初球…おそらくストライクゾーンで勝負してくるはずだ。新入生相手に…それも監督が目の前で審判をしてる中、三年生が一年生相手にボールゾーンから入るとは考えにくい。…となると自信を持っているであろう"決め球"
ーーカキィィィィィィン!!!
俺は体目掛けて投げられたかのようなカーブに対しギリギリまで待ち構え大きく曲がりを見せたところを下から掬い上げるようなアッパースイングでボールを捉えた。…そしてボールはそのままライトスタンドに突き刺さり初回から新入生チームの2点先制となったのであった。
「…もういい。お前は今日から一軍に合流しろ。いいな?」
「え…あ、はい!」
「「「っ!?」」」
「おいマジかよ!」「一軍!?1打席で!?」
どうやら俺はこの試合もう出場しなくて良いらしくホームベースを踏み終わった後監督は一軍合流するように言われてしまった
「ナイバッチ凛!!」
「おう!」
「ナイスバッティング!」「すげぇなお前!」「あの丹波さんから!」
ベンチに戻ってきた俺を栄純始め他の仲間が出迎えてくれるのだった。
「先行ってるぜ?お前も早くこいよ栄純」
「おう!すぐにでも俺も追いついてやるぜ!」
こんなことを言っているがぶっちゃけ栄純に対してはそこまで心配はしていない。…まぁ唯一心配していることはあるがそれは栄純の問題じゃないし関係ないだろうからな
そしてそうこう言っているうちに俺の後の後続が打ち取られコチラの守りの時間がやってきた。
「シャアァァ!やってやろうぜ!!」
「落ち着け!大丈夫か本当に…」
栄純がベンチから元気よく飛び出して慌てて今回スタメンに選ばれた捕手の狩場が追いかける。対面の二、三年生は一年生相手に失点…それも文句のつけようもない形での得点に早く取り返してやるとばかりにやる気満々である。
◆
「オッケーナイスピッチ丹波!!」「…くそっ!」「気にすんな丹波!あんなもんたまたまだろ!」
たまたまか…いや俺には分かる。間近で見ていたからな。あれは完全に狙われていた一振りだった。じゃないと丹波クラスのカーブをあんな完璧に捉えるなんて哲でも厳しいだろうからな
「先発はあの喧しい奴か」「アイツがもう1人のプロスペクトか」「球速は140は出てねぇべ?」「の割に粋のいい球投げるなぁ」
先発は今年の特待生の片割れである沢村栄純か…コチラが調べた情報によるとサウスポーで平均球速は130後半にも関わらずかなりの奪三振率を誇るらしい。…変化球はカーブとチェンジアップだったか。どんな球を投げるんだ?
「絶対取り返すぞぉ!!」
「「「おう!!」」」
◆
くそがっ…入学したての一年に負けるなんてありえねぇんだよ。…さっきの一年…夏目凛太郎…あれは別格だ。おそらくあれクラスはもう居ないはずだ。
俺は先頭バッターのためはやくもバッターサークルに立つ。
「シャアァァ!」
気合いを込めた雄叫びを上げて一礼する。…必ず結果を残す。…俺たち三年生にはここが最後のチャンスに等しい。…ここで上がらなきゃ次は…もう…
(お前らに譲る席なんて一つもねぇんだよ!!)
絶対に打つ…その気持ちを抱いてバットを構えたその初球ーー
ーードパァァァァァン!!
「「「っ!!」」」
無情にも放たれたボールは捕手の構えたミットに収まってしまった
(くそっ…なんだよ…なんなんだよ!!)
ーードパァァァァァン!!
「っくそ!」
2球目…先ほどと同じアウトコース低めに要求されたボールはスイングしたバットの上を通り過ぎ打者を追い込んだ。
◆
指先の感覚は上々…変な違和感もないし緊張もしてない。…これなら投げ込める。…凛は1打席で監督を認めさせた。
本当すげぇ奴だよアイツは…だから…アイツの相棒でいるためにはこの程度の試練で止まっているわけにはいかねぇんだ!!
初球、2球目とテンポよく打者を追い込んだ3球目…狩場は一球外すように要求するが俺は首を横に張る…ダメだ…打者に…相手チームにそんな余裕は与えさせない…俺も…最短最速で監督を認めさせる!!
ようやくサインが決まった3球目…狩場が構えるのは…
ーースパァァァァン!!
「っ!?」
打者が思わず首をずらし後ろに後ずさりし首にあたったんじゃ無いかと錯覚するほどのキレを持つカーブ…中学時代の沢村の代名詞であった。
「ストライク!!バッターアウトォォ!!」
「シャアァァァァァ!!」
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
「やりやがったぞアイツ!」「やっぱアイツも伊達に特待貰ったわけじゃねぇか…」「俺も対戦してみたい」「ヒャハッ!生意気な!」
一年生が三年生から三球三振…それも圧倒するようなパフォーマンスを見せたことでさらに活気付く一年生と外から見ていた一軍は新たな戦力が生まれたことに高揚を隠しきれない
「沢村!!」
「?ハイッ!!」
「お前も今日から一軍に合流しろ…この試合はもう投げなくて良い」
「っ!?ハイッ!ありがとうございます!」
「マジかよ…」「アイツも1打席で監督を認めさせやがった!」「今年の一年はどうなってんだ!」
◆
ははは…やっぱこうなったか…栄純のボールに対応するなんて…それも初打席で情報も少ない中、対戦すると言うことはいくら強豪校の選手といえど容易ではないことは初めからわかってたからな。
「ナイピ!流石だな栄純」
「おう!!お前に置いてかれるわけにはいかねぇからな!」
「よく言うぜ」
俺たちが作った流れのまま一年が押し切るかと思われたが…
ーーカキィィィィィィン!!
「うぉぉぉ!!これで7点目!」「上級生の攻撃が止まらないぞ!」「一年の投手も中々功績のある投手なんだけどな」「所詮中学生レベルってことだろ!」「お前この前の投手見てなかったのかよ!」
栄純の後続を任されたのは東条…東条自身も実はかなりの功績の持ち主である。東条が所属していたシニアは俺たちの一個上は全国ベスト4、東条の代も全国大会出場と輝かしい経歴を残している。
「…はぁ…はぁ…はぁ」
止まらない攻撃…どこに投げても打たれるような感覚…際どいコースは見逃されるかカットされ甘いコースは痛打される。『いつまで続くんだ…』と思ってしまうような永遠とも思える地獄の時間が続く。
(本当は分かってたんだ…凄いのは俺じゃない…俺たちのシニアがベスト4に行けたのは上の先輩たちの力が大きいってことを…
ーーそれでも…間近で"あの姿"を目の当たりにして『もしかしたら俺も』って思ってしまったんだ…でも現実は甘くない…
どこまで行っても所詮俺はーー"平凡な才能"ーー)
東条の心が完全に折れようとしたその時
『まだ試合は終わってねぇぞ!』
ベンチからコチラに向かい大声で声援を送る先程までここに立っていたはずの男の姿ーー
「…沢村」
「下を向くな!顔を上げろ!」
沢村の声援に士気が完全に下がっていた一年生は少しずつ顔を上げる
「"そこ"に立ってんなら諦めんじゃねぇ!!」
「っ!?」
「野手陣も東条を盛り立ててやれよ!!まだまだ逆転できる点差内だぞ!後悔も反省も試合が終わってからやれば良し!今はこの場を切り抜けることだけ考えようではないか!!」
「「「…沢村」」」
「お前らここまで言われてまだ黙ってるつもりか?同じ新入生として悔しくないのか?少しでもその気持ちがあるなら見返してみろよ!」
「夏目…」
「「「っ!?」」」
「っくそ!絶対逆転してやるからな東条!後ちょっと踏ん張ってくれ!」「頼りねぇかもけど知らないけどまだ諦めてねぇぞ!俺たち!」「頑張れ東条!!」
栄純の言葉で発破をかけられ俺の言葉で完全に立ち直った新入生チームはこの回をここで断ち切ることに成功するのであった。
といってもここまで5回まで試合を続けてきて折り返し地点で12:2の大差で負けている。普通にやっても勝てる気がしないのは間違い無いだろう。なにせ気合いだけで勝てるほど甘く無い世界でありそれほどの差が上級生と新入生には存在している。
(ならどうするか…この流れを断ち切るほどの何かが欲しい)
「新入生チームは選手を入れ替えるぞ!この回の先頭から代打・"小湊"!!準備は出来ているな?」
「誰だ?」
「っ!?来た!!…流れを変えれるかも知れない一手が」
栄純は小湊が誰かわからずキョロキョロと辺りを見渡している。まぁ俺も知らない名だが流れを変えるにはここしか無いと言うことは分かる。…あとはその力を小湊が有しているかどうかだが…
「はい!行けます!」
そう言いベンチから立ち上がったのはピンク色の派手髪を目にかかるほど伸ばした小柄で優しそうな少年であった。その少年は勢いよく返事をすると打席に入る準備をし俺と栄純の方を向いた。
「君たちのさっきの言葉…正直痺れたよ。…僕は君たちと野球をやりたい。そのために前を走る君たちに必ず追いつく。必ず結果を出して見せる」
「「…」」
小柄な体型からは想像も出来ないほどスケールの大きいことを口にする奴だった。…けど嫌いじゃないぜあぁ言うタイプは。
そして打席に入った小湊は初級のボールに対しいきなりバントの構えを取る。上級生チームは全く頭に無かったのか慌ててサードとファーストが駆け寄るが小湊自身はボールが手元に来る前にバットを戻しておりバントをやめていた。そして2球目…今度も先ほどと同じようにバントの構えをする小湊を見て全力で駆け寄ってくる内野陣…しかし小湊がとった行動は…
ーーカキィィィィィィン!!
「うわっ!?」
「「バスター!?」」
バントの構えを解いた小湊は向かってくるボールに対し緩やかにバットを合わせボールを三塁線側に向かって強打する。思いもよらなかったサードは反応するもグラブに当てることすら叶わずボールは三塁線を越えレフトフェンス側まで転がっていく。そしてその間に小湊は2塁まで悠々と進むとことに成功するのであった。
あの小さい体をもろともしない野球頭脳にバットコントロール…スタメンに選ばれてなかったからそこまで期待をしていたわけでは無いがこの1打席だけで奴が只者ではないことは十二分には理解することが出来た。
「続けよ金丸!!漢を見せる時!!」
「信二頼む!!」
この場面で打者はここまでノーヒットの金丸だった。…さてどうする金丸…
◆
マジでだせぇ…ダサすぎるぞ俺…
中学で名門シニアに所属して着実にキャリアを重ねつつシニア時代には最高成績全国ベスト4まで上り詰めた。3年時にはクリーンアップを任されたし高校でも通じるはずだと少なからずそう思っていた自分がいた。
でもその期待が早くも打ち砕かれることなった。…"夏目凛太郎"…俺はアイツのことを中学時代に一度見たことがあった。県選抜で行われた大会で優勝候補筆頭を掲げられた北海道選抜と無名の長野県選抜…その試合は俺たちの世代では伝説の一戦となりつつあった。…なにせ北海道選抜には世代No. 1と称された本郷正宗と中学No. 1捕手と言われていた円城蓮司が居たからだ。
もちろん俺たちも北海道選抜を見にその会場に足を運んだのだったが…そこで目にしたものは俺が予想していたものとは遥かにかけ離れたものだった。
投げては無名のサウスポーが本郷と互角の投げ合いを演じ攻撃では本郷から2打数1安打を放った捕手が存在していたのだ。
そのサウスポーは本郷よりも球速や球威で劣るものの高い制球力に変化球のキレ…ここぞと言う場面での闘志を持って"あの本郷"を追い詰めていた。…そしてその男こそ今年の青道の特待生の1人である"沢村栄純"である。だがここまで並外れた功績を持つ沢村に対し俺はそこまで何か思うことはなかった。おそらくそれは投手と野手…根本的に違うものだと認識していたからだろう。
だが"もう1人"は違う。
その男は本郷正宗から得点をあげ、あの強打の北海道選抜打線を翻弄しゲームを掌握した天才…本郷との対戦でも3打席対戦して1打席目は四球だったが2打席目にあのストレートをフェンス直撃の長打を放っていた。角度がもう少しついていたなら確実に入っていた、そう思えるほど完璧な当たりだったんだ。3打席目はセンターフライに打ち取られたがこれは打者をかなり警戒した守備陣がフェンス際までかなり下がっており打たれた打球をフェンスに手を突きながら補給したフライだったためあれが1打席目なら確実にヒットであった。
…俺には本郷は打てない…そう思えるほどの完成度を誇る投手からあの打撃…流石にくるものがあったぜ。
『同い年でここまで差があるのか』ってな。仮にも名門シニアのクリーンアップを任されている俺にそこまで思わせた選手が青道の特待生のもう片割れである"夏目凛太郎"という男である
はなから勝てないことはわかっていた。…でも同じ同級生にここまで発破をかけられてなお俺は…何も出来ないままでいいのか!?
(良いわけないだろ!!…すかして過去の栄光をひけらかすのはもうやめだ…何がなんでも塁に出てやろうじゃねぇか!)
「シャアァァ!!」
気合いを入れ直し俺は打席にたった。
ーーパァァァァン!!
「らぁ!!」
「っぐ!!」
初球インコースにストレート…決して厳しいコースではないがスロースターターの丹波は中盤に入りエンジンがかかってきていた。
さらに2球目、3球目とコース内に投げ込まれて見逃しと辛うじてバットに当たるファールでツーストライク…
そして4球目…
「っくそっ!」
厳し目のコースに投じられたアウトコース低めのストレート…俺は辛うじてバットに当てたがボールはサード前ボテボテのゴロになる。
(…あぁ〜…所詮こんな程度か…俺なんて)
俺は明らかにヒットゾーンではない打球を確認して視界がぼやけてしまうほどの虚無感に襲われる。…くそ
「走れ金丸!!間に合うぞ!!」
「っ!?」
ベンチから叫ぶ沢村の声で一気に現実へと引き戻される。…そうだ…まだアウトにはなっていない…ギリギリまで足掻いてやるんだ。
「うぉぉぉぉ!!!」
そう思った瞬間俺の体は必然的に一塁ベースに向かい全力で走り出していた。…間に合うか…いや…間に合わせるんだ!
俺はただひたすらにがむしゃらに走りベース手前でヘッドスライディングで滑り込む
「っは!」
判定は…
『セーフ!!』
一塁審が手を大きく横に広げているのを確認し俺は大きくガッツポーズをする。良かった…せめて後続に…
と思った次の瞬間
「ホームだ!!」
「!?」
なんと2塁から三塁手がこちらに投げたのを確認した小湊はそのまま大きく膨らみながらベースを駆け抜けてホームに突入した
「…はぁ…はぁ!」
「っくそ!」
「「滑り込めぇぇぇ!!」」
一塁手が投げたボールと小湊のスライディングが交錯するクロスプレー…際どい判定だが…結果は…
「「「…っ」」」
『……セーフ!!!』
「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」
結果はなんとセーフの判定だった。…まさに紙一重のプレイ…ちくしょう…あいつ小湊とか言ったか…さっきのバスターといいこのクロスプレートいいどんだけ高い野球IDを持ってやがるんだ
でももう上を見過ぎで1人で勝手に絶望なんかしねぇ…俺もその次元の選手に必ず上り詰めてやる!!
◆
「にしてもやるじゃねぇか夏目。紅白戦とはいえ丹波さんのボールを初打席でスタンドまで持って行くとはな」
「いえいえ。もう1打席あったらこう上手くは行かないでしょうね」
「よくいうぜ。丹波さんのウイニングボールを初見でジャストミートしたくせによぉ!」
「俺にとってカーブは1番捉えやすいボールなんですよ。…いつも間近で"もっと凄いモノ"を見てたんで」
「…へぇ…あの喧しい幼馴染の一年投手か。…名前はなんつったっけ…確か沢村栄純」
「ええ…これから御幸先輩も受けることが多くなると思いますから早めにやっといた方がいいですよ。…御幸先輩でも初見で音を鳴らすこと自体厳しいと思うんで」
「……くくく…あっはははは!!!…仮にも青道の正捕手に座ってる俺に言うかそれ」
「……」
「いいねそれ。…尚更受けるのが楽しみになってきたぜ!」
俺は試合後自室で御幸先輩と今日の試合のことについて話していた。…試合自体は結局18:3で大敗してしまったがそもそも入学したあの新入生が上級生から点を取れることが稀であり3点を奪うことなど奇跡に等しかった。
しかしこの試合が例年より、より特殊だった出来事が一年生の一軍及び2軍合流である。この試合でアピールし一軍への帯同を許されたのは俺…栄純…さらにもう1人…最終回に登板した男
ーードパァァァァァン!!
ゴゴゴゴッ!と唸っているような豪速球を放ち一投で監督を認めさせた男・降谷暁である。降谷はその一球を投じた瞬間捕手が捕球すら出来なくなってしまったことでその実力?ポテンシャル?を買われ一軍への帯同を許されたのであった。
さらにこの試合を大きく変動させた張本人である小湊や最後の最後で気迫を見せた金丸は2軍への帯同を許可されたのであった。
「ま、これでお前も晴れて一軍ってわけだ。分からないことがあったらなんでも聞けよ。割り増しで教えてやるぜ♪」
「…」
何日か一緒にいて分かったけどこの人とことんいい性格したやがる…周りの先輩たちが『御幸には気をつけろ』って言う理由がわかったぜ。
◆
数日後俺たちAチームはグラウンドにて打撃練習を行っていた。…すると
『一年・夏目・沢村は至急監督室まできてください。繰り返しますーー』
「「??」」
あれなんかやらかしたっけ俺ら…
◆
「「失礼します!!」」
コンコンとノックをしたのち監督から入室の許可がおりたので声をかけ入室する。
「ごめんなさいね。練習中に」
「ちゃんとノックも出来ているな感心感心!」
中にはソファに座っている監督の他に部長の太田部長と副部長の高島さんが揃っていた
「今日呼び出した理由は来週行われる関東大会についてお前たちの使い方を確認するためだ」
「「!?」」
「まずは沢村…」
「はい!」
「お前の初登板は試合中盤…リリーフでの登板を考えている」
「…リリーフ…ですか」
「…リリーフは嫌か?」
「いや…あの…俺リリーフとか今までしたこと無くて…中学の時はずっと先発だったし選抜でも先発を任されたんで」
「…ふっ…なるほどな。だが…なにもこれからずっと中継ぎを任せるとは言っていない。…むしろゆくゆくは先発を考えているとだけ伝えておこう」
「っ!はい!若輩の身に態々ご返答ありがとうございます!」
「御幸と組んでサインプレーやセットの確認をしておいてくれ。そして夏目…」
「…はい!」
「…お前に一つ聞いておきたいことがある」
「??」
「ウチがお前を欲した理由は聞いているな?」
以前スカウトの時に高島さんが言ってた言葉を思い出す。『ーー貴方の事を中学No. 1捕手として評価しているという高校もあると聞くわ。勿論うちもその中の一つね』…あぁ…あれか
「それでも捕手をやる気はないか?」
「…すいません。…それでも自分の意思を変えるつもりはありません。」
「…そうか。…すまない。余計なことを聞いたな」
「…いえ、こちらこそ」
「お前は今のところ初戦のどこかで代打で使うつもりだ。…そしてその後の結果次第で使い方を考えて行く。お前ら2人は一軍どころか高校野球の経験も乏しい中いきなりウチの一軍について行くのは色々と厳しいはずだ。…そこでだ」
「「??」」
「お前たち1人ずつに練習だけで無く青道(ウチ)のイロハを教えてくれる先輩をつけておくことにした。…入ってくれ」
そう言われて新たに監督室に入室してきたのはユニフォームを着たおそらく先輩であろう2人の青年たち
「「失礼します」」
「紹介しておこう。右から沢村の指導係の3年の滝川・クリス・優と同じく3年の夏目の指導係…結城哲也だ。」
そして紹介された2人が一歩前に出て俺たちの正面に立つ
「紹介に上がった結城哲也だ。俺はキャプテンも兼任しているためずっと見ていることは出来ないが俺の教える範囲のことは全て教えようとおもう」
「宜しくお願いします!」
「同じく紹介に上がった滝川・クリス・優だ。」
「…そ、それだけ…」
結城先輩はともかくこのクリス先輩はなかなかクセがありそうだな。…ていうかこの人かよクリスって。…大丈夫かな栄純
「では2人とも宜しく頼む」
「「はい!!」」
「…おい…お前は俺について来い」
「え?…あ、ちょっ!俺沢村栄純って名前があるんですけど!!」
言いたいことだけ言って出て行くクリスさんに抗議しながら同じく退出する栄純
「…えっと」
「…すまないな。アイツにも色々あってな」
「…いえ」
(知らないよ!アイツ大丈夫かな…)
「とりあえず俺たちも外に行くぞ」
「あ、はい!」
その後俺はグラウンドにて守備練を行った。結城先輩は内野手なのでここではセンターの正レギュラーである伊佐敷先輩に色々と教わる
「行くぞオラァァァァァァ!!!」
怒号を吐きながらセンターからバックホームに矢のような送球を放つ伊佐敷先輩…さすが名門のレギュラーだ。取ってからの速さや送球の高さ…さらに肩の強さなど基礎能力の高さが伺える。うしっ次は俺の番か
「…行きます」
センター後方に放たれた打球を俺は後ろ向きにキャッチした後後方の軸足で踏ん張りながら右腕に力を入れて全力で振り抜く
「…ん!!」
「うぉ!?」
俺の投げた送球は同じく矢のような送球になりワンバウンドしたのち捕手が補給するのであった
「どうですか?」
「ふん!肩の強さは認めてやる。…だが落下地点までの移動が遅すぎる。迅速に判断して素早く動け。まずは打球音から落下地点を予測することだ。」
「はい!」
「まぁこの辺は慣れだ。焦んなよ」
「あざっす!」
口調や顔の圧の割にこの人むちゃくちゃ丁寧で優しい。守備も無駄がなく綺麗だし野球に対しては王道スタイルなのか?
そのような練習をその後は繰り返しその日の練習は終了するのであった。
◆
関東大会・一回戦
青道高校(東京)ーー横浜港北学園(神奈川)
試合は中盤まで進んでいる。7回終わってで6:2で負けている。しかも8回の表あちらさんの攻撃である。ここから離されるわけにはいかない大事な場面…青道首脳陣が出した答えはーー
『青道高校ピッチャーの変更をお伝えします。ピッチャー沢村くん…ピッチャー沢村くん』
この大事な場面…登板したのはまさかの栄純であった。俺が監督ならまぁ分かる。栄純の実力を1番知ってるしこの状況であの栄純が燃えないわけがないからな。…けど監督が選んだってことはそれだけ栄純に期待しているのか…それとも…新入生に頼らなければならないほど投手陣が酷いのか
「お願いします!!」
「分かった!分かった!そんな大声で言わなくてもいいって!」「うるせぇ!」「うるさいよ」「うがっ!」「うむ」
マウンドに上がり"いつもの"挨拶を終えた栄純が周りの内野陣から袋叩きにあっている。…大丈夫かあれ…
あれ幼馴染なのに心配じゃないのかって?…まぁ大丈夫でしょ。この程度の修羅場なんて何回も経験したし栄純は緊張とも無縁だからね。ほら今も
ーードパァァァァァァァァン!!!
栄純の投げたボールが御幸先輩のグラブに突き刺さり小君いい音がこのスタジアム中に響き渡るのであった