俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった   作:エアロマグロ

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第31話:魔王城の罠

 俺たち一行は、魔王城に立ち入っていた。

 禍々しいオーラを放つ、巨大な城だ。

 

「わー、大きな城! 中庭とか大きくていいね!」

 

 モアが遠足に来た小学生のような感想を漏らす。

 

「日当たりも良さそう……。日光浴に最適……」

 

 マホも、緊張感のかけらもない。

 

 俺たちのパーティーには、罠解除ができるような存在がいない。

 だから、一番頑丈で反射神経のいいモアが先頭を歩き、自らの肉体で安全を確認するのが基本だった。

 

「よし、私が行くね! 任せて!」

 

 モアが真剣な顔で気を引き締め、城内へと足を踏み入れる。

 直後、足元の床がカチッと鳴った。

 

「あ、罠!」

 

 モアは野生の勘で即座に跳躍し、床から飛び出した無数の槍を見事に回避した。

 だが、ここは腐っても魔王城の殺戮トラップである。

 彼女の着地点を完璧に予測し、天井から巨大な鉄球が容赦なく降り注いだ。

 

「えっ」

 

 ドゴォォォォン!!

 

「モア! 『ハイ・ヒール』!!」

 

 俺は潰れたモアめがけて、即座に回復魔法を飛ばした。

 数秒後、モアは鉄球を退け、血まみれの体でニコニコしながら立ち上がった。

 

「えへへ、直撃しちゃった。でもアスクが治してくれたから平気!」

 

「平気じゃないだろ! 潰れてたぞ! 前を見て……いや、上も見て歩け!」

 

「大丈夫! これでここにある罠は一個潰れたから! 同じ罠にはもう引っかからない!」

 

 彼女の言う通り、発動し終えた罠はもう動かない。

 モアが真剣に回避しようとして裏をかかれ、重傷を負う端から俺が神速で回復させる。これがこのパーティーにおける罠解除の最適解だった。

 本来なら即死レベルの連続罠だ。しかし彼女は「アスクが治してくれるから何とかなる」という絶対的な信頼のもと、恐怖心を抱かずに突き進んでいる。

 

「よし、次も行ってみよう!」

 

 これ以降も、モアが意気揚々と先陣を切り続ける。

 案の定、次の通路では壁から無数の槍が飛び出してきた。

 モアは見事なステップで槍をすり抜けて回避するが、罠は計算された二段構えだった。

 

 回避した先で不可視の魔力線に触れ、通路の奥から網目状の極細レーザーが迫ってきた。

 逃げ場はない。触れればサイコロステーキのように細切れになる必殺のトラップだ。

 

「えっ」

 

 ジュワッ、という肉塊の焼ける音。

 

「モア! 『エクストラ・ヒール』!!」

 

 俺はバラバラになりかけたモアめがけて、魔力全開で最上級の回復魔法を叩き込んだ。

 数秒後、モアの肉体は空中でパズルのように組み合わさり、何事もなかったかのようにニコニコしながら着地した。

 

「えへへー、これでこの通路も安全だよ! アスクの魔法があれば、どんな罠も怖くないね!」

 

「もはや俺の魔法が怖え! 一瞬サイコロ状になってたぞお前! 俺の心臓が止まるかと思ったわ!」

 

 さらに次の大部屋では、足を踏み入れた瞬間に床一面が崩落し、灼熱のマグマが姿を現した。

 モアといえども、踏みしめる足場がなければどうしようもない。

 

「あつっ」

 

 ボウッ、という爆発音とともに、モアの姿が一瞬で黒焦げの炭と化す。

 

「モア! 『フル・ヒール』!!」

 

 俺は風化して崩れそうな炭の塊めがけて、渾身の回復魔法を浴びせた。

 数秒後、炭の表面がパリッと割れ、中から真新しい健康的な肌をしたモアがニコニコしながら飛び出してきた。脱皮のようだ。

 それを何度も繰り返し、対岸まで泳ぎきった。

 

「えへへー、サウナみたいで汗かいちゃった! ロープ投げるから、慎重に降りてきてね!」

 

「……いつも本当にありがとうな」

 

 俺自身は何のダメージも受けていないが、仲間の重症を見続けるのは精神に悪すぎる。

 追加の胃薬を飲み干してから、俺達は更に先へと進み続けた。

 この調子で、モアがことごとく回避不能の即死トラップに引っかかり、そのたびに俺が凄惨な死を無効化して罠そのものを物理的に使い潰しながら、ズンズンと城の奥へ進んでいった。

 

 ***

 

 玉座の間。

 

「……!」

 

 串刺しの痛みを笑い流し、必殺の網目レーザーでサイコロステーキにされ、超高温の業火で炭になりながら泳ぎ抜ける。

 やはりこいつらは人間ではない。

 魔族を遥かに超えた、真の怪物だ。

 

「……罠だけで仕留められると思ったが、ここまでか」

 

 バァン!!

 

 扉が豪快に蹴破られた。

 粉塵の中、ビキニアーマー姿の二人と、疲れ切った顔の青年が現れる。

 

「とうちゃーく! ここが魔王の部屋?」

 

「天井が高い……。開放感がある……」

 

 二人は観光客のようにキョロキョロしている。

 そして、その背後から青年――アスクが一歩前に出た。

 

「よくぞここまで来た、変態どもよ……」

 

 魔王城、最奥。玉座の間。魔王がゆっくりと立ち上がった。

 その魔力量は、これまでの四天王とは桁が違う。

 

「我が名は魔王ゼノン。恐怖と絶望を司る者……」

 

 魔王が名乗った瞬間、空間の重圧が跳ね上がった。

 息をするのすら苦しいほどの殺気と魔力。

 これまでの四天王とは全く違う。正真正銘の、世界を滅ぼす災厄の威圧感だ。

 

「……アスク、下がって。こいつ、やばい」

 

 いつもは能天気なモアが、大剣を両手で構えて低く身を沈めた。

 その表情から、一切の笑みが消えている。

 

「……魔力密度の次元が違う。気を抜けば、瞬きする間に殺される……」

 

 マホも杖を構え、かつてないほどの緊張感を漂わせていた。

 額には冷たい汗がにじんでいる。

 二人は魔王の底知れぬ実力を瞬時に感じ取り、遊ぶ余裕など完全に消え失せていた。

 

 最終決戦が、今始まる。

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