俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった 作:エアロマグロ
魔王軍四天王である猛毒の女王を撃退した俺たちは、王都への帰路についていた。
今回もまたなし崩し的な勝利だったが、世界平和に貢献したのは事実だ。
しかし、俺の足取りは重かった。
その理由は、隣を歩く二人の仲間にある。
「アスク! 早く早く! みんなに見せびらかさないと!」
戦士のモアが先頭を走りながら叫ぶ。
彼女はいつにも増してハイテンションだ。
それもそのはず。今の彼女の肌は、毒沼での荒療治によって、かつてないほど輝いているからだ。
太陽の光を反射し、直視できないほどの光沢を放っている。
「凱旋パレードだよ! 英雄は堂々と帰らなきゃ!」
「……一理ある。この完璧な肌の状態、データとして民衆に提示し、その反応を収集する必要がある」
「お前ら、絶対に見せびらかしたいだけだろ……」
俺は深く溜息をついた。
道中、すれ違う旅人や商人たちが、ギョッとした顔で振り返る。
それはそうだ。ビキニアーマー姿の怪しい二人組が、全身を発光させながら歩いているのだから。
「アスク、見て見て! このふくらはぎの張り! 毒の刺激で引き締まって、最高の仕上がりだよ!」
モアが足を高く上げてポーズをとる。
「はいはい、すごいすごい」
「反応が薄いなぁ。アスクも毒沼に入ればよかったのに。あそこの毒、絶対腰痛に効くよ?」
「入ったら死ぬわ。俺は回復術師であって、不死身じゃないんだよ」
そんな馬鹿な会話をしているうちに、王都の城壁が見えてきた。
城門の前には、既にたくさんの人だかりができていた。
どうやら、四天王撃破の報せは早馬によって届けられていたらしい。
「おお! 見ろ! 帰ってきたぞ!」
「我らの英雄、変態騎士団だ!」
「四天王を倒して、無傷で帰還したぞ!」
「あの日光を反射する輝きを見ろ! 神々しい……!」
割れんばかりの歓声が上がる。
俺は少し誇らしい気分になった。
なんだかんだ言っても、俺たちは命懸けで国を守ったのだ。
変な格好のパーティだが、その実力と功績は正当に評価されている……そう思っていた。
「皆さん! ただいまー!」
モアが群衆の前で、ビシッとポーズを決める。
右手を突き上げ、左手を腰に当て、背中を反らせる勝利のポーズ。
その瞬間。
惜しげもなく晒された肢体が太陽の光を浴びて、閃光のような輝きを放った。
ピカーッ!!
「うおっ!? 眩しい!?」
「なんだその輝きは!」
「肌が……肌が発光している!?」
「これは聖なる光だ……! 女神の光だ!」
ざわつく群衆。
人々は目を瞬かせ、あるいは拝むように手を合わせている。
モアは胸を張って、大声で宣言した。
「みんな見て! これがビキニアーマーの力だよ! 毒にも負けない、最強の美肌!」
「おおお! ビキニアーマーの力……!?」
「毒すらも克服する美肌だと!?」
群衆のざわめきが大きくなる。
「ちょっと待てモア、誤解を招く言い方をするな。毒に負けなかったのは俺のヒールのおかげだろ……」
俺の小声のツッコミは、熱狂の渦にかき消された。
「そうか……やはり噂は本当だったんだ!」
「ビキニアーマーを着れば、あんなに美しくなれるのか!」
「防御を捨てて肌を晒すことで、神の祝福が得られるんだ!」
何か決定的な誤解が広まっている気がする。
というか、話が飛躍しすぎている。
しかし、興奮状態の群衆には、俺の常識的な声など届かない。
「その通り……」
さらに追い打ちをかけるように、マホが一歩前に出た。
彼女は懐から拡声魔法のスクロールを取り出し、起動した。
その声は、広場全体に朗々と響き渡った。
「王都の皆さんに、真実をお伝えする……」
マホが淡々とした口調で語り始める。
それはまるで、学会での発表のような厳粛な雰囲気だった。
マホが自分の極小面積のビキニを指差す。
「……重い鎧は、防御力を与える。それは正しい」
群衆がゴクリと息を呑む。
「だが同時に……人体が大気中のマナを取り込む機能を、阻害している。研究で確認済み」
マホが続ける。
「露出面積と魔力伝導率には、正の相関がある……衣服は、肌本来の輝きを遮断する不純物。大気のマナを直接取り込むことで、魔法効率が最大化する……結果が、この功績」
「さらに!」
モアが追撃する。
「この開放感! 風を肌で感じる喜び! 今まで重い鎧の中で汗をかいて蒸れていた自分とおさらばして、新しい自分に生まれ変わろうよ!」
モアが健康的な笑顔で呼びかける。
その笑顔は、どんな演説よりも強力な説得力を持っていた。
シーンと静まり返る広場。
固唾を呑んで見守る俺。
頼む、誰か正気に戻ってくれ。
「……脱ごう」
誰かが呟いた。
それは小さく、しかし確かな決意に満ちた声だった。
「俺も脱ぐぞ! 輝きたい!」
「私だって負けない! こんな鎧、今すぐ捨ててやる!」
「暑苦しいローブなんて必要ない!」
信じてしまった。
王都の人々は、四天王撃破という事実に目がくらみ、判断能力が低下している。
そこに、英雄であるマホの科学的っぽい説明が加わったことで、トンデモ理論が「真実」として受け入れられてしまったのだ。
ダムが決壊したかのように、広場は集団脱衣所と化した。
老若男女が次々と服を脱ぎ捨て、下着姿になっていく。
騎士が自慢のプレートメイルを脱ぎ捨て、筋肉を見せつける。
貴族の奥様がドレスを脱ぎ、コルセット姿でポーズをとる。
商店の主人がエプロンを引き裂き、褌一丁になる。
「やめろぉぉぉ! 風紀が死ぬぅぅぅ!」
俺の絶叫は、歓喜の嬌声にかき消された。
そこら中で、「見て見て! 私の肌!」「風が気持ちいい!」という声が響き渡る。
もはや狂気の沙汰だ。
「ええい! 鎮まれ! 貴様ら、騎士の誇りを忘れたか!」
その時、怒号が響いた。
現れたのは、王都の治安を守る憲兵隊の隊長だった。
彼は全身を分厚いフルプレートアーマーで固めており、顔だけを出して群衆を睨みつけている。
おお、まともな人がいた!
「隊長! これを取り締まってください!」
俺は救世主を見る目で彼に駆け寄った。
だが、マホがスッと隊長の前に立ち塞がった。
「非効率……。貴方のその鎧、無駄が多い」
「なんだと? これは王家より賜った由緒ある鎧だ!」
「見て……。左肩と脇腹の装甲が凹んでいる」
「む……!」
「その傷は、重装甲による機動力低下が原因。……もし貴方がビキニアーマーを装備していれば、その攻撃は回避できたはず」
「馬鹿な! 鎧を着ていなければ死んでいた!」
「いいえ。鎧を着ていたから被弾した……当たらなければ、防御力はゼロでいい。圧倒的な速度と、肌で風を感じるセンスがあれば、全ての攻撃は見切れる」
マホが隊長の目の前で、高速の反復横跳びを披露した。
残像すら残らない動きに、隊長が目を丸くする。
「鎧を脱げば効率よくマナを取り込めて、かつての全盛期のキレが戻るはず」
隊長の手が、震えながら鎧の留め具にかかる。
「全盛期の……キレ……」
ガシャン、ガシャン。
重厚な鎧が地面に落ちる音が響く。
数分後、そこにはパンツ一丁になった隊長の姿があった。
「あ、あぁ……! 軽い! 体が羽のように軽いぞ!」
隊長がその場で高く跳躍した。
かつてない高さまで飛び上がった彼は、空中で涙を流して叫んだ。
「これがッ! 本当の私だァァァッ!」
「隊長ぉぉぉ!」
「俺たちも続きます!」
隊長の部下たちも、次々と鎧をパージし始めた。
終わった。
王都の治安を守る最後の砦が、今陥落した。
そんな中、商魂たくましい男が一人。
広場の隅にある武器屋の親父だ。
彼は店の前に金床を引き出し、ハンマーを振り上げて叫んでいた。
「さあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今なら手持ちの重たい鎧を、最新流行のビキニアーマーに改造するぜ! 工賃は特別価格だ!」
「おじさん、私のこの革鎧もビキニにして!」
「私のローブも! できるだけ露出度を高めて!」
「おうよ! 任せときな! 布面積を減らす分には材料費もかからねぇから、安くしとくぜ!」
武器屋の前に行列ができる。
親父は次々と持ち込まれる鎧や服を、容赦なく裁断し、削ぎ落としていく。
防御力を捨て去り、露出度を高める改造。
それは職人のプライドとしてどうなんだと思ったが、親父の顔は充実感に満ちていた。
需要があるなら、それに応えるのが商人の鏡なのかもしれない。
「これは……とても素晴らしい光景ですね」
ふと、背後から声がした。
振り向くと、そこには聖女ルナが立っていた。
彼女もまた、この騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
かつての純白の修道服の面影は、もはや欠片もない。
胸元の十字架だけが原型を留めており、薄絹1枚の下はほとんど全裸だ。
もはや痴女を超えた露出で、エロさを超えた迫力を感じざるを得ない。
「ルナ! 止めてくれ! お前の言葉なら、みんな聞くはずだ!」
俺は縋るような思いで言った。
聖女の権威があれば、この集団ヒステリーを鎮静化できるかもしれない。
「いいえ、アスク様。止められません」
ルナは首を横に振った。
「これは解放なのです。人々は、神が与えたもうた肉体の美しさを、衣服という罪で隠してきました。しかし、マホ様とモア様の勇気ある行動が、人々の心の扉を開いたのです」
「は?」
「見なさい、あの人々の笑顔を。恥じらいを捨て、ありのままの自分を晒け出す喜び。これこそが、神が望まれた楽園の姿……!」
「いや、ただの露出狂の集団だろ!」
「素晴らしい……。私も露出を広める手伝いをせねば」
ルナが胸の前で手を組み、祈りを捧げ始めた。
ダメだ、こいつも手遅れだった。
聖女のお墨付きを得てしまったビキニブームは、もはや誰にも止められない。
「ふふっ。アスク、これが私たちが救った世界だよ」
モアが満足げに笑い、俺の肩を叩く。
「……こんな世界なら、滅んだほうがマシだったんじゃないか?」
俺は遠い目をして空を見上げた。
王都の上空には、脱ぎ捨てられた服や鎧の破片が舞い上がり、キラキラと輝いている。