俺の回復魔法が優秀すぎるせいで、仲間が全員ビキニアーマーになった 作:エアロマグロ
雪山の秘湯から王都に帰還した俺たちのもとに、一枚の招待状が送られてきた。
差出人は王様だ。
内容は、以前討伐したマグマゴーレムが占拠していた鉱山の、再稼働記念舞踏会への招待だった。
「舞踏会! ステーキ食べ放題?」
「ダンスなんて踊れるかな……ステップの物理演算をしておかないと……」
モアとマホの二人は浮かれている。
だが、俺――アスクの顔色は優れない。
王宮。舞踏会。
つまり、国中の貴族が集まる公式の場だ。
そこで変態騎士団の名を轟かせるわけにはいかない。
「……いいか、お前ら」
俺は真剣な表情で二人に告げた。
「今回は、まともな服を着てくれ。絶対だぞ」
「えー、なんでよー」
モアが不満げに唇を尖らせる。
彼女たちは現在、当然のように聖女のビキニを着用している。
「これ王様からもらった装備だよ! 着ていったほうが絶対喜んでくれるよ!」
「そう……。このビキニこそが、私たちのシンボル……」
「それはそうだが!」
俺は食い気味に否定する。
確かに、国王陛下は認めた。あろうことか、この痴女スタイルを「英雄の姿」として公認してしまった。
だが、世間一般の常識は違う。
他国の賓客も来るかもしれない場所で、ビキニアーマーは外交問題になりかねない。
「TPOだ。時と場合と場所。これを弁えるのが大人のマナーだ」
俺は用意していたカタログを広げた。
王都でも指折りの最高級のパーティードレス職人のものだ。
「頼む。今回だけでいい。普通のお嬢様として振る舞ってくれ。俺の胃のために」
俺の悲痛な叫びに、二人は顔を見合わせた。
そして、渋々といった様子で頷いた。
「わかったよぅ。アスクがそこまで言うなら」
「まあ、たまには気分転換も悪くない……」
勝った。
俺は心の中でガッツポーズをした。
これで平和な夜が過ごせる。
そう思っていた。
……この時までは。
***
舞踏会当日。
正装した俺は、王宮のホールで彼女たちの到着を待っていた。
燕尾服を着るのは久しぶりだ。
少し緊張するが、今日の主役は彼女たちだ。
どんなドレス姿で現れるのか。
きっと見違えるように美しいはずだ。
「お待たせー!」
声がした。
振り返った俺は、石になった。
「……は?」
そこにいたのは、確かにドレスを着た二人だった。
だが、何かがおかしい。
決定的に、布が足りない。
「どう? アスク! 動きやすいよ!」
モアがくるりと回る。
深紅のドレス……だったものは、背中が腰まで大胆にカットされ、スカートも前側が極端に短く、太ももが丸出しになっていた。
「ちょ、おま、それ……!」
「だって、背中に大剣背負うのに邪魔だったんだもん。切った!」
切った!?
最高級シルクを!?
「私も改造してみた……」
マホのドレスは、さらに凄まじい。
両サイドに腰まで及ぶ深いスリットが入っており、少し動くだけで脚の付け根まで見えそうだ。
「可動域の確保は最優先事項……。これならハイキックも打てる」
俺は頭を抱えた。
ドレスの意味がない。
というか魔術師がハイキックを打つな。
これでは、「布切れを纏ってない変態」が「少し高い布切れを纏った変態」になっただけだ。
「……もう、いい。行こう」
俺は諦めた。
これ以上言っても、彼女たちが布を増やすことはないだろう。
俺たちは、注目を浴びながら会場へと足を踏み入れた。
ざわ……。
会場がどよめく。
「おい見ろ、あれが噂の……」
「なんて大胆なカッティングなの……」
「あれが最先端のモードなのか……?」
「防御を捨てた背水の陣、まさかドレスにまで取り入れるとは……!」
貴族たちの反応は、意外にも悪くなかった。
むしろ、一部の若手令嬢たちが熱心にメモを取っている。
やめてくれ。
この国のファッション文化の行く先が心配だ。
俺が胃薬を握りしめて会場の壁で気配を消していると、ファンファーレが鳴り響いた。
国王陛下の入場だ。
「皆の者、楽しんでいるか!」
国王がバルコニーから手を振る。
その時だった。
ガシャン!!
天井の巨大なシャンデリアが、轟音と共に落下した。
悲鳴が上がる。
「国王の命、頂戴する!!」
叫び声と共に、黒尽くめの集団が窓を破って乱入してきた。
手には短剣や毒の塗られたナイフ。
暗殺者だ。
その数、二十人以上。
「くっ、曲者だ! 出合え!」
近衛騎士たちが剣を抜くが、不意を突かれて動きが遅い。
暗殺者たちは手練れだ。
瞬く間に護衛を突破し、国王へと迫る。
「おいしそうな料理が台無しじゃん!」
モアが叫んだ。
彼女の手には、いつの間にか大剣が握られている。
「行くよマホ! 王様を守るよ!」
「了解。ターゲット捕捉」
二人が飛び出す。
だが。
「あーもう! 裾が邪魔!」
モアが足を滑らせそうになる。
改造したとはいえ、やはりドレスは戦闘用ではない。
ヒラヒラした装飾が動きを阻害する。
「袖が引っかかる……」
暗殺者の一人が、ニヤリと笑う。
「ふん、着飾ったお嬢ちゃんたちに何ができる! 死ね!」
暗殺者が駆け寄ってきたその時、モアが俺を見た。
「アスク!」
「……え?」
「このヒラヒラしたやつ、脱いでいい!?」
俺は一瞬迷った。
だが、王の命には代えられない。
「……許可する! やっちまえ!」
俺は叫んだ。
ビリィッ!!
盛大な音が響く。
二人が自らの手で、最高級ドレスを引き裂いたのだ。
舞い散るシルクとレース。
その中から現れたのは。
眩いばかりの、プラチナ色の輝き。
聖女のビキニを身に纏った、いつもの姿だ。
モアは目の前まで迫った暗殺者を、ついでとばかりに大剣で薙ぎ払った。
ドガァッ!!
豪快な音がして、暗殺者が壁まで吹き飛んでいく。
「はぁー! スッキリした!」
モアが肢体を伸ばす。
「やっぱりこっちの方が落ち着く……」
「身体が軽いよ!」
暗殺者たちが目を点にする。
「な、なんだと……!?」
「なんだそのふざけた装備は……!?」
動揺する敵に対し、ここからは一方的な蹂躙劇だった。
「肉を切らせて骨を断つ!」
モアが刃を素肌で受け止めながら、大剣を一閃させる。
ザシュッ、と敵が吹き飛ぶ。
モアの傷は、俺の『ハイ・ヒール』で瞬時に塞がる。
「『エクストラファイアボール』」
マホが自分に近づいた暗殺者に、自爆覚悟で爆発魔法を放つ。
「な、なんだこいつらは!?」
「斬っても斬っても治るぞ!?」
「しかも、なぜビキニなんだ!?」
暗殺者たちは恐怖した。
煌びやかな舞踏会場を血と暴力、そしてビキニが支配する。
それは、あまりにもシュールで、あまりにも圧倒的な光景だった。
数分後。
暗殺者たちは全員、床に伸びていた。
会場は静まり返っている。
貴族たちはポカンと口を開けて、半裸の二人を凝視していた。
「……やりすぎたか?」
俺が冷や汗を流していると、バルコニーから拍手が響いた。
国王陛下だ。
「見事だ!!」
国王は身を乗り出して称賛した。
「敵を油断させるためのドレス姿、そして一瞬での戦闘態勢への移行! さらに、あの防御を捨てた勇猛果敢な戦いぶり!」
国王の声がホールに響き渡る。
「余は感動した! そのビキニこそ我が国の平和を守る盾であると、改めて確信したぞ!」
王の言葉に、貴族たちがハッと我に返る。
そして、割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「ブラボー!!」
「ビキニこそ正義!」
「変態騎士団……素晴らしい!!」
称賛の嵐。
モアたちは誇らしげに手を振っている。
俺は床に散らばった最高級ドレスの残骸を拾い集めながら、そっと涙を流した。
「……もう、何も言うまい」
「ねえ、見た? 素敵だわ……」
「いざという時、このドレスは足手まといになるのね……」
ふと見ると、令嬢たちが熱っぽい視線でモアたちを見つめていた。
中には、自分のドレスの裾をまくり上げ、どこまで切れば動きやすいかシミュレーションしている者までいる。
この国の貴族界で、ビキニファッションが流行ろうとしているのだ。
この国の美的感覚と常識は、変態二人に侵食されてしまったのかもしれない。
俺は諦めの境地で、拍手を送る群衆を眺めていた。