「契闊」による悲劇から五日。 高専の面々は、東京第1結界近くの隠れ家に身を寄せていた。伏黒恵を失い、宿儺という最悪の怪物を完全復活させてしまった虎杖悠仁の瞳からは、光が消えていた。
吉田さりもまた、沈黙していた。彼女の拳には、宿儺を逃した際に自ら叩きつけた壁の破片が未だに食い込み、呪力による超回復すらあえて拒絶しているかのような痛々しさが残っていた。
その静寂を破ったのは、来栖華――「天使」の宣言だった。
「準備は整いました。……獄門疆、『裏』を開門します」
光の柱が天を突き、次元のひび割れから凄まじい呪力が溢れ出す。 その中心から、まるで散歩にでも出かけていたかのような軽やかな足取りで、一人の男が姿を現した。
「やあ。随分と賑やかだね。……少し、同窓会には遅れちゃったかな?」
現代最強の術師、五条悟の帰還。 しかし、その場にいた全員が知っていた。彼が今、どれほど激しい怒りを「無下限」の内側に押し殺しているかを。
五条は即座に状況を把握した。宿儺の気配が伏黒恵の中に移ったこと、そしてその宿儺が羂索と共に去ったこと。 五条は静かに、自分のサングラスを外し、その六眼で吉田さりを射抜いた。
「……さり。君がいて、これかい?」
その一言は、氷よりも冷たかった。周囲の術師たちが息を呑む。だが、さりは視線を逸らさなかった。
「……ええ、私のミスよ、悟。国防(あっち)の掃除に気を取られた。物理的な距離を詰めきれなかったわ」
さりの言葉に、五条はわずかに口角を上げた。それは嘲笑ではなく、理解だった。
「……そうだね。君は君の仕事を全うした。一万人の軍勢を一人も殺さず、かつ結界の純度を守り抜いた。それは、僕にもできない芸当だ」
五条は虎杖の肩に手を置き、さりの隣に並び立った。
「いいよ。ミスは僕が埋める。……最強が二人もいて、バッドエンドなんて似合わないだろう?」
11月20日。
高専の作戦会議室。 地図を囲む面々の前で、吉田さりはホイッスルを机に叩きつけた。
「決戦は12月24日。悟が宿儺を叩く。……だが、羂索や裏梅、そしてまだ日本を狙っているハイエナ共を新宿に近づけさせれば、それは悟への『不純物』になる」
さりが乙骨、真希、虎杖らを見渡す。その眼圧だけで、会議室の空気が物理的に重くなる。
「いい、若手。あんたたちは今日から、私の『内燃合宿』に参加してもらうわ。悟が戦場で踊っている間、あんたたちはその後ろを完璧に掃除しなさい。二度と、あんな受肉の隙は作らせない。……私の筋肉を、その身体に刻み込んであげる」
12月24日に向けて、絶望に沈んでいた高専組の魂は、吉田さりという圧倒的な「質量」によって、再び強固に、鋭く研ぎ澄まされていった。
最強の矛と、最強の盾。 二つの理不尽が噛み合った時、物語はついに、新宿という名の最終舞台へと雪崩れ込んでいく。