三月下旬――冬の名残をわずかに残しながらも、風はどこか柔らかくなっていた。
咲き始めた桜が、終わりと始まりを同時に告げるように揺れている。
笑い声の奥に、少しだけ混じる寂しさ。
見慣れた景色も、今日という日を境に変わってしまう気がした。
別れは静かに訪れ、けれど確かに、次の季節へと背中を押していた。
そしてそれは俺たちも例外ではなく
「栄ちゃん…凛ちゃん…俺ら応援してるからね!」「2人にはずっと迷惑かけっぱなしだったけど…本当に楽しかった!」「2人の姿が甲子園で見れる日を楽しみにしてるよ!」「絶対応援行くからね!」
電車の窓から覗く俺たちをみんな涙を流しながら応援の言葉をくれる
「…馬鹿野郎…本当に感謝してるのは俺たちの方さ」
「そうだ!!お前らのおかげで俺も…凛も成長出来たんだ!…ありがとな!!」
「「「栄ちゃん…凛ちゃん」」」
「必ず…必ず甲子園に行く…俺たち赤城中の誇りも背負って」
「あぁ…次会う時までに俺がエースとしてみんなを甲子園に連れてくぜ」
別れの挨拶をしている中等々電車の出発のアナウンスが流れる。…ゆっくりと進む電車…
「栄ちゃん!凛ちゃん!」「頑張ってね!」「絶対応援行くから!」
涙を垂れ流しながら走り追いかけてくる仲間達…
「…」
「うっ…ぐすっ…」
隣を見ると栄純も号泣しながら遠くなっていく仲間を見つめている
「…ほら…もう泣くなよ栄純…これからだ…これから俺たちの新たな物語が始まるんだ」
「ぐすっ…あぁ…アイツらの分も背負って…絶対甲子園に連れていくぜ」
俺たちは新たに決意を固めたのだった。…これから起こる未来に向けて…
と普通なら感動シーンのまま進むはずなんだが…
「んで…なんでいるわけ?君たち」
「ぐすっ…え?」
涙ぐむ栄純の隣…通路を挟んで隣側の席に座る見覚えのあり過ぎる2人の少女達
「何でってそりゃあ…あなた達と同じ高校に行くからに決まってるじゃない。…ねぇ?」
「そうそう!ていうか自分たちの彼女の進路くらい聞きなさいよ!興味ないわけ?」
「「うぐ…すんません」」
そうなのだ…俺たち4人はこの春から同じ東京にある青道高校に入学することになったのだった。俺たち…栄純と俺はスポーツの特待生として…雫と若菜は一般入学として入学することなった。
「ていうかお前ら生活はどうするんだ?青道は部活寮しか無かった気がするけど」
「ふふーんそれはねぇ…」「ねぇ〜!」
「「私たちルームシェアすることに決めました!!」」
「「え…」」
「元々1人じゃ親が許してくれないところを2人で住むならってことでOKして貰ったのよ。彼氏のアンタたちも同じ学校に居るから何かあった時でも大丈夫だしね」
「そうそう!だから遊びに来ていいよ!」
「あ!ていうか入学祝いやろうよ!」
「いいね!やろやろ!」
「「…遊びじゃねぇっつうの」」
「「…なに…なんか文句あるわけ?」」
「「いえなにも…」」
まさかのハプニングがあったものの俺たちは電車に揺られながら東京に向かうのだった。あ、ちなみに栄純と若菜はクリスマスに無事付き合うことになっていた。いや〜中々異性に対する感情が湧かない栄純でもあそこまで露骨にアピールされたら意識するに決まっている。…さらに雫から俺に指令が出たこともあって俺の方からも若菜を意識するように色々と手助けをした結果無事ゴールインしたんだった。…いいのか悪いのかこの2人が揃って彼女になってしまった結果俺たち男組は尻に敷かれてしまっているのだった。
◆
東京駅について俺たちは一旦別れ雫と若菜は入居することなったマンションの方に…俺たちは東京駅まで迎えに来てくれた青道高校野球部副部長の高島さんに出迎えられ野球部専用の寮に案内されるのであった。
「ここが寮か…」「なんか普通のアパートみてぇだな」
「栄純お前何階?」
「んーあ、俺ここだ」
「おおー一階か。俺は2階だ。じゃあここで一旦お別れだな」
「おう」
「また連絡してくれ。ていうか朝寝坊すんなよ?明日早いらしいぞ」
「分かってるって!」
「…ふっ」
(心配だ…凄く心配だ…仮にも特待生が遅刻なんて洒落にならねぇって…一応朝声かけてやるか)
そう言って俺と栄純は別れるのであった。俺の部屋は…と…2階か…お、ここだ。
扉のよこに木材で作られた表札がありどうやら複数人で過ごす部屋の中俺の部屋は3人部屋らしい。1人は聞いたことのない知らない人でもう1人は…
「お、へぇ〜"あの人"か」
コンコンッと俺がノックをすると中から『入っていいぞ〜』と声が聞こえたの中に入るとそこにはーー
「お、お前が今年の一年か。俺は2年の御幸一也だ。宜しく」
「俺は3年の川原だ。よろしく頼む」
整った顔立ちに、どこか飄々とした笑みを浮かべる眼鏡をかけた青年と特徴のない顔立ちながら優しそうな表情を浮かべる青年がこちらを見つめているだった
「今年から青道にお世話になります!夏目凛太郎です!宜しくお願いします!」
「あははは!硬い硬い!監督もいねぇんだからそんな畏まらなくていいぜ?こっちの川原さんも優しい人だから」
「お前はもう少し先輩を敬った方がいいけどな」
「ありがとうございます!」
同室の先輩が"あの御幸一也"だとはな。中々運命的な出会いだったわけか
「ーーへぇ〜ならお前とその幼馴染が今年の特待生ってわけか。同じ中学…それも聞いたことねぇとこから2人なんて珍しいこともあるもんだ」
「いえいえ運が良かっただけですよ」
「いやそんなことないぞ?高島さんが部長に『今年は豊作ですよ』って言ってるのを聞いたことあるからな。滅多に言わないあの人がそこまで言うのはここ数年だと"クリス"くらいじゃないか?」
「へぇ〜やっぱ凄いんだお前」
「まぁ…そこそこ戦力になるとは思います」
(ていうか"クリス"って誰よ)
「…へぇ…ポジションは?」
「"高校では"外野手をやろうかなと」
「"では"…ね。まぁウチは内野は固まってるからな。もう1人のやつは?」
「投手ですよ」
「お!」
「期待してもらって良いですよ。一応こっち地方ではNo. 1って評価されてたんで」
「…面白くなってきたぁ!!…なぁなんかもっと情報ねぇのか!」
何だこの人…ピッチャーって言った途端に顔色変えてきたな。
俺たちはその後も就寝時間まで会話に華を咲かせ俺の高校野球1日目が終了するのであった
◆
翌朝…俺は朝の5時半に目が覚めた。6時半グラウンド集合のためまだ少し余裕があるだろう。
「おはようございます」
「…ん…おはよう」「おはよう」
御幸先輩はまだ眠たそうに目を擦りながらアイマスクを外している。川原先輩は朝は強そうだ。俺たちはその後ユニフォームに着替えて部屋を出る。
「あれ?グラウンドはこっちだぞ?」
「あ、はい。ちょっと確認したいことがあって」
「「??」」
俺がグラウンドとは違う方向に歩き出してのを見て御幸先輩たちが声をかけてくれるが俺は栄純のことが気になっていたのでそちらに向かうことにする
コンコンッ…………あれ………
「失礼します」
返事がないので中を開けるとそこには
「……ん………」
気持ちよさそうに眠いっている栄純の姿が
「起きろ!!」
「うわっ!?なんだ!?」
「馬鹿野郎!あんだけ言ったろ!今日は朝早くから集合だって!」
「え!?あれ!倉持先輩は!?増子先輩もいねぇ!?」
「なんでもいいから早く着替えろ!もう少しで集合だぞ!」
「わ、わりぃ!サンキュー!」
そう言って急いでユニフォームに着替えた栄純とグラウンドに向かう。
そこにはすでに集まっていた選手達が列になり並んでいた
「っぶね。まだ大丈夫そうだな」
「…ふぅ…セーフ」
「…栄純…」
するとこちらを見つめ驚いている緑色の髪をかきあげている青年と少しふくよかな大柄な男性が先輩の列に並んでいるのを見つける
◆
「なんであの野郎!あんだけ熟睡してりゃあ遅刻間違いなしだと思ったのに!」
「ウガッ!中々やるな沢村ちゃん…」
その様子を見た他の上級生は
「またやったの"アレ"」
「そろそろ監督にドヤされるぞ?」
「え!そりゃないっすよ哲さん!」
「自業自得だな」
◆
列に並ぶこと10分後グラウンドに首脳陣が歩いてくるのが分かった。
「「「おはようございます!!」」」
俺たちの目の前にサングラスと髭を生やしたいかつ目の男性が立ち止まる
「これで入部希望者は全員か?」
「「「はい!!」」」
「先ずは順番に自己紹介をしてもらおう」
「「「はい!!」」」
俺たちは…最後か…まぁ最後に並んだからしょうがないが俺が最後で栄純が俺の前になる
「ーー守備には自信があります!」
ヘェ〜何人か名前は聞いたことのある選手も揃ってるな。粒揃いってのもあながち嘘ではないらしい。
でもまぁほとんどは関東から集められたメンバーになっていて俺が知っている選手はあまり居なかった。…そしてその後も続々と自己紹介が続いていき
「ーー次!!」
「っはい!!」
お、もうそんな順番か…
「赤城中出身沢村栄純!!希望ポジションは投手一本!… 目指すのはただひとつ――
青道のエースナンバーのみ!その為に来ました!必ず奪って見せます!以上ご清聴ありがとございました!!」
『『『い、色々スゲェ奴だな』』』
「おい…アイツだろ北の本郷と選抜で投げ合ってたの」「…うん。彼も青道なんだね」
新入生の中には栄純のことを知っている奴も何人かいそうだ。
「…ほう…入部途中の状態の小僧がエースナンバーを奪うと抜かすか…」
「…はい…」
「それがどれだけ困難な道か分かっていってるんだろうな?決して生半可な気持ちだと返ってキツくなるかもしれんぞ」
「っ…この気持ちだけは変えるつもりねぇっすから!」
「…ふっ…小僧が…良いだろう。では最後!」
監督はどこか嬉しそうな表情を浮かべていた
「はい!同じく赤城中出身夏目凛太郎!!希望ポジションは外野手!!バッティングなら誰にも負けない自信があります!…そして…
ーー俺がこの手で青道を甲子園に連れていきます」
「「「!?」」」
「おいおいマジかよアイツ!」「はっ生意気な」「うむ。中々肝の据わった一年生だ」
「おいおいヤバいだろアイツ!」「アイツもさっきの奴と同じ中学出身だろ!?」「アレが特待かよ…」
「アイツも選抜で騒がれてた奴だよな」「…うん。中学No. 1打者って言われてたからね。よく覚えているよ」
上級生は生意気だがどこか自信に溢れた一年生を見て高揚し下級生はそんな上級生や監督の前で啖呵を切った2人の特待生を見て怖気付いている者が多かった
「さっきの奴といい今年の新入生は生意気な小僧が多くて堪らんな」
「…すいません」
「だが…このような場で自分の意思を曲げず伝えられるものはそうはいない…その気持ちは伝わったぞ」
「…ありがとうございます!」
こうして俺たちの新しい生活が幕を開けたのであったーー
◆
後日俺たち一年生は希望ポジションに分かれての能力テストとなるものを2軍グラウンドで受けていた。
「やっぱあの2人は別格だな」「あぁ…この間まで中学生だったとは思えねぇぜ」
「すぐこっちに合流してくるか?」「さあ?」
俺と栄純はそれぞれ分かれての適性検査であったが俺の場合は遠投にベースランニング…それにバッティング練習などどれを取っても他の一年生には負けはしなかった。栄純の方は遠投以外は投手の適正をすべて大幅にクリアしていたらしいが遠投だけ唯一栄純を負かした相手がいたそうだ
「ヘェ〜栄純に勝てる奴がそっちにいたんだ」
「遠投"だけ"な!他は俺も負けてねぇ!」
「にしてもだろ。そいつ何メートルくらい投げてたんだ?」
「知らん!」
俺たちは食堂で飯を食いながらテストについて語り合っていた。この顔から想像するに知っているけど言いたくないんだろうな。…栄純の遠投はおそらく俺より少し弱い程度…となると110メートル届けば良い方だと考えてそれ以上投げれる投手が一年生にいるってことか…
「要注意だな」
「んあ?」
◆
どうやら今は春季大会の時期らしく明日も一軍は試合があるそうだ。…俺たちは出ないのかって?そりゃあ勿論本音を言えば出たいに決まってるけど青道はどうやらこの時期から新入生を使うことはないそうなのでチームの方針的に俺たちに背番号が配られることはない。
「栄純どうする?試合見に行くか?」
「俺は行かねぇ…自分以外がマウンドに上がってる姿を見ると応援より悔しいって気持ちが湧いてきちまう」
「…ふっ…なら俺も残るぜ」
「良いのか!!ならアップでキャッチボールしようぜ!」
「なんでそんな嬉しそうなんだよ!」
「ねぇ…」
俺たちがグラウンドで話し込んでいると横から話しかけてくる声が聞こえた。
俺たちが隣を振り向くとそこにはーー
「あ!てめぇは!」
「ん?知り合いか?」
「コイツだよ!俺より遠投投げた奴は!」
「遠投だけでしょ?他のやつは軒並み君の方がすごかったよ」
背丈は俺や栄純よりも大きく清潔感のある黒髪を流している優男風の男が立っているのが分かった
「へぇ〜君が…」
「それよりキャッチボールするんだよね?」
「ん?あぁ」
「なら僕も混ぜて欲しいんだけど」
「あぁ!なんでお前も!」
「まぁまぁ良いじゃん。いいぜ?えぇっと…」
「降谷…降谷暁」
「降谷ね。了解!ならグローブ持ってこっち来いよ」
そうして新しく来た降谷も入れて3人でキャッチボールをすることになったんだが
その初球ーーゴゴゴゴッ!!と唸りを上げてこちらに飛んでくるボールに俺は驚きを隠せないでいた。140…145は出てるか。栄純よりも単純なスピードなら早く何より重い…
「っ…」
「良い球投げんじゃん」
「何驚いてんだよ。凛ならそのくらいの速さなら余裕で取れるっての」
「いや流石に余裕は無理…」
「初めて…初めてちゃんと全力のボールをキャッチングしてもらえた」
「「…」」
何やらやけに感動してくれていたので詳しく話を聞いてみると、どうやら降谷は北海道育ちらしく地元の野球部に所属していたそうなのだが降谷の全力のボールを取れる者がおらず、次第に野球が楽しくなくなりいつも壁当てばかりしていたそうなのだ。そしてある時雑誌で特集を組まれていた御幸さんの記事を見てこっちに来たそうだ。
「そういうことか…ならここではそんなこと気にしなくていいぜ?」
「??」
「お前のそのボールくらいなら取れそうなやつなんて何人もいるぜここは」
「!?」
「特に御幸さん…青道の正捕手の人なら間違いなく初見で音も鳴らしてくるだろうな」
「…なら…ならなんで夏目は取れるの?」
「俺も元々キャッチャーだからな。…それに球速ならお前ほどじゃないが"お前くらい早いボール"投げれるやつならいるぜ?」
「??」
「栄純!ちょっと降谷に投げてやってくれ」
「ん?俺?」
「あぁ!頼むよ」
俺の言っている意味がわからず不思議そうな顔をした降谷に対して栄純がボールを投げ込む
「行くぞぉ!」
「っ!?」
栄純から放たれたボールはギュルルルル!!と綺麗な縦回転のスピンを加えながら降谷の胸元のミットに激しい音を立てて収まった
「どうだ?」
「…速い…凄く」
「それでも単純な球速だけならお前の方が速いんだぜ?…それでもお前が速く感じた理由が分かるか?」
「…」
首を横にフリフリしている降谷にわかりやすいように説明していく
栄純のストレートはスピン量が平均よりもかなり多く回転も綺麗な縦回転を描いているため通常のボールよりも"伸びる"…その結果栄純のストレートは最速140にも満たない状態でも体感速度は150キロにも及び中学時代から三振を取りに行く本格派左腕のスタイルだった。
「…伸び…」
降谷になかった知識だったのか、はたまた何か感じる者があったのかその後栄純に色々と聞いていた。
まぁ栄純は並外れた関節の柔らかさとスナップがあるからこそのボールであってアレは天性のものだろう。そう簡単に一朝一夕で身につけられる代物じゃあない。…それでもあの降谷のストレートは驚異の一言だ。もしかしたら栄純のライバル候補はすでに現れたのかもしれないな。
◆
その日の夕食の時間…俺たちは食堂で夕食を食べていた。
「お、結構食えるようになってんじゃん」
声のした方を振り向くとそこにいたのは同部屋の先輩である御幸先輩だった
「御幸先輩」
「??」
「あ、こいつ幼馴染の沢村栄純です」
「知ってるぜ?お前らはこっちでも結構有名だからな」
「「??」」
「ここ座ってもいいか?」
そう言って俺たちの対面に腰を下ろした御幸先輩。ていうかやけに今日は静かだな。いつもはもっと話し声とか聞こえてくるのに…
「あの…御幸先輩。なんかあったんですか?」
「ん?お前ら聞いてねぇの?明日一年生と二、三年生のチームで試合すんだぜ?」
本来なら一年は体力作りがメインであるがこの間の一軍の試合で状況が変わったため即戦力を模索しているらしい
「へぇ〜」
「俺は出れんのか!」
「あの…ここ良いですか?」
とそこに降谷がやってきた
「失礼します。御幸先輩…自分明日ここにいる誰にも打たせるつもりはありません。そしたら…僕のボールを受けて欲しいです」
「「っ!?」」
うわっここでその発言はまずいんじゃあ…
と思っていたら案の定周りの先輩たちの目が険しくなり座っている降谷を囲み始めた。このままだと少しまずい状況になりかねない…そう思った時
「みっともないマネをするな!!俺たちはプレーで語るしかないんだ」
「た、丹波さん」
声のした方向にはこちらを睨んでいる坊主頭の男性…誰だろ。誰か知んないけどあの人のおかげでその場を持ち直すことができて降谷は助かったのであった。…こいつ度胸があんのか何も考えてないのか…おそらく後者だな
◆
後日グラウンドに集合した俺たちは二、三年生と反対のベンチに腰掛けていた。
「結構客も見に来てるんだな。さすが強豪校」
「うぉぉぉ!絶対俺がエースになぁる!!」
「うるせぇな!耳元で!」
栄純は朝から絶好調である
「流石だな。この状況でもリラックス出来てるなんて」
「「ん?」」
声のした方を振り向くとそこには2人のチームメイトがいた
「確か…金丸と東条だっけ?」
「おう。そっちは夏目と沢村だろ?」
「覚えてくれたんだ」
「覚えたっていうか俺らはお前らのこと元々知ってたんだ。な、東条」
「うん…ほら去年の選抜に出てたでしょ?」
「あぁ〜」
「あの時の北海道選抜との試合をに見に行っててね」
「ほうほう!この沢村の投球はどうだったかね!」
「…あはは…ちょっとイメージと違ったけどあの時は本当に凄かった」
「こんなうるせぇやつだと思わなかったけどな」
「あはは…」
確かに栄純はマウンドの上では人が変わったかのように変化する。…特に重要な場面…相手の投手がエースクラスの時は特に違う。…あの時は本郷だったからな。一点勝負のあの場面での栄純の集中力は常軌を逸していると思う
そんな話をしていると審判の格好をした監督がグラウンドに入ってくるのが見える
「一年生には全員チャンスを与える。いつでも行けるようにアップを済ませておけ。二、三年の先発は丹波…一年の先発は…
ーー沢村栄純!! 」
「っ!?はい!!」
「準備が出来次第試合を始める!」
「「「はい!!」」」
栄純は先発、俺は4番センターでスタメン出場がかなった。相手の先発は昨日降谷を助けてくれた坊主の人か…
◆
なるほどな、あの人の武器は大きく落差のあるカーブか。いくら高校に上がったばかりの一年生とはいえあそこまで仰け反るとなるとかなりのキレがあると思って良いかもな。
この回は俺まで回ってこねぇかもな…と思った矢先、3番に入った選手…高津だったっけ?その選手が見送ったというより運良く四球になったおかげで塁に進出した。
「凛!」
「ん?」
「…かましてこい!」
後ろから聞こえてくる栄純の声援に対し俺はネクストバッターサークルから前を向いたまま軽く手を振る。そして俺はバットを肩に担ぎながら、ゆっくりと打席へ歩く。足元の土をスパイクで軽く踏みしめ、感触を確かめる。右手でグローブの跡をなぞるようにバッティング手袋を締め直し、一度だけ深く息を吐く。
バットの先でホームベースを軽く叩く。
コン…という乾いた音が、合図のごとく響き渡る
視線を落とし、静かに一歩、踏み込む。
足の位置を決める。
左、右。
腰を落とし、背筋を伸ばす。
バットをゆっくり回し、空気を切る音を確かめる。…いつものルーティンをした後軽く会釈をしバッターサークルに入り込む。
マウンド上には先程から好投を続けている三年生投手・丹波…彼の武器は間違いなくあの大きく曲がるカーブだろう。…あそこまでのカーブは中学では中々お目にかかれない代物…ましてやそれを打つことなど新入生には酷と言うものだろうな
◆
今日の丹波は調子がいい。今受けているキャッチャーの俺から見てもこの球を投げれるんならすぐにエースに返り咲き一軍でも活躍できるだろう。それを一年生が打てるはずない。一年生には申し訳ないがこの試合本気で抑えさせてもらうとするぜ
1.2番を三振に抑え3番…追い込んでいたがストレートが少し枠を外してしまい塁に出してしまう。まぁ甘くうちに入るよりはマシなので大丈夫だろう。次は……コイツか……鳴物入りで入部してきた今年のゴールデンルーキーの1人…"夏目凛太郎"
(スカしたルーティンしやがって…一年が生意気なんだよ)
俺は初球に少しビビらせてやろうと体目掛けて飛んでくる勢いのまま急に曲がり落ちるインコースへのフロントドアでのカーブのサインを出した
(一年なんかに打たれるわけがねぇ…のけ反りやがれ!)
そして投げられた丹波の代名詞であるカーブは大きく曲がりインコース…それもインローに完璧に制御されたボールであった。
(コースもキレも完璧だ!打てるはずがねぇ!)
そう思った次の瞬間ーー
ーーカキィィィィンッ!!!!
破裂音のような音を響かせ振り抜かれたバットで捉えられたボールはそのまま弾丸ライナーでライトフェンス上段に突き刺さったのだった