ウェイスト・ピッカー   作:金の歯車

1 / 1
第1話

25世紀も半ばに差し掛かった昼下がり。

 

 

人類は初めての文明の崩壊というものを味わった。

 

 

各国のいがみ合いから始まった疑心暗鬼は、首脳の判断力を鈍らせ、賢かった民衆を愚民に変えた。

 

世界平和の名の元に集った国々は、20世紀頃に核と呼ばれた物とは比べ物にならない放射能を持つ新型の核兵器を、除染が可能だから安全と言い民衆を説き伏せて、各国首脳の集まる中で後ろ手に持つ。

皆のためを思った科学者が作り上げた、奪い合う必要の無いほどの大きなエネルギー資源を、「彼の国が憎いから。」「彼の国が世界平和を乱しているから。」という建前で、戦争に応用する。

 

 

始まりは小さな国の暴走だった。

 

そこから始まった新型、旧型を問わぬ核兵器の撃ち合いは、人類が長い時間をもって作り上げた文明を破壊するには十分すぎる力だった。

一年にも満たない僅かな時間の中で打ち出された、数多の核。それは人類の生存圏を限りなく縮めてしまった。

 

人口が100億を越え宇宙にまで手を伸ばした人類が、小さな島国に収まってしまうほどに。

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

1000年もの年月が経て、人類は漸く持ち直した。

 

 

しかし、それでも世界は無情であった。

 

生物が放射能の影響で変異してしまったミュータント。

主を失い守るべきものは風化してしまっても、そこに佇み続ける前時代の機械。

家族は信じられず、友にナイフを突き立て、隣人に銃口をむける。

弱者こそが人生の敗北者であり、強者こそが人生の勝利者である。

世界はこれまでに無いほどに危険になった。

地球に寄生するように生きてきた人類を排除するように、牙をむく。

 

それでも人間は強かった。

栄華を極めた前時代の遺物を発掘する職業ウェイスト・ピッカー、大きな街の路地裏に住む貧者、彼らは明日も見えぬ今日を生き延びようと足掻く。

人類がただ生き延びようと足掻く精神、これこそが前時代の人々が忘れてしまった、美しさではなかろうか。

 

人類が纏まるために作り上げた国家。帝国。

神の血族を名乗る皇族を頂点として作られた中央集権制の軍事国家は、他に並び立つ組織や国が存在しないことからただ単に「帝国」とよばれる。

 

世界唯一の国家の帝国。かって四国と呼ばれていた地域の山奥。

軍の干渉や警護を受けずに生き抜く、農家から物語は始まる。

 

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

周りを鉄条網で囲まれた畑の真ん中に、木製の薄汚れた家がある。

隣接された薪小屋には、よく乾いた薪がところ狭しと詰め込まれている。

畑には1mは有りそうな大根らしき根菜の葉や、ジャガイモらしき植物の葉が風に揺れている。前時代の人間がそのまま食べても問題ないほど汚染に極めて強い、この世界の人間が心から欲しているものがここにある。

森を切り開いて作られた畑は、世間から隠れるようにしてそこにある。

 

「突然だが親父。頼みがある。」

 

肩に掛からないように切った黒髪に飲み込まれるような黒い瞳をした少年が、今にも壊れそうな木製の椅子に座った中年に話しかける。その少年の後ろには2mはありそうなスキンヘッドの大男が佇む。

少年の言動から無精髭を生やした中年は、この少年の父親であることがわかる。

 

「改まってなんだ、珍しい。頭でも打ったか良生、瑛生。」

 

黒い少年は良生、スキンヘッドの大男は瑛生というらしい。

雑に刈られた髪と額あてのように巻いた群青の手拭いが特徴的な中年は、面白そうにマグカップから湯気のたつコーヒーを飲んでいる。彫りの深く傷のある顔からは歴戦の強者の雰囲気が漂うが、柔らかい笑みがうまく中和してくれている。

 

今度は大男の瑛生が困ったような顔で口を開いた。

 

「からかわないでくれよ、父さん。」

 

「こっちは真面目な話をしようとしてるんだから。」

 

それに呼応するように良生が、文句をたれる。

 

「わかったわかった、話をきいてやろう。で、なんだ?」

 

コーヒーの入ったマグカップを机に置く。

二人の兄弟は、父の向かい側の椅子座る。

ギシギシと嫌な音がしている。そろそろ換え時だろうか。

 

「俺たち街へ行って「わかった!ウェイスト・ピッカーになりたいんだろう?」………………………………ああ。」

 

良生に割り込むように正解をいってのけた父は、まるでイタズラが成功したかのような顔で胸をはっている。

まるで子供のようだ。

この性格に加え、鍛え上げられた全身の筋肉、研ぎ澄まされた野生の動物のような勘、異様に使いなれたような道具の使い方、など世界でもトップクラスに位置するような技術を持つ人間が自分達をからかうために全力で動くのだ、小さな頃から思っているのだが厄介極まりない。

 

台詞をぶった切られた良生は、心なしか不機嫌な声色で、

 

「なんでわかったんだよ。これまでに親父に言った覚えなんて無いんだが…。」

 

「読心能力だ!」

 

嘘をここまで堂々と言えるのは意外とすごいのではないか?

 

「父さんがESP系の超能力者でも、PK系の超能力者でもないことは知ってるよ。」

 

「…なんだ知ってるのか、つまらん。」

 

この世界の超能力者というのは、汚染によって通常の人間とは違う方向に進化した脳が外敵に対応するために得た、現実や人間に干渉できる能力を持つ人間のことを指す。

超能力者には2つの種類があって、ESP系超能力者とはテレパシー、予知、透視、千里眼などの人間の五感などが極限まで発達したような人間のことを指す。通常の人間でも鍛え続ければ低位のESP系超能力者位までなれるので、最も通常の人間に近い脳を持っているとされる。

PK系超能力者とは、念動力等の外界に影響を及ぼすことの出来る能力をもった人間のことを指す。発火能力や発電能力、土や水を操る能力者もPK系超能力者としてひとくくりにされている。

ちなみにこの超能力が発現する確率は女性が圧倒的に多い。「女性が男性に対して肉体的に劣っているから」などの様々な仮説が論じられているが、未だに結論にまでは至っていない。

 

「お前も15歳だろう?元服の年だし、そもそもデカイのを1発当てて成り上がろうっていうのは誰だって考えるものだ。何せ俺がそうだったからな!」

 

と、とても楽しそうに言い放つ。

 

「へぇ、親父にもそんな時代があったんだ。」

 

良生がそんなことを言うと。

父は懐かしむような、遠いところを見るような目で良生と瑛生の2人を見た。

 

「デカイのを1発当てて、成り上がって、良い仲間と遺跡に突っ込んで、暴れまわって、」

 

父は頬にある深めの傷を、指の腹でなぞる。

 

「今の妻を見つけて、おとなしくなって、殴りあって、そして今にいたる、というわけだ。」

 

頬の傷をなぞった指を、左手の薬指にはめた黒い指輪を撫でる。

 

「お前ら2人がウェイスト・ピッカーに成りに行くことに関して俺としてはは反対しない、むしろ大賛成だ。だけどな、」

 

「だけど?」

 

瑛生が聞き逃すまいと、耳を澄ましながら相づちをうつ。

父は途端に真面目な顔になり、

 

「問題は瑠仙だ。あいつは俺のように死と隣り合わせだったわけでも、ウェイスト・ピッカーに深く関わったわけでもない。」

 

「「あぁ、母さんか……。」」

 

良生と瑛生はここが一番の難所であるかのように、沈んだ声である。

 

「俺は了承している、だから瑠仙の所へいって説得してこい。台所で洗い物をしているはずだ。」

 

父は奥にある扉を親指で指している。

 

「わかった、いくぞ瑛生。」

 

「うん。」

 

2人とも席を立ち上がり、奥へとむかう。

 

 

扉を開けて二人が奥へと踏み込んだ。

静かな一室で、父がコーヒーを飲む。

ふと、部屋の隅に顔を向け、

 

「いるんだろう?レイコ、出てこい。」

 

と言うと。

じんわりと空間がぼやけて、130cm程の小さなシルエットが浮かび上がる。

 

「やっぱり敵いませんねぇ。歴戦の強者程度では気づけないはずなんでけどねぇ。」

 

どこか機械的な印象をうける少女が佇んでいた。

少女の外見は、赤の肩で揃えた髪に、少し赤みがかった黒い瞳で、小さな体に合うように改造された黒いスニーキングスーツを着ている。

父は溜め息をはいて。

 

「わざわざ着替えてまで盗み聞きするんじゃない。そもそもお前は生活支援用の自動人形だろうが。」

 

「元々は生活支援用なんてものじゃなかったのに、どこかの誰かさんが勝手に改造してくれやがったおかげで、この有り様ですよ。」

 

「その誰かさんのお陰で存在出来ていることを感謝するべきだと俺はおもうんだが?」

 

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。

レイコは悔しそうに舌打ちをした。

 

「そんなことより、良生と瑛生の出立の手伝いをしてやってくれ。話は聞いていたんだろう?」

 

向かい側の良生が座っていた椅子に、レイコが座る。

 

「ええ、話は聞いていたけど…。まだ行くかどうかは決まっていないじゃないの?」

 

レイコがもっともな疑問を投げ掛ける。

実際父は、母の瑠仙が承諾するかどうかの予想もしていないし、むしろ承諾されないのではないかという雰囲気をかもし出していた。

 

「いいや、承諾しないはずがない。」

 

「なぜ?」

 

「わからんのか?」

 

「わかるはずないじゃない。私は機械よ?そんな人間の事なんて……。」

 

「ククッ、そうか、なら教えてやろう…………。俺の女だからだよ。」

 

「は?」

 

父は自信に満ち溢れたような声色でニヤリと得意気に話す。

 

「俺の女だからだよ。俺が選んだ女だぞ?我が儘や余計な事で、我が子の成長を邪魔するほど愚かな訳がない。」

 

「流石の信頼ね、機械の身でも羨ましくなるわ。」

 

そんな惚気話ともとれるような話を聞いて、レイコは溜め息をはく。

 

「でも、そんなに自信があるのならあの兄弟の前でも言ってやれば良かったじゃない。」

 

わざわざあの兄弟を不安にさせる意味がない。

 

「それはな……………………。」

 

父が俯いたり、明後日の方向をむいたりしている。

まるで言うのを悩んでいるようだ。

 

数秒後、踏ん切りがついたようで、父は口を開く。

 

「……………………恥ずかしいからだ。」

 

レイコの顔がみるみる笑顔になっていく。

それは、「面白い玩具を見つけた!」という顔である。

 

「あれ~?鬼として生まれたから鬼生、なんて言われるような鬼生さんは、そんなことで恥ずかしがっているのかなぁ~?」

 

レイコが机に身を乗り出して、挑発するように顔を近づける。

鬼生をからかえることなど早々ないのであろう、嬉々として弄りにいく。

それに対して鬼生のこめかみがピクピクと痙攣している。

レイコはそんなことにも気付かずに続ける。

 

「おっかしいなぁ~?帝都に名をとどろか、ぐぇ!」

 

レイコがデコピンをされて仰け反る。

鬼生は軽く、しかし一般人なら失禁もまぬがれないほどの殺意をこめて、

 

「黙ってろ、聞こえてたらどうするつもりだ。」

 

レイコは少し赤くなった額を押さえながらぼやく。

 

「別に隠すような事じゃあないと思うけどねぇ。」

 

「あいつらにはな、俺みたいな厄介ごとには関わって欲しくないんだよ。でかい街へいって、金を稼いで、嫁さんでも連れて帰って来てくれればいいんだ。余計なことは望まん。」

 

「親としてそれは正解だけど、本人達からしたら刺激が足りないだろうねぇ…。」

 

「まぁ、無事に帰ってくることを祈るさ。」

 

「おや?神を信じるような人間だっけ?」

 

「助けにならないものは信じないというのがモットーだが、たまにはすがりたい気分ににもなるさ。」

 

「やっぱり、人間はよくわからない。」

 

フフフ、とレイコが笑いだすとそれにつられるようにして鬼生も笑いだす。

 

その一室では朗らかな笑い声がこだましていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 




読み方は
良生(リョウセイ)
瑛生(エイキ)
鬼生(キセイ)
です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。