俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった 作:エアロマグロ
故郷への帰省を終えた俺たちは、ついに魔王城へと向かう『死の荒野』を歩いていた。
草木の一本も生えない、岩と砂だけの殺伐とした大地。
その先には、常に雷雲を纏う禍々しい巨城、魔王城がそびえ立っている。
ラストダンジョンに相応しい雰囲気だ。
「空、なんか変じゃない?」
先頭を歩くモアが、空を見上げて呟いた。
彼女の視線の先には、鉛色の空が広がっている。
だが、よく見ると黒い点がいくつも浮遊し、不気味にうごめいているのが分かった。
鳥? いや、あんなにデカい鳥はいないだろう。
「……動体反応多数。魔力反応あり。種類を特定……ガーゴイル」
マホが杖を掲げ、冷静に分析する。
ガーゴイル。
石像に擬態し、侵入者を空から排除する魔法生物だ。
その数は数十匹……いや、百匹はいるだろうか。
完全に包囲されている。
「来るよ!」
モアの警告と同時だった。
上空の黒い点が一斉に動き出し、何かを落としてきた。
ヒュオオオオオオ……!
空を切り裂く落下音。
それは雨ではない。
人の頭ほどもある巨大な岩石の雨だ。
ドカッ! ズドン! ガガガッ!
激しい衝撃音と共に、地面がえぐれる。
土煙が舞い上がり、視界を遮る。
「ぐわっ!?」
あろうことか、その一発が俺の頭をかすめた。
目の前に星が飛ぶ。
「アスク! 大丈夫!?」
「……生きてはいる」
二人が駆け寄ってくる。
俺は血の味のする唾を吐き捨て、すぐに『ヒール』をかけた。
ズキズキする痛みが引いていく。
「直撃してたら死んでたな……!」
「きゃー! すごいねアスク! 石がいっぱい降ってきたよ!」
彼女は降ってくる岩石を、大剣の腹で器用に弾き飛ばしている。
カーン! コーン! と軽快な音が響く。
まるでバッティングセンターだ。
「見てアスク! これ、いい特訓になるよ! 動体視力が鍛えられる!」
「遊んでないで反撃しろ! このままだとジリ貧だぞ!」
俺は叫んだ。
今は防げているが、ガーゴイルたちは安全圏から一方的に石を落とし続けている。
こちらの攻撃手段は限られている。
モアの剣は届かないし、マホの魔法も射程ギリギリだ。
何より、相手は空を自在に飛んでいる。狙い撃つのは至難の業だ。
「うーん、届かないなぁ。石を投げ返しても避けられちゃうし」
モアが剛腕で石を投げ返す。
鋭く風を切る剛速球だが、空中のガーゴイルはひらりと翼を翻して回避した。
向こうは完全に舐めきった顔で、石像のくせに嘲笑うかのように石をパラパラと落とし続けている。
腹が立つ。
あのニヤニヤした石面を粉砕してやりたい。
「……効率が悪い。投石では決定打に欠ける」
マホが呟く。
そうだ、もっと強力な一撃が必要だ。
何か追尾してくれるような、便利な魔法が……。
「私が直接モアを届ける」
「は?」
マホが杖を構える。
その切っ先が、なぜかモアのお尻に向けられた。
ミスリル製の極小ビキニが、砂漠の太陽に照らされてキラリと光る。
「え、マホちゃん? 何するの?」
「モア、飛んで。私が推進力を与える」
「推進力?」
「……『エクスプロージョン・バースト』」
マホが詠唱を始めた。
それは爆発魔法の詠唱だ。
しかも、指向性を高めた一点集中型。
それを、仲間の尻に向けて撃とうとしている。
「ちょっ、待て! それ人間大砲じゃねーか! 死ぬぞ!」
俺は慌てて止めようとした。
だが、マホは真顔で答える。
「大丈夫。計算済み。モアのビキニアーマーは不壊。そしてお尻の筋肉密度なら、衝撃に耐えられる」
「そういう問題じゃねえよ! 首がもげるわ!」
「アスクが空中で回復すればいい。……いくよ!」
聞く耳を持たない。
マホの杖の先端に、赤い魔法陣が展開される。
「よっしゃー!」
ドォォォォン!!
轟音。
そして噴き上がる爆炎。
マホの杖から噴射された爆発エネルギーが、モアの強靭な臀部を直撃した。
次の瞬間。
「ぎゃああああああああああ!」
モアの絶叫が空に吸い込まれていく。
彼女の体はロケットのように垂直に打ち上げられた。
凄まじい加速だ。
一瞬で音速を超えたのか、空中に白い衝撃波のリングが発生した。
「……発射成功。高度上昇中」
マホが満足げに頷く。
俺は口をあんぐりと開けて見送るしかなかった。
「アスク、追撃支援! 回復を!」
「あ、ああ! くそっ、無茶苦茶しやがって! 『ロング・レンジ・ヒール』!」
俺は慌てて空中の点に向けて回復魔法を飛ばした。その点はモアだ。
爆発のダメージと、急加速によるG負荷、そしておそらく鞭打ちになっているであろう首を瞬時に癒やす。
すると。
空中で姿勢を立て直したモアが、ガーゴイルの群れのど真ん中に到達していた。
「よくもお尻をー! 熱かったんだぞぉぉぉ!」
理不尽な怒りを込めて、モアが大剣を振るう。
空中で自由が利かないはずなのに、彼女は腰のひねりと筋肉だけで回転し、竜巻のような斬撃を繰り出した。
モアは落下するガーゴイルの残骸を蹴りつけ、上空に留まりながら暴れまわる。
ドガッ! バキッ! グシャッ!
ガーゴイルたちが次々と粉砕されていく。
彼らにとっても想定外だっただろう。
まさか地面から生身の人間が、砲弾となって飛んでくるとは。しかも半裸だ。
パニックを起こし、逃げようとするガーゴイルたち。
「すごーい! アスク見て見て! 私、鳥になったみたい!」
血と破片を撒き散らしながら、モアが無邪気に笑う。
鳥というか、迎撃ミサイルだ。
ビキニ姿のミサイルが、空を蹂躙している。
「……重力制爆発ベクトルを計算した完璧な弾道」
「確かに、これしかないかもな……」
俺は頭を抱えた。
だが、確かに効果は絶大だ。
上空の制空権は、いまや完全にモアのものとなっていた。
「よし、次は第二弾。アスクの番」
マホが杖をこちらに向けた。
俺の背筋が凍る。
「は?」
「モアだけだと、手数がたりない。討ち漏らすと後で面倒だから……アスクも飛んで」
「ふざけるな! 俺は回復役だぞ! それに俺のケツは爆破に耐えられない!」
「大丈夫。死なない程度に威力は抑えるから……いくよ」
「えっ、ちょ……やめろぉぉぉぉぉ!!」
ドォォォォン!!
再びの爆音。
俺の視界が反転する。
内臓が押し潰されるような圧迫感と、尻への熱さが同時に襲ってくる。
「ひぎゃああああああああ!」
俺も飛ばされた。
視界がぐるぐると回り、風圧で顔が歪む。
空中で死にかけながら、必死に自分にヒールを連打した。
回復魔法のエフェクトを纏いながら、俺は人間ロケットとなって空へ昇る。
端から見れば、光り輝く天使の飛翔に見えるかもしれない。
実態は、尻を焼かれて叫ぶおっさんだが。
「アスク! こっちこっち!」
上空でモアが手を振っていた。
彼女はガーゴイルの背中に乗り、サーフィンのように滑空している。
楽しそうだなお前は。
「くそっ、どうにでもなれ!」
俺はやけくそで杖を構えた。
目の前に、逃げ遅れたガーゴイルが一匹。
「おりゃあ!」
俺は加速の勢いを乗せて、杖をガーゴイルの脳天に叩きつけた。
バキィッ!
石の頭が砕け散る。
石像のくせに、空を飛ぶためか意外と脆い。
「……へへ、やったか……?」
俺は空中で体勢を崩し、きりもみ回転しながら落下を始めた。
地面が迫ってくる。
死ぬ。
これ絶対に死ぬ。
「マホぉぉぉ! なんとかしろぉぉぉ!」
「『エクスプロージョン・バースト』」
「ぐぁああああああああ! 『ハイ・ヒール』!」
俺は空中でマホに再加速されながら、目の前に現れたガーゴイルを一心不乱に殴り続けた。
数分後。
上空のガーゴイル部隊は全滅した。
地面には無数の石礫と、砕けたガーゴイルの残骸が散乱している。
俺たちはその中心に立っていた。
「ふぅ……。いい運動になったね! 空中戦も悪くないよ!」
「……対空戦闘データの収集完了。人間カタパルト戦術、実用性あり」
二人は涼しい顔だ。
俺だけが酔ってフラフラになり、地面に這いつくばっていた。
「もう……勘弁してくれ……」
俺は涙目で呻いた。
空を見上げる。
もう黒い点はひとつもない。
鉛色の空だけが、静かに俺たちを見下ろしていた。
そして。
目の前には、巨大な魔王城の城門がそびえ立っている。
門は、まるで今の騒ぎを嘲笑うかのように、音もなく開いていた。
中からは、どす黒い闇の気配が漂ってくる。
いよいよだ。
いよいよ、このふざけた旅の終着点が近づいている。過酷な旅でもあったが。
「……行くぞ」
「うん!」
「……了解」
俺は震える足で立ち上がり、最後のダンジョンへと足を踏み入れた。