ーードパァァァァァァァァン!!!
「っ!?」
『な、なんと!二者連続三振です!!稲城実業・成宮鳴!青道自慢のクリーンアップ陣を連続三振に切って魅せました!!』
1死ランナー2塁のチャンスの場面で夏目をチェンジアップで、そしてその後の結城に対してストレート3つでそれぞれ三振に切って落とした成宮…早くも関東No. 1の力を解放して来たのであった。
「おい鳴…初回から熱くなりすぎだ」
「?そう見えた?」
「…おい」
いつもの軽口を叩く成宮に対し少し険しくなる原田
「……わかってるよ。雅さん。…ただ"アイツ"相手に生半可な投球で抑えられる程俺も驕っちゃいない」
「…の割に初球は若干甘めに来てたけどな」
「……あれは忘れて」
「…はぁ…まぁいい」
成宮が初回でスライダーにチェンジアップ…その両方を使わざる負えないと判断させられる程の打者…本当にとんでも無い一年だな。
原田は抑えたとは言え夏目に対し畏怖の感情を抱きつつあった
◆
…ちっ…情けねぇ。…三球三振なんていつぶりだ…侮ってた訳じゃねぇが俺が初め認識できねぇほどのチェンジアップとはな。…いいぜ。初回はアンタの勝ちだ
「…だが次は俺が打つ」
若き天才打者はそう誓い直し己の守備位置に移動する
『一回裏守備につく青道高校』
『マウンドには背番号11の一年生投手・沢村栄純が上がります。』
「「来たぁぁ!!」」「今日も頼むぞ沢村!」「お前に掛かってる!」
沢村に対し多くの声援が飛び交う。初戦とは打って変わり未だは立派に青道の一員として認められている
『ここまで三試合に登板し防御率なんと0.86!!とても一年生とは思えないスーパールーキーです!!』
「いつも通り投げたらいいから」
「ヒャハ!打たれたらケツバットな!!」
「ウガッ!」
「お前なら大丈夫だ。沢村」
内野メンバーが沢村に声を掛ける
「はい!打球が飛んだ時はよろしくお願いします!!」
(緊張はしてなさそうだな。ったく決勝のマウンドだってのに落ち着いてるじゃねぇか)
いつも通りの表情を見せる沢村に御幸も安堵を浮かべる
「…ふぅ…」
沢村は胸に手を当てて瞼を閉じる
(…落ち着け…落ち着け…もう少しで解放できる)
側から見るといつもと変わらない面持ちの沢村であったが本心ではいつもより酷く鼓動が激しかった
「…今日は一点もやるつもりはない…一本のヒットでさえも」
◆
『一回裏稲城実業の攻撃は1番センター・神谷くん』
バッターボックスに入るのは稲実の韋駄天…カルロス
「見せてもらおうか…ゴールデンルーキー」
青道野手陣はその脚力を警戒して前進守備の構えを見せる。
(大事だぞ、初球。思いっきり腕を振れ)
(さてさて…どんなもんか)
青道バッテリーが選んだ初球は
「っ!?」
ーードパァァァァァァァァァァァン!!
初回から【140】を計測するストレートであった。ボールは御幸が構えたアウトコース低めにきっちりと制御されカルロスのバットの遥か上を通過した。
「はは…なんつぅキレだ。…こりゃウチのプリンスと比べられる訳だ」
(とか言いつつ顔は笑ってんだよな)
ーードパァァァァァァァァァァァン!!
「くっ!!」
(まだ上か!?)
2球目もストレートで空振りを取る青道バッテリー。早くも2ストライクと追い込んだ3球目は…
(そう簡単には終わらせねぇ。…次は当てるぜ?)
ーーギュルン!!
(抜け球!?いやまさか!?)
ーーパァァァァァン!!
『ストライーク!バッターアウト!!』
(あ〜これが、カーブね)
青道バッテリーが投げたボールはインコース低めに決まるカーブボール。カルロスが一瞬抜け球だと錯覚するほどのコースから凄まじいキレを見せたボールはそのまま御幸のミットに吸い込まれ三振を奪ったのであった
「しゃあ!三振!」「今日も見せてくれよ沢村!」「沢村!!」
「打席で見てみ?ボールのキレ半端ねぇから」
「…そんなに?」
「イメージの2個上振りな。」
カルロスのアドバイスが信じられないのか眉を寄せる白河
『2番ショート・白河くん』
続いての打者は小技もできればミートも上手い男・白河
白河は初球のストレートを見送り1ボール。おそらくカルロスからの助言の通り球の球質を確かめたのだろう
(…なるほどね。…大したものだけど次は当てる)
そう思った2球目ーー
「っ!?」
(ボールが来ない!?)
ストレートに対して待ち構えていた白河は沢村のチェンジアップの前に空振り。そして3球目もチェンジアップを投じ白河もなんとかバットに当てるがファールボール。…追い込んだ青道バッテリーが選んだのは
ーードパァァァァァァァァン!!
「っ!?」
(ここでストレートか!?)
決め球に選んだのはインコース高めのストレート。若干ボール球ではあるが前球にチェンジアップを2球見ていた白河はこのストレートに反応してしまう。しかしチェンジアップとはあまりに違う球速と球威、キレにバットに当てることさえできずに三振に切って落とされたのであった
そして
ーードパァァァァァァァァァァァン!!
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
「三者連続!」「やべぇこの男!」「流れを引き戻した!」
沢村は3番の平井に対しても果敢にインコースに投げ込み最後は真ん中高めのストレートで空振りを奪い圧巻の三者三振に締め括ったのである。
「やってくれんじゃんアイツ」
「…分かってるな鳴」
「…うん…我慢比べだね」
沢村のピッチングを見て今日の試合、1点が勝負を分ける可能性があることを原田は懸念する
「…沢村が流れを引き戻してくれたんだ。次はこちら側に持って来れるように厳しいコースは捨てて甘いコースのみに絞ろう。…そしてチェンジアップ…あれは捨てて構わない。」
「…良いんですか?」
「…あぁ…今はな」
青道側は成宮のチェンジアップを捨てて他の球種に狙いを定める策を取る
◆
ーードパァァァァァァァァン!!
「くっ!?」
(ニシシッ…狙ってたろ。変化球)
増子、伊佐敷と打ち取られ2アウトの状況化で7番の御幸は変化球…スライダーを狙っていたのだが稲実バッテリーはこれに気づき、ストレートで三振を奪ったのだった。
◆
2回裏
ーーカキィィィィィィィン!!
「…ふぅ…」
(今のがチェンジアップか)
打席には4番の原田…青道バッテリーは原田に対しストレートを3球、チェンジアップを1球なげ追い込む。
(流石に簡単には空振りしてくれねぇな)
(塁にさえ出ればコイツの球威も落ちるかも知れねぇ)
「っ!?」
ーーギュルン!!
(今のがカーブか…確かにこれはやべぇな。まぁこれで2ー3バッテリーとしては変化球は要求しづらいはず……いや…コイツなら)
「っしま!?」
ーードパァァァァァァァァァァァン!!
原田の思惑とは別に御幸が要求したのはインコースのストレートであった。
「「「お、うおおお!!」」」
「4者連続!!」「しかもあの稲実から!!」「す、すげぇ!すげぇぞ沢村!!」
「雅さん!!何してんのほんと!!」
「…」
「本当にみんな頼りないんだから、ここは一発俺がーー」
ーードパァァァァァァァァァァァン!!
『さ、三振!!5者連続三振です!一年生サウスポー沢村栄純!東京神宮球場にて躍動しています!!』
「…ぐぬぬ…なかなかやるじゃねぇかあのガキ」
「背はお前より高いけどな」
「打てないくせにうるさいよ雅さん!」
その後もノリに乗った沢村は6番山岡に対してもチェンジアップを詰まらせてセカンドゴロに打ち取りスリーアウト。6者連続三振が途切れてしまったことで会場からため息が溢れる。
『現在ここまで両者共に無安打無失点が続き互いの投手が奮闘しています。ご覧の通り会場は超満員の来場。まだまだ球場にはお客さんが押し寄せてきている模様。そして上がり続ける気温、果たして試合はどうなってしまうのでしょうか!!』
◆
互いに譲らぬ投手戦…成宮は3回表8番白州に単打を浴びるものの、その後の沢村、倉持、小湊を打ち取り無失点。
対する沢村も7番をストレートで詰まらせセカンドゴロに、8番をカーブで見逃し三振に切り9番に対してもカーブとチェンジアップを駆使し内野ゴロに仕留める。
ここまで3回終わって成宮が被安打1の5奪三振、沢村が被安打0の6奪三振、球数は成宮の方が少なく抑えている模様だった。
「ここまでの投手戦になるとはな」「これ沢村の方が良いんじゃねぇ?」「バカか、成宮は抜く時抜いてんだよ」
そう。成宮は青道打線において3番夏目と4番結城以外の打者に対し明らかに力を抜いて打たせるピッチングを見せている。…このままでは沢村の方が早く力尽きることは戦っている選手たちにも理解できることであった。
(スゲェ汗だな)
「栄純…もう少しだけ待ってくれ」
「…はぁ…はぁ…心配してねぇよ!」
「…ふっ」
それだけ答え夏目は打席に向かう。…栄純の汗…3回でこれほどの汗を流す栄純を俺は今まで見たことない。おそらく稲実打線のプレッシャー、そして成宮に対抗しようとした影響だろう。…いや…本当にそれだけか…本当は分かってんじゃねぇか。…不甲斐ないぜ…相棒があれほど頑張っているのに指を咥えて見ていることしか出来ねぇなんてな
◆
『ここまで互いに無失点見事な投手戦を繰り広げております。そして4回表…青道の攻撃、打席にはこの男が再び入ります』
(ここは慎重に投げろよ鳴)
(分かってるよ雅さん)
俺は打席に入る夏目を見る。…はん…一打席目俺にやられてムカついてんのか?…一年が睨んでんじゃねぇよ!
(こい!鳴!!)
(のけ反りやがれ!!)
稲実バッテリーのサインが決まり、初球… 白い残像を引きながら成宮の左腕が振るわれる。
ーーグオオオオ!!
左腕から放たれたそれは、内角高め――左打者…夏目の胸元を射抜く、最も強気なコース。逃げ場はない。更に球速は150キロに近い豪速球であり一瞬でも差し込まれれば、詰まって凡フライに打ち取られ、振り遅れればバットは空を切る。
"並の打者"ならスイングするのも躊躇われるコースとボール
しかし
今打席に立っている男もまた、"並の打者"ではない
夏目はボールに対し一歩も引かず、踏み込んだ前足が地面を噛み、腰が鋭く切りながらバットが最短距離で内側から走らせる。
その瞬間ーー
ーーカキィィィィィィィィィィィン!!
「「っは!!」」
轟音のような金属音が、青空を裂いた。差し込まれるはずのボールを、夏目は肘を畳み、身体を回転軸に変えボールを叩き伏せたのである
そして振り抜かれたボールは完璧なスイングによって引きずり出され、鋭い弧を描いてライトスタンド中段へ突き刺さった
「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」
『なんとなんと青道高校一年夏目凛太郎!!好投手成宮君から値千金となる先制ソロホームランを放ちました!!』
「やりやがったぜアイツ!」「しかもあの成宮から!」「マジやべぇ!!」
会場が爆発するような盛り上がりを見せる
「やりやがったなこの野郎!」「ヒャハ!」「…流石だ」「その後のスカし顔が生意気」
「よく打ったな」
ベンチに戻ると仲間や監督からも祝福される
「待たせたな栄純」
「別に心配してねぇよ」
◆
成宮は夏目に一発を浴びた後、動揺したところに結城にツーベースを打たれるもののその後の打者、増子、伊佐敷にチェンジアップを解禁し三振…御幸にもストレートで詰まらせ凡退に抑えたのである
「あの一年やるじゃねぇか」
「…狙ってやがった」
「それより鳴は?」
「…あそこだ」
そしてベンチに戻ってきた稲実ナイン…しかしそこに成宮の姿はなく、原田が指すのはベンチ奥の更衣室…そこから
『くそ!くそ!くそ!バカヤロォォォ!!!』
「「「!?」」」
成宮の叫び声が響き渡る。そして暫くすると
「あぁ〜スッキリした!!」
「…もういいのか?鳴」
「…言い訳ないじゃん… 腹綿煮えくりそうなくらいイラついてんだからさ!!だからカルロス!!頼んだよ!!」
成宮から檄が飛び交う
「はっ…さっきまでへこんでたしょぼくれ王子の言葉とは思えねぇな」
「…ほんとにね」
「…まぁ…しょうがねぇ。俺たちで取り返してやるか?」
「…あぁ…いい加減調子に乗らせるのも飽きてきた」
4回の裏…稲実打線の二巡目の攻撃が始まろうとしていた
『さぁ試合が動き始めた4回の裏!遂に青道高校に待望の先制点が飛び出しました!そして続く稲城実業、反撃なるか!?』
『1番センター・神谷くん』
アナウンスされたカルロスが打席に入る
「…ここいらで反撃させて貰うとするか」
「…出来るもんならな」
御幸は稲実打線の目の色が変わったことに気づく。
(鳴が打たれてから何か変わったか?…こういう時こそ慎重に…丁寧に行くぞ沢村!)
御幸のサインに頷いた沢村は一球目を投じる。アウトコース低めに沈むチェンジアップ…これをカルロスは見送りワンボール、そして続いてーー
ーードパァァァァァァァァン!!
「…」
インコース真ん中にストレート…これもカルロスは見逃すがストライク、更にカウントは進み2ー3…フルカウント
(ちっ…気味の悪い見逃し方しやがって…これで決めるぞ沢村)
青道バッテリーが選んだボールはーー
「んな!?」
ーーカツン!
沢村の投じたアウトコースへのストレートに対しカルロスはバントを試みる
「サード!!」
「っ!…ウガ!」
「カルロス駆け抜けろ!!」
「っ!!」
沢村のボールを見事サードライン側に転がしたカルロス、定位置に構えていた増子は少し遅れるも華麗に捌きファーストに送球する。判定はーー
『せ、セーフ!!セーフです!!ここにきて稲実からヒットが飛び出しました!!』
判定はセーフ、そして電光掲示板に刻まれるHの一文字…それはエラーではなくバントヒットの表示であり、これにて沢村の無安打の記録は途切れることとなる
「…すまない沢村ちゃん」
「…はぁ…はぁ…何言ってんすか!!あんなもん捌けるだけ凄いっすよ!!」
「切り替えろよ沢村。今のは事故みたいなもんだ」
「…はい!」
落ち込み謝罪する増子に対し疲労しながらも笑顔で声を掛ける沢村
「…楽には死なせない」
「…」
(ちっ…嫌なバッターが回ってきやがったぜ)
なぜ御幸がこのタイミングで白河を嫌がったのか…それはーー
ーーカァァァン!!
ーーカァァァン!!
ーーカァァァン!!
『見事なバットコントロール!!これで7球目です!!青道バッテリー、稲城実業白河くんに苦戦を強いられております!!』
白河は沢村のボールを悉くカット…ストレート、変化球、インコース、アウトコース、全てのボールをカットし球数を投げさせる
「なろっ!!」
ーーカキィィィン!
「お兄さん!!」
8球目に投じたカーブを引っ掛けセカンドがアウトにするも、この打者相手に8球も投じさせられてしまった。…その間にランナーが進み1死ランナー二塁…そしてこれから迎えるは
『3番サード・宮沢くん』
稲実のクリーンアップである。ここは要注意の場面…しかし
「なっ!甘ぇ!」
ーーカキィィィィィィィン!!
甘く入ったストレートを宮沢はフルスイング、真芯に捉えられた打球は、センター前正面に。そしてランナーのカルロスが生還を果たしてしまう。
『稲城実業同点です!!3番宮沢のバットから同点打となる一本が飛び出しました!!』
「「「うおおおお!!」」」
「もう一本お願いします!」「頼みますキャプテン!」「ここで逆転しましょう!!」
そして更にピンチは加速しここで打席に入るのは稲城実業の主砲・原田である
(流石にやべぇな)
「タイムお願いします」
沢村の状態、場の流れ、相手の勢いを加味した御幸は流れ止めるため一度タイムを申請する
「沢村…ここは一旦落ち着いーー」
「御幸先輩」
「っ!?」
「流れとか勢いとか取り戻す方法があるのを知っていますか?」
「何を言ってーー」
「"相手(敵)の最高の選手を圧倒する"…それだけでいいんすよ」
「っ!?」
明らかに疲弊した状態、"普通"に考えたらまともに勝負なんて出来ない展開、"くさい所"をついて打ち損じてくれたら良し、カウント次第では歩かせる選択肢もある
なのに
なんなんだ…この異様なまでのこいつの"プレッシャー"は
「…分かった」
そう一言だけ残して御幸は戻る
(すいません御幸先輩…御幸先輩の心配もわかっているつもりです。…でもここは譲れないーーーー
絶対三振に取りますーーこの人をーー)
初球アウトコース低めへのストレートーー
ーーカキィィィィィィィン!!
「うぉぉぉ!!」「行くか!行くか!」
これを原田は捉えるがボールはボールは僅かにライトポール外側に僅かに切れてファールーー
(ここにきても尚コントロールは抜群だな)
原田は疲弊してもなおブレない寸分の狂いも許さない沢村の制球に驚く。…そして2球目ーー
ーードパァァァァァァァァン!!
「今度は内角えぐったぁ!!」「ナイスボー沢村!」
『アウトコースからのインズバ!!青道高校沢村栄純素晴らしいコントロールを披露しています!!』
(やけに近く感じたな…!?…外角を強く意識させられたからか?両コーナーを使って上手く攻め込まれたな…だがこれで意識は"フラット"だ。もうーーーー
ストライクゾーンを通過するボールならどこに来ても対応できる!!)
この状況下で青道バッテリーが選択したボールとはーー
(んな!ボールが消えーー)
沢村が振り抜いたと同時にボールは打者の視線より遥か高めにーー
しかし
(いやーーカーブか!カーブの軌道は確認済みだ!)
原田は一打席目にカーブを確認したことで視認に成功。そしてその軌道に合わせてバットを振り抜く
ーーーーが
ーーギュルルルルルルル!!
(何!?)
沢村のカーブはここでもう1段階変化してみせた。回転量が並のカーブ投手を遥かに超えるスピンを誇る沢村のカーブはあまり失速せずに向かってくる。"まるで変化しながら伸びてくるような美しい二段モーション…
以前これを目撃したのは薬師戦の轟との三打席目、今回のように明らかに疲弊した状況下で沢村のボールはより精度を上げ、球威、キレ、共に爆発的なモノを見せた。
今回も前回の経験を踏まえ御幸が考え答えはーー
(こいつ…もしかして…尻上がりに調子を上げてくるタイプか)
(いやそれだけじゃ説明がつかない。…今の変化やキレはそれだけじゃない気がする)
(おそらく自分の中で無意識にギアを調整しているのだろう。…ちょっと待てよ。…もしかしてこれを意図的に出来るようになったとしたら)
通常スタイルでも並の投手を遥かに凌駕するキレのストレートにカーブ、そしてそれを活かすチェンジアップ…さらにここにスタミナとピンチに対してギアチェンジを可能とするなら…正に青道…いや東京、それ以上…頂すら目指せる投手になり得る
「んなろ!!」
ーードパァァァァァァァァン!!
『三振!!!なんとここにきて再びギアを上げてきたような投球を見せてくれました沢村栄純!!稲実の4番5番を二者連続三振に切ってみせました!!』
「うぉぉぉぉ!!!」「ピンチを切り抜けやがった」「まじか沢村!」
沢村はその勢いのまま5番の成宮すら全く寄せ付けず打ち取ってみせた。
「すいませんボス!…点取られてしまいました」
「っ!!」
帽子をとって頭を下げる沢村、その姿勢からもこの試合本当に一点もやるつもりはなかったのだという気概が垣間見える
「…いや、お前はよく投げている。次の回も頼むぞ」
「はい!お任せください!」
それだけ答えてアンダーシャツを変えに裏に下がる沢村
「…御幸…どうだお前から見て沢村は」
「…そうですね。…この試合、成宮相手に張り合うように初回から飛ばしてましたから疲れはあると思います」
「…そうか」
「…ただ」
「??」
「…あいつ自身は尻上がりの傾向にあります。…そして今…新たなステージに昇ろうとしているのかも知れません。…すいません。ここからは個人的な感想になります」
「…いい。言ってみろ」
「…俺はあいつがどこまで行くのかを見てみたい。…それも稲実という"最強"の相手にどこまで行くのかを…すいません。あくまでチームとしての考えを無視した個人の意見です。」
「…ふっ…いやいい。…俺が無理だと思い次第すぐに丹波に変える。いいな?」
「はい!」
片岡監督自身も沢村の投球を目の当たりし、手に力が入るほど魅入ってしまっている事に気づいていた。…この男はどこまで行ってしまうのかと…しかしこれはチームの戦い…1人の意思で試合を動かすわけにはいかない。それを片岡監督は理解していたのである
そして5回表は沢村に呼応するように成宮も出力を最大限まで発揮するようになり、白洲、沢村、倉持と三者三振に抑えてみせる。
対する沢村も山岡をカーブ三つで三振に奪い、7.8番ともにストレートを詰まらせ三者凡退に打ち取ってみせる。
6回の表ーー
ーーカキィィィィィィィン!!
「っ!!カルロス!!」
「ちっ!」
(若干ボールの下を擦ったか)
1アウトランナーなしの場面で対戦した夏目は2球続けてチェンジアップを見逃し1ー1の展開のあと、高めのストレートを強振。…ボールは僅かにバットの芯より上に当たる。打球は上空に上がり長打を警戒し下がっていたカルロスの更に後方へ。
「くっ!!」
『な、なんとぉ!!稲実センター神谷くん!高く舞い上がった打球をセンターフェンスによじ登り見事キャッチしてみました!これは投手の成宮君にとっても大きなアウトになるでしょうね!!』
打球はカルロスがフェンスによじ登りファインプレーでキャッチ。自分のそぐわぬ形でアウトにしたとはいえ打ち取った事実に変わりはなくその後の結城に対してもチェンジアップでサードゴロに仕留めたのだった。
◆
「…うちの打線がここまで抑え込まれるとはな」
「「「…」」」
6回裏の攻撃前、稲実陣営は円陣を組み、その真ん中で国友監督が告げる
「相手が学年を飛び越える程の好投手であることをまず認めよう」
「「「…」」」
「しかしそれでも、お前達なら打ち崩せると私は信じている。…それだけの鍛錬と結果をお前達は示し続けてきたからな」
「「「…」」」
「…思い知らせてやるとしよう…"王者"がどちらなのかをな」
「「「っ!…はい!!!」」」