俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった   作:エアロマグロ

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第06話:裸のエリート聖騎士

 聖女教会から感謝状が届いたのは、あの地下墓地での一件から数日後のことだった。

 そこには聖女ルナの筆跡で、こう記されていた。

 

『貴殿らの崇高なる自己犠牲の精神に、深く感銘を受けました。その「捨て身の極意」を、ぜひ未来ある若き聖騎士たちにも伝授していただきたい』

 

 俺は、手紙を持ったまま震えていた。

 自己犠牲?

 捨て身の極意?

 違う。

 ただの被弾ゾンビ戦法だ。

 

 だが、俺に拒否権はない。

 ギルドマスターからも「聖女教会とのパイプができるなら安いものだ」と、半ば強制的に引き受けさせられてしまったのだ。

 

「えー、教官やるの? めんどくさーい」

 

 大剣使いのモアが、ソファでゴロゴロしながら文句を言う。

 相変わらずのビキニ姿だ。

 

「でも、後輩ができるってことなら……私の理論を広めるチャンス。魔術師は己の理論を後世に残してこそ……」

 

 魔術師のマホが不敵に笑う。

 俺は胃薬を飲み下し、天を仰いだ。

 嫌な予感しかしない。

 

 ***

 

 当日。

 ギルドの裏手にある錬兵場には、三十名ほどの少女が整列していた。

 聖女教会の聖騎士見習いだ。

 彼女たちは「聖女親衛隊」とも呼ばれる、将来有望なエリート候補生たちだ。

 全員、純白の訓練着に身を包み、緊張した面持ちで直立している。

 あまりにも眩しく、そして女子校のような華やかさだ。

 

「「本日より指導を受けます! よろしくお願いします!」」

 

 号令と共に、一斉に頭を下げる見習いたち。

 その視線の先には、俺たち変態騎士団がいる。

 ローブ姿の俺と、ビキニ姿の二人の問題児。

 異物感がすごい。

 特に俺。女子の集団に男一人。居心地が悪すぎる。

 

「えー、それでは訓練を始める」

 

 俺が挨拶しようとした、その時だった。

 

「まずは服を脱いでくださーい!」

 

 モアが叫んだ。

 錬兵場が静まり返る。

 

「……はい?」

 

 代表の少女が聞き返す。

 

「だから、服! その白いやつ! 邪魔だから!」

 

 モアは自分のビキニを指差して力説する。

 

「鎧なんて着てたら、動きにくいし重いし、敵の気配を肌で感じられなくなっちゃうでしょ? 戦いの基本は、全部脱ぐことだよ!」

 

 基本ではない。

 断じて違う。

 だが、見習いたちは顔を見合わせた。

 

「こ、心の鎧を脱げという意味でしょうか……?」

 

「いや……物理的にと言っているように聞こえたわ……」

 

「でも、聖女様は言っていたわ。『信仰の前には衣服など無意味』と……」

 

 ざわめく見習いたち。

 そこへマホが追い打ちをかける。

 

「痛みを……知って」

 

 マホが杖を振り回す。

 

「人は痛みを恐れるから動きが鈍る……。でも、痛みはただの信号……だから……」

 

 マホはニッコリと笑った。

 

「……わざと殴られて」

 

「ええっ!?」

 

「アスクが治してくれるから大丈夫……。死ぬ気で殴り合って、痛みを恐れない脳みそに作り変える」

 

 狂気のマッドサイエンティストだ。

 

 二人は、それぞれの持論もとい、妄言を展開した。

 普通なら、ここで「ふざけるな」と暴動が起きるはずだ。

 しかし、彼女たちは聖女教会のエリート。

 自らの上司聖女ルナによって「変態騎士団=聖人」という事前情報が刷り込まれている。

 

「……わ、わかりました!」

 

 代表の少女が決意の表情で叫んだ。

 金髪をポニーテールにした、委員長タイプの美少女だ。

 

「我らの覚悟、お見せいたします!!」

 

 ビリッ、ビリビリッ!

 錬兵場に、布が裂ける音が響き渡った。

 三十人の少女たちが、一斉に訓練着を脱ぎ捨てたのだ。

 白いキャミソールや、可愛らしい下着姿になる。

 

「きゃああああ! 恥ずかしいいいい!!」

 

「でも……なんだか解放された気分ですわ!」

 

「これが……聖人の教え……!」

 

 もはや聖女教会というより、カルトの集会だ。

 俺は頭を抱えた。

 ギルドの窓から、男性職員たちが鼻血を出して倒れているのが見えた。

 通報される。間違いなく通報される。

 

 ***

 

 訓練という名の羞恥プレイが始まって数時間。

 錬兵場はカオスな状況になっていた。

 

「痛い痛い! もっと殴って!」

 

「風だ……私は風になっている……パンツ一丁で!」

 

「肉を切らせて……骨を断つ!」

 

 見習いたちはお互いに木剣で殴り合い、血を流しながら笑っていた。

 俺は必死に『エリア・ヒール』をかけ続け、何本目かもわからないMPポーションが空になっていく。

 

「アスク様! 回復ありがとうございます! おかげで無限に痛みを味わえます!」

 

 少女がキラキラした目で俺に感謝を述べる。

 やめてくれ。

 そんな目で俺を見るな。

 

 その時だった。

 ズズズズズ……。

 錬兵場の隅にある排水溝から、異様な音が聞こえてきた。

 緑色の粘液が、とめどなく溢れ出してくる。

 

「なんだあれは……?」

 

「スライム……? いや、色が違うぞ」

 

 緑色の液体は、瞬く間に膨れ上がり、人の背丈ほどの大きさになった。

 アシッド・スライム。

 強力な酸を持つ、危険な変異種だ。

 それが、一匹や二匹ではない。数十匹の大群となって押し寄せてきた。

 下水道で繁殖していたのが、訓練によって生じた血や汗の臭いにつられて出てきたのだろう。

 

「ひぃっ! スライムだ!」

 

「武器を取れ! ……ああっ、木剣が溶かされる!」

 

 見習いたちが応戦しようとするが、木剣は触れた瞬間に腐食し、ボロボロになった。

 酸は地面の石畳すら溶かし、煙を上げている。

 

「逃げろ! 装備がない状態じゃ戦えない!」

 

 誰かが叫んだ。

 パニックが広がる。

 当然だ。彼らはまだ訓練生。しかも今はほぼ全裸だ。

 酸を浴びれば、大火傷では済まない。

 

「うろたえるな!!」

 

 一喝。

 響き渡る怒号。

 モアだった。

 彼女は大剣を構え、スライムの群れを睨みつけていた。

 

「装備がない? 武器が溶けた? それがどうした!」

 

 モアは叫ぶ。

 

「お前たちの武器はなんだ! 剣か? 鎧か? 違うだろう!」

 

 モアが自らの胸を叩く。

 

「その身体ひとつ! 砕け散るまで戦う意志! それこそが最強の武器だろうが!!」

 

 無茶苦茶だ。

 精神論にも程がある。

 だが、その言葉は、混乱する見習いたちの心に火をつけた。

 

「そ、そうだ……」

 

「聖女様は言っていた……信仰は物理法則を超える、と……」

 

「我らは聖騎士……肌を晒してこそ最強……!」

 

 見習いたちの目に、怪しい光が宿る。

 覚醒してしまった。

 

「行くぞお前ら! スライム如きにビビるな! 溶かされたらアスクが治してくれる!」

 

「「「うおおおおおおおお!!」」」

 

 突撃。

 半裸の集団が、スライムの群れに突っ込んだ。

 もはや武器はない。

 拳で殴り、蹴り飛ばし、あるいは抱きついて締め上げる。

 

「ああぁぁぁ!! 熱い! 溶ける!」

 

「肌が! 私の肌が!」

 

「でも止まらねぇぇぇ!!」

 

 酸が飛び散る。

 見習いたちの皮膚が焼けただれ、煙が上がる。

 普通なら激痛で動けなくなるはずだ。

 だが、彼女らは攻撃をやめない。

 

「アスク様! 回復を!」

 

「……『ハイ・エリア・ヒール』!!」

 

 俺は叫びながら杖を振った。

 光の雨が降り注ぐ。

 

 ただれた皮膚が、一瞬で再生する。

 溶けた指が、元通りになる。

 

「すげぇ! 本当に治った!」

 

「無敵よ! 私たちは無敵よ!!」

 

 恐怖が消え、万能感が彼らを支配する。

 痛みへの恐怖を失った人間は、もはや人間ではない。

 ただの戦闘マシーンだ。

 

「死ねぇぇぇ! このゼリー野郎!!」

 

 一人の少女が、スライムの中に頭から突っ込んだ。

 顔面が溶けるのも構わず、内部の核を噛み砕く。

 

「味しねぇ!!」

 

 ペッ、と核を吐き出す少女。

 顔面はドロドロだが、直後に俺のヒールで元通りになる。

 美女に戻った彼女は、血濡れの笑顔でサムズアップした。

 

 地獄絵図だ。

 スライムたちは、恐れをなして逃げ出そうとしていた。

 だが、覚醒した変態集団は逃さない。

 素手で掴み、引きちぎり、踏み潰す。

 

 数分後。

 錬兵場にはスライムの死骸と、仁王立ちする半裸の乙女たちだけが残っていた。

 夕日が彼らを照らす。

 その背中は、どこか神々しく……いや、やっぱりただの変態だった。

 

 ***

 

 後日。

 聖女教会から再び手紙が届いた。

 そこには、震えるような筆致で感謝の言葉が綴られていた。

 

『訓練の成果を確認させていただきました。彼女らの目は以前とは比べ物にならないほど力強く、覚悟に満ちています。

 もはや彼らは鎧に頼る軟弱な騎士ではありません。これぞ、真の聖騎士の姿です』

 

 ……いいのか、それで。

 本当にいいのか、聖女教会。

 

 街では、新たな噂が広まっていた。

 

「聞いたか? 聖女教会、変態騎士団の傘下に入ったらしいぞ」

「今度のパレードは全員下着らしいぜ」

 

 俺はこの依頼を受けてしまったことを後悔したが、過ぎ去った時は戻らない。

 俺は意図せずして、とんでもないカルト教団を作り上げてしまったのかもしれないのだ。

 

「ねえアスク、次の弟子はいつ来るの?」

 

 モアが無邪気に聞いてくる。

 俺は無言で胃薬を取り出し、まとめて口に放り込んだ。

 苦い。

 だが、現実のほうがもっと苦い気がした。

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