魔法少女の恩師の死体を乗っ取ったクソ外道にTS転生しちゃった   作:エターナルフォースブリザード

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0話 研究所と幼女と触手

 なんとなく、酷い目にあったことは覚えている。

 痛かったような気もするし、最後の方は何も感じなかったような気もする。

 思い出そうとすると、頭が割れそうに痛くなる。

 だから、考えるのはやめた。

 

 とにかく分かっていることがあるとすれば、僕は死んだってことだ。

 

 ……じゃあ、ここはいったいどこなんだろう。

 

 目の前に映るのは、どこかの工場の中みたいに張り巡らされた鉄タイルと、カラフルなケーブル。

 ケーブルの先はよく分からない水族館の水槽? みたいなのに繋がっている。

 でも、中には何もいない。

 

 ……天国というには、ジメジメとしているし、地獄というにはやけに生活感がある、そんな場所。

 死後の世界、というわけではなさそうだ。

 

 少し遠くに置かれていたのは、学校の実験室でしか見たことがないような黒い長机。

 その上には、カップ麺の容器にポテトチップス、それとお酒のビンなんかもあった。漢字が書かれた高そうなやつ。

 

 ……人がいるってこと、か?

 

 不気味な雰囲気に気圧されていた僕は、そんな事実に胸をなでおろす。

 ――よかった、一人じゃないんだ。

 

 とにかく、誰か探そうと喉に力を込めたとき、気づく。

 

「あ、あ」

 

 ――声が変だ。

 

 風邪を引いたとか、喉を痛めたとか、そんなレベルの話じゃない。声の出し方も声色も、何もかもが前までと違っていた。

 

 少しハスキーかかった高い声。

 柔らかい声色は、一見赤ん坊が泣いたのかと思うほどに幼かった。

 

 僕は疑問を胸に、重い身体を無理やり引きずって、歩き出す。

 床にウネウネと張られたケーブルで転ばないように避けながら、壁まで向かった。

 

 壁は金属でできていた。

 手入れされているのか、ピカピカと光っている。

 そしてそのまま、目の前に反射して映る人影に、

 ゆっくりと視線を向けていく。

 

 

「……なにこの可愛い子」

 

 銀髪、白衣、タレ目、アホ毛、幼女。

 本当に生きているのかと疑うほどの色白で希薄な姿。

 

 それが、僕だった。

 

 長い髪と、ぶかぶかな白衣。

 歩いているときやけに身体が重かったのは、これを引きずってたからか。

 

 いや、そんなことよりも。

 

 この子は、女の子だ。

 少なくとも十数年生きてきた僕の常識ではそうとしか考えられない。

 

 でも、僕は男だ。間違いなく。

 少なくとも、死ぬ前までは。

 

 トイレだって立ってするし、空きがあるのに隣に来るやつにはビビるし、朝は元気になっているのが落ち着いたのを確認してから用を足すし。

 

 一つ、本当に女の子なのか確認する方法はある。

 

 僕は、ゆっくりとしゃがみこんでから白衣の裾を握る。こうでもしないと、裾まで手が届かないからだ。

 

 ――そしてそのまま、思いっきり天井へ向かって捲り上げた。

 

 瞬間、僕の目に飛び込んできた光景。

 

「……ノーパンだ、僕」

 

 いや、大事なのはそっちじゃなくて。

 

「お、女の子になっちゃってる」

 

 ……ついてない。十数年付き合ってきた相棒が。

 

「……な、なななんでっ!?

 え、どうしてっ!?」

 

 僕は驚きのあまり、その場をぐるぐると回転していた。そして回る視界の中、もう一度壁に張り付いて、確認する。

 

 手を上げたり、足を曲げたり、にこって笑ってみたり。その度に壁に映った僕の身体は連動して動き出す。

 どう考えても、僕の身体だった。

 

 それと、さっきから胸のとこがやけに痛い。

 ヒリヒリするというか、ジンジンするというか。

 

 いや、正確には痛いのは胸というか――

 

「……ちくび、痛い」

 

 なんで、って思ったけど原因は明白。

 白衣が擦れているからだ。

 当然のように下着はない。

 加えて布質もしっかりしているから余計に痛い。

 

 ……痛みをどうにかするのと、少しの好奇心から、僕は、胸元に下から手を突っ込む。

 

 ひんやりとした細い手が何回か宙を切った後、ついに目標を捉えることに成功した。

 

 それは、僕が女の子であることを証明する二つ目のもの。

 

 もみもみ。

 

 ほう、なんと、これはなかなか……。

 

「……ぜんぜんないし、おっぱい」

 

 男だった頃の僕とまるで変わらない大きさ。なんなら小さくなっている気がする。

 

 ……背が小さくなっているから、当然か。

 見た感じ、十歳も行ってないくらいの外見だし。

 

 なんなら、来年から小学生ですって言われても信じてしまいそうな見た目だ。

 ほんとに、これが僕なのか。

 

 そう思ったとき、急にお腹の下の方に、痺れるような感覚が襲った。

 

 ……これは、知っている。

 前世でも何度も経験したことがある、アレだ。

 

「……トイレ、どこだろ」

 

 尿意だ。

 

 モゾモゾと、手をお腹の下に当てながら、辺りを見渡す。そして、気づく。

 

 トイレが見当たらない。

 

「だ、誰か、いませんかぁ!」

 

 僕は叫んでいた。この上ないくらい大きな声を出そうとしながら。

 でも、出力されるのは小さな掠れ声。

 なんでだ、声を出し慣れてないのか?

 

 そう思った僕は声を張り上げようとゆっくりと息を吸い込む。

 

 その瞬間だった。

 ベタッベタッ、と足音のような何かが僕の耳に入ってきた。

 

 音は徐々に僕の方へ近づいてくる。

 なにかが、床に張り付いて、離れる。それを、何度も繰り返しているような音。

 

 ――誰か、来てくれたのか?

 

 僕はふとももをくっつけたまま、ちょこちょこと、ちっさなペンギンみたいに音の聞こえた方へ向かった。

 そして、見つけたのは階段。どうやら音の主はこの上から来ていたらしい。

 

 足音はもう隣まで来ている。

 僕は意を決して階段の方へ飛び出した。

 

「すみません。あの、トイレ貸してくれま――」

 

 そこで、僕は見た。

 

「え?」

 

 長い、棒状の生き物がウネウネと地を泳いでいる。

 先の方には口なのか鼻なのかよく分からない穴があいていて、テカテカと濡れているように光る身体は、何本にも別れていた。

 

 ――触手。

 僕の頭の中の言葉でソレを表すのに最も近い言葉。

 

 でも、タコとか、クラゲとか、そういうのとは全く違う。大きさも、動きも、匂いも。

 

「――ば、ばけものっ」

 

 僕は、一心不乱に逃げ出していた。

 

「追って、きてるっ!」

 

 あんな触手なんて、バカな創作物でしか見たことがない。

 クリーチャーとか、モンスターとか現実離れした言葉が頭に浮かんだ。

 

 殺される。

 僕の脳内はすぐにそれでいっぱいになった。

 

 とにかく走った。

 小さな身体を無理に引きずって、知らない地形に何度も手足をぶつけながら。

 

 そして、最初に見つけた水槽の裏に隠れたとき。ふと、目の前に扉があることに気づく。

 扉には日本語で、文字が書かれていた。

 

「ここ、倉庫?」

 

 そのとき、またベタッベタッと地を這う音がした。

 僕は意を決して、扉を開けて飛び込む。

 

 追いかけっこで勝つ見込みがない以上、どうにか隠れんぼに持ち込むしか他はない。

 

 そう思った、けど。

 

「……なにこの、臭い」

 

 腐敗臭。鼻をつんざく臭いに、思わず目を閉じてしまう。

 なにか、嫌なものが腐ったような、気持ち悪さがある。

 生ゴミが近いけど、でもこんなの今まで生きてきて嗅いだことがない。

 

 ……今は、我慢するしかない。

 そう思って、目を開けた僕が見たものは。

 

 

 ――大量の触手だった。

 

 壁を突き破って、何本もの触手が上に伸びている。

 クラゲを逆さまにしたような見た目のソレは、ビクビクとまるで息をしているかのように身体を揺らしていた。

 

 ……これが、本体。

 本能的にそんなことを悟る。

 

 追い込まれた身体は、蛇に睨まれたかのように動かない。

 体液が溢れて、足先まで熱い液体が流れていく。

 

 ……あ、あ、どうし、よう。

 

「や、やめて」

 

 触手が伸びる。

 僕の身体より太い。

 何本も、伸びてくる。

 

「ち、近づくな、やめろ、おい」

 

 死にたくない。

 あんなの、もう二度とごめんだ。

 痛くて、つらくて、気持ち悪くて。

 

「……やだ、やめてよ、もう、しにたくないよ――」

 

 もう、顔の前まで来ている。

 

 嫌だ、首はやめて。

 怖い、痛いよ、やだ。

 

「い、や」

 

 僕は、身を襲う恐怖から、少しでも目を逸らすため。

 ――そっと目を、閉じた。

 

 

 痛みは、いつまで経ってもこなかった。

 代わりにあるのは、頭上に走るヌメヌメとした感覚。

 

「……え?」

 

 これは、撫でられている?

 ゆっくり目を開けると、長い触手は僕の身体の真ん前で止まって、代わりに頭上に向かって伸びていた。

 

「あ、あの? なに?」

 

 ゆらゆらと、髪の毛をさする触手からは敵意を感じない。

 むしろ、なにか、見守っているような、そんな温かいものすら感じた。

 

 触手は、僕の様子を数秒見つめた後。

 頭上にあった触手とは別の触手をこちらに伸ばしてきた。

 

 そして、先端の穴をこちらに向けながら、

 

「マスター、ドウカシタ?」

「触手が喋ったぁ!?」

 

 声を発した。

 

 人間と動物のちょうど中間くらいの単調な声。

 ホラーゲームにでも出てきそうな声色に思わず身を引く。

 

 ……こ、言葉責めしてくるタイプの触手なのか――!?

 

 そんな馬鹿なことを考えた僕は両耳を押さえつけて、うずくまる。

 

 すると、目の前の触手はまるで困っているかのように、ウネウネと突起を動かしだした。

 

 そして、耳を塞ぐ手を、長い触手でゆっくりと外した後。

 

「ゴハンノ、ジカン」

「……ご飯?」

 

 ご飯、と確かにそう言った。

 

 それを聞いた僕は、びしょびしょの白衣を持ち上げて、触手の言うことに耳を向ける。

 

「カゼ、ヒキマスヨ、マスター」

 

 ……もしかして、心配、してくれてるの?

 触手、なのに。

 

「しょ、触手さんは、いい人、なの?」

「ヒトジャ、ナイ」

「いや、それは見れば分かるけど……」

 

 意外と話が通じてる。

 怖い人かと思ったけど、良い人、なのか?

 いや、人じゃないのは分かってるけど。

 

 そう思って、触手に手を伸ばしたとき、声が聞こえた。

 

「マスター、マモル、シメイ」

 

「え?」

 

 マスター、守る、使命。

 カタコトだけど、でも、確かに聞こえた。

 

「守って、くれるの?」

「ハイ、マスター」

 

 それは平坦で、単調で、味気ない言葉だったけど。

 でも、敵意は全く感じられない。

 

 この子は、僕の味方だ。

 

 そう、感じた瞬間。

 気の抜けた僕のお腹からぐぅーという音が鳴った。

 

「……おなか、すいた」

「ゴハンニ、シマショウ」

 

 背中に触手がベタッと当たる。

 さっきまで僕を追ってきてたやつだ。

 

「ま、待って。

 こ、腰が抜けて歩けないよぉ、触手さん」

「モウ、セワガヤケマスネ」

 

 本体の触手から一本、こちらに向かって伸びてくる。

 今度は避けようとしなかった。触手は、ゆっくりと僕の身体に絡みついていく。

 締め付けがキツいとこがあって、「いたっ」と声を上げたら、触手さんは慌てたように力を抜いた。

 

 次の瞬間、僕の身体が宙に浮く。

 

 いや、持ち上げられたとか、吊し上げられたの方が近いのかもしれない。

 

「わわっ! お、お腹持たないでぇ!

 ……おえっ、は、吐きそう――」

 

 ひっくり返った身体をジタバタと動かす。

 

 そんな僕の抵抗を見て、触手さんが一本の太いやつを僕のお尻に当てた。

 

「ひゃっ!? な、なに?」

 

 え、えっちなやつか!?

 

 そう身構えながら、じっとしていると、上の方の拘束が緩まり、身体が下に落ちた。

 

 ……どうやら、この太いのに乗っとけってことらしい。

 なんだ、えっちじゃなかった。

 

「あ、ありがとう。触手さん」

「ソレデハ、イキマスヨ」

 

 言ったものの、触手さんは動かない。

 なんでだろうと思ってると、急に何本もの触手が僕の方を見つめだす。

 

「デモ、ソノマエニ」

 

 視線の先は、僕の顔……じゃない。

 そのちょっと下。

 

 そう、我慢していたアレがアレになったせいでビショビショになった白衣。

 

 そのことに気づいた瞬間。

 

 ――大量の触手が僕の身体を襲った。

 

「オキガエ、デス」

「ひ、ひえっ! 勝手に脱がさないでぇ!

 ――しょ、触手さんのえっち!」

 

 そのまま宙に浮かされた僕は、無数に伸びてくる触手たちに成す術もなく、唯一身につけていた白衣を剥ぎ取られるのだった。

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