ーースパァァァァン!!
『ストライクッバッターアウト!!』
「「「うぉぉぉ!!!」」」
「ナイスピッチ沢村!」「初登板なのに落ち着いてるじゃねぇか!」「うむ…いい球だ」
「痛いっすよ倉持先輩!」
「うるせぇ!後輩が反抗してんじゃねぇ!」
最後の打者をカーブで見逃し三振に取った栄純がみんなに褒められながらベンチに戻ってくる
「良い投球だ。…とても初登板には見えなかったぞ」
「あざっす!なんだったら最終回も行けますが!」「それはない。最終回は川上に任せるつもりだ」
「なぜ!?」
「それよりも準備は出来ているな?夏目!」
「はい!」「はぐらかされた!?」
「この回先頭から行くぞ!」
「いつでもどうぞ」
うし。やっと俺の出番か。バックネット裏でバット振りすぎて準備は満タン。栄純がここまでのインパクトを残したんだ。『相棒』の俺が遅れるわけにはいかねぇよな。
『青道高校代打のお知らせを致します。坂井くんに変わりまして夏目くん。夏目くん』
「ぶっ飛ばせ夏目!」「緊張してんのか夏目!」「頑張れよ夏目!」
スタンドの応援団から夏目に向かい声援が多く飛ぶが当の本人にその声援はまるで聞こえてはいなかった。…なぜなら
◆
何打とっかな〜…この投手は速球のスピードはそんな早くないけど微妙に動くカットとか持ってんだよな。まぁでもおそらく俺に初球からは使ってこないはずだ。…とすれば
ーーカキィィィィィィィィン!!
「…これだよな」
俺はアウトコース低めのストレートを一閃…見事に捉えられたボールはバックスクリーン中段へと飛ぶホームランとなった
「「「うぉぉぉぉ!!!」」」
「ナイバッチ夏目!」「お前はほんま天才や!」「次も頼むぜ夏目!」
応援に駆けつけた父兄は驚き、夏目の実力を知っているベンチ外の応援団は多くの声援を送り続ける
「ナイバッチ夏目!っても本当に打つとはな」
「読みが当たってよかったです」
「それがむずいんだけどな」
「ヒャハ!お前(御幸)と打撃論は似てるけどお前より打つんじゃね?」
「うーん。ちょっと生意気かも」
「小湊さん!?」
ベンチに戻るとレギュラー陣の先輩たちから囲まれた。
「良いバッティングだったな。次も期待している」
「っ!ありがとうございます!」
監督に褒められたぜ。これはもう次回からスタメン確定なのでは?控えめに言って良くやったぜ俺
【そしてこの日ーー関東中から集まった猛者たちの胸に2人の男の名が刻まれることとなる】
◆
【6:5】勝者:横浜港北学園
あれから数日経った今思い返すと結局あの日の試合に勝つことは叶わなかった。…9回の攻撃で横学をあと一歩のところまで追い詰めることには成功したがあと少し力及ばず青道高校はここで消えることになってしまった。
あ、そういえば最近妙に栄純とクリスさんの仲が縮まったような気がするんだよな。今日もずっとクリスさんの後をついて回っていたし御幸先輩も犬みたいって言ってたな。
「ーーもうちゃんと聞いてるの凛!!」
「ん?あ、あぁもちろん聞いているさ!俺が雫の会話を聞き逃したことがあるか?」
「本気で言ってるなら怒るわよ?」
「あい」
俺は現在昼休みの教室にて雫からお説教を受けていた。なぜって?そんなもの俺が知りたいくらいだよ
「練習が厳しいのは知ってるつもり。でも肝心の試合の日の予定を彼女である私に伝え忘れるのはどうなのかしら?」
「…あい…すみません」
「元々私たちがマネージャー志望だったのは知ってるわよね?それを拒否させたのは誰だったかしら?」
「…あい…すみません」
いやこれには訳があるんだ。……だって野球部だよ!男がいっぱい居るんだよ!?そんなところに自分の彼女がいたら嫌じゃん!心配になるじゃん!
「別に私はマネージャーをやりたかったわけじゃないの」
「??」
「凛を支えたいからマネージャーになろうとしたの…分かってよ」
「…ごめん。次からは必ず伝えるよ。」
今回は本当に申し訳ないことをしてしまった。これは必ず埋め合わせをせねば。うちは毎週月曜日が休暇になっている。そこの放課後で必ず今回の埋め合わせをする。
「今度埋め合わせをする。…必ず。本当にごめんね」
「…もう。…いいわ。可愛いカフェ連れてってくれたら許してあげる」
「ありがとう。…好きだよ」
「っ!!」
耳元で静かにそう伝えると顔を赤面させ小走りで教室を出て行くのであった。
「どうしたんだ雫のやつ」「本当だ…どうしたの凛?」
雫と入れ違いで反対側の扉から栄純と若菜の2人が教室に戻ってきた。この2人は昼食の時は必ず屋上で2人で食べるようにしてるらしく昼休みの間は基本的に教室に戻ってこない。俺もだがこういう時彼女が弁当作ってくれるのってありがたいよなぁ
「いやちょっとね。別に喧嘩してるわけじゃないから大丈夫だよ」
「「ふーん」」
◆
5月下旬…入学してから2ヶ月近く、ようやく少し青道に慣れてきたこの頃俺たちはーー
ーーカキィィィィン!!
うちの投手陣を相手にバッティング練習をしているのであった。
「本当にあの子は底が知れませんね。あの丹波くんからあぁも打ち切るなんて」
「…あぁ」
「あの子をベンチに置いておくのは勿体ないですよ」
「…うむ」
それを見ていた監督陣は一年生とは思えない打撃力に起用方法を考え直し他の選手たちはーー
「なんなんだコイツは…一年のくせにバカスカ打ちやがって」
「…コイツは別格だろ。ウチより明らかに投手力のある横学からホームラン打ってるようなやつだぞ」
「ほんま羨ましいわ」
ベンチ外の選手たちは半端諦めの表情や嫉妬の感情を覚える者が増え
「うーんこのままじゃクリーンアップも危ないかも」
「純さんが1番危ないんじゃないっすか!ほぼ被ってるし」
「だらっしゃあ!!俺の方が多くボールに当ててるぜ!」
「…純さんそれボール球っす」
レギュラー陣は自分の立場を脅かす存在が現れても経験の差とでも言うのか頼もしい気持ちが多く焦っているものは少なかった。
「…はぁ…はぁ…くそっ…一年に負けてられるか」
「坂井そろそろ変われよ!」
「…くそっ」
もちろんそうでないものも存在する。誰もがレギュラーとはいえ安泰のポジションにいるとは限らない。…いや安泰な者など1人もいないのかも知れない
◆
数日後…俺たち野球部員は一軍・二軍関係なく全員が室内練習場に招集されるのであった。遅れて監督がやって来ると開口一番にーー
「今から一軍昇格選手2名を発表する!!これまでの試合を参考に自分の判断でメンバーを選んだ。選ばれたものは我が校の選手としての責任を自覚し…選ばれなかったものは夏までの1ヶ月、一軍メンバーをサポートしてやって欲しい」
2人だけか…現状有力候補はクリスさん…小湊…か
「一軍昇格選手は…
ーー3年・滝川・クリス・優!!そして1年・小湊春一…以上だ。」
「っ!?」
「!!」
クリスさんは目尻に涙を溜め喜びを露わにしているが他の選ばれなかった選手の為に公に喜んではいなかった。…そしてそれを超える喜びを表していたのがーー
「っし!」
隣で静かにガッツポーズしてる栄純であった。…初めは険悪そうな関係だったのにいつの日かクリスさんの後を追うようになり今では投手練以外は基本的に2人で行動し良い師弟関係を築いている。特に一軍のブルペンに入る時なんかはコイツ御幸先輩が受ける時とクリスさんが受ける時では明らかにボールのノリが違ったからな。
「…良かったな栄純」
「…おう」
俺たちは周りに聞こえないほどの声量で流石に会話する
「この2人を加えた20名で夏を闘う。明日からの練習に備え今日は解散だ。選ばれなかった3年生だけ残ってくれ」
そうだ…俺たちは選ばらなかった選手の分まで最後まで戦わなきゃならない。…俺たちが青道の代表なんだと…そう思えるように
◆
6月2週目ーー
ーーカァァァン!!
「くそ!相変わらずいい打球飛ばすなぁ!!」
「まだまだ良いですか?」
「っ!当たり前だ!まだまだ行くぞ!」
俺たちは合宿初日の練習を行っていた。午前と午後は学校…夕刻16時ほどから練習を始めスタートは打撃練や守備練など野手陣と投手陣に別れ練習を開始する。ーーそして
「あ、じゃあこれたくさんあるから食べてくださいね」
「おお〜〜!!これじゃあ俺一晩中でも頑張れちゃうな〜〜!!わははは!!」
(吐くな…あいつ絶対吐く)(死んだな)(可哀想に)
そしてこれはまだ俺たちの地獄の合宿の序の口に過ぎなかったのである。
・ポール間ダッシュ20本(インターバル90秒)
・ベースランニング100本
・グラウンド20周
他etc…
徹底的に肉体を追い込むハードスケジュールを俺たちは夜の20時までこなして行く。あたりは完全に太陽が沈み暗くなっておりナイターでの練習に変貌する。地獄の夏直前合宿のスタートである!!
◆
合宿2日目…AM6時
「どんどんいくぞ!」
「お願いします!」
ーーカァァァン!!
流石に朝からは来るものがあるな。筋肉痛で体バキバキだし。朝食や夕食もいつもより量が多く丼もののお茶碗を3杯以上なんて馬鹿げてるぜ
ーーPM16時 午後練習
ーーパァァァァァァァン!!
「おお!?」
「なんつぅ肩してやがる」
「送球は満点に近いな」
俺は守備メインの練習に励んでいた。体は重たいけど送球だけならそこまで負荷が掛からないのでいつも通り投げることができる。…俺に今必要なのは打撃よりも守るポジションだからな。こういう練習が必要なのである
ーー合宿3日目
「おら!どうした!足元もたついてるぞ!」
「もっと一歩目早く踏み出さないと追いつかないぞ!」
「…はぁ…はぁ…はぁい!!」
やべぇ…体が言うことを聞いてくれない。…立ち止まると痙攣がやばいし、これは大丈夫な汗なのか?なんかこの暑さなのに冷たい気がしてきたんだが…
「声出せ〜!」「元気ねぇぞ!」
「っくそ!はい!もういっちょお願いします!!」
「明日も朝早くからやるぞ。ストレッチして早めに上がれ」
「「「はい!!」」」
監督の掛け声のあと俺たちは各々解散する。…くそ…どんだけ化け物なんだよ。
「ーーあぁ頼む。俺もすぐ行く」
「すいません!俺も良いですか?」
「ん?あぁ夏目か。もちろん良いぞ。合宿中は中々見てやれなかったからな」
「あざっす!」
◆
「あれ何。お前まだ練習してんのか?」
「?あ、はい」
「馬鹿野郎。物事にはやりすぎても意味ないこともあんだよ。早くシャワー浴びてこい!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと!」
室内練習場で1人で素振りをしていた俺におそらくお風呂上がりだろうか?御幸先輩が通りかかり声をかけてくれる
「よしわかった!そんな元気ならちょっと付き合えよ」
「え??」
そう言われてた俺は意味がわからず放心状態のまま固まるがそんな俺を放っておきながら御幸先輩は部屋に戻る。
その後入浴を済ませた俺は部屋に戻ると部屋の前に2人の人物が立っているのを確認する。
「あれ?栄純じゃん何してんの?降谷も」
「お!凛戻ってきたか!」「…うん」
「どうしたの?」
「いや俺らも何が何だか分からんがブルペンで御幸先輩に受けてもらおうとしたらここに来いって言われたんだよ!」
どうやら俺と同じ理由で呼び出されたらしい。何のためなのかは知らないが。…まぁ入ってみれば分かることか
ーーコンコンとノックしたのち俺たちは部屋に入室する
「「「失礼します」」」
「あ?」「…む。やるな御幸」「あははは…それほどでも」「ヒャハ!沢村ジュース買ってこい!」
中には御幸先輩をはじめ伊佐敷先輩…結城先輩さらに倉持先輩など2.3年生の先輩たちが大勢いるのであった。
「お前ら元気あり余ってんだろ?この人たちの相手頼むぜ」
「「へ!?」」
「哲さんたちは家が近いからな。普段は帰ってるんだけど合宿の時はこうやって泊まってんだよ。」
「「へぇ〜」」
「でもまぁ…お前らの後ろ守ってる人や一緒に守る人がどんな人なのか知っておくのも悪くないだろう?」
「「…」」
「そんじゃあ後は宜しく頼むな!」
「「あ!?」」
それだけ言い残すと御幸先輩は枕を持って部屋から駆け足で出ていった。…あの人それらしく色々言ってたけど本心は間違いなく自分が安眠したいだけに違いない
「おい降谷お前はマッサージしろ!」
「…はい」
「沢村ージュースまだか?」
「俺はリーダーの相手をしてるんだ見て分からんのか!?」
「生意気タメ口アタァァァク!!」
「ぐほ!?」
カオスだ。カオスすぎる光景が目に飛び込んでくる。と言うかこれはいいのか…
「だテェな降谷!」
「??」
「ていうか知ってます純さん!コイツら2人生意気に彼女いるんすよ!」
「な、な、なんでそれを!?」
「お前が俺に隠し事できると思ってんのか!?」
「んどこら生意気なガキどものくせに彼女もいんのかよ…おい見せろよ」
「ギャァァァ!凛助けてくれ!」
俺は相棒が身を挺して犠牲になってくれてる間にそっと扉に手をかけて脱出する。…危なかった…もう一歩遅ければ…もう少しあのメンバーの先輩と仲が良ければ俺もあっちの道を進んでいたであろう。…済まない栄純よ
「裏切り者ぉぉぉぉ!!!」
後ろから悲痛な叫び声がこだまするのが聞こえるが俺は聞こえないふりをして金丸の部屋に泊めてもらうことにするのであった
◆
後日…俺たちは合宿も残りわずかとなり最終の追い込み段階に突入していた。
「一年…小湊…夏目は外れていろ」
「「…え」」
「外れてろってさ」
「早く行けこのやろ〜!!」
俺と小湊は監督の指示通りノックから外れることになった。…そしてそこからはまさに凄惨な光景だった。…永遠とも思える時間のノック…そしてそれを全て1人で撃ち続ける監督の姿…さらにナインの全員がほとんどミスを行わない集中状態…これが青道…ここが最前線…それをまざまざと見せつけられた瞬間であった
「グラウンドに礼!」
「「「「したぁ!!」」」」
【地獄の夏直前合宿ーー終了!!】
◆
土曜日ーー青道グラウンド
この日青道高校に前年度大阪王者の大阪桐生高校が足を踏み入れた。
「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます夏も近いですしお互い有益な試合にしましょう」
「…ふふ…その割に先発は一年ですか…まぁ…夏も近いですから色々試したい気持ちも分かります。けど…この桐生相手に一年生をぶつけてこようとは…それもスターターにも一年を入れてますなぁ。…よほど将来を見込まれた選手たちと見て宜しいかな。…ふっ…どっちにせよ。こちらは楽しませてもらいますけどね!」
そう言い残しお互いの名将は初対面を済ませるのであった
青道高校 スタメン
1番 ショート 倉持(2年)
2番 セカンド 小湊(3年)
3番 センター 伊佐敷(3年)
4番 ファースト 結城(3年)
5番 サード 増子(3年)
6番 レフト 夏目(1年)
7番 キャッチャー 御幸(2年)
8番 ライト 白州(2年)
9番 ピッチャー 沢村(1年)
『プレイ!!』
去年の夏の甲子園準優勝…大阪桐生高校…部員平均の背筋力が180キロを超えそのパワーは高校野球界No. 1とも言われる打線…
合宿で披露した体と高校野球では初めて相対するトップオブトップの高校…ここが試練だぞ栄純…
ーーガキンッ!
「っ!しもた!」
「ショート!!」
先頭打者は初球のストレートを引っ掛けショートゴロに仕留める。…そして2番は…
「くそっ…」
(指先の感覚がいつもと違いすぎる…)
『ボールフォア!!』
2番に四球を与えてしまいここから大阪桐生が誇るクリーンアップとの対戦…
ストレートとチェンジアップを駆使し追い込むことが出来たが
ーーカキィィィィン!!
「んな!?」
多少構えたコースよりも高めに入っただけでボールはレフト頭上を超えフェンスダイレクトに当たる長打コース…
「夏目バックホームだ!!」
「…ん!!」
フェンスにあたり弾き返されるボールに対し俺はあらかじめ予測していた位置でボールを補給…そして伊佐敷先輩の声を聞きながらそのままの勢いで全力でホームへ送球する
「たんま!たんまや!止まれ!」
「なんや!?」
一塁ランナーは慌てて止める三塁コーチャーの指示に困惑しボールを探すとボールの姿が見当たらなく…
「おいなんや!行けたやんホーム!」
「アホ抜かせ…見てみぃ…」
「??……んな!?」
コーチャーが指す捕手のミットにはボールが収まっておりこちらを睨みつけていた。
「なんでや!なんであそこにボールがあんねん!」
「レフトや…レフトの一年がバケモンみたいな送球しやがったんや」
「あ?レフト?ショートの中継の位置でそんな音せんかったぞ?」
「ちゃうわ…フェンス際からノーバンや…ダイレクトで放ってきてん」
「ダイレクト!?一年が!?」
三塁コーチの指示に納得ができず思わず理由を問いただすとまさかの一年レフトが理由だったと知り唖然とするランナー
「まぁなんにせよこれでランナー2.3塁や。チャンスには変わりない」
「せやな…頼むで"館"」
マウンド場ではタイムをかけた御幸が駆け寄り栄純と4番について対策を話しあっていた
「相手の4番…一発もあればコンタクト率も悪くない強打者だぞ。…状況的に外野フライでも一点…内野ゴロでも取られる可能性があるが今の状態なら致し方ない場面…だが…」
「…」
「…お前は納得しないよな。」
「…はい…ピンチを作ってしまったのは俺のせいですけど…ここは"取りに行きます"」
「…はは…ならやってみるか怪物退治!」
「はい!!お願いします!」
マウンドから離れた御幸を見た後沢村は相手の打者に目を移す。子供がいたとするなら見た瞬間泣き出してしまいそうなほどの凶悪そうな笑顔を浮かべている、身長も大きく体格もがっしりとした大男…早くもここがこの試合の分岐点になることを長年"背番号1"を背負ってきたこの男は自然に理解していた
ーーそしてその初球
ーードパァァァァァン!!
「っ!……」
インコース低めにストレート…まさかこのピンチの場面で長打もあり得るインコースから入ってくると思わなかった館は見送る。そして2球目…
ーーカキィィィィィィィィン!!
2球目はアウトコース低めのチェンジアップ…態勢を崩されながらもバットを振り抜きボールを捉える。捉えられたボールはサード横…三塁線を僅かにはみ出たファールボール…
そして3球目はストレートを真ん中高めのボールゾーンに投げ込む
(よし…よく投げ込んだな。…これで手筈は整った…"このボール"で仕留めるぞ)
(はい!!)
4球目…ツーストライク・ワンボールの投手有利のカウントでバッテリーが選んだボールは…
ーーシュバッ!!
「っなん!?」
選んだボールは館の顔付近から急激に…流れ落ちるように曲がり切る栄純の代名詞…カーブボールであった。思わず咄嗟に顔を晒してしまった館を尻目にボールはインコース真ん中付近に着弾する
『ストライクッ!バッターアウト!!』
「「「う、うおおおおおお!!」」」
「あれが沢村のカーブか!」「確かにありゃあやべぇな」「丹波とまた違うカーブか」
その後の後続の5番を外野フライに打ち取り見事この回を凌いで見せた栄純…
「ナイスピッチ!栄純!」「ナイピーだこら沢村!」「やるじゃねぇか!」
「よく投げ込んだな沢村!」
俺に倉持先輩…伊佐敷先輩に御幸先輩などみんなからの称賛を受け笑顔になる沢村…
「よく抑えたな」
「いえいえ!しかしありがとうございます!」
「日本語おかしくなってんじゃねえか!」
「わかっているな。お前たち…向こうも見せてくれたんだ。こちら側があっさり終わるわけにはいかないぞ」
「「「はい!!」」」
相手の先発は桐生の攻守の要…エースの館…間違いなく全国クラスの投手である。俺たちの攻撃は先頭の倉持先輩…倉持先輩はアウトコースのボールを引っ掛けサードゴロになるが得意の脚力でセーフを捥ぎ取る。ーーそして2番の小湊先輩が手堅く送りランナー2塁で青道自慢のクリーンアップを迎える
「舐めんじゃねぇ!ダッシャアァァァ!!」
3番の伊佐敷先輩は初球に入ってきたインコース高めのボール球を強振…ボールは詰まりながらも外野まで運びセカンドとライトの間に落ちるポテンヒット…その間に2塁ランナーの倉持先輩がこちらに生還し1点を捥ぎ取る。
そして迎えるは青道の強打のイメージを東京都に知らしめた自他共に認める都内トップクラスの打者・結城哲也である。
ーーブォォォン!!
(あ、あかん。そいつとは勝負すんな!そいつは別格や!)
一振り目のスイングで相手バッテリーに恐怖を植え付けた4番をバッテリーは逃げるように敬遠気味の四球で押し出す。そしてランナー1.2塁で5番の増子先輩…
ーーカァァァン!!
「ンガァ!!」
「んな何度もやられるかい!!」
捉えた打球は大きく外野まで吹き飛ぶがセンターがフェンスに手をつきながらもジャンピングキャッチ…僅かに及ばず…いやこの場合は相手チームのファインプレーか…これでツーアウト1.3塁…先ほどのフライで二塁ランナーの伊佐敷先輩がタッチアップを行っていたためである
(よっしゃあ…よう抑えたで館…次は一年や…青道さんに選ばれてるだけあって貫禄はありそうやけどお前らのレベルにはちと早いやろ。格の違いを思い知らせーー)
ーーカキィィィィィィィン!!!
「「「っ!?」」」
ーーガコンッ
「ば、バケモンやんけ」
(あ、あかん。コイツもや…こいつもさっきの男と同類や。1年ってこと考えたらさっきのより遥かに危険)
俺の放った打球はセンターフェンスを大きく超えバックスクリーンに命中するホームランになった。おそらくクリーンアップを抑え1年の俺を心のどこかでは舐めていたのだろう。安易にストライクをとりにきた真ん中高めのストレートをぶっ叩いたのである。
「…なんぼ言うても館のストレートは150近いやんぞ。ほんまに一年か自分?」
「褒め言葉っすかね?」
ホームベースを踏んだ後向こうのキャッチャーの人に話しかけられたんだけどバケモノでも見るような目をしてた。…なぜだ解さないぞ
まぁなんにせよこれで4:0でリードである。思いがけない先制パンチに成功した青道高校と桐生高校との試合はここから激しさを増していくこととなる