魔法少女の恩師の死体を乗っ取ったクソ外道にTS転生しちゃった   作:エターナルフォースブリザード

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3話 魔法少女

「ここ、は?」

 

 目を開ける。

 そこは、どこかの路地裏だった。

 青いゴミ箱に、ビリビリのポスター、それと汚れた換気扇。

 

 ポスターに書いてあるのは知らない顔と名前。

 それが、選挙ポスターと呼ばれる奴だと気づいた僕は、安堵する。

 

 ……だって、どっからどうみても日本人が写ってたからだ。

 

「――よかった、日本に来れたんだ」

 

 僕は何度か呼吸を繰り返した後、ゆっくりと壁にもたれかかって、考える。

 

 日本に来たらまずやること。

 それは、決めていた。

 

「……パンツ、買いに行こ」

 

 僕は路地裏を歩き出す。

 上を見上げると空は暗い。

 

 おかしいな、あっちにいるときは明るかったのに。

 

 そのとき、足の方からヌメヌメとした感触がした。

 それは僕にとって、何よりも安心する感触。

 

「触手さん!

 よかった、ついて来てくれたんだ!」

 

 そう、触手さんだ!

 

 

 ……あれ、いない。

 

「マスター」

 

 あ、声はする。それも下の方から。

 僕は視線を地面に落とす。

 するといた。ミニマムサイズの縮小されたのが。

 

 どちらかというと、触手さん本体に近くてクラゲっぽい見た目だ。

 

「触手さん。

 なんかちっちゃくない?」

「ホンタイジャ、ナイカラ」

「そうなの?」

 

「ブンレツ、サイセイ、フエル」

「……結構怖い生態してるね触手さん」

「……コワクナイヨ」

 

 あ、ちょっとショック受けてる。

 

 そういえば、触手さんはあの円の中に入りきれなかった。地下に本体がいるのだから当然だけど。

 おそらく、そのせいでちっちゃくなったんだろう。

 注意書にも、円の中に入ってないとダメみたいなこと書いてたし。

 

「ごめんね、ちょっと狭いけど、僕の身体にくっついてて」

 

 触手さんをお腹に引っ付ける。人に見つかったら大変だ。案外、小さくなって良かったのかもしれない。

 

「えへへ、くすぐったいなぁ。触手さん」

 

 それにしても、どこだろうここ。

 さっきから破かれた選挙ポスターばっかり落ちていて怖いんだけど。

 

 ビクビクしながら、探索を続けていると、ふと声が聞こえた。

 

「――あぁ、こっちは大丈夫だ。

 今日はもう仕舞いだ。アイツもぼちぼち帰ってくんだろ」

 

 誰かいる。男の人の声だ。

 僕は声のする方へ向かって走る。

 小さな身体は窮屈な路地裏を通るには最適だ。

 

 数分の捜索の末、ようやく声の主を発見する。

 発見場所は、住宅街に接している開けた空間だった。

 

 そこにいたのは、薄汚れたこの場所がなんとも似合う、怖い顔のおじさん。

 平たく言うと、ヤのつく職業をしてそうな、そんな人。

 

 ちょっと、怖いけど。

 でもこの身体になって初めて人と会うことができた。

 

 僕は意を決して声をかける。

 

「あ、あのっ! そこのおじさん。話を聞いてください!」

 

「……ん、なんだ? 嬢ちゃん。こんな夜中に一人で。

 お父さんとお母さんはどうしたよ」

 

 よ、良かった、意外と優しい。

 

 そうだ、こういう強面な人ほど、根は善性であることの方が多いのだ。例えば、触手さんとかね。

 

「お、お父さんとお母さんはいません。

 それで、えっと、あのですね、パンツを探してまして――」

 

 いやいきなりパンツはおかしい。

 まずこの場所のことを聞くんだ。

 そう思ったとき、おじさんが口を開く。

 

「……あぁ、少し待ってくれ、嬢ちゃん。

 悪い、電話をかけないといけないんだ」

「え、あ、はい」

 

 少し、言葉に違和感がある。

 何かを隠そうとしているような、そんな雰囲気。

 

 僕はおじさんから離れようと、足を後ろに下げようとした。

 

 そのとき。

 

「どこにいくんだ?」

 

 腕を掴まれる。

 酷く、乱暴に。

 

「……おい、前言撤回だ。

 ガキを捕まえた。車を用意しろ」

 

 瞬間、押し倒された僕は、声を上げようと口を開けた。

 でも、声を出す前に、

 巨大な手が僕の頬を強引に掴んだ。

 

「ん――、んっ――!」

 

 そう、いえば。

 

 日記に書いてあった。人攫いにあったって。

 

 でも、僕の知ってる日本は、住宅街の隣で堂々とそんなのが行われるような怖い場所じゃない。

 

 僕は身体を暴れさせる。

 でも、それは体力を消耗するだけで、何の抵抗にもならない。

 

 いや、なんで。こんなことに。

 

 ……怖い。

 

「……お、来たか。

 おい、残業だ! 金は出すからしっかり働けよ」

 

 いつのまにか、誰か、知らない人が目の前に立っている。

 

 気弱そうな、若い男の人。

 

「んっ――、たすっ――」

 

 散々暴れて、もう力が出ない。

 でも、僕は少しの望みにかけて、その人に視線を送る。

 

「ま、待ってください。

 まだ子供じゃないですか。勘弁してくださいよ」

 

「あ? 国に売っぱらって、魔法少女にすんだよ。こんくらいの年のガキの使い道なんてそんくらいしかねぇだろ」

 

「たす、けて」

 

 必死に、叫ぶ。

 

「まぁ、面は悪くねえから愛好家の変態どもに売るって手もあるけどな。どっちにしろ交渉先はお偉いさんたちだ」

 

「いや、そんなの、やだよ」

 

 嫌だって、怖いって、分かってくれるように。

 

「っち、うるせえガキだな。

 ……おい、気絶させて素っ裸にひん剥いとけ」

 

 大きな手が、僕の顔を叩いた。

 痛い、ほっぺたが、焼けるように熱い。

 

「いや、です。たすけてください」

 

 若い人は、なにか、迷ってるように立っている。

 

 でも、怖い人が大きな声を上げた瞬間、怖気付いたみたいに、こっちに来た。

 

「ご、ごめんね。

 僕たちも、生きていくために、こんなことでもするしかないんだ」

 

 目の前に突き立てられたのは、鋭く尖ったナイフ。

 真っ黒の、液体がこびりついている。

 地下室にあった液体と同じ色。

 人の、血だ。

 

 ナイフが、僕の首元に触れる。

 「動くなよ」って声が聞こえて、手が、伸びてくる。

 

「さわん、なぁ――」

 

 それが、僕の胸元に触れようとした、瞬間。

 

 

 ――目の前で、鮮血が舞った。

 

「……え」

 

 理解が追いつかない。

 

「マスター、マモル、シメイ」

 

「――ひっ、魔獣っ!?

 お、おい、来るんじゃない。やめ――」

 

 若い人が倒れた。血が出てる。

 ナイフは握られたまま、床に落ちてる。

 ちがう、落ちたのは、ナイフじゃない、握っていた、手。

 

「ま、魔獣だっ! た、助けてくれっ!

 おい、誰か、魔法少――」

 

 怖い顔の人が倒れた。血が止まらない。

 大きな声で叫んだ後、持っていたスマホを床に落として、動かなくなった。

 胸に、穴が開いてる。ちょうど、僕の縫い目と同じとこ、に。

 あ? なんで。

 

「……え?」

 

 分からない、何が起きたのか。

 

 触手さんが大きな口を開けている。

 小さな身体を風船みたいに膨らませて、口だけ大きくしている。

 

 膨らんだ身体にすっぽりと、怖い顔の人と、若い人が入っていく。

 短い触手を器用に使って、まるで、袋詰めにするかのように。

 

 捕食。

 目に入った行為を表す言葉は、それしかなかった。

 

 二人の身体が見えなくなって、

 触手さんの身体が大きく膨れ上がった後。

 

 ――シュー、という音がしたあと、

 触手さんの身体は、小さく、縮んで、元に戻った。

 

「た、たべちゃったの?」

 

 僕は、言葉を放つ。

 

 正直、脳が理解することを拒んでいる。

 

 なのに、なぜか、変に冷静でいられていた。

 動揺も、度を過ぎると、こうなるのだろうか。

 

「キケン、ハイジョ」

 

「だ、だめだよっ! た、食べちゃダメっ! に、人間なんだよ!」

「マスター、マモル、シメイ」

 

 ……守る。

 

 触手さんの声が聞こえた瞬間、突きつけられたナイフの感触が蘇る。

 

 ――殺されると思った、それかもっと酷いことをされると思った。

 

 触手さんが、助けてくれた。

 

 

 そのとき、路地裏に声が響く。

 

「――おいっ! こっちだ悲鳴がしたぞっ!」

 

 それは、人の声。

 

 声はどんどん多くなってきている。

 そして、何人もの集団になって、路地裏へ入ってきた。

 

 こっちに来る。

 

「カクレテテ」

 

 触手さんが、また大きくなっている。今度は、口だけじゃなくて身体全部が。

 そして、路地裏からゆっくりと、声の方へ伸びていった。

 

 僕は、伸びていく触手さんの方へ向かって走り出す。

 そこには、何人もの人が集まっていた。

 

「ま、魔獣じゃねぇかっ! なんで、こんなとこにいんだよ!」

「……血の匂いがする。喰ったのか?」

「そんなのはどうでもいい! とにかく、魔法少女に連絡を――」

 

 ひ、ひとがいっぱい、いる。

 変な、農具みたいな武器を持って。

 

「く、くるぞっ! 構えろ!」

 

 あ、どうし、よう。触手さんを守らないと。

 

「――ちがうんです!」

 

 僕は反射的に、そう声を出していた。

 

「しょ、触手さんは悪い人じゃありません。

 酷いことされそうになった、僕を助けようとして、それ、で……」

 

「……な、なに言ってるんだキミ。

 そいつは、魔獣だぞ!?」

 

「で、でも見てくださいっ!」

 

 僕は、宙に浮かんでいる触手の一本に手を伸ばす。

 

「ほら、襲ってきません! 意思疎通も、ちゃんとできます。僕の言うことだったら、どんな面倒くさいことだって聞いてくれるんです。

 皆さんには、迷惑かけません、だから……」

 

 目の前の人たちの顔を見る。

 

 すると、分かった。

 

 僕を見る目が、変わってることに。

 

 手に持った武器が、僕の方を向く。

 まるで、理解できない存在に恐怖するかのような、そんな視線。

 

 その瞬間、太い触手がブンブンと振り回された。

 

「触手さんっ! だめ、怪我させちゃダメ!」

 

 僕は触手に抱きついて、無理やりその動きを止める。

 

 ……あぁ、無理だ。

 説得なんか最初から出来っこなかったんだ。

 

 僕は、触手さんを抱きしめる。

 

 そして、帰ろうって。

 そう、伝えようとした瞬間。

 

 気づいた。

 

「――え?」

 

 触手が、千切れている。

 断面から、青い血がペタペタと地面に垂れて、何本にも別れていた。

 

「おいっ、きたぞっ!」

 

 誰かがそう言った。

 視線の先は、暗く染まった空の上。

 

 そのとき、千切れた触手が僕の身体を路地裏へと突き飛ばした。

 壁に身体が激突して、背中に鈍い痛みが襲う。

 

「な、なに?」

 

 でも、そんな痛みがどうでもよくなるような光景が僕の目の前で起きていた。

 

 空から降ってきている。

 人間の、女の子が。

 

「……そこまでよ。これ以上の蛮行は私が許さない」

 

 その声がした瞬間。

 僕たちに向けられた空気が変わるのを感じた。

 恐怖の対象から、憐憫の対象へと。

 

 

「魔法少女リリカ・リナ。

 ――先生に代わって、貴方を断罪するわ。魔獣」

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