奇怪解体、怪奇解体、怪異解体 作:怪異
ずっと脳をこんがり焼かれてもはや脳が炭になっている人間が書いているので捏造とご都合が過多です。
「……ふむ、これは非常に興味深いですね」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ?!」
目の前で会話を始めた、全く同じ髪色、全く同じ瞳色。
全く同じ顔__のはずだが、全くそうは思えない二人の人物。
隣を見る。頼れる我らが運転手__は世を偲ぶ仮の姿で、本当は警視庁公安部のなんか覚えてないが偉いとこの人。
そして、私。
「……ジャスミン…じゃなくて、止木休美さん、で間違いない?」
「間違いない。そっちは柳田綾瑪で間違いない?」
「間違いない」
半ば現実逃避と相違無かった、二度目ましてのはじめましてを終えて。
現実に目を戻さねばならない時が来てしまったようだ。
「………廻屋渉、と……貴方は、福来あざみさん?」
「ええ。都市伝説解体センター、センター長の廻屋です」
「調査員の福来あざみです!」
どこからどう見ても別人だし、同時に二人きちんと存在している。
廻屋渉と福来あざみさんは、同じ体を共有している同一人物だ。
主人格は如月歩さん。副人格に廻屋渉と福来あざみさん。
副人格のふたりを主軸として、
「………ジャスミン。わたしたち、もしかして壮大なドッキリを仕掛けられてたりしない?」
「いや、流石に無理あるっしょ。……無理あるよね?」
「だろうね。ドッキリだとしたら悪趣味すぎる…」
「ドッキリなんかじゃないですよー!私たちもなにがなんだか……」
文字通りの怪奇現象だ。遂に人類は人格を切り分けてデザインベビーとかに人格を移し替えることが可能になったのだろうか。そうだとしたら倫理観がおかしいことになってるから一回止まった方がいい。
センター長を見る。胡散臭い笑みだ。
「センター長。依頼を」
「ええ、どうぞ」
「“この現象を解き明かすこと″。頼みますよ」
「上出来です」とそう言って、センター長は笑った。
「ではいつも通り、『特定』に入りましょう」
「え?!調査はしないんですか?」
「この案件については、あまり周囲から情報は得られないでしょうから。
変に調べてノイズが入るよりは、手持ちの情報だけでサクッと特定しましょう」
「サクッと特定とか初めて聞いたわ………」
「今更ながら、私は歩けるようですね」と言いながら本棚から本を取り出すセンター長。
勝手知ったるように歩き回っているが、そもそもここは一体……とあたりを見回して、初めて気付いた。ここ、センター内だ。
「さて。まずは本案件の特徴を整理していきましょうか。
我々は突如としてここに来てしまったわけですが、奇怪な現象はそれだけではありませんね?
では、綾瑪さん。我々にたった今起こっている奇怪な現象とは、一体なんでしょう?」
「“センター長と福来さんが、別々に同時に存在していること″。貴方達は如月歩さんの体を共有している副人格のはず……少なくとも、私はジャスミンや富入さんからそう聞いているので」
「Great!」
声が大きい。センターは地下にあるのでよく響く。
そして無駄に発音が良い。これも、いつものことだった。
「調査員を辞めてから暫く経ちますが、腕は鈍っていないようで安心しましたよ。
まず第一の異変、それは私とあざみさんが同時に存在できていることです。あざみさんからすれば知りようのないことですが、あざみさんがいる場所に私はいませんからね。これは一体どういうことでしょう?」
わたしは、福来さんが入ってくるよりも前にセンターを辞めた。大学卒業が近づき、バイトをしている余裕がなくなったという、まあそれなりにありきたりそうな理由ではあるのだが。
そのあとのグレートリセット。更にその後に、ジャスミンや富入警視監が直接来て事情を話してくれて、漸く全てを知った。
だから、私はジャスミンのように、当事者となって全てを知ったわけではない。あくまで聞いた情報で、「どうやらそうらしい」としか言えないのだ、が……………まあ、反応からして事実ではあるのだろう。
「次に、この場所についてです。
この場所についても、本来であれば有り得ないような、おかしな点がありますが…
ジャスミン。この場所にある、本来あってはいけないもの、とはなんでしょう?」
「…あー、そういうことか。それなら、“この場所そのもの″だわ。
忘れてたけど、センターの入ってる建物はグレートリセットのあとに解体されてる。……文字通りの意味で。
あざみーが言ってた内装と寸分違わず一致するし、そもそもあそこはほぼ空き家みたいな状況だった。あたしらがこの部屋をこの形で見てることじたいがおかしいんだ」
「Excellent!あざみさんが来て以来、特定はしていませんでしたから、密かに案じていましたが…問題はないようですね。
そう、私と歩さんの計画の中に含まれていたように、センターのある建物は解体されました。あざみさんが見たセンターは、何もない空き部屋を歩さんがあたかもセンター内のように見せていただけ。
要するに、この場所が、私やあざみさんの知るセンターの中であることが第二の異常、ということです」
あの建物、解体されてたんだ。今更ながらに初めて知った。
ジャスミンはセンター長と福来さん………改め、如月歩さんを追って、どこかの海外へと向かったらしい。
わたしはどこまでも、いち部外者でしかなかった。あの後も、わたしは何も変わらない日々を過ごした。
わたしはSNSでアカウントを持っていたけれど、特に何も重要な情報は流出しなかったからだ。住所も、電話番号も、写真も、なにも。どうせ知っていただろうに、なにもSNSの海には流れ出なかった。
その現象の意味を、わたしは知らない。
「往々に、都市伝説には何かをすることがトリガーとなって発生するものがあります。
ブラッディメアリー、きさらぎ駅や異世界エレベーターを含む異界……
では、あざみさん。そもそもここに来る前、私達は一体何をしていたでしょうか?」
「えーっと……あれ?なんだか記憶がぼんやりしているけど…特に何もしていなかったような気がします」
「Brilliant!今回は変な小ボケを挟みませんでしたね、あざみさん。真面目でよろしい。
そう、我々は突如として、何もしていないのにこのような状況に陥っています」
わたしも、特にそういった都市伝説のトリガーになりそうな行動をした記憶がない。
というか……こうなる直前の記憶がひどく曖昧で、ぼんやりと霧がかかったようになっているのだ。
寝て起きたらこうなっていた気もするし、眩暈がして倒れて目を開けたらこうだった気もする。
「さて。この条件に該当する都市伝説は___」
それなら、なんとなくイメージがついた。
これでも元調査員、出会った事件は数知れず。センター長の早口語りを聞いた回数も数知れず。
「『神隠し』です」
「か…神隠し?!?!」
「出た。アバウトな案件だ……『異界』もそうだったよね?」
「わたしが一人で調査員やってたときは『幽霊』があった。今思えばアバウトすぎるだろ…」
「こちらでSNS調査を行ったところ、都市伝説解体センターは元から実在しており、上野天誅事件も起こり、グレートリセットも起こったようです。
しかし、私は如月努の弟__如月渉として存在していて、妹に如月歩がいました。今は生き別れの状態のようですが。
グレートリセットを起こしたSAMEZIMA管理人がイコールで如月歩。そして如月歩が起こそうとしていたグレートリセットを止めようと、或いは被害を軽減させようとしていたのが如月渉…改め、廻屋渉。そしてそんな廻屋渉が雇ったのが、柳田綾瑪と福来あざみ。
SAMEZIMA管理人と疑われていた廻屋渉の監視として送り込まれたのがジャスミン……と。まあ、このような図式になっているようです」
廻屋渉が如月渉として実在している世界が、ここだ、と。そういうことか。
しかし、それがどうして『神隠し』に?
「『チェンジリング』とも似ていますね、綾瑪さん?」
「…あー……異界の存在が人間と入れ替わる、という点ではそうかもしれませんけど。
そもそも神隠しって、人間が神に気に入られたりして連れ去られてしまうことでしょう?この状況とは少し違うのでは?」
「Fabulous!欲しい質問をくださりますね。
神隠しには、連れ去られた人間とそっくりな存在が残される、というパターンが存在するのです。
『神隠し』は、都市伝説というより、古来よりある伝承ですからね。時代や地域によって形をいくらでも変えていきます」
スマホを開いてぽちぽちとSNSを見てみれば、「米花町」の文字があった。なんて読むんだこれ、こめはなまち……なわけないな。
おとなしく検索欄に叩き込んでみれば、べいかちょうと言うらしい。ベイカー街かよ。つーかどこだよ米花町。
「センター長。なんかここ米花町らしいですね」
「いやどこだよ」
もう少し検索を重ねてみる。どうやら東都にある町らしい。東都ってどこだよ。
位置的には東京だ。うーん確かに何かが違う。
「…調べてみたけど、米花町って犯罪が多発してるとこらしい。通称は日本のヨハネスブルク」
「なんで日本の治安はそんなに悪化したんだよ」
さっきからジャスミンのツッコミが冴え渡っている。ヨッ、さすがは偉い人!
福来さんもスマホを取り出してなにやら検索し始めた。センター長はさっきからパソコンのキーボードをものすごい勢いでタイピングしている。
「……あざみさん。貴方は『神隠し』でSNSの噂を追って行ってください。綾瑪さんはそのまま米花町を調べて頂ければ。私は都市伝説解体センターについて調べるので」
「え、センターについてですか?なんでそんなこと……」
「グレートリセットが起こってから今までで、少なくとも半年程度は経過しています。その間にセンターが何をやって来たのか調べなければ、困るのは我々ですよ?『神隠し』解体の目星はついていませんから、しばらくはこちら側の案件を引き受けて稼ぎながら『神隠し』を解体していく……という手順が良いでしょう」
こちらのわたしの銀行口座を開き、残金を確認しておく。結構あった。こっちのわたし、ナイス。喜んで勝手に使わせてもらおう。
家の位置も変わっていない、そのようだ。
「では___始めましょうか。
崩壊と審判を経て、新たなる予言の通り、この案件を解体する__」
センター長が、自分のデスクに置かれていた一枚の紙を手に取った。
こちらに見えるように上げてくれたので、遠慮なく間近でじっと見てみる。
「………イルミナカード!?」
「おいおい、マジかよ……?!」
驚いた声をあげる福来さんとジャスミン。
SAMEZIMAのサイトで話題にもなっていた…気が、する。あまり覚えてはいないが。
「『神域から侵す現』…?」
「イルミナカード…とはおそらく制作者は違いますが、イルミナカードと呼称するしかないでしょう。
この『神隠し』の案件は、何者かによって予言……いえ、予告されていたようですね」
口角を僅かに上げたセンター長。
椅子に座ったまま、デスクの前で手をわたしたちに向けて開いた。
「都市伝説解体センターは、この神域…米花町にて、支部として再起動することにしましょう。
あざみさん、綾瑪さん、ジャスミン。手伝ってくださりますね?」
「は、はいっ!頑張ります……!!」
「はいはい、分かった分かった。やれることはやるよ」
「はい。乗りかかった船、というやつですね」
入口の方に向き直って、エレベーターの向こう側から漏れている光をぼんやりと眺めた。
わたしとセンターのはじまりも、こんな光景だったっけ。
福来さんも、この光景を見たのだろうか。ジャスミンはセンター長に会ったことがないと言っていたから、この景色は見ていないのだろうけど。
「ようこそ、都市伝説解体センター、神域……いえ、米花町支部へ」
怪異にお悩みなら、是非お電話を。
優秀な調査員が、現場に出向いて調査しますので。
止木「つーか、歩けるんでしょ?センター長も現場出るんだよね?」
廻屋「ええ、私も調査しますよ。………きっと」
柳田「言いましたね?」
福来「わー!センター長は千里眼がありますから!!ね!?!」
・ 柳田 綾瑪
都市伝説解体センターの元調査員。この度めでたく再就職した。
兼業する形で細々と残り続いていた、「本物」の怪異を解体する家の末の娘。おそらく、都市伝説解体センターと出会わなければ、その「本物」を解体する技術も使わずに一生を終えていたであろう人間。
ジャスミンが入る少し前(本編第一話の半年以前)から居たが、本編プロローグ前には辞めていた。
定例のセンター長からの無茶振りと怪異(真偽問わず)と関わり続けた結果なのか、妙に肝が座っている。
・ 怪異について
怪異、として扱われるものは、大半はゲームのストーリーでもそうだったように、人為的なもの。
しかしいくつかの章(ブラッディメアリーやコトリバコ)でそうだったように、「本物」は少数ながら存在する、という解釈をしています。
コトリバコのラストが仮に「眉崎は毒物を仕掛けられていた」とかであっても、ブラッディメアリーのラストで四谷さんに何かを仕掛ける意味はありませんし、あれは少なくとも仕込みや仕掛けではなかったのかなァ〜……と。妄言ですが、そういうことで。