二周目なおや君with天与呪縛   作:俺はお兄ちゃんだぞ!!

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一発ネタです。





一話

禪院家には天才がいる。

 

それを知ったのは今から四年前、俺達躯倶留隊(くくるたい)の間で回ってきた噂だった。

 

禪院 直毘人(ぜんいん なおびと)様の末の息子、禪院 直哉(ぜんいん なおや)が齢六歳にして禪院家最強だという話。

 

すでに術式が直毘人様と同じ『投射呪法』を持っていることも判明している。

だがそれだけでは全員が口をそろえて天才とは言わない。

 

彼がそう呼ばれる理由はその呪力量と技術にある。

 

六歳にして呪力量が禪院家の呪術師の中でもっとも多い。

さらに教えられた呪力操作や技術をスポンジのように吸収し、今や呪力の基礎操作や技術ですら禪院家の中でもっとも上手いと言われている。

 

そして最後に、彼は領(・)域(・)を(・)会(・)得(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

この噂を聞いた時はそのあまりの無茶苦茶さに鼻で笑った。

六歳のガキが禪院家の中で呪力量や技術が一番な上に、領域を会得している?

 

なるほど、それなら次期当主も納得だ。

 

それが本当だったらの話だが。

 

領域は呪術師において奥義に等しい技、使えるものは呪術師全体で見ても一握りになる。

禪院家の中でトップクラスの実力を持つ者達だけで構成された精鋭部隊。

その人たちでさえ領域を使う事はできないんだぞ。

 

俺達、躯倶留隊(くくるたい)は彼らの露払いをするのが仕事になる。

 

ここは禪院家に生まれながら術式を持たない男子はここに所属する事を義務付ける。

当然だが、この家での待遇は良くない。

 

だからもしこの噂が本当なら次期当主は確定していると言ってもいい。

 

その天才には媚びを売っておかないといけないところだが、こんな与太話を信じる方がどうかしてる。

 

――――そう思っていた。

 

「・・・・ぅ、ぁ」

 

俺の口から言葉にならない情けない声が漏れ出た。

全身から冷や汗が止まらない、当てられた呪力に反応した俺の身体が生命の危機だと警告を発している。

 

そんな自分を弱虫とは思わない、誰だって一緒だ。

 

俺の視界に映るのは小さな子供、なのに溢れ出る呪力は今まで感じたことがないくらい大きい。

 

噂は本当だったんだと身体で教えられた。

 

くそ、なんでこんな時に俺一人なんだ!

 

とにかく何か言わないと、相手は子供なんだ、ちょっとしたことで嫌われてもおかしくない。

 

そうなったら俺は終わりだ。

 

「おは、おはよ、うござ」

 

口が痙攣してうまく話せない。

終わった、俺は死ぬことが確定した。

せめて童貞を捨ててから死にたかった。

 

 

 

 

「おはよう、朝早いのに訓練とはえらいねぇ」

 

 

 

その柔和な声に思考が一瞬で停止した。

固まる俺に向かって彼は細い目と薄い笑みを浮かべて話を続ける。

 

「ぼく、禪院直哉いいます。よろしゅう」

 

そう言って頭を下げる彼に思考を取り戻した俺は慌てて頭を下げ自身の名前を告げる。

なんだ、なにが起こってる!?

 

目の前には優しそうに微笑む子供、呪力量に圧倒されて身体が震えてしまったが、改めて見ればこちらに敵意はなく、それに俺を下に見るような貶した視線も感じない。

 

あるのは逆に友好的な雰囲気。

 

「ぼくもこれから訓練やねん、よかったら一緒にしようや」

 

「わ、わかりました」

 

これが俺と彼の出会い、四年前の出来事。

この時のことを俺はすぐに仲間に伝え、最初は俺と同じように鼻で笑うみんなも実際に会って、またしても俺と同じ反応をしながら話をするようになった。

 

 

 

 

◇

 

 

「きしょいねんほんまーーーーー!!!!」

 

俺は腹の底から湧いてきよる怨嗟の声を叫ぶ。

何で俺があんなカス共に笑顔で話しかけなあかんねん!!

 

一緒に訓練なんかしても何の意味もないわ!邪魔やねん!一人で訓練させろや!!

 

なのにこの身体は勝(・)手(・)に(・)カス共にいらんお節介をしてまう。

 

さっきもそうや、なんで俺が術式も持ってないカスにアドバイスをせないかんのや。

 

「・・・・はぁ。ほんま、何でこうなってしまったんやろ」

 

俺は誰もいない訓練所で一人、項垂れる。

 

思い出すのはあの時の記憶。

 

・・・・過(・)去(・)、(・)あ(・)る(・)い(・)は(・)未(・)来(・)の(・)屈(・)辱(・)。

 

『24回だろ。じじいもお前も早いだけじゃねぇ。違和感があった』

 

『1秒に24回動きを刻んでた。この身体になってようやく見えたよ』

 

「っっ、くそが」

 

脳裏にこびりついて離れん記憶。

・・・・二度や、人間の時と呪霊の時。

 

二度も俺はあんなカス女にっっ!!にせもんのあいつに!!

 

「・・・・ふー」

 

瞬間的に沸騰した脳みそを冷却するみたいに息を吐く。

あの時、俺はあの女に殺されたはずやった。

 

なのに今こうして生きとる、それも人間に戻って。

 

・・・・生き返った、それも死んだ時やのうてずっと昔、俺が子供の頃に。

 

「・・・・こればっかりは意味が解らん」

 

まぁ理由はこの際どうでもええ、生き返れたんはもうけたわ。

真希ちゃん殺すことが出来るんなら何だってええわ。

 

・・・・そう、殺せるんやったらな。

 

「ほんま、頭おかしくなるわ」

 

冷やした脳みそが怒りでまた熱くなる。

過去にこうして戻ってから俺自身に起きた変化が二つある。

 

一つは死ぬ以前の技術を今もそのまま使えること。

 

今は人間やから呪霊の身体を利用した戦闘方法は使えんけどそれ以外は問題ない。

 

その中でも特に領域を使えるようになったのはデカいわ。

 

真希ちゃんに追い詰められて、呪霊やった俺がたどり着いた向こう側へ行くための感覚。

 

あの感覚は子供の身体に戻っても消えてへんかった。

 

これは単純メリットや、問題は二つ目。

 

本来の俺にはなかったもんが過去に戻った俺にはある。

 

それは。

 

 

「「「お、お疲れ様です!!!」」」

 

 

複数の男どもの声が背中にかかる。

その瞬間、俺の表情はまるでなんかに操られるみたいに歪んでいった。

 

「おはよーさん、みんな朝から元気やね」

 

自分なら絶対出さないような柔らかい声が喉から出た。

顔もそれに合わせて微笑んでるのが表情筋から伝わってくる。

 

俺のその声と顔を見た男どもは安堵したように頭を下げて部屋に入ってきた。

 

なに入って来とんねん、ここは俺が使ってるんやからいねや。

 

そう声を出そうとするけども俺の口はうんともすんとも言わん。

ただニコニコときしょい笑みを浮かべたままや。

 

――――これが以前の俺と違うことや。

 

こうなるんは自分以外の人間と接触した時。

誰かと出会った瞬間、俺の身体は勝手に動き始める。

 

正確には言おうとした言葉が違う言葉に変わったり、さっきみたいに言葉が出んようになる。

 

行動もや。

 

相手をぶん殴ろうとしても代わりに撫でたり、動かんようになったりしてろくに俺の言うことをきかん。

 

まるで自分の身体が他人に好き勝手動かされてるような感覚。

最悪もええとこや。

 

「・・・・」

 

「ど、どうしましたか?」

 

「いや、なんでもないよ。ちょっと考え事しとっただけや」

 

あ?話しかけんなや。

そう言おうとした口が勝手に変換される。

 

それに内心でため息を吐きながら思い出す。

 

鮮明には思い出せん、けれど確かに記憶に残っとる。

 

真希ちゃんに斬られて呪霊の俺の身体が祓われていく最中。

完全に身体が消えて意識もかすみがかっていく途中でなんか頭の中に浮かんだ。

 

 

 

 

『生きたい』

『生きたくない』

 

 

どんどん遠くなっていく意識に不意に現れたそんな二つの選択肢。

なんでこんなもんが頭の中に出てくるのか考える余裕もなかった。

 

ほとんど無意識に『生きたい』を選んでいた。

 

死ねるか。

あんなにせもんに負けたまま死ぬなんてことが出来るわけがないやんけ。

 

俺が『生きたい』を選んだ途端その文字たちは消え、すぐに別の文字が頭に浮かんでくる。

 

 

『これからは性欲を捨てて生きていこう。童貞を貫くんや』

『これからは男色家になって生きていこう。童貞を散らすんや』

 

 

今度は即答できんかった。

 

頭の中が疑問でいっぱいになる。

ろくに回ってくれん思考、遠くなっていく意識、その理由は死んでいってるせいなのかこの文字のせいなのか。

 

固まる思考、けど選ばなくては死ぬとわかった。

 

二つをもう一度見比べて上を選んだ、俺はホモやない。

 

そうすると文字は消え、またも別の文字が浮かび上がる。

 

 

『暴力はよくない、これからは人を痛めつけず優しくしよか』

『暴力は最高や、これからは人に痛めつけられて嬉しくなろか』

 

 

下を選びかけて寸前で止まる。

あかん、よく見たら下はただの変態や。

 

上を選ぶ、するとまた文字が浮かんでくる。

そうやって何度も二つの選択肢が浮かんでは消えていく。

 

どれもこれもふざけた二択ばかり。

最後の方は適当やった。

 

なんなんやこれ。

身体はないんやから脳みそもない、なのにボーっとするけど思考は出来る。

時間もようわからん、もう死んでるかこれ?

 

これが死後の世界、天国なんか?

 

天国なんか信じてなかったけどもしそうなら変なところや。

 

そんなことを考えているとまた例の二択が出てくる。

 

 

『あっち側に行く(地獄へ)』

『あっち側に行かない(天国へ)』

 

 

俺は上を選んでいた。

ズルい言い方や、こんな言い回しされたら俺が選ぶんは一択や。

 

あっち側に行くんや、そのためなら地獄だろうと喜んで行ったるわ。

まぁ、俺の思うとることと、この選択肢の意味が違っとるかもしれんけど。

 

けどそれでもええ、俺がそう思ったんやから上を選んだ。

 

ここで信念曲げたらどっちみち終わりや。

 

選択肢を選んだ後、次の文字が浮かび上がることはなかった。

代りにどんどん頭が真っ白になっていく。

 

そうして俺の意識は完全にどこかに消えていった。

 

次に気が付いた時、世界は時を戻し俺は子供になっていたってわけや。

 

そしてわけがわからん呪いが俺の身に宿っていた。

今思えばあの選択肢はこういうことやったんや。

 

あの時選んだ方を俺の身体は強制的に実行する。

生き返った代償か、そう考えたら安いもんにも思う。

 

嘘や、ふざけんな。

 

『天与呪縛』、これは特殊ケースやろうけどそれに該当するんやろね。

 

あの時選んだ選択肢は強制的に縛りとなって身体の自由を奪ってきた。

 

「徳四郎くんええ感じやん、呪力の流れだいぶスムーズになってきたね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「佐竹くんも筋肉ついてきたんちゃうの、筋トレの成果でてるやん」

 

「おふ、ありがとうございます」

 

今もこうして自由を奪われとるしな。

現実の俺はカス共と一緒に笑顔で訓練をして汗を流している。

 

一人で訓練させろや、なに和気あいあいとしとんねん。

 

そうして心の中で文句を言いながら身体を動かす。

 

他の奴らに危害を加えようとせんかったらこの身体が他人がおっても俺の意思で動かせる。

せやからまだ我慢できる、口は勝手に動いとるがな。

 

それにこのくそったれな天与呪縛にもメリットがないわけやない。

 

今も実感しとる、身体の冴えが異様ええんや。

腕の伸びや蹴りの瞬発力、それらが過去の俺と比べて明らかに良くなっとる。

 

呪力量の伸びや操作も同じや。

 

間違いなくこの天与呪縛の影響とみてええ。

一応縛りやからな、天から与えられた強制的な縛り、それも複数。

 

身体能力や呪力関係の強化、それがこの天与呪縛の恩恵。

これがあるから俺は今の状況にも我慢できとる。

 

ほんまに嫌やけど、強くなれるんやったら我慢する。

 

これも俺が『あっち側』にいくためや、今度こそ。

 

「あ、僕お父さんに呼ばれとるんやった」

 

訓練に夢中で忘れるところやったわ。

動かしていた身体を止めて部屋を出ていく。

 

「すんません、じゃあ僕行かせてもらいますわ」

 

俺がそう言えば全員が頭を下げてくる。

それに対し俺は相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべながら手をひらひらと振っていく。

 

ちなみに俺がしようとしたのは邪魔や歩けんやろと手で払う動作やった、無理やったけど。

 

そして訓練所を出て廊下を進む。

すれ違う女どもが頭を下げてくるのに俺の身体はまた勝手に動いて挨拶する、それもそれぞれの名前を呼んで。

 

記憶力も縛りの影響か上がってる、そのせいでこいつらの名前もいちいち覚えてまう。

まぁこれくらいのことどうでもええわ、俺の時間を奪うわけでもないからな。

 

そうして歩いてじじいのいる部屋にたどり着く。

 

「お父さん来たで、話しってなんなん?」

 

「おお、きたか」

 

酒の匂いに鼻がしかめる。

部屋の中では若い頃のじじいが酒飲んでくつろいでいた。

 

「お父さん酒臭いわ」

 

「ぶへぁ!!臭くないわ!何の匂わん!」

 

「早死にするでほんま」

 

息を吐いて大笑いするじじい。

はよ死んでくれんかな、そしたら俺がすぐ当主になれるんやし。

 

どうせこのじじいは死ぬんや、それならはよくたばってくれ。

 

「それで話ってなに?」

 

「げふ、近いうちに御三家同士の集まりがある。そこに来い、お前のことを他の家の奴らに見せておきたい」

 

「ふーん」

 

ぶっちゃけ興味ないわ。

全員知っとるし、まぁ子供の頃の悟くんに会ってみたくはあるか。

 

「そんなことよりお父さん。甚爾(とうじ)君への扱いをもっとようしたってや」

 

「なんだお前、あいつと面識があったのか」

 

じじいの問いに頷く。

正確には以前の俺がやけど、こっちに戻ってからはまだ会ってへん。

 

どうせなら俺がつよなった時に胸張って会いたいと思ってたから。

まぁでもそろそろええ頃か。

 

「このままじゃ甚爾(とうじ)君、家出てまうよ。お父さんもあの人の強さはわかっとるやろ、甚爾(とうじ)君が味方なってくれたら禪院家は最強や」

 

「・・・・」

 

じじいが俺の目を見てくる。

俺の本心を探るような意思を感じる。

 

別に裏なんかない、本心や。

俺がそう思いながら見つめ返していると、やがてじじいは酒を飲んで後に笑みをこぼした。

 

「ふ、お前があいつよりも強くなれば考えてやろう」

 

「それなら大丈夫や、絶対つよなるから」

 

これも本心、じじいと話す時は天与呪縛が発動しないことが多いから楽でええわ。

俺が即答すればじじいは大笑いしながら酒を煽る。

 

「我が子ながら底知れぬ気味の悪い奴だと思っていたが、子供らしいところもあるではないか」

 

「実の息子に気味悪いは酷いでお父さん」

 

あ?どついたろかじじい。

そう言おうとするが別の言葉に置き換わってしまう。

 

そのまま笑って酒を飲むじじいを置いて部屋を出る。

訓練所に戻ってもカス共に絡まれるし、このまま甚爾(とうじ)君に会いにいこか。

 

領域も完璧にできるようになったし、ええタイミングや。

まぁ、甚爾(とうじ)君呪力ないからどこにおるかさっぱりわからんけど。

 

適当に歩きながら探し回る。

そうしていると兄貴共や他のカス共と会うことになるが天与呪縛によって俺の身体はオートで反応する。

 

「おはようさん、和兄さん昨日はお土産ありがとう美味しかったわ」

「トシ君元気ないやん、イケメンが台無しや元気だし」

「咲ちゃん今日もべっぴんやね、え?誰にでも言ってる?そんなことないよ、べっぴんさんにしか言ってへんもん」

 

誰かが通る度にいちいち話しかけられ、それ全部に笑顔で対応する。

頬を引きつらせて血管が浮き出るくらい苛ついてんのに全然反映されん。

 

去っていくカス共に手を振って別れ、身体の所有権が返ってくる。

 

「あーほんまウザいわ、あいつら全員この家から出てけや。そうせんといちいち時間とられてかなわんわ」

 

俺の口から思った通りの言葉が漏れる。

それはつまり周りに他の人間がいないことの証明だった。

 

この天与呪縛は俺が認識してなくても周りに人がいたら反応するから間違いない。

 

 

 

 

なのに。

 

 

 

「は、なんだお前。ただのクソガキじゃねぇか」

 

 

 

背後からそんな言葉が届いた。

 

「っ!!?」

 

その声を聞いてすぐに振り返る。

懐かしい声やった、忘れるはずもない。

 

「甚爾(とうじ)君」

 

振り返った先では思った通りの男がおった。

禪院甚爾(とうじ)、俺の目標であっち側の住民。

 

探していた男が俺を見下ろしていた。

 

「あのじじいの虎の子って聞いたから見に来てみれば、虎じゃなくて猫か」

 

「別に好きで猫被ってるわけやない」

 

つまらなそうに俺を見下ろす甚爾(とうじ)君を見て思わず言い返す。

けれどその視線は変わらない。

 

「・・・・」

 

じっと俺を見下ろしていた甚爾(とうじ)君はやがて俺から視線を外して踵を返す。

そしてそのまま俺を見ることなく廊下を歩きだしていた。

 

「っ、待ってや甚爾(とうじ)君!」

 

そんな目で俺を見下ろさんでくれ!

興味のないものを見る目やった、俺が他の人間に向ける時と一緒や。

 

俺はちゃう!他の奴らと違うんや!!

 

大人の足に追いつくには子供の俺は走るしかない。

歯を食いしばって走り回り込む。

 

「邪魔だ」

 

「待ってや。俺はあんたのことをバカにしとるカス共とちゃう。甚爾(とうじ)君のこと尊敬しとる」

 

「・・・・」

 

瞬間、甚爾(とうじ)君の姿がブレて消える。

っ、待て言うとるやろ!!

 

即座に術式を発動させて追いかける。

腹立つけど真希ちゃんとの戦いでその速度は覚えとる、本気の移動やない、これなら追いつける。

 

「捕まえたで」

 

その身体能力で俺の前から消えようとした甚爾(とうじ)君の腕を捕まえる。

流石に子供の身体じゃ死ぬ前の実力は出し切れん、けれど天与呪縛によって強化された力でちょい下くらいには戻れとる。

 

「・・・・てめぇ」

 

「ちょっと遊んでや。可愛い子供に時間取ったって罰当たらんで」

 

目を細めて俺を睨む甚爾(とうじ)君に笑みを向ける。

そのまま手を引いて誰もいない訓練所へと向かった。

 

「・・・・」

 

「そう怒らんといてや。不安やったら縛るわ。これから俺に何をしても甚爾(とうじ)君のせいにはせん、いくらボコられてもや」

 

俺がそう言えば甚爾(とうじ)君は怪訝そうな顔をした後にため息を吐いて頭をかく。

そして口を開いた。

 

「てめぇ、何がしてぇんだ。次期当主確実なんだろ、俺なんかに関わる意味がわからねぇ」

 

「言うたやろ、俺は甚爾(とうじ)君を尊敬しとる。あんたの強さに追いつきたい。だから勝負してや」

 

今の俺の位置を確認する。

リーチや筋力は子供なんやからない、けど呪力量や操作は以前よりも上や。

 

拳を握り構え、呪力を練る。

十分勝負できる、行くで。

 

「・・・・ガキが」

 

瞬間的に目の前に迫る拳、さっきの手抜きの速度やない。

顔面を潰す勢いの一撃を顔を逸らして躱す。

 

術式ですでに動きは作っとった。

躱しただけやない、懐に飛び込んでカウンター決めたる。

 

作られた動きにしたがって俺の拳が甚爾(とうじ)君の腹めがけて振るわれる。

 

けれど俺の拳が届くよりも早く折れ曲がった膝が俺の顔にめり込んだ。

 

鼻頭に直撃し脳みそに電気食らったみたいな痛みが走る。

血も出てくるし涙も出そうになる。

 

「~~~~っ!!?子供相手になにすんねん!!」

 

「クソガキへのしつけだ」

 

涙を我慢しながら後ろに下がる。

仮にもこっちは次期当主やぞ、ここまで容赦なく顔面いくんかい。

 

「は、縛り破ってじじいに泣きつくか?」

 

「んなことせん、もっかいや」

 

鼻血を拭って構える。

それに合わせて甚爾(とうじ)君も構えた。

 

今度は同時に足を蹴りだす。

 

「じじいと同じ投射呪法だろ」

 

互いに拳を振るっては弾き合う。

筋力の低さは増えた呪力量でカバーする。

 

それでも振るわれる拳の重さに腕が痺れてきた。

 

やっぱすごいわ、真希ちゃんよりも重い。

 

同じフィジカルギフテッドやけど男と女の筋力差の分威力に差が出とる。

 

あの女が劣っていることがわかって思わず口元が歪む。

 

笑ったまま連続で術式を重ねていき最高速に上げていく。

狭い室内を縦横無尽に動き回り錯乱を狙う。

 

甚爾(とうじ)君は中央に陣取って動かない。

 

その姿に奇妙な既視感を覚えた。

 

・・・・なんや、この感じ。

 

胸の中に黒い靄がかかったような感覚に眉を潜める。

既視感、甚爾(とうじ)君とやない。そもそも戦うんは初めてや。

 

「っ!!」

 

その既視感を強引に無視して甚爾(とうじ)君の背中に向けて最高速で飛び込む。

そして渾身の一撃を放とうとした瞬間。

 

「その術式の種は知ってんだよ」

 

背を向けていた甚爾(とうじ)君が反転しその拳を俺へ向ける。

それを見た瞬間、あの時の光景と重なった。

 

甚爾(とうじ)君の姿と真希ちゃんが被る。

 

「・・・・」

 

走馬灯で真希ちゃんに負けた時のことがフラッシュバックした。

それが終わった時、俺が床に転ばされていた。

 

俺の顔の真横に甚爾(とうじ)君の腕があって床にめり込んどる。

これくらっとったらあの時と全く同じことになっとるね。

 

・・・・負けか。

 

無意識に歯を食いしばる。

まだ、あっち側には行けてない。

 

「なんで領域を展開しなかった、使えるんだろ」

 

「どうせ手印組もうとしたら潰してたやろ。それに甚爾(とうじ)君に領域つこても意味ないわ」

 

「・・・・」

 

俺の言葉に一瞬眉を潜めた後、納得したように声を出した。

呪力のない自分の身体に領域が意味のないものだと気が付いたみたいや。

 

腕を床から引き抜いて立ち上がるのを見て俺も起き上がる。

そしてそのまま口を開いた。

 

「甚爾(とうじ)君、ここのカス共殺すんなら手伝うで」

 

「ああ?」

 

「甚爾(とうじ)君の強さを理解せぇへんカス共は全員死んだらええねん。そんで俺が当主なって全部事故や言うたら問題ない、呪力ゼロなんやから証拠も残らんし簡単や」

 

思い出すんは忌々しい記憶。

あの真希ちゃんが出来たんや、甚爾(とうじ)君なら欠伸しながらできるわ。

 

俺もあのカス共がおろんなったら天与呪縛の影響受けんですむから万々歳や。

禪院家は俺と甚爾(とうじ)君さえおれば回る、あとは適当に使える奴だけ残したらええ。

 

「・・・・てめぇ、なんで外じゃ猫被ってんだ?」

 

俺の提案には答えずにそう質問してくる。

その視線は気味の悪いものを見る目だった。

 

「猫被って良い子演じてんのは当主なった時にあいつらを扱いやすくするためじゃねぇのか。なのにそいつら全員殺すかだと?自分の苦労を台無しにして何がしてぇ」

 

「あー別に猫被ってるわけじゃないんよ、天与呪縛の影響で」

 

「・・・・天与呪縛だと?」

 

眉を潜める甚爾(とうじ)君に俺は生き返って過去に戻ったことは伏せて説明する。

妙な選択肢を選んだ結果、その通りに動いてしまうこと。

あの気色悪い行動は全部俺の意思やないこと。

 

俺の話を聞いた甚爾(とうじ)君は見るからに信じてなさそうにため息を吐いた。

 

「いやほんまやねん!信じてや!!」

 

俺は必死に今までの苦労を説明する。

カス共相手に強いられてきた苦労を嘘だと一言で切り捨てられたらかなわんわ。

 

「だったらなんで俺相手には良い子ちゃんにならねぇんだ?本当に天与呪縛があんなら発動するはずだろうが」

 

バカにした目でそう言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。

その通り過ぎてアホみたいに口開けて固まってまう。

 

ほんまや、なんで今普通に話せとんのや。

 

いつもやったら人がある前でカスとか殺すなんて言おうとしたら口が動かんなる。

なのに今は全然自由に口が動く。

 

あまりの衝撃に思考が停止して頭が回らん。

そんな俺と見て甚爾(とうじ)君がもしかしたらと自分の意見を口にしてくれる。

 

「あー仮にてめぇの言うことが本当だとしたら、今天与呪縛が発動しないのは俺が相手だからだろうな」

 

その言葉で全部理解した。

俺が相手だから、天与呪縛によって呪力がゼロになった男、ゆえに。

 

「呪縛のない俺は透明人間みたいなもんだ。てめぇの天与呪縛からは俺は見えてないんだろうな」

 

「・・・・そや、そういうことや。はは、ほんまに?そんな都合のええことあるんや」

 

想像もしてなかった抜け穴を見つけて歓喜で身体が震える。

つまり甚爾(とうじ)君には本当の俺のまま相手できるってことや。

 

もう誰にも完全に素の俺を見せることができんのやろと思うとった。

別にそれに絶望はしてへんかったけど、それでも嬉しいわ。

 

しかもその相手が尊敬しとる甚爾(とうじ)君なんが特にええ。

 

「甚爾(とうじ)君、一緒にこの家乗っ取ろうや」

 

自分でも目が輝いているのがよくわかる。

もう他の奴らなんてどうでええ、この人さえいてくれたらそれで。

 

このままじゃ甚爾(とうじ)君は出てってまう。

それは嫌や、せっかく出会えた自由に話せる相手なんや。

 

「自分で殺すんが面倒なんやったら俺がやるわ、甚爾(とうじ)君をうまく利用したら天与呪縛を穴付いてやれるはずや」

 

「・・・・」

 

俺が嬉々としてその方法を考えていると無言で拳が頭に振り下ろされる。

ぐぎっと情けない声が漏れる。

 

甚爾(とうじ)君は長い溜息をが吐いて口を開く。

 

「・・・・はぁ、てめぇのせいで疲れた」

 

そう言って部屋から出ていこうと歩き出す。

俺がそれを止めようとすれば服を掴まれ奥にぶん投げられた。

 

「俺にもう関わるんじゃねぇ。てめぇみたいなガキに懐かれても何も嬉しくねぇ」

 

それだけを残し部屋から消える。

流石にそう言われて追いかけようとは思えず投げられて倒れた状態のまま天井を見つめる。

 

関わるに決まっとる、俺が唯一本心で話せる相手なんや。

 

「・・・・天与呪縛によって呪力がゼロになった人間なら俺の天与呪縛は反応しない」

 

教えられた事実を口にする。

この答えを得た瞬間に頭に駆け込んできたもう一つの答え。

 

「殺せるやん」

 

あのクソ女、にせもん。

 

俺を殺した女を。

 

天与呪縛で人を傷つけれんようになって復讐できんと気づいて絶望しとった。

これじゃあ生き返った意味がないと。

 

けど殺せる、あの女が甚爾(とうじ)君と同じ呪力ゼロのフィジカルギフテッドになれば俺の呪縛は適用されんなる。

 

・・・・問題はあの女は最初からああやったわけやない。

 

あの日や、いきなり真希ちゃんは覚醒した。

 

原因はなんや、屋敷に帰ってきた後になんかあったんは間違いない。

 

扇のじじいが真希ちゃんと真依ちゃんを殺そうとしてた、けど返り討ちにあった。

そこや、そこでなんかが起こった。

 

・・・・。

 

「真依ちゃんか」

 

頭に浮かんだ答え。

 

双子、それも一卵性双生児。

 

呪術じゃあこれは同一人物としてみなされる。

半身の消失によって半端やった真希ちゃんの天与呪縛の肉体が完成した。

 

これならあの状況で急に覚醒したのも納得いくわ。

 

つまり真依ちゃんが死ねば真希ちゃんは覚醒する。

そして俺の天与呪縛から見えんようになって俺の手で殺せるようになる。

 

・・・・問題はどうやって真依ちゃんを殺すかやな。

 

俺の手で殺せんし、他の人間に頼むんもこの身体は止めると思う。

甚爾(とうじ)君に頼むんが確実なんやけど、聞いてくれるかわからん。

 

まぁ、このまま俺の知る未来通りに行けば勝手に死ぬんやけど。

 

そもそもまだ生まれてもないし。

 

「とりあえず今は甚爾(とうじ)君と仲良くなることと俺自身がつよなることや」

 

跳ね起きて部屋を出る。

今度は失敗せん、甚爾(とうじ)君を生かして真希ちゃんを殺す。

 

そして俺はあっち側に行く。

 

決意を新たにして俺は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

目の前に浮かぶ文字に固まる。

 

あれから二週間後の今。五条家との会合。

 

目の前には小さい頃の悟くんがおる。

俺をじっと見つめて興味ありげに見てきよる。

 

それは嬉しいわ、問題は。

 

『悟くんと勝負しよか。もちろん全力や、もし負けたら奴隷にでもなったるわ』

 

『悟くんの仲間になろか。前に死んでしまった人らを俺が救うんや、そのためなら命かけたる』

 

いや生き返ってもこれ出てくるんかい。

しかも選択肢の内容。

 

 

人の心とかないんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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