いかがお過ごしだろうか。こちらの天気予報は雨時々血肉。実にクソッタレな天気です。
鬼となってから恐らくは一ヶ月半ほどだろうか、が経った。そろそろ目ぼしい功績をあげなければ人生からの懲戒免職の憂き目に遭う可能性が恐ろしく高い。だが、迫るリスクが分かっているのならば対応できる。
練兵過程修了の折、協商国の国境侵犯で観測手狩りにあったときは予測できるはずもなかった事態に我ながら完璧に対応してみせた。………完璧すぎたからあの後にあんな目に遭ったと言えばそうなのだろうが。その時のことを思えば今回のような予測できるリスクはかわいいもの。
ただし、一つだけ問題がある。それは功績をあげるためのハンドルを私が握れていないことだ。
例えばプレゼンとなればテーマにこそ縛りがあるものの発表の時に使用するスライドとある程度の台本は自分たちで用意することができる。これは自分が主導する発表であることの証明とも言えるだろう。
だが。
この場において主導権を握っているのは私ではなく『鬼殺隊』と呼ばれる相手側だ。
私に対して誰を向かわせるのか。どのくらいの人数を送り込むのか。それを私は決めることができない。できるのは精々自分の力量を示して懇切丁寧に戦力が足りていないぞと伝えるくらい。それも圧勝と辛勝の区別をつけることもできないという噴飯ものの情報伝達だ。生きるために強敵を求めなければいけないという一種のパラドックス。
帝国の戦争では可能な限り危険を避けていたし、もし敗走となってしまったとしても頼れる戦友という名の肉壁がいてくれた。その時から比較すれば私の身を守ってくれるのは己の脚力とこの再生能力だけである。心細いことこの上ない。
”ターニャ”という幼女の体であればその幼さを武器に篭絡の一つ、断じてやりたくはないができたかもしれない。が、今の私は可愛げをドブに捨て去った成人男性である。これで見逃してなどと言ったところで受け入れられるはずがない。私ならば即座に殺す。
北方ノルデン方面に派遣された時、我が二〇三大隊が鉱山のカナリアのようだと言った際、鳴き声はピヨピヨでしょうかなどと言った奴がいる。あれは冗談だと分かりきっていたからいいが、本気でやるつもりならばその光景は吐き気すら催すただのグロ画像だ。
この体で命乞いをするというのはそれと似たようなものである。
そのため私は強すぎない相手が来るまで敵を選ぶ。ただ功績をあげたいだけならば、『柱』と呼ばれる者たちを相手とするべきなのだが、どうやら最近その『柱』が上弦と呼ばれる私の上部組織の一人を討ったらしい。
私は勝てないと分かっている戦いを好き好んで行うウォーモンガーではない。勝てる戦いを確実に勝ちたいタイプの人間だ。よってその『柱』とかいう存在はスルーしたい。
そのためにも諜報をしたいのだが、この体ではそれも難しい。その上、やつらどれだけやましいものがあるのか市井の者の多くはその存在すら認知していない。
帯刀という廃刀令違反に始まり、その刀や服の出所が判明していないなら特定商取引法違反の疑いがある。『滅』という字の刻まれたあの隊服は公序良俗に反していると言えるのではないだろうか。探りを入れればまだまだボロが出ることだろう。
何とも邪悪な組織である。
さすがは刀を振り回す野蛮人といったところだろうか。
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人の気配がする。一人や二人ではない、二桁に迫るだろうかという程の人数である。下にある道を見れば黒い隊服を着た者たちが周囲をキョロキョロと見ながら進んでいる。
相手の動きは想定通りだ。
今、奴らが通っている獣道には所々に血が見える。それは実際にここで私が狩りをした痕跡であり、誘い込むように奥へ奥へと続いている。だが、実際に戦場となるのはこの辺り。
私がやっていたのは退路の封鎖だ。血痕で誘き寄せ、まんまとかかった者を高台や背後から撃ち抜く。こうやって私は多くの部隊を全滅に追い込んできた。あちらとしても送り出した者たちが連続して生還率ゼロパーセントだったならば相応の警戒を示すはずだ。
目下に見えるのは特段特徴というものが無い者たち。ただその中に一人だけ個性の塊のような者がいる。
髪は片側を刈り上げる、確かウルフカットだっただろうか、で整え、他が着ている隊服の上には紫色の帷子のようなものを羽織っている。
人を死に追いやる悪徳企業のくせに頭髪・服装の自由があるとは、興味深い企業もあるものだ。今までに討ってきた者たちが特段の個性を持っていなかったことから出世と共に解禁されるのかもしれない。そう考えるとあの男は今までよりも強いのではないだろうか。
作り出した銃を構え、ウルフカットの男の後頭部に狙いを定める。
私は強者との戦いを好むようなタチではない。相手に油断があるのなら容赦なくそれにつけ込むタチだ。戦場において油断している方が悪いのは言うまでもない。自分を一番守ることができるのは自分だ。
引き金に手を掛け、引く。
バン!という破裂音。
この程度の距離で外すはずも無い超速の弾丸はウルフカットの男の頭を易々と貫通し、地面に突き刺さっている。
どうと男が倒れるのを見届け、私は完成した機関銃タイプの銃を片手に舞い降りる。
「ようこそ諸君!ご入国の目的は?ビザはお持ちですかぁ?」
「こいつが今回の敵だ!」
「ビザをお持ちではない?!地獄への片道切符なら用意がございますよ?」
多分あと一話です!
『鬼滅の刃』の時系列としては遊郭編~刀鍛冶の里編の間の炭治郎が寝込んでいる一か月のどこかしらをイメージしています。よって主人公は出てきません。主人公の共演を見たかった方にはすみません。
色々と矛盾もあるかもしれませんが、暖かく見守っていただけると嬉しいです。