悪の組織幹部高校生、拗らせた前世の願いを叶える為に奔走する!! 作:マスターBT
高校入学まではまだ、半月がある。
親父がこのタイミングまで俺を改造しなかった理由は気になるが、肉体的にある程度成長するまで待っていただけかもしれないし何より、今は不必要に探りを入れて変な疑いを向けられるのはごめん被る。
「……此処なら人目はないか?」
そんな訳で俺は今、春休みを利用し人里離れた山奥まで来ている。
此処なら流石に親父の監視はないだろうし、ヒーローに見つかる事もないだろう。
「肉体の確認は大事だからな」
肉体のスペックを把握せずに、いきなり実戦に出れば以前までの肉体の出力との違いに振り回され晒す必要のない隙を晒してしまう可能性や、殺すつもりがない相手を殺してしまったりするかもしれない。
俺が目指す理想は単なる悪役ではない敵役、他者を殺すという選択はそれ以外に手がないという状況にならない限り取りたくはないのだ。
「……しかし改造手術というのは凄まじいな。どうすれば良いか頭にイメージが勝手に浮かんでくる」
俺の意思にナニカが応じているのだろう。
頭に浮かび上がってくるイメージに追走する様に右腕をガッツポーズする様に動かし、勢いよく左手をぶつけ合わせる。
勢いとしては、石と石をぶつけ合わせ火花を散らす……そんな勢いで、手と手をぶつけ合わせれば痺れに似た痛みが走る筈だが、改造された俺の肉体はまるで金属音の如き、音を響かせ禍々しいと呼べる赤紫色の火花が散った。
「ハハッ、変身」
通常ではあり得ない異常を前にテンションが上がる俺に呼応する様に、散った赤紫色の火花は一瞬で全身を包み込む業火へと変わる。
熱い……だが、火傷を負う様な痛みはなく寧ろ自分の内側から何かが爆ぜていく様な高揚感と全能感が噴き出し、時間としては一瞬、しかし体感としては永遠に感じ続けたい感覚と共に業火が弾け飛ぶ。
『凄いな……ん?声もくぐもった感じに変わるのか。声バレにすら対応してるとは手厚いな』
──先ず、気が付いたのは自分の声の変化と少し高くなった視界だった。
確認の為に辺りを見渡すついでに、自分の身体に目を向けて見れば今の自分が散った赤紫色の火花と同じ、色をした炎の怪物となっており全体的なシルエットは人の姿ではあるが、輪郭をぼやかす様にメラメラと火が立ち上っているのが分かる。
『もう少しゴツいと思ったが、意外とスタイリッシュだな。中世の騎士っぽくもあるか』
親父の趣味なのか、俺の趣味が反映されたのかは分からないが身体の輪郭は単なる炎ではあるが胸の辺りや、手足には軽金属に分類される様な鎧が展開され、防御力と格好良さを満たしてくれている。
『……まぁ、人目のないところを選んだつもりだったから良かったが、少し加減をしなければ変身するだけで辺り一面が火の海だなコレは』
山奥という事で、鬱蒼と生い茂っていた木々が俺の周囲二メートルでは燃え滓と成り果て、少し先では轟々と音を立てて燃え盛っている。
『消えろ』
手を翳し、視線の先で燃え盛っている赤紫色の炎へと命じてみればあっさりと消えていき、焦げた木だけが残った。
どうやら俺が生み出した炎はいつでも俺自身の意思で消す事が出来るようだな……あぁ、良かったぁ、コレで山火事を起こしましたとかになったら大事になるし、親父の監視から逃げてきた意味がない。
『じゃあ、具体的な能力検証を……ん?携帯が喧しいって親父!?』
日本の何処か、あらゆる場所に通じそして繋がっていない断絶された空間に『オリンポス』の本拠地は存在している。
攻められる事も想定しているのか頑丈な城にも似た外見をしており、幾つもの部屋には調理室や寝室、娯楽室などある程度の暮らしが行えるように設計されていた。
「……」
そんな数ある部屋の中でも一際大きな会議室では、オリンポスのトップであるケイオスが豪華な椅子に座りながら腕を組み、目を閉じていた。
部屋には全部で十二の席があるが、その半分も埋まっておらず今は彼を除く四人だけが座っているのだがその誰もが明らかに不機嫌な様子を隠さず、空間が軋んでいると錯覚する圧を受け冷や汗を流している。
「……おい、今日は新しい幹部の紹介じゃなかったのか?」
空気に耐えかねたのは、酒瓶片手に顔を赤くしてる『ディオニュソス』で一年中、酒に酔っているだけはあり持ち前の空気の読めなさを発揮し、場の沈黙を破ったが話しかけられた向かい側に座る気の強そうな黒髪の女性『アルテミス』にとっては良い迷惑でもあった。
「酒臭いのよディオニュソス」
「なんだよぉアルテミス。お前も飲みたいのか?」
「……場を考えろって言ってるのよ」
「だーかーらー、考えて質問したんだろう?」
美人が怒ると怖いとよく言われるが、元より気が長い方ではないアルテミスの青筋がピキリと動き月を連想させる美しい瞳から発せられる圧が高まる光景は正しく、表現の通りであった。
酒飲みで空気が読めない自由人タイプのディオニュソスと生真面目な委員長タイプであるアルテミスの相性は悪く、顔を合わせばかなりの確率で悪い空気が立ち込めるのだが、そこへふわふわとした声が入ってくる。
「本当に仲が良いわねぇ〜でも、今は静かにしてなきゃダメよ〜」
明らかに険悪な空気だが、あまりにふわふわで悪の組織であるオリンポスに相応しくない声で止められてしまえば流石のアルテミスも引き下がる他になく、その顔に反論するだけ無駄という呆れを浮かべながら一応と彼女の名を呼ぶ。
「デメテル。何度も言うが私とディオニュソスは仲が良い訳ではないわ」
「え〜?だって、二人ってば顔を合わせればいっつもお喋りしてるじゃない〜」
「……はぁ」
「くくっ、デメテルの前じゃ持ち前の勝気も意味ねぇな!!」
ニコニコと笑うデメテルと酒を注ぎ、飲み干すディオニュソス。
片や天然、もう片方はノンデリと話が通じない両名を一気に相手する気が失せてしまったアルテミスは逃げの一手の言わんばかりに、ここまで一言も発さずにポリポリとピーナッツを食べている老人へと視線を向ける。
「へファイストス。お前は何か知っているか?」
「……ううん?そうさな……つい、先ほど遠くの方で良い熱を感じたぞ」
「熱?」
答えているような答えていない表現にアルテミスが小首を傾げるのと同時に、目を閉じていたケイオスが目を開き携帯端末を取り出すとこの部屋の中央に投影型のモニターが表示され、そこに『SOUND ONLY』と表示される。
「……何をしているエレボス」
『力の確認だ。無知では何も戦えん』
「「「「ッッ!!」」」」
聞こえてきたのはただの音声、それも機械を通したものにも関わらず集まった四名の首筋に冷たいものが走り、アルテミスは無意識に弓を顕現させディオニュソスは一瞬にして顔から赤みが消え、デメテルは柔和に上がっていた口角が下がり、へファイストスはごくりと唾を飲み込んでいた。
全員が感じ取ったのだろう──通話の先にいる者の実力の高さを。
「今日は会議だと伝えた筈だ。お前の紹介も兼ねていると」
『そうだったか。悪いな』
「……まぁ良い。次はないぞ」
『了解──あぁ、そうだ。サボりついでに一つ良いか?』
四人はケイオスから直接、改造手術を受けてこの場にいる者達だがそれ故に通話の主が敬語も一切なく話しているケイオスの強さというものを熟知しており、自分達が同じような態度を取れば細切りになると分かるが故にエレボスの態度に驚きが隠せない。
「なんだ?」
『──ヒーローって奴は空を飛べるのか?』
感想やご指摘楽しみに待っております