蒼天の軌跡〜『相棒』   作:心ここにあらず

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覚悟

 

 初回に点差が動いたこの試合、青道高校は2回にも1点を追加して現在4:1…さらに自軍の主砲が討ち取られた今薬師ベンチに動きが生じたのだった。

 

 

「お、ベンチが動いたな」

 

「投手交代か?」

 

 

 

 3回裏…俺から始まる攻撃の前に薬師ベンチが動き投手交代が告げられる。先ほどまでマウンドに立っていた背番号1に変わるのは

 

 

 

『ーーーーくんに変わりまして6番真田くん』

 

 

 

 出てきたな。背番号は18だが薬師のエースはこの真田さんで間違いない。…なによりこの流れを変えたい重要な場面で背番号1じゃなくこの人を送ったことがその証拠だ。…余程信頼されてんのか。

 

 

 

「…ふっ…」

 

 

「…んの野郎」

(何笑ってやがる)

 

 

 

『3番レフト・夏目くん』

 

 

「夏目ぇ!!」「2打席連発頼む!」「「凛く〜ん!!」」

 

 

 アナウンスされた俺は打席に立つ。…なんだ…この違和感…何かが違うぞコイツ

 

 

 

「ラァッ!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 その初球、真田の投げたストレートは夏目の頭部付近に…夏目は流石の反射神経でボールを除けるもあと少し遅れていたら…

 

 

「っぶね…あの野郎」

 

 

 真田は帽子を取りながら『すんませ〜ん!!』とヘラヘラしながらこちらを見つめている。…上等だ。次インコースに投げて来ようものならライトスタンドにぶち込んでやる

 

 

「ラァッ!!」

 

 

ーーギュン!!

 

 

「んな!?」

 

 

 

 予測通りインコースに投じられたボールに対し俺は腕を畳みながらバットを抜いたが、ここでボールが更に変化する。…ボールはインコース付近から更に俺の体付近に曲がり俺のバットはガコンッ!と音を立て打球はショートゴロになってしまった。

 

 

 …くそ…あれはまさか…

 

 

 

 ベンチに戻ってきた俺を見て皆が信じられないとでも言いたげた顔でこちらを見つめてくる。

 

 

 

「お前があそこまで詰まる程とは…何の変化球だ?」

 

 

 

 監督が腕を組みながら俺に問い詰めてくる

 

 

 

「おそらくカット…」

 

「カットボールだな」

 

 

 俺が答えようとした時俺の隣から御幸先輩が答える

 

 

 

「カットボールか…想定していなかった球種だな」

 

 

「…それだけじゃないっすよ」

 

 

「「??」」

 

 

「奴…真田さんはプレートの使い方が独特なんです。」

 

 

 

 真田さんは先ほど投手プレートの位置を意図的に変化させているように感じた。左打者である俺に対してプレートを三塁側目一杯使うことで角度がつき、更にはカットボールで更に変化させることにより俺の目からは急激に…大幅に変化したように見えたわけだ。

 

 

「…なるほどな。…左打者には三塁側のプレートを使いカットボール…右打者には一塁側のプレートを使いシュートボールを投げることで更に威力を上乗せさせるって戦法か」

 

「そうとも限らないっすよ。そう思わせといて逆球のボールで空振りを奪うことも可能ですからね」

 

「…どちらにせよ厄介な投手ということには限りない。…決してコントロールが良いタイプの投手では無いんだ。数少ないチャンスは必ずモノにするぞ」

 

「「はい!!」」

 

 

 

 しかし状況はうって変わり青道の上位打線を3人で締めるという活躍をした薬師。ここから逆転を目指そうとするがーー

 

 

 

ーードパァァァァァァァァン!!

 

 

「っ!」

(こんなに早く感じるのか)

 

 

 

ーードパァァァァァァァァン!!

 

 

「っくそがぁ!!」

('また"タメに俺よりスゲェやつが…)

 

 

 

 

 流れを手繰り寄せたい薬師を見事シャットアウトさせ一塁も踏ませない完璧なピッチングを見せる沢村

 

 

 

「おいおい逆転どころか奴さんどんどん乗ってきてねぇか…」

 

 

 

 真田のピッチングに影響させられたのは薬師打線だけでは無かった。沢村も己がチームのため背番号は違えどエースとしての役割を全うする者として真田には負けるわけにはいかない。真田に充てられた沢村は投げるごとにピッチングが磨かれていく。

 

 

 

 

ーーズパァァァァァァァァァン!!

 

 

 

「うひょー!!これがアイツのカーブか!」

 

 

 

 ラストバッターの真田を三振に仕留め沢村はこの回三者三振に仕留め薬師打線を圧倒する

 

 

 

(思った以上に速ぇしキレてやがるぜ。しかも投げる度にボールに気迫が乗ってきやがる……激アツじゃねぇかアイツ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 そして沢村のピッチングを直で体感した真田も更にギアを上げる。そこから試合は完全に拮抗する展開となる。互いに0の数字を並べる。

 

 試合が動き始めたのは6回の攻撃、沢村は先頭の8番を三振に仕留めるも9番に対し球数を使ってしまいフルカウント…最後に投じたストレートが際どいコースになり審判がボールを宣告したことで遂に薬師から待望のランナーが飛び出した。

 

 

 

 さらに次の打者は

 

 

 

『1番サード…轟くん』

 

 

 

 薬師高校主砲・轟雷市である。ここまで沢村に対しては前の打席で三振に仕留めているものの決して簡単に仕留めたとは言いづらく所謂初見殺しのような形での勝利だった。

 

 つまり…今回は手の内を晒した状態での正真正銘本気の勝負である。

 

 

 

「カハ!…カハハハ!あの球でこい…あの球でのこい!」

 

 

 

 轟は高々に笑いながらバットをスイングさせる。

 

 

 

 

 この怪物打者に対し青道バッテリーが選んだ初球は

 

 

 

 

 

 

ーードパァァァァァァァァン!!

 

 

 

「す、スゲェ!」

 

 

 

 インコース高めのストレートを轟は強振…ボールがバットの上を通過することでストライクになったがタイミングはドンピシャであった。

 

 

 

 

 

(相変わらずなんてスイングしてやがるこの一年…コイツを仕留めるためには布石がいる…外れてもいい…投げることに意味があるんだ。甘いコースだけはやめてくれよ)

 

 

 

 

 

 

 そう御幸が願い選んだ2球目は…

 

 

 

 

 

 

ーーバギャァァァァァァァァン!!

 

 

 

 アウトコース低めに沈むチェンジアップであった。轟相手には使っていなかったボールであったが轟はそのボールに反応…沢村のチェンジアップはストレートとの球速差およそ20キロ。ストレートを見た後の並大抵の打者ならバットに触れることすら出来ずに空振りする代物だが轟はこれに反応…いや"対応"する。沈むボールに対し体勢を崩されながらも軸足と体感で踏ん張り、アウトコース低め…見逃せばボール球になるかも知れないボールに対しバットを流しながら対応する。

 

 

 普通なら当てても平凡なゴロになるような打球だが…轟はそのヘッドスピードでこの体勢ながら高速の打球を飛ばすことに成功する。ボールの行方は…

 

 

 

 

「三塁線抜けたぁぁ!!」

 

 

「っくそ!」

 

 

「回れ回れ!!」「カハハ!カハハ!」

 

 

 

 ボールは三塁線…サードの横を過ぎ去りレフトライン際…更には打球のスピードで一瞬でフェンス近くまで転がる。慌ててレフトの夏目がボールを捕球するが振り向いた時には一塁ランナーはホームベース付近まで到達しており、中継のショートに渡すことしかできなかった。

 

 

 

「っくそ!!」

 

「…沢村…すまない。もっと慎重に入るべきだった。」

 

「いや今のは俺のせいっすから。」

 

「…沢村…まだ勝ってんだ!とりあえず次の打者抑えようぜ。」

 

「…うす!」

 

 

 

 

 

 打たれた沢村はマウンド上で帽子の鍔を握りながら下を向いていた。御幸が駆け寄り声をかけるもその表情は誰の目から見ても悔しかったのが目に見えるほどであった。

 

 

 

(雷市に打たれたのが余程悔しかったのか…ならもっと打ち込んでやる)

 

 

 

 御幸は少し心配そうに思い、秋葉は沢村の表情を確認しこのまま沈んでいくのでは…と思われたが

 

 

 

 

ーードパァァァァァァァァン!!

 

 

 

「っんな!?」

 

 

「舐めんじゃねぇよ!」

 

 

 

 御幸は沢村の気の持ち様を試す意味も含めて初球インコースに要求したのだが…その心配は杞憂だとわかる様なストレートをミットに叩き込まれ、御幸はおろか打者の秋葉ですら言葉が出なかった。

 

 

 

(バケモンかよコイツ…雷市に打たれて凹んでると思ったのに)

 

 

 

 

 その後も秋葉に対しストレートでファールを誘い追い込んだのちカーブで三振、そして続く三島に対しては…

 

 

(俺を雑魚扱いしてんじゃねぇ!!)

 

 

 

 意気込む三島に対しチェンジアップを3球続け三球三振を奪ってみせた。

 

 

 

 この試合最大のピンチを見事1失点で切り抜けてみせた沢村だったがベンチに戻ってきても笑顔が見えずそのままベンチ奥のロッカールームに入って行ってしまった。

 

 

 

「大丈夫かな栄純くん」

 

 

 

 小湊が栄純を見ながら心配そうに呟く

 

 

 

「大丈夫さ…あれくらい。俺たちが今までどこで野球やってきたと思ってんだよ」

 

 

「…」

 

 

 

 小湊は以前金丸から聞いた話を思い出す

 

 

 

「…俺たちの中学は田舎って事もあって部員もギリギリ、投手なんて栄純1人みたいなもんだったから、連戦連投は当たり前、しかも俺と栄純以外は初心者ときた」

 

「…」

 

「そんな状況だからいくら俺が打っても、栄純が抑えても負ける事なんてザラにある。それこそありとあらゆる負けを経験してきたって言っても過言じゃ無い。しかも勝ち抜いていけば行くほど栄純ですら打たれる事も増えて普通に力負けした事もあるからな」

 

「…その度に、後悔して、反省して、それを受け入れて、…何度も、何度も…」

 

「…」

 

「そして」

 

『あぁ!!!』

 

「「!?」」

 

 

 ベンチ奥から栄純の叫び声が聞こえた。そして暫く経つとタオルを頭にかけた栄純が現れる。…その顔には先ほどの悲壮感はまるで感じられない。

 

 

「『…次は勝つ』って覚悟を決めるんだ。」

 

「…へぇ」

 

「だから俺たちは強い。…心配しなくてもこの状態になった栄純が同じ奴から打たれることはないぜ」

 

「へ?」

 

 

 

 それだけ言い残し俺は自分の準備を開始する。

 

 

 

「倉持先輩!頼みます!!」

 

 

「!?ヒャハッ!やっといつもの顔に戻ったな!」

 

 

 

 隣で栄純が声援を送り、その声が届いた倉持先輩は内野安打で出塁する。

 

 

 

「お兄さん!ピッチャー疲れてますよ!」

 

 

「ふふ!元気出てきたじゃん」

 

 

 

 

 小湊先輩はバントと見せかけて前進してきたファーストの上をバスターでボールを強く叩き抜けさせる。ノーアウトランナー1.3塁、両軍投手陣が奮闘する中、この試合1番のピンチが薬師に訪れる。

 

 

 

(あっち〜、自分では分からなかったけど疲れ溜まってんのかな。)

 

 

 

 沢村に呼応するようにギアを上げ続けた真田は己が気付かぬうちに疲労が溜まっていた。

 

 

(この状態で青道を抑えられるか?…しかも次は)

 

 

 

 真田の目線の先には青道…いやもしかしたら雷市よりヤバいかも知れないほどの強打者の姿。

 

 

(くく…試練与えてくれんじゃねぇか。…でも悪くねぇ。お前も倒して俺たちが甲子園に行くぜ)

 

 

 覚悟を決めた真田は投球モーションに入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――無死、ランナー1、3塁

 

 

 

 マウンドの真田が、わずかに口角を上げた。来る。そう思った瞬間、空気が張りつめる。そしてセットポジションから、鋭く腕が振られた。

 

 

「ラァ!」

 

 

 リリースの瞬間、真っ直ぐに見えた白球が―― 手元で、わずかに刃物のような変化するのを目で捉える。

 

 

 ――その瞬間

 

 

 

 左肘を鋭く畳み、右肘を脇腹に絞る。トップは高く、ヘッドは遅らせる。そしてインパクトは、へそより前に内から最短距離で、振り抜く

 

 

 バットの芯が白球の内側をえぐった。

 

 

 

 

 

 

ーーバギャァァァァァァァァン!!

 

 

 

 

 その瞬間金属が悲鳴を上げる

 

 

 

 捉えられた打球は鋭い弧を描き、ライトポールへ一直線。外野手が一歩も動けないまま、白球は青空を切り裂くように突き刺さった。

 

 

 そして打球を見届けベンチの歓声が遅れて押し寄せる中俺は右手を振り上げながらゆっくりと一塁ベースへと歩き出す。

 

 

 

「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 

「ここに来て今日2本目のホームラン!」「すげえぞ夏目!」「「凛く〜ん!」」

 

 

 

 俺のホームランで完全に集中の糸が切れた真田さんは続く結城先輩に対しど真ん中に投げてしまい、勿論甘いコースをあの人が逃すはずもなく二者連続となるホームランをかましていた。これで8:2となりあと一点取れば次の回にはコールドゲームとなるが真田さんの次に登板した人が気迫でこれを阻止する。

 

 

 

 

 その後は7回を栄純が抑え、薬師サイドはファーストを守っていた三島が登板し伊佐敷先輩にヒットを許すも後続を好守の守りもありなんとか無失点に抑える。

 

 

 

 

 

 そして8回の表、栄純は7番、8番ともにカーブで三振に仕留め、中継ぎ登板ながら三振数が二桁に乗り始めた。9番に対してもインコース主体のピッチングで2ー2と早くも追い込んだのだが、高めのストレートを見送られフルカウント…そして

 

 

 

 

「っ!?」

(すべっーー)

 

 

 

ーーガチンッ!!

 

 

 

 汗で滑ったのか栄純の投げたカーブは僅かに変化量が足りず打者の膝付近に直撃してしまい死球を与えてしまったのだった。…そしてこの場面で打席に立つのは

 

 

 

『1番サード…轟くん』

 

 

「かませぇ!雷市!」「頼む!もう一太刀入れてくれ!」「お前なら打てるぞ!」

 

 

 

 青道にとっては2度目のピンチ…薬師にとっては再び訪れたチャンスとなった。御幸は前打席で沢村が轟に打たれたことと、先ほどのカーブの抜け具合を考え、ここはブルペンで準備している丹波さんにスイッチする事も考えた御幸であったが…ベンチからのサインは

 

 

 

 

(…続投か…)

 

 

 

 片岡の考えとしては今大会未だ登板無しの丹波をここでマウンドに送るということは一歩間違えば丹波自身に深い傷を残してしまう可能性も存在する。…ましてや相手は'怪物"轟雷市…何があっても不思議じゃない状況である。

 

 

 

「すいません。タイムを…」

 

 

 

 御幸はそう言いタイムを取りマウンドに駆け寄る。

 

 

 

「おいおい顔が固ぇぞ。なんだ。ビビってんのか?」

 

 

「ビビってねぇし!!つうか何しに来たんすか!!」

 

 

「はは!いや流石のお前も緊張してるかなと思ってよ!」

 

 

 

(本当に何しに来たんだこの人…)

 

 

 

 マウンドに駆け寄るや否やこの場面で軽口を叩く御幸に疑問を抱かざる負えない沢村

 

 

 

 

「なぁ沢村」

 

「??」

 

「夏目の奴今日で轟抜いて大会二冠らしいぞ?」

 

「へ??」

 

「アイツ本当に一年かよ。まぁ向こうの奴にも言えんだけど…なぁ…お前にとって夏目ってどういう奴だ?」

 

「い、今言うことっすか?」

 

「良いからいいから」

 

「まぁ…1番すげぇ奴っすかね。バッティングも守備も全部」

 

「…だよな。俺から見てもあれはヤバいからな。…ただ…轟も同じくらいバッティングはスゲェぞ」

 

「…というと」

 

「相手の轟はそんくらい怪物ってわけだ。ーーでもな」

 

 

 

 

 御幸はマウンドに立つ沢村の胸を、軽く拳で叩く。

 

 

「バケモン相手に真正面から殴り合える投手なんて、そうはいねぇ。…丹波さんでも…降谷でも…ノリでも無理だ。」

 

「…」

 

「でも俺は…お前なら…お前となら出来ると信じてる」

 

「っ!?」

 

「やってやろうぜ…相棒」

 

 

 

 

 そう言いグラブを差し出す御幸と少し間を空けた後、己のグラブを差し出す沢村。

 

 

 

「カハ!…カハハハ!俺が全部ぶっとばぁす!!」

 

 

 

 轟と沢村…互いのチームのこれからを担う者同士…おそらくこの試合最後と思われる3戦目が始まる

 

 

 

(お前ならいける…全力で腕を振り抜け)

 

 

 

 初球…青道バッテリーが選んだボールは

 

 

 

 

 

 

 

「カハ!」

 

 

 

 

 

ーーバギャァァァァァァァァン!!

 

 

 

『ふぁ、ファールボール!!』

 

 

 

 インコース高めのストレートだった。…そして轟もそのストレートに対し圧倒的なスイングスピードを持って対応しボールを捉えるものの打球は一塁線より外側に着弾しファールボール。

 

 

 沢村の直球も初球から142キロを計測し、ここに来て最速タイを叩き出し誰が見てもギアを上げたことは目に見えて分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 2球目、今度はアウトコース低めにカーブ…3球目はアウトコース低めにストレート。

 

 2球とも制球、キレともにこの試合最高クラスであったが

 

 

 

 

 

 

ーーカキィィィィィィィィィィィン!!

 

 

 

 

 

 轟はそのバットコントロールと多少詰まっても間に合うスイングスピードで対応してみせた。…息つく間もない攻防が繰り広げられる

 

 

 

「すげぇ…スゲェぞ!!」

 

 

 

「…ふぅ…」

 

 

 

 

 しかし相対している者同士の雰囲気はどこか対照的であった。轟はどこまでも燃え盛るような炎を思わせ、全てのボールに対応してしまいそうな程の対応力を見せる。

 

 そして対に立ち竦む沢村は仲間内で見せる姿とは別人のように静かに、冷たく、その琥珀色の瞳が投球が増すごとに黄金に閃く。…そして一球ごとに投げるボールの精度が…キレが…球威が氷刃のように鋭くなっていく。

 

 

 

 永遠に続いてしまうのだはないか…そう思わせる両者の成長と高次元の勝負

 

 

 しかし

 

 

 勝負の結末はすぐに訪れてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟は何が来ても捉えられる準備をしていた。ストレート、カーブ、チェンジアップ…もはや何が来ようとも打ち砕ける。…それだけの自信が存在するほど今の自分は調子がいい。

 

 

 

 そして沢村の左腕が振り抜かれた瞬間、白球は打者の首元めがけて一直線に走る。一瞬、ただの失投に見えるほどインハイを抉るような軌道。まさに打者の視界を削り取る高さである

 

 

 

ーーだが

 

 

 

 ボールはそこから、急激な変化を見せる。空中でわずかに減速し、重力では説明できない“意志”を持ったように落差を刻む。

 

 

 

(カーブ!!)

 

 

 

 そう理解した轟は己のバットから轟音が鳴り響くほどのスイングで対応する。

 

 

 沢村のカーブは何度か見て、実際にバットに当てたことすらある。…だから軌道を読み間違えるはずなかった。…いや実際にそうなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーそう

 

ーー"先ほどまでと同じであったなら"

 

 

 

 

 

「っな!?」

 

 

 

 

 沢村のカーブはそこから更にもう1段階沈む変化を魅せた。高めの軌道から、

打者のバットの上をすり抜ける角度へ。だが、それでもまだ終わらない。振り下ろされたバットの先、バットの芯が届くはずのその手前で

 

 

 

 

 

――さらにもう一段、沈む。

 

 

 

 二段階目の落差は鋭く、白球は轟の視界から完全に消え失せるのであった

 

 

 轟のスイングは空を裂き、ボールはドスンッ!とホームベース手前でワンバウンド。御幸のミットへ跳ね上がるのだった。

 

 

 

「っ!?」

 

 

「うぉぉ!!」

 

 

「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 

 

 

 三振を喫した轟は何が起こったか分からずただただ唖然と…そして奪った沢村は喜びの咆哮を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8回の裏…一死二塁のチャンスで青道高校は代打の切り札を送る。

 

 

 

 

『9番白州くんに変わりました…代打滝川くん』

 

 

 

 

 青道は試合を決めるべくクリス先輩を送った。相手の三島は7回は好守の助けもあり青道打線を無失点に抑えることに成功したが今回の相手はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーカキィィィィィィィィィィィン!!

 

 

 

 

 

 

 クリスさんの打った打球は前よりに構えていたセンターの遥か後ろまで飛び去りフェンス直撃…そして二塁ランナーが悠々とホームに帰ってくることに成功し白熱した試合は8回コールドで青道高校が勝利する形で幕を閉じたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《青道ーー薬師 9ー2》

 

 

 

 

ーー青道高校ベスト4進出

 

 

 

 

 試合終了後の整列…栄純は泣きじゃくる轟に対し片手で握手し何から呟いていたのが印象的だった。多分何かしら感じることがあったんだと思う。…中学の選抜でも同じことをしているのを一度目撃したことがあったから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイスゲーム!」「よく投げたな沢村!」「お前のおかげだ夏目!」

「今年こそ甲子園行けよ!」「また応援くるからな!」

 

 

 

 俺たちは試合後スタジアム裏で熱烈な声援を受けていた。そしてその中に見知った顔を見つける

 

 

「…おい栄純」

 

 

「ん?おわっ!?」

 

 

 

 俺が栄純に声をかける前に栄純に向かって飛び掛かる一つの影

 

 

 

「おめでとう!!本当に…よく頑張ったね…栄純」

 

「…若菜…おう!応援ありがとな」

 

 

 

 応援に来ていた若菜の姿だった。おそらく栄純が打たれたところも目撃していたんだろうな。…そして

 

 

「凛も…お疲れ様」

 

「雫。あぁ、ありがとな。そっちこそ暑いのにわざわざ」

 

「…当たり前じゃん。…何のために田舎から出てきたと思ってるのよ」

 

 

 夏のせいか顔を赤らめる雫が可愛かったので頭を撫でておく。…すると俺たちの後ろから現れる二つの影

 

 

 

「さ〜わ〜む〜らぁ!!」

 

「あだ!?」

 

「何調子書いたんだテメェ!!」

 

「え、栄純!?」「危ねぇな!?」

 

「タメ口禁止チョーク!!」

 

 

 

 栄純に向かって飛び蹴りをかました後バックチョークを仕掛ける倉持先輩…そして

 

 

 

「夏目ぇぇ!!」

 

「へ?」

 

「テメェこんな可愛い彼女いたのかこの野郎!!」

 

「り、凛!?」

 

「うごっ!?」

 

 

 

 

 俺に対しへッドロックを仕掛ける伊佐敷先輩の姿…彼女がいない男の恨みとも言うのか2人は去り際に

 

 

 

『『また応援来てやってください!』』

 

 

『『オラ行くぞ!!』』

 

 

 と言いながら俺たちを無理やり引き摺りながらバスに連れていくのであった。…俺はなんて理不尽なヤツらなんだと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同日…別の会場でも

 

 

 

『試合終了ーー!!稲城実業ベスト4進出!!』

 

 

『エース成宮から井口への見事な完封リレー!!』

 

 

 

 優勝候補筆頭…稲城実業もベスト4へ駒を進めたのであった。

 

 

 

 

 

《青道高校ーー仙泉学園》

 

 

《稲城実業ーー桜沢高校》

 

 

 

 

 

 俺たちの相手はベスト8常連の強豪…仙泉学園に決まったのだった

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