰って行く稲実メンバー達…成宮鳴…上等だぜ…甲子園のチケットを貰うのは…俺たちだ!!
◆
その日の夜…俺たちはいつものように次の対戦相手に関するミーティングを行っていた。
この日の成宮はストレート主体のピッチングだった。チェンジアップは4球、フォークは3球、スライダーは7球、あくまで相手を圧倒するピッチングを優先して見せた。…おそらく俺たち相手にはまたピッチングの概要を変えてくる筈だ
「そしてやはり右バッターへのクロスファイヤー…この球を有効に使ってました」
対角線へ右バッターの胸元にえぐりこむサウスポー特有の軌道から放たれる威力抜群のボール
栄純も投げているけど…おそらく単純な数値で栄純より高いため威力はそれ以上かも知れない
「で…去年唯一成宮から打った男はどう見る?」
小湊先輩が結城先輩を見ながら尋ねる
「ウチには相手をかけ乱すことの出来る1.2番がいる」
「状況に応じたバッティングが出来るものもチャンスに強いものもいる」
「…頼れる後輩もな」
「今の俺たちなら必ず成宮を打ち崩せる!!!」
結城先輩……確かにあの成宮相手でもうちの打線ならなんとかしてくれそうな安心感がある。…あとは
◆
同刻…ここ稲城実業でも同じくミーティングが行われていた。
「眠ぃ〜もう寝て良い」
まさに自由奔放・唯我独尊…このように発言するのは絶対的エース…成宮鳴
「ちゃんと青道のバッターが頭に入ってるならな…ここ数試合平均得点7点以上、今までの相手と違い打線は全国クラスだぞ」
そう告げるのは打線の主砲にして稲実の頭脳…原田である
「ふん…甲子園前哨戦だと思えば最高の相手だね」
原田の心配を他所にそれでもこの男は高らかに告げた
「っそーゆう心の油断が」
「1番倉持の脚は警戒だけど塁に出さなきゃ怖くない…怖いのは2番の小湊さん。どんな球にも対応してくるしね」
成宮は青道打線の特徴を1人ずつ語って行く
「5番増子さんはストレートに強いし6番伊佐敷さんは多少ボールでも初球からぐいぐい振ってくることが多い。チャンスでのバッティングも注意しなきゃね」
「「…」」
「注意しなきゃいけないのは4番キャプテンの結城さん…去年綺麗に一歩打たれてるしあの人を抑えればこっちにも勢いが着くからね…」
「…」
「…そして」
「!?」
先ほどまではどこか余裕そうに話していた成宮の表情が一変する。…まるで獲物を見つけた獣のような貌に
「…夏目凛太郎…コイツは俺が必ず抑える。」
「っ!?」
あまりの気迫に原田含めナインはたじろぐ
「多少打たれるかも知んないけど…気にしないで良いよ。…勝つのは…俺たちだ」
「「「っ!?」」」
「これ以上なんかある?」
「もういい…ちゃんとマッサージ受けてから寝ろよ」
そう言い残しミーティングルームから出て行く成宮。しかし残されたナインの雰囲気は異様な光景に包まれていた。
「まさか、成宮が"あんなこと"を言うなんてな」
「…それほどの打者ってことか…」
「…いやいやいや!相手一年だろ!あり得ないって!」
「…バカめ…この数値が全てを証明している。」
「打率.786…本塁打8本て…バケモン過ぎるだろ」
「…夏目凛太郎…か」
夏目凛太郎…一年生ながら今大会No. 1スラッガーの称号に既に手をかけている天才。打率・本塁打の大会二冠を手中に収めている。まさに怪物…特に秋川の楊舜臣…薬師の真田俊平…仙泉の真木洋介と各チームのエースに対し異常なほどの勝負強さを見せる。
(…流石の鳴でも2.3点は覚悟しねぇといけねぇかもな。)
「先発はやっぱ丹波?」
「状態と成績ならこのサウスポーだろ」
「…降谷もあり得る」
「…あんだけ投手不足を指摘されていた高校がここまでの投手陣を揃えるとはな。…ほんとどこから取ってきやがったんだ」
原田が言う通りここ数年…青道は『打の青道』と呼ばれるほど投手陣と野手陣に乖離があったのだ。原田達の世代に丹波、成宮達の世代に川上と投手陣に関しては昨年も…いや今年も大会が始まるまでは気にしたことは無かったほどである。
「現状候補として1番高いのがこのサウスポー…沢村栄純です。最速142キロを誇るキレのいいストレートに、カーブ、チェンジアップと投球スタイルはまさに本格派そのもの…今大会でも成宮に次ぐ奪三振数と防御率を誇ります。」
「…確かにうちの"プリンス"によく似てやがる」
「…似てない。成宮はこんな馬鹿っぽくない」
スカウトの評価にカルロスと白河が答える。
「そりゃお前投手としては似てるって言ってるようなもんだろ」
(…確かに鳴と比べられるほどの逸材であることは評価しよう。…ただ…勝負となれば確実に鳴が勝つだろう。それほどまでにまだ鳴とコイツでは差がある)
原田は沢村について高く評価しているが己が相棒には未だ敵わないという評価である。…はたしてそれは…能力面での話なのか…それとも経験値的なものか…それとも全てにおいてなのか…
「次点で降谷暁…秋川学園や薬師高校と先発を任された最速148キロを誇る剛腕です。コントロールはあまり良くないため四球を出すことも多いんですが"ノっているとき"は手がつけられないほどの球威を誇りスプリットと合わせるとかなりの威力かと…」
「本当に投手王国になったもんだな」
「…一年生任せとはなんて情けないチームだ」
「お前は厳しすぎ」
「…コイツの場合は制球がアバウトなのが難だが、その分見極めやすいと言う利点もある。高めに外れることは多いようだから高めは捨てて低めのみ上から叩くようにバットを振れ。…いいな」
「「「はい!(うす)」」」
降谷に対しては秋川や薬師が対応見せたように徹底的に降谷の弱点をついて行く戦法に
「続いて丹波ですが彼に関しては昨年から知っての通り、大元は落差の大きいカーブを決め球に抑える本格派右腕です。…ただ今年は更にフォークも覚えたらしく仙泉との試合で何度も使用していました。」
「…普通だな。」
「…上2人が個性が強過ぎるだけだ」
「丹波に関しては一貫…時折り甘く入ってくるストレート…それを狙い撃て。球速も良いとこ140…俺たちに打てないボールじゃないはすだ。」
丹波に関しては昨年から知っているため稲実打線としてはそこまで難しくない相手のかも知れない
「最後に川上ですが…サイドスローの決め球スライダー、球速は130ほどで制球もそこそこ…うち相手に先発してくるとは正直考えられません」
「登板も怪我の丹波さんを除けば1番少ないしな」
「…うち相手に投げる投手じゃない」
「…なんにせよ今年の青道の投手陣は侮れない。誰が来ても良いように細心の準備をしよう」
「「「はい!!!」」」
◆
この日、月刊『野球王国』の取材のため峰と大和田は稲実のホームグラウンドを訪れていた。
「決勝戦前とあって流石にギャラリー多いですね。…記者の数も凄いし、流石伝統ある名門校…」
この日稲実には記者や報道陣が殺到していた。
「ん?あれは…」
「どうかしましたか?」
峰が見つめる先…そこには
「速球派の投手は更に前から投げさせ、その隣にはサイドスロー…さらに隣には大きく割れるカーブを設定したマシン。…さらにはサウスポーの投手2人…それぞれ速球タイプと変化球タイプの投手を2人設置して交互に登板させている。」
「これって…」
そう…青道の4本柱をイメージした練習方法…もはや青道投手陣に対する対策は万全と言って良いだろう。
「おまけにの今年の打線は個性の強い曲者揃いだ」
1番センター・カルロス…トリッキーな打撃と足で相手チームを掻き乱すリードオフマン
2番ショート・白河…エンドランにバントなんでもこなす器用さを持った曲者2番
3番サード・吉沢…シャープなスイングでパンチもある更にはチャンスメイクもできる正にこれぞクリーンアップという打者
4番キャッチャー・原田…強肩強打の捕手でパワー勝ることながら何より特筆すべきなのはその観察眼と野球頭脳。捕手的思考を利用し長打を連発する稲実の主砲
さらには5番にはパンチ力のある成宮、そして6番には長打が魅力の山岡、そして7番には巧打者の平井がいる
これだけの打者が揃う稲実打線だ。いかに青道投手陣といえどプレッシャーは並みじゃないはずだ。…いやプレッシャーが掛かるのは打者も同じか…野球は点を取らないと勝てないスポーツなんだから
ブルペンでは稲実投手陣2番手の井口が控え捕手の多田の多田野とピッチング練習を行っていた。
改めて彼もとても良い投手だ。他のチームなら間違いなくエースを張れる実力者である。
「あ!雅さん!早くブルペン行くよ!井口さんに負けちゃう!!」
この男がいる限り彼の元にエースナンバーが渡ることは無い
ーーズパァァァァァァァン!!
今や関東No. 1サウスポーの称号を得ている絶対的エース・成宮鳴…去年の秋は調子を崩していたみたいだが今年の春…若き天才は更なる力を見せつけ堂々とそのベールを脱いだ。今大会もここまで防御率0.00…文句なしに東京都No. 1投手である。
自分たちは甲子園で戦って当たり前…チーム全体に浸透している意識の高さと誇り…これこそが伝統ある稲城実業というチーム
6年ぶりの甲子園を狙う青道にとって今年も高い壁になることは誰の目にも明らかであった
◆
決勝戦前日 青道高校 Aグラウンド
「結城!!試合前ノック!本番のつもりで決めるぞ!!」
「はい!」
俺たちは明日に備えてこの夏の集大成とも言える最後のノックを行っていた。…思えば合宿の時は俺たち一年生は監督から外され、外から見ていることしか出来なかったがレギュラーに選ばれた今…俺はグラウンドに足を踏み入れている。
体のキレ、安定性、心の強さ…何を取っても今が最高潮の状態であるのは間違いない。皆んな努力に努力を積み重ねてここまで来たんだ…俺は…俺たちは…まだまだこの人たちに教わることがある…もう一度…もう一度笑顔でここに戻ってきたいーーーー
「「「したぁ!!」」」
◆
「ーースタメンは以上だ!!先発は沢村!!2番手で丹波!!川上と降谷は状況を見て肩を作ってくれ」
「この私!必ずやボスの期待に応えーー」
「解散!!」
「「「はい!!」」」
やはり先発は栄純だったか…まぁ妥当だな。監督としては行けるところまで栄純で行ってその後に丹波さんにスイッチするつもりだろう。…となると明日の試合難しくなるのは継投のタイミングか。
栄純のボールがどこまで通用するのか、それに丹波さんの状態は回復したのか…とりあえずは栄純がゲームを作らない限りは試合が決まってしまう恐れがある。ましてや相手は…
文字通り明日は総力戦…ベンチを含め全員で戦い抜くしか無い
◆
「やはりここに居ましたか!!」
「監督もそろそろ休まれた方が…」
選手たちが練習を切り上げ各々休みに入る頃、監督室には首脳陣が集まっていた。
「明日の試合ウチが勝つ確率はどのくらいだと思う」
片岡監督が問う。
「え?」
「五分と考えるのは相手を甘く見過ぎか?」
いつもの強気な姿勢とは打って変わり選手たちには見せない表情を見せる片岡
「そ!そんなことは!ウチの選手ならきっとーー」
「そうですね、正直ギリギリ5分…もしくは6.4で不利と見るのが妥当でしょうか」
フォローを見れる太田に対し高島は冷静に分析する
「勿論期待していますがあの成宮くんから何点も取るのはうちの打線でも厳しいでしょう。やはり鍵となるのは投手陣、稲実打線を何点に抑えられるのか…ですね」
「…」
(打線はコチラに分があると考えているけれど投手陣はどう考えても"彼"がいる限り向こうに有利がある。…明日の試合…沢村くんが鍵を握るのは間違いないわね)
「…沢村君が6若しくは7イニング、残りを丹波くんが締める。これが継投のタイミングのリスクを冒さず戦える1番理想の展開だと考えます。勿論川上君、降谷君の力も必要になるかも知れませんが」
「やはり大事のは沢村のタイミング…」
高島と太田、2人が言うように明日大事のは継投…それも沢村がどこまで成宮に喰らいつけるか、稲実打線を抑えれるかが重要になってくる。
「…ふっ…"あの時"大口を叩いた小僧がこんなに早くチームの命運を担う選手になるとはな」
「「…」」
片岡の脳裏によぎるのは今年の春…新入生の自己紹介であろうことか上級生…それも丹波や片岡のいる前でエースになると吼えた沢村の姿
「似ていますよね彼」
「え?」
「片岡監督の現役時代に」
高島が語るのは片岡鉄心の現役…かつて2年生エースとして青道高校を甲子園準優勝に導いた炎のエースの姿。相手を圧倒し数多くの奪三振を奪う投球スタイルもさながら、何よりもチームを鼓舞し、点を奪われようとも仲間を信じひたすら味方の援護を信じ投げ続ける魂の投球スタイルにーー
「…ふっ…アイツはまだまだだ。」
「「…」」
「…まだまだ伸びるだろう。…何より俺とは違い味方に…同学年に負けたくない相手がいるんだからな」
「…夏目君ですか」
「今では2人とも立派な戦力ですからね!!」
確かに青道がここまで順当に勝ち進んだ要因に沢村と夏目が関与していることは誰の目にも明らかだろう
「なんにせよ…あとは勝利の女神がどちらに微笑むのか」
「「…」」
「ラッキーな勝ち方でも泥臭い勝利でもいい…俺はアイツらを甲子園に連れてってやりたいーーーー」
月明かりに映し出される監督の本音ーーこの願いが届くのかどうか…真相は神のみぞ知るところーー
◆
7月31日
『西東京決勝戦は午後1時プレイボールです。なお本日は気温が高いため熱中症にならないよう水分をこまめに摂りご覧ください』
快晴の青空…気温は40℃に迫る熱…立っているのもしんどいような気温のここ東京の神宮球場は人で溢れかえっていた。
その理由はもはや語るまでもない
青道高校と稲城実業…今夏の主役を飾るのはどちらか、その結末を決めるべく皆会場に来場するのであった。
そしていよいよ
「あ、来たぞ!!」「青道高校だ!!」「青道!!」「哲!!」「伊佐敷吼えろ!!」「丹波!!」「沢村!頼むぞ!」「凛く〜ん!!」「降谷く〜ん!」
東門から入場するは蒼きユニフォームに包まれた蒼虎…闘将・片岡鉄心率いる青道高校。圧倒的な打撃陣にタイプの違う4人の投手…今年もこの地に優勝を狙い舞い戻ってきた言わずと知れた西の名門である
そして
「こっちも来たぞ!」「稲実!!」「稲実ファイト!!」「「鳴く〜ん!!」」
「原田頼むぞ!」「カルロ〜ス!!」「今年も優勝だ!!」「山岡ぁ!!」
西門から迎え撃つは純白の白きユニフォームを纏った白龍…名将・国友広重率いる稲城実業高校。関東No. 1左腕の称号を得たプリンス・成宮鳴と個性豊かな野手陣…そしてそれを束ねる名将…今年も攻守に穴のない鉄壁の布陣で防衛を狙うディフェンディングチャンピオンである。
◆
『全国高校野球選手権大会・西東京地区予選決勝』
『夏本番を思わせるこの青空の下両軍ベンチから選手が出てきました』
『夏、2連覇を狙う去年の覇者・稲城実業。対するは去年の雪辱を果たし6年ぶりの甲子園出場を狙う青道高校』
『ともに全国に名の知れた名門校同士…この戦いを制するのはどちらのチームだ!!』
「行くぞぉ!!」
「「「おぉ!!」」」
勢いよく両軍が飛び出し試合が開幕する
『勢いよく飛び出してきた両軍選手に観客から多くの拍手が送られます』
『ここまで勝ち上がってきた敬意とこれから行われる試合への期待…果たしてどのような結果となるのかーー』
◆
『一回表守備に付くのは稲城実業。マウンドに選手が集まり声を掛け合います』
『そしてマウンドには勿論この人…今大会未だ失点0…絶対的エース・成宮鳴!!』
マウンドには勿論成宮さんが上がった。
「追い込まれるまではできるだけ甘い球には手を出すな!三振することを恐れず自分の狙い球をしぼっていけ!」
「「「はい!」」」
円陣の中監督からの指示が飛ぶ。
『一回の表、青道高校の攻撃、1番ショート倉持君』
我らが特攻隊長・倉持先輩が打席に入る。倉持先輩はより一塁に近い左打席に入り何がなんでも塁に出る姿勢を見せる
ーードパァァン!!
142か…成宮にしては球速が出ていない。…意図的に抑えているのか?それとも…まだ上がってきていないのか
倉持先輩は結局一球も振ることなく四球で出塁した。
続く打者はーー
『2番セカンド・小湊君』
小技も出来て相手を揺さぶるスペシャリストの小湊先輩だ
「なろっ!!」
成宮は倉持先輩の塁上での揺さぶりに苛立ちを見せ、その隙にキッチリと奥はバントを決める小湊先輩。
これ1死ランナー2塁…初回から訪れた得点圏でのチャンス。この場面でバッターボックスに立つのはーー
「「「うぉぉぉ!!」」」
『初回から訪れたチャンス!!そしてバッターボックスに立つのは"この男"…一年生ながら名門のクリーンアップの一席に座り、なんと今大会打率・本塁打の二冠!!東京中が注目する天才打者・夏目凛太郎!!』
(ふん…何天才気取ってやがる)
(…注意しろよ…鳴)
ーーバギャァァァァァァァァン!!
『これは行ったかぁぁぁぁぁ!!』
夏目の打った打球は大きく放物線を描く。
「…ちっ…力んじまった」
『ふぁ、ファール!!ボールはわずかライトポールの右横でした!!』
夏目の放った打球は僅かにラインを切りファールボール。しかし今の打球が齎らす相手チームへの影響は計り知れないだろう。
無論それが必ずいい影響になるとは言えないが
(っのばか野郎!!…あれだけ警戒しろって言っておいてそれか!!…ここはタイムをーーーー)
一球目のボールのコースを見て成宮がまだ相手を軽んじているのではないかと考えた原田はタイムを取ろうとするが
横目から見えた成宮の瞳は先程よりも明らかに深く…それでいて蒼く澄み渡っていた。
(??…明らかに顔つきが変わりやがった)
そしてそれは打席で相対している夏目も感じたことだった。
「…ふぅ…」
2球目…稲実バッテリーが選択するボールは
ーーギュルン!!
「…」
成宮が投じたボールはアウトコースギリギリのスライダーであった。夏目はこれを見逃し2ストライクとなる。
『ここは夏目くん見逃し2ストライク。稲実バッテリーが追い込みました!!』
果敢に攻める稲実バッテリー…少しでも甘く入れば"持っていかれる"そのことをよく理解しているからこそ尚のこと強気に攻める姿勢を崩さない。
そしてそのバッテリーが選ぶ3球目は…
「…ん!!」
成宮鳴の指先から、白球が離れた瞬間――俺は確信した。ストレートだ、と。
肘の高さ、振り抜きの鋭さ、体重移動の滑らかさ。すべてが、あの快速球と同じ。何度も見せつけられてきた、あの伸び上がる真っ直ぐと寸分違わぬ腕の振り。
だから振ら抜いた。迷いなく、全力で。
――だが。
ボールは、来ない。いや、正確には“遅れて”やって来ていた。
空気を切り裂くはずの軌道は、途中でふっと力を失ったように沈み込む。
時間だけが、わずかに伸びる。一瞬のはずの差が、永遠にも感じられる。
俺の振り抜いたバットは、すでに最速で通り過ぎていた。
「……っ!」
乾いた空振りの音が、静まり返った球場に響く
『さ、三振!!青道高校夏目凛太郎!稲実エース成宮の前に三振を切りました!!』