蒼天の軌跡〜『相棒』   作:心ここにあらず

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ダークホース

 

 

 

「とまぁこんなことがあったんすよ」

 

 

「な、な、な、ふざけんなぁ!!あの親子そんな舐めたこと言ってやがったのかぁ!!青道なんかまったく眼中にねぇだと!」

 

 

 

 

 俺の話を聞いた伊佐敷先輩が激昂する。いつも怒ってるけどいつもより口が悪い

 

 

 

「あ、いや、そこまでは」

 

 

「じゃあどういうことだよ!!」

 

 

「いや俺に言われても」

 

 

「で?もちろんぶん殴って来たよね」

 

 

「上等じゃねぇか薬師…」

 

 

「市大であれ薬師であれ俺たちの前に立ち塞がるなら倒すべき敵だ…答えはグラウンドで出せばいい」

 

 

 

「あ、あはは。そうっすね」

 

 

 

 上から小湊先輩に倉持先輩…結城先輩でこの人たちみんな血の気多いんだよな。

 

 

 

 

 そしてその一幕を聞いて立ち上がった者がもう1人

 

 

 

「哲、伊佐敷、増子、試合までの三日間、シートバッティング形式で俺と勝負してくれないか。…実践感覚を今すぐ取り返したいんだ」

 

 

 丹波はこのチームでエースである自分を差し置き、沢村しか眼中にないあの親子に静かに腹を立てており、怪我のブランクをいち早く戻そうと行動する

 

 

 

 

 あと一応俺クリーンアップなんすけど…なぜか丹波さんには一年と2.3年の紅白戦でホームランを打って以来避けられている気がする

 

 

 

 

「凛!打席立ってくれ!」

 

「え、栄純…やっぱお前だけだ俺の相棒は!」

 

「ん?なんのことだ?」

 

「あぁ、いやこっちの話…そんで立つだけでいいのか?」

 

「…ふぅ…いや出来るだけ実戦に近い形がいい」

 

「…なら…やるか。久しぶりに…ガチンコ!」

 

 

 

 

 

 三年生が丹波と実戦形式の対戦を申し出る中、沢村も夏目に対し同じような対戦を申し込んでいた。沢村としては夏目を1番良い打者として見ているため夏目を抑えれるなら轟をも抑えれると考えているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーカキィィィィィィィン!!

 

 

 

「オラァッ!丹波!腑抜けた球投げてんじゃねぇぞ!」

 

 

 

ーーカキィィィィィィィン!!

 

 

 

「ウガッ!」

 

 

 

ーーバギャァァァァァァァァン!!

 

 

 

「…うむ…うちゴロのストレートだ」

 

 

 

 

 

 容赦のかけらもなく丹波を打ち込んでいく3年レギュラーメンバーたち。丹波も久しぶりの実戦練習とはいえそこまで状態も悪くないのだが…いかんせん相手が悪い。

 

 

 

 

「薬師に備え実戦形式の登板か」

 

 

「どうやら丹波くん本人が言い出したらしいですよ」

 

 

「ようやく丹波にも自信がついて来たってことじゃないですか!?」

 

 

 

 

 首脳陣もグラウンドに集まってきた

 

 

 

「大事な時期に不運な怪我で思うようにいかないこともこれまで多々あった…それでもこうして前を向きチームのために戦おうとする姿勢は素直に称賛出来る」

 

 

「それに…実戦形式で対戦しているのは丹波くんだけじゃないそうですよ」

 

 

「…それはどういうことだ」

 

 

 

 

 丹波たちが使用しているのは1軍グラウンド…そして2軍グラウンド、こちらでは夕刻も過ぎ練習もない時間帯にも関わらず数多くの部員がグラウンド周辺に集まって来ていた。

 

 

 

「栄純君と夏目君って確か同じチームだったんだよね」

 

「あぁ…それなりに強かったらしいけど人数も少なかったらしいから全国には出てないらしいけどな。結構有名だったぜ。な、東条」

 

「うん」

 

 

 

 観戦している小湊が金丸と東条に尋ねる。今現在2軍グラウンドではマウンド上に沢村、バッターボックスで構えるのは夏目とこちらも3年と同様に本気のぶつかり合いが行われようとしていた

 

 

 

「ヒャハ!まだ始まってなかったか!」

 

「間に合って良かったぜ。監督も来てるみたいだしな」

 

「お前は受けなくて良かったのかよ。クリス先輩は丹波さんのボール受けてるみたいだぜ」

 

「こんな純粋な勝負に俺が入っちまったらそりゃあ勝負にならねぇよ。外から見る方が面白そうだからなコイツらの場合は」

 

「向こうよりこっちの方が人数多いな」

 

 

 

 

 

 後から合流して来たのは倉持と御幸の2人…こちらは丹波たちの勝負を少し観戦してから見に来た様子であった。

 

 

 

「おいそろそろ始まりそうだぞ!」

 

 

 

 誰かの掛け声を皮切りに皆がマウンドに目を移すと投球モーションに入る沢村の姿が目に入る

 

 

 勝負は3打席…そしてまずはその1打席目、沢村が選んだ初球はーー

 

 

 

 

 

ーードパァァァァァァン!!

 

 

 

「……」

 

 

 

 アウトコース低めいっぱいに制御されたストレートであった。そのストレートを夏目は見送るが判定はストライク。

 

 2球目…今度は先ほどと同じコースから沈むチェンジアップ…これも夏目は見送りワンボールワンストライク…そして3球目…サインが決まりキャッチャーが構えるのはアウトコース…外角低めのストレート

 

 

 

 

 

ーーカキィィィィィィィン!!

 

 

 

「っ!?」

 

 

「……ふぅ…ちょっと詰まったか」

 

 

 

 アウトコースに制御されたストレート…これを夏目は強振…振り抜いたバットはボールの芯をきっちり捉え打球はレフトフェンス直撃の長打コース。これにより1打席目は夏目の勝利という形になったのである。

 

 

 

「やっぱ普通にやったら夏目が有利か」

 

「まぁウチで言うなら哲さんクラスのバッターだからな。轟を討ち取りたいなら夏目を打ち取れるレベルまで行かなきゃならない…だからアイツも夏目に頼んだんだろう」

 

「いやでも…このままじゃあ逆に自信無くなっちまうんじゃあ」

 

「…そうはならねぇよ…沢村の実力はこんなもんじゃあねぇ」

 

 

 

 

 1打席目を見た倉持は夏目有利と考えるが隣の御幸は沢村にはまだ上があると考えている

 

 

 

 

「…あのコースをあそこまで持って行くかよ…はは…流石だぜ…凛」

 

 

 

 打たれた栄純は打たれた後の表情とは思えないほど高揚していたのだった。なぜならこれほどまでに緊迫した試合で投げれることなどそうそう無いわけでましてや相手は己が認める最強打者である。もはや栄純には轟のことや打たれる恐怖など存在せずただ凛を打ち取ることしか頭にはなくなっていたのである。

 

 

 

「…ふぅ…」

 

 

「…ん?…栄純…お前」

 

 

 

 

 そして誰よりも先に沢村の異変に気づいたのは夏目であった。なんて表現したら良いのだろうか…先ほどまでの沢村は言うなれば灼熱の太陽のような熱さがあった。…しかし今は…

 

 

 

ーードパァァァァァァァァン!!

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 2打席目の初球はインコースにストレートを投げ込んだ。先ほどまでとは明らかに違う直球の球威やキレに驚き夏目は反応出来ず見送る。

 

 

 そして2球目も同じコースにストレートを投げ込みこれに反応した夏目はフルスイングするもボールは後ろのネットにあたりファールボール

 

 

 そして3球目はアウトコースゾーンギリギリにカーブ…これをバットを流し体勢を崩されながらもボールに当てる、しかしボールはボテボテのサードゴロになりこの勝負は沢村の勝ちで間違いないだろう

 

 

 

「…ふぅ…」

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

 

 どちらも異常なまでの集中力を張り巡らせてためか、僅か2打席でもう汗と吐息が噴き出して来ている。

 

 

 

「お、おぉ!スゲェぞ沢村!」「コイツらはやっぱ別格だ。一年でベンチしているのもわかる」「ここまで完璧に詰まらされた夏目は初めて見るな」

 

 

 

 2人の対決に湧く観衆たち。…しかし当人の2人には喜びの表情はなく沢村はさらに集中力を継続させ夏目はこのままでは打てないと判断し今以上に"深い"状態に突入しようとする。

 

 

 

 そして決着をつけようとしたその時

 

 

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

 先ほどまで黙ってこの対決を見ていた監督がグラウンド内に入ってくる

 

 

 

「…熱くなりすぎだ馬鹿者…今は大会中だ。ほどほどならこちらも容認するが先ほどから明らかに力が入り過ぎている。」

 

 

「「いやでもっ!!」」

 

 

「コチラとしても故障や調子を崩されては叶わん。…フラストレーションは全て次の試合で吐き出せ。…いいな」

 

 

「「…はい」」

 

 

 

 

 

 結局夏目と沢村の勝負は引き分けで終了してしまうのであった。…ちなみに丹波と3年主力組の方はやはり丹波が打ち込まれ、所々いい場面を見せるものの抑えきることはできなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは食堂に集まり例の如くチームミーティングを行っていた。内容はもちろん次相対する薬師高校について

 

 

 

「ーー背番号18…この真田という投手が試合を投げ抜き市大を破ったままベスト8まで勝ち進みました。」

 

 

 

真田俊平…市大戦でも登板しており2イニングを無失点に抑えていた右腕。インコース主体の強気なピッチングに右打者の胸元を抉るシュート。実質的なこのチームのエースはこの男で間違いないだろう

 

 

 

「シュートか珍しいな」

 

「なぜこの男が背番号1じゃないんだ?」

 

 

 色々と疑問の残る投手ではあるがそれよりも危険なのがこの打線

 

 

3番 三島

 

4番 轟

 

5番 秋葉

 

 

 この一年生トリオで7安打8打点…特に轟はこの試合でも2本塁打

 

 

 

「積極的に動いてくるランナーを意識しつつ強力打線にも注意しなければならない。バントをしてこないことが逆にプレッシャーになるかも知れない。…思った以上に手強い相手かも知れんぞ」

 

 

 

 監督の片岡はそう締めくくりミーティングを締めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都杉並区 薬師高校

 

 

 

 ここ薬師高校のとある部室の一室にて3人の少年がテレビに映った映像を凝視していた。

 

 

 

「コイツら俺らと同じ一年だってよ」

 

 

「この降谷ってのもやべぇけど実質的なエースはこのサウスポーだな。なんでエースじゃないんだろ?」

 

 

「あとはサイドスローに右の本格派か…4人ともタイプは全く違うけど面倒なのは一年コンビだな」

 

 

 

 青道の投手陣の映像を見ながら三島と秋葉が話す。そして新しくこの部屋に入ってくる影がもう一つ

 

 

「なんだお前らまだビデオ見てたのか」

 

「あ、真田先輩」

 

「あの親子はこういうのは妥協しねぇんだよな。市大の真中さんの映像も穴が空くほど見てたし」

 

「…あの人はちゃんと、イメージ通りすごい人だった…」

 

 

 隣でバナナを頬張りながら轟雷市が答える。打席で見せる圧倒的なプレッシャーとはかけ離れた姿である

 

 

「んで…今度の青道はどうよ」

 

「…カハ!…カハハ!!この2人面白い。…特にこの左のやつ!」

 

「ん?コイツら?やっぱあのサウスポーがヤベェ感じか…」

 

 

 

 持ち球とウイニングショットに違いはあれどアレは昨年の夏にテレビで見た"あの男"に重なる部分があった

 

 

「ビデオ越しでもまだ分からねぇ何かがある気がする…多分コイツ…まだ本気じゃない」

 

「「「え…」」」

 

「…カハ!…カハハ!!青道高校…ぶっ飛ばす!!」

 

 

 

 野球に飢えた獣の牙が青道に襲い掛かろうとしているのでだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《準々決勝 青道ーー薬師》

 

 

 

 準々決勝、青道対薬師の一戦は異様な盛り上がりを見せ試合前にはスタジアムは満員になっていた。

 

 

 

「あ!?なんだこのふざけたオーダー!市大の時とまた変わってんじゃねぇか!」

 

 

 伊佐敷の言う通り薬師はここですでに先手を投じて来ていた。薬師は主砲の轟を4番から外し1番打席の回る1番にそして一年生トリオで1.2.3と固めて来ていた。

 

 

 

 

 そしていよいよ試合のゴングが鳴らされる時がやって来た。先行は薬師高校…マウンド上に上がるのはーー

 

 

 

「先発は降谷か」

 

「てっきり沢村の方かと思ってたが」

 

「カハ!…カハハ!全員ぶっ飛ばす!!」

 

「デケェ声出すなよ雷市!!」

 

 

 

 ウチの先発は降谷…監督は昨日の夜にミーティングで今試合は継投策…さらには状況によっては栄純を早めに投じることも厭わないと話していた。降谷としては完投したいって言ってたけど…

 

 

 

 ま、何はともあれこの試合…勝負を握るのは"コイツ"との勝負になることは間違いない。

 

 

 

 今大会本塁打、打点共に二冠、一年生ながら既に圧倒的なプレッシャーを放つ強打者の風格…"轟雷市"

 

 間違いなく東京屈指のバッターだ。ちなみに大会記録の打率は夏目が…本塁打は一応同率一位である。

 

 

 

(こいつ…なんて素振りの音鳴らしやがる…降谷のボールがどこまで通用するか…)

 

 

 御幸と降谷のサインが決まる。そして大きく振りかぶりボールを投じる

 

 

 

 

 

「うお、おおおお!!」

 

 

 

 

ーーズドォォォォォォォン!!

 

 

 

 

 降谷が初球に投じたのはストレート…轟はあまりの球威に手が出なかったのかそのボールを見送ったのであった。そして2球目…今度は低めに沈むスプリット…良いコースから落ちているはずだが轟はバットを振る素振りすら見せない

 

 

 

(ちっ…やりづれぇな…じっくりみやがって)

 

 

 

 御幸の想定では割と少しのボールゾーンでも振り回してくるタイプだと思ったがその様子とはかけ離れた見送り方に違和感を感じざるを得なかった

 

 

(0ー2か。ここはカウント悪くしても一球高めのストレートで勝負する…思いっきり腕を振るえよ…降谷)

 

 

 カウント的にストライクを欲した御幸は降谷の球威でバットを振らせる…もしくはもう一度見送らせてストライクを取りに行く指示を出した

 

 

 

 しかし

 

 

 

ーーバギャァァァァァァァァン!!

 

 

「んな!?」

 

 

「だあ!くそっ!詰まっちまったぁ!!」

 

 

 轟はバットを一閃…振り抜いたバットは降谷の豪速球を捉え轟音を鳴らす。そしてその轟音から放たれたボールは一瞬で右中間フェンスに直撃し打った轟は二塁ベースに…

 

 

「うぉ…右中間フェンス直撃!?」「だぁ〜惜しい!あとちょっと!」「雷市三塁狙えよ!」

 

 

 観客や薬師ベンチは大盛り上がりを見せ逆に降谷のストレートをこうも簡単に打ってみせた轟に驚愕を隠せないのは青道ベンチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの野郎…降谷のボールの威力に負けないように上からバットを叩きつけやがったな。…ありゃあ想定していたよりもっとヤベェかもな。

 

 

 そしてその後の秋葉にも浮いたストレートを叩かれてあっという間に先制点を奪われてしまうのであった。

 

 

 降谷は決して立ち上がりが良いタイプとは言えないが…それでも降谷から連打で得点を上げるのは合宿の大阪桐生ぶりである。しかも前回と違い今回はコンディションも万全で球も走っているのである。

 

 

 このままの勢いで薬師が追加点を上げるのかと思われたが、一塁ランナーの秋葉とバッターの三島のエンドランを降谷がスプリットで三振にし、走った秋葉はホームベース付近でバウンドしたボールを御幸先輩が上手く捕球しそのまま盗塁阻止をした。…さすが守備だけなら県内No. 1の男…

 

 

 このワンプレーは降谷にとっても計り知れないほど大きくその後の打者を3球三振に仕留めこの回は1点で止めることに成功した。

 

 

 

 

 

 

「よく止めたぞ御幸!」「降谷もよう投げたで!」「夏目取り返せよ!」

 

 

 

 

 

 ベンチや観客席にいる仲間から声援が飛び交う

 

 

 

 相手の先発は右の背番号1…球速も良いとこ130の所謂平凡な投手だ。早速倉持先輩が内野安打で塁に出て小湊先輩がバントで送る。そして次は…

 

 

 

「凛!」

 

 

「ん?」

 

 

 ネクストサークルを出る前に栄純に声をかけられる。振り向くと無言で拳を突き出す栄純の姿。言葉にしなくても分かるさ。"ヤツ"が魅せたんだから俺も負けてられない

 

 

 

 

 

 

『3番レフト夏目くん』

 

 

 

 

 

 

ーーカキィィィィィィィィン!!

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 俺の打ち抜いたボールはライトフェンスを遥かに超え場外弾となった。

 

 

 

「うぉ〜!お返しの逆転ツーラン!」「お前のが向こうの1番よりスゲェぞ夏目!」「「凛く〜ん!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っち!…やっぱあの3番…ただモンじゃ無かったか。今大会ウチの愛息子が打撃成績で首位を独占してねぇって聞いてから調べてみたんだが、まさか同い年にここまでのヤツがいるとはな。

 

 

 ありゃあ金の匂いがぷんぷんするぜ。…とはいえコイツさえどうにかすればーーーー

 

 

 

 

ーーバギャァァァァァァァァン!!

 

 

 

「っ!なんつースイングしやがんだ。…アイツも金の匂いがしやがる」

 

 

「グローブに入ったのはラッキーでしたね」

 

 

 

 向こうの4番が放った打球は運良くサードいる雷市のグラブの中に収まった。

 

 

 

「真田ぁ、お前の出番早くなるかも知れねぇぞ」

 

 

 

 まぁ、あとこのチームで要注意なのは6番のキャッチー…

 

 

 

 

 

ーーカキィィィィィィィィン!!

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 目の前で5番の男が左中間に追加点となるソロホームランを放った。…さすが名門校って訳か…楽に終わらせてくれるヤツがクリーンアップに座ってるわけがねぇもんな。…ちっ!この試合しんどくなるぜぇ雷市!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3点を奪い返し逆転に成功した俺たち青道の2回の守備、未だ降谷のストレートが高めに浮いてしまうのが少し怖いがそれでも着実に打者を打ち取っていく。

 

 

 

 そしてその裏の回…投手の降谷がまさかのホームランを放ち自力で援護を重ねていく。…問題は次の回か。轟に回る次の回に監督がどう指示を出すのか。

 

 

 

 

 

 どうやら降谷3回の薬師の8.9番を打ち取ったのち二巡目に入る前に交代をさせる旨を監督が伝えていた。本人は納得してなさそうだったが渋々頷きマウンドに上がる。

 

 

 そして8.9番と連続で抑え無事支持をまっとうする。…そして次の打者は

 

 

 

『1番サード轟くん』

 

 

 

 奴の名がコールされ打席に立とうとする直前、御幸先輩が立ち上がり審判に投手交代の指示を伝える

 

 

 

『9番降谷くんに変わりましてーー』

 

 

 

 気合いすぎるなよ…栄純。自分のピッチングをしたらお前が負けるわけねぇんだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで投手交代?」

 

 

「結構乗り始めてたように見えたけどな。アイツが沢村か。」

 

 

「…ま、お前ら上位打線には打たれてたからな。」

 

 

「どっちみちコイツが実質エースだろ。コイツを打ち砕けば勝利は間違いない」

 

 

 

 

 薬師ベンチは調子のあがりかけた降谷を交代させたことに驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沢村、向こうの8.9番を抑えて降谷はお前に繋げたぞ…次はお前の番だな」

 

 

「はい…凛も降谷も自分の仕事をきっちりやりきりました。…俺も必ず」

 

 

「あんまり気合いすぎんな…って言いたいところだけどアイツを…轟を打ち取れるとすればお前だけだ…」

 

 

「…」

 

 

「やってやろうぜ相棒」

 

 

「っ!?…はい!」

 

 

 

 実質的な互いのチームのエースと主砲がこの試合初めて対峙する。沢村の登板でやたらテンションが高くバッターボックスよこで異常な音を鳴らしながらスイングする轟…

 

 

(コイツを抑えれば間違いなく流れはこちらに傾く)

 

 

 そう思い御幸はサインを出す。1打席目は降谷の高めのストレートを弾き返された。生半可なボールじゃあ通じねぇ。…"コイツ"で先手を頂こうぜ

 

 

 サインに頷いた沢村は投球モーションを開始する。主砲とエース…大事な一幕を握る一球目はーー

 

 

 

 

 

「っうぉ!!」

 

 

 

 

 轟の首元から滑り落ちるように切り裂く沢村の代名詞であるカーブボールであった。…轟はこれを見送るが判定はストライク。

 

 

 

「す、スゲェ!スゲェぞぉぉ!!ギュンッて!こうギュインッて!!」

 

 

 沢村のカーブに対し驚くものの怖気付く様子は微塵もなくただ無邪気に笑っていた。

 

 

(…もう一球…もう一度カーブで様子を見るか…いやそれは沢村の'らしさ"を奪う…ここは)

 

 

 

 

 

「んん!!」

 

 

 

 

 ボールに反応した轟がスイングする

 

 

 

 

ーードパァァァァァァン!!

 

 

 

 しかし沢村から放たれたストレートは轟のバットの上を通過し御幸のミットに収まった。

 

 

 

「カハ!…スゲェ!ギュルルルって!!降谷とは違う勢いとキレ!…もっと…もっと見てぇ!!」

 

 

 

 空振りしてなお…いや…さらに不気味さが増していく轟を目にして御幸は不安を抱かざるを得ないでいた。

 

 

(1球外すか?…ん?)

 

 

 御幸はカウント的にもここは一球外すべきと考えていたが沢村はそれに首を横に振る。基本的に…いや…今まで一度も首を振ったことのない沢村が首を横に張るというのはそれだけ珍しいことであった。

 

 

(なら…こっちは?…こっち?…お前まさか!?)

 

 

 御幸は沢村の狙いが分かり驚く。そしてようやくサインが纏まったのかミットを構える

 

 

 

「カハッ!こい…こい…こい!」

(ギュルンのやつか!それともギュルルのやつか!)

 

 

 

 そして大きく振りかぶりその左腕から放たれたボールはーー

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

ーーズパァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 轟のバットが振り抜かれるより先に御幸のミットに突き刺さるのであった

 

 

 

 

「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

「三球三振!」「やべぇ!…やべぇよ!!」「ナイスボールや沢村ぁ!!」

 

 

 

 

 最後に投げたのはど真ん中のストレートだった。一球目、2球目と際どいコースに投げ分けたことで沢村の制球が高いことは轟も理解していた。だから投じられたのがど真ん中と理解した瞬間少し驚いたが決して打てないようなボールでは無かった。…問題はその"ストレート'にあった。…明らかに先ほどのストレートとは一線を超える球威とキレ、そして球速表示は142キロを示していた。その違いが轟を見逃し三振に奪うほどの成果を生み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして己のチームの主砲が三振に奪われたのを見た薬師ベンチは

 

 

 

「ちっ!やっぱその次元だったか…」

 

 

 

 もとより薬師監督・轟雷蔵は沢村のことを高く評価していた。それこそ自軍エースの丹波を抜き去り関東No. 1左腕の成宮に次する程に…しかしそれでも雷市なら打てるはずだと確信していたためそこまで打線については心配していなかった。…その結果がこれだ。自慢の息子は三球三振に料理されてしまった。

 

 

 

(しかもあの坊主…ありゃあまだ全開じゃあねぇな)

 

 

「こりゃあちょっとマズイかも知れねぇ…おい真田!」

 

 

 

 

 

 

 ここで薬師ベンチが動く。沢村の好投で傾いた流れをそれ以上向こうに渡さないために

 

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