「もうシャーレの部室は目の前よ!」
不良達と何度も交戦し、やっと目的地付近まで来れました。
最初こそ不安定だった連携も、交戦を重ねるごとに強固になっています。
「ここまで長かったですね…皆さん、最後まで油断せず行きましょう。」
「はい!」
[先生、聞こえますか?]
リンさんからの無線…何かあったのでしょうか?
「はい。リンさん、どうしましたか?」
[先生、この騒動を起こした生徒の正体が判明しました。]
「本当ですか!その生徒とは?」
[孤坂ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。]
なるほど、ここまでの事をするだけはありますね。
監視の厳しいであろう矯正局から逃げ出したとなれば……実力は確かでしょうね。
[連邦生徒会長の失踪の混乱に乗じ脱走した“七囚人”の一人で、かつて大規模な破壊行為を行った為に逮捕された経歴を持ちます。]
まさに極悪人。死んだら地獄行きは確定でしょう。
というより7人も脱走したのですか…?
脱走し過ぎでは…?
[似たような前科がいくつもある危険人物です。……気をつけてください。]
できるならここで捕まえておきたいですが……出会ったら私の身が危険でしょうし……
…最優先はシャーレへの到達。深追いは辞めておきましょう。
***
「……あらら。連邦生徒会は来ていないようですね。」
残念、ここまで暴れれば来ると思ったんですがね。
「フフッ、まぁ構いません。」
「あの建物に何があるかは存じませんが、連邦生徒会が大事にしているものと聞いてしまうと……」
「壊さないと気が済みませんね。」
「ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです、フフフ♡」
***
「シャーレまでおよそ100メートルです。」
「…不良達が集まっていますね。」
「もう目の前だっていうのに!!」
「これが最後の戦闘になるでしょう。先生、お願いします。」
「いえ、待ってください!」
「チナツさん?どうかしました?」
「敵の情報に更新あります。これは……」
「巡航戦車です…!」
「せ、戦車!?どこからそんな物…まさか不法流通した物!?」
「恐らくそうでしょう。型式は…クルセイダー1型巡航戦車。トリニティ総合学園の制式戦車と同じ型です。」
「…要はガラクタです。破壊しても何の問題もありません。」
「ですが相手はトリニティで制式採用されている戦車です。」
「その性能の優秀さは他の学園の戦車にも引けを取りません。」
「どうしましょう。このまま挑めば撃破は無理でしょうし…」
「…さらに追加情報です。前方の集団の中に狐坂ワカモを発見しました。」
「ここで出てきますか…」
主犯が前に出てきましたか。捕まえるならこれ以上のチャンスはありませんね。
戦車というものは…なるほど。
チナツさんの端末を見るに、分厚い装甲に砲を装備した自走する兵器ですか……
攻守揃って一見弱点などないように見えますが、恐らく機動力は大してない。
それに装甲も薄いところがあるでしょう。
となれば…
「わかりました。ありがとうございます。ハスミさん、あの戦車に装甲の薄い部分はありますか?」
「は、はい。主に車体底面と砲塔上面の部分です。」
「わかりました。チナツさん、その空飛ぶ機器は何というのですか?」
「これですか?ごく一般的なドローンですが?」
「ドローンですね、それにーーー事は出来ますか?」
「はい、可能です。…先生まさか…?」
「ええ、そのまさかです。戦車の対策はこれでいきます。」
「ユウカさん達3人は敵の…特に戦車の気を引いてください。」
「チナツさん、ドローンの操作は貴方に一任します。」
「…!はい、必ず成功させます。」
「この作戦は失敗すれば警戒され成功率はかなり下がります。チャンスは一度きりです。」
「最後の戦闘、必ず勝ちますよ!」
「「「はい!」」」
「…あら?」
辺りを閃光弾の光が包み、銃声が響き渡る。
「フフッ、来ましたか、連邦生徒会の子犬達。お可愛らしいこと。」
ダンッダンッ!
ワカモが即座に照準を合わせ、ユウカさんとスズミさんに発砲…
反応速度が他の不良と桁違い…一切の油断は出来ない…
「ユウカさんとハスミさんはワカモと戦車を、スズミさんは閃光弾を用いながら、その他の不良を相手にして下さい。」
「わかりました。」
不良達の実力はお世辞にも高くない。そしてまともな作戦もない様子。
そしてここには先程の戦闘から逃げた消耗しきった不良しかいない。
こちらも消耗はしてますが相手ほどではない。スズミさん一人で十分なはず。
問題は……
ドゴォォォォン!!
吹き飛ばされそうな砲撃音の後に強烈な爆発……
あれが戦車…当たればいくら妖怪といえど危険ですね。
ですが砲の照準が追いついていない。
…やはり小さな目標は苦手ですか。
ん?一人上から出てきて何を…?
ダダダダダダダダダダ!!
小銃の乱射…そんなものまで……
ハスミさんに武装を聞いておけばよかったですね。
「先生、あの戦車だいぶこちらに集中してます。」
「ええ、そのようですね。チナツさん、準備は大丈夫ですか?」
「はい、いつでもいけます。」
「それではお願いします。」
私の合図と共に、チナツさんの操作するドローンが飛行を始める。
ギリギリまで相手に感づかれぬよう低空、障害物ギリギリの位置を飛び戦車へと近づく…
(…?この音は…?)
(…ウフフ、なるほど……)
ワカモに気づかれた…いや、気づいた上で無視を…
ならこのまま…!
戦車に気づかれることなく接近したドローンは、急上昇し、そして……
ドゴォォォォン!!
“爆薬を積んだ”ドローンは戦車の上面に追突し爆発する。
「クソッ!逃げろ!!」
「こんなの聞いてない!!」
戦車に乗っていた不良達が逃げていく。
あれほどの爆発でも大した傷はないようです。
戦車が撃破されたことで他の不良達も次々と逃げ出していく…
…やっと終わりました。
「戦車の撃破を確認しました。」
「仕方ありませんね。私はここまで、後はお任せします。」
「逃げられてるじゃない!?追うわよ!」
ワカモが逃げ、ユウカさんが追おうとする。
「ユウカさん、追わなくて結構です。」
「で、でも…」
「私達の目標はシャーレの奪還です。それに罠の可能性もあります。」
「ここで追えば余計な損耗を生むだけですから。」
「…分かりました、先生。」
「分かっていただけたなら大丈夫です。」
「私はこれからシャーレの建物に向かいます。皆さんは外で警護をお願いできますか?」
「お一人で向かわれるのですか?」
「はい。狭い室内なら複数人より1人のほうが行動しやすいですから。」
「分かりました。先生、お気をつけて。」
「ええ、行ってきます。」
***
シャーレの建物に入り、リンさんに言われていた地下まで到着しました。
…どうやら先客がいるようです…リンさんからはまだ連絡はありませんし…
「何とかここに入り重要そうな物を見つけたものの…」
「うーん……これが一体何なのか、全くわかりませんね。これでは壊そうにも……」
「……あら?」
「!?」
何故ここにワカモが…!?
…どうしましょうか…一旦逃げた方が…
しかし、それではワカモがここで何かをする隙を与えてしまう…
「あら、あららら……」
……?何か様子がおかしい…
…少なくとも襲ってくる様子は無さそう。
「こんにちは、狐坂ワカモさん…?」
一応挨拶をしてみる。
それと同時に少し探るためサードアイを向ける。
「あ、ああ……」
(な、なんてお綺麗な方……!!)
…あれ?想像と違うんですが……
「し、失礼いたしましたー!!」
…そう言うと彼女は私の横をすぐに通り去ってしまいました。
……どうやら、気に入られてしまったようですね。
ここに来て早々、面倒事がまた増えました…
ワカモが去ってから数分程経過しました。
「お待たせしました、先生。」
「……?何かありましたか?」
「いえ、大丈夫です。」
リンさんが到着しました。
途中でワカモと鉢合わせないか心配でしたが…
杞憂だったようですね。
「……そうですか。ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています。」
そう言ってリンさんは机の上に置いてあった端末のようなものを確認する。
これが…連邦生徒会長の残したもの…?
電子機器の知識は全くないのですが……
「……幸い、傷一つなく無事ですね。」
端末を持ち上げそれを私に差し出す。
「受け取ってください。」
「リンさん…これは…?」
「これは連邦生徒会長が先生に残した物。“シッテムの箱”です。」
シッテムの箱……?
初めて聞くはずなのに…どこかで聞いたことがあるような……
……いや…本当に私が聞いたのだろうか…?
「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システムも構造も……動く仕組みすべてが不明。」
「連邦生徒会長は、このシッテムの箱は先生のもので、先生がこれでタワーの行政権を回復させられるはずだと言っていました。」
「私達では起動すら出来なかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」
「……分かりました。できる限りの事はやってみます。」
「ありがとうございます、先生。ここから先は、全て先生にかかっています。」
「邪魔にならないよう、離れています。」
リンさんが私から離れる。
さて…試してみるとは言ったものの……
まず電源はどうやってつけるのでしょうか…?
…とりあえずこの丸いボタンを押してみます。
……つきませんね。
一応長押ししてみますか。
数秒間丸いボタンを押し続けます。
…すると画面が光り、アルファベットの“S”のような文字が映し出されました。
[……]
読み込み中なのでしょうか…背景が変わりませんね。
[Connecting To Crate of Shittim...]
英語ですか…あまり複雑なのはわかりませんが……
“シッテムの木箱に接続中”…でしょうか?
……意味がわかりませんね。そもそもシッテムとは……?
考えていても仕方ないですし、画面が変わるまでは待ってみましょうか。
[システム接続パスワードをご入力ください。]
数十秒後、このような表記が出ました。
パスワード……?勿論知らないのですが……
リンさんならなにか……
いえ、そもそも起動が出来ないと言っていましたね。
さて…どうしましょうか……
パスワードに悩みながら思考を巡らしていると、ある違和感を感じる。
何故でしょうか…どこかで聞いたわけでもない、見たわけでもない、意味のわからない文が浮かび上がってきます。
これ以外何も考えつかないので、その文を入力することにしました。
入力の仕方だけがどうにもわからなかったので、リンさんに手伝ってもらいました。*1
「・・・・・・我々は望む、七つの嘆きを」
「・・・・・・我々は覚えている、ジェリコの古則を」
[……]
[接続パスワード承認。]
どうやらあっていたみたいですね。
それにしても…何故あのような文が…?
[現在の接続者情報は■■■■■■…一致率51%…情報との乖離あり。エラー発生。]
[接続者情報の再取得を行います。しばらくお待ち下さい。]
どうしたのでしょうか…?
私の情報になにか不備が?
そもそもどうやって私の情報を…?
[再取得完了。現在の接続者情報は古明地さとり、確認できました。]
無事に確認が済んだようですね。
それにしても…今のエラーは一体なんだったのでしょうか。
まるで私が代わりとして認められたような……
…まさか…この端末に入れられていた情報が……
……私ではなかった…?
「“シッテムの箱”へようこそ、さとり先生。」
…何はともあれ、無事に接続できたのなら良いでしょう。
次にするべきことは、行政権を取り戻すこと。
これを取り戻せればキヴォトスの混乱も収まるようですね。
[生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。]
その文が表示された直後、画面が暗転します……
なんでしょうか…?……何か…意識が……飲まれるような……
……これは……あの時の………
深く、吸い込まれるかのように私の意識は途切れました。
「どうかなさいましたか、先生?」
「文字の入力の仕方が分からないので教えて頂きたいです。」
「え?」