悪の組織幹部高校生、拗らせた前世の願いを叶える為に奔走する!! 作:マスターBT
人生何が起きるか分からないとは言うけれど、あの日、私の身に起きた事はただでさえ日常からかけ離れた非日常を完全なる異常へと昇華させるものだった。
「〜〜!?〜〜!!」
「うるせぇガキだな!!」
「大人しくしていろ。死にたくないだろ?」
中学からの帰り道、普段はあまり寄り道をしないタイプだけどその日は暑くて暑くて、我慢出来ずにコンビニに立ち寄ってジュースを買っていた。
駐車場に黒塗りの大きな車があるなぁとは思っていたけど、自分が犯罪に巻き込まれるなんて微塵も思っていない平和ボケしている私はコンビニを出てからもゆっくりと後を追ってきている車に気がつく事なく、人の気がない細身であっさりと複数の男の人達に拉致されてしまった。
「顔は少し地味だが身体の方は良い感じだな」
「最近の子供は発育が良いな。さぞ大切に育てられてるんだろうよ」
「へへっ、そんな綺麗な人生も今日で終わりだけどな!」
男達の薄汚い欲望に満ちた声が狭い室内に響き渡る。
エアコンを効かせてはいるのだろうけど、欲望に激っている男達が少なくとも五人はいる車内は暑く嫌な汗の匂いが充満していて口をガムテープで塞がれているから良かったけど、気を抜けば吐いてしまいそうな気持ち悪さが凄かった。
拉致という犯罪を犯している為か、やたらと落ち着きがなく騒がしい男達は次々と言葉を交わしていたけれど、私はこれから自分がどうなるのかという恐怖でその殆どを聞いておらず、少しでも身を守る為に身体を小さく丸めるのが限界だった。
そうこうしていると車は町はずれにある港、今はもう使われていない廃倉庫の前に止まり抵抗虚しく、私は廃倉庫の中へと連れ込まれてしまった。
「〜!!」
「ちゃんとマットは用意してやったぜ。優しいだろ俺達?」
本当に優しければそもそもこんな犯罪はしない、助けてと言いたかったけどどれだけ声を張っても言葉にはならず、外に聞こえるような大きく意味のあるものにはならない。
「んじゃ、事前の決め事通り俺から楽しませて貰うぜ」
……あー、私のハジメテこんなところで奪われてしまうんだって大粒の涙が流れた時、異変は起きました。
私に夢中になっている彼らの背後で、黒い穴みたいなものが広がったと思ったらそこからのっぺりとした人みたいなナニカが複数落ちてきた。
「ん?……は!?なんだお前ら!?!?」
『ジャジャ!!』
昔見ていた日曜日の番組に出てくるやられ役みたいな声を出すソレは、軽快なステップで足音に気がつき振り返った男の一人を殴り飛ばすと、
「宮本!?グアッ!?」
「く、くそぉぉ!!」
ソレは次々と男達を殴り飛ばしていく。
中には抵抗しようと握り拳を作って、立ち向かった人もいたけどあっさりと避けられまるで逆らえばどうなるか見せつけるように首を絞め、持ち上げられるとぐったりと動かなくなった。
「〜〜!!〜〜!!」
どう見ても警察や助けに来てくれた人ではないと、漸く動き出した頭で理解した私はどうにか立ち上がり我武者羅に走ったけど、ソレは私が知る限りでは誰よりも速い動きで私の近くまでやってきてのっぺりとした手を伸ばしてきた。
「〜〜!!!!!」
もう駄目だ──そう覚悟した瞬間、世界が止まった。
「?」
殴られる、そう思ってぎゅっとつぶっていた目を開けると私の目の前には白くてふわふわとした二頭身ぐらいの犬?みたいなのがソレと私の間に浮かんでいた。
「ふぅぅ……危なかったぁぁ。後少し、遅かったら適格者を連れ攫われてしまうところだった」
「?」
「あ!助けるのが遅くなってごめんね。ボクは人間達の問題には介入出来ないから……って、先にそれを剥がすべきだねえい!」
「いっ!?」
遠慮なくガムテープが剥がされて、ヒリヒリとした痛みに小さく悲鳴をあげればこの小さいモコモコは慌てたように目を伏せる。
その行動でこの子が悪い子ではない事がなんとなく分かって、私は少しだけ安心したのを覚えている。
「ごめんね!!でも、時間がないからボクを信用するかすぐに決めて欲しいんだ!!今、君は適格者として狙われている。巻き込まれてしまっている君は不本意かもしれないけど、戦わなきゃ君は都合の良い駒として利用されるだろう」
「待って……ただでさえ、何がなんだか分かって……」
「そうだよねぇ……でも、ごめん!!今、君の安全を確保しているこの力は君の力の一部を勝手に借り受けているだけなんだ。ボク一人じゃ、保ってあの数分……詳しく説明している時間がないんだ!!」
焦り、慌てている様子からしてその言葉が本当なんだろうと私は思ったけどこっちはただの中学生……正直、もう色々と処理できるキャパを超えてはいるんだけど私を汚そうとした人達が次々とどうなったのか思い出し、覚悟を決めることにした。
「〜〜ッッ!!分かった。貴方を信じるから助けて!!」
「ありがとう!!ボクは『レオ』司るは獅子の天宮──君に戦う力を授けよう」
レオって犬じゃなくて獅子だったんだ……なんてどうでも良い事を考えているとレオは光る玉になって私の右手の甲に当たるとそこに獅子を模した紋章みたいなものが赤く浮かび上がった。
『さぁ、君の思うままにやってみて!!』
「やってみてって……わわっ!?」
『ジャジャ!!』
止まっていたのっぺりとしていた奴が動き出して、私に向かって手を伸ばしてくる。
ああもぅ、色々と説明不足だし思う事もあるけど私はここまでの鬱憤の全部を込めて右ストレートを目の前の奴に向けて放つ。
「──来て!!『レグルス』!!」
思わず口走った言葉に答えるように、右手の紋章が輝くとのっぺりとしたやつを吹き飛ばしながら黄金に輝く獅子が現れ、大きく咆哮すると光の粒子となって私に向かってくる。
殴ったポーズのまま、粒子を全て受け止めると私の体にも変化が起こり黄金に輝く手甲が展開され、肘まで覆い隠すと立て髪を思わせる白いふわふわが肘から上を覆い隠し、足も同様に腰まで黄金で覆い隠すと立て髪が現れる。
上半身はピッチリとした黒いスーツが包んだかと思えば、黄金の鎧が胸を隠し首元を撫でるようにふわふわとした毛が現れ、最後に獅子を連想させる兜を被れば私の黒い髪が金に変わり──『変身』が完了した。
「なに、これ」
『魔法少女レグルス!!此処に誕生だね!!凄く格好良いと思うよ!!』
レオのはしゃいでいる声が頭に響き渡るけど、もう限界を通り越している私は取り敢えずあののっぺりとした奴が吹き飛び、動かなくなっているのを見てこの場を切り抜けるには戦うしかないだと判断した──所謂、自棄っぱちというやつで。
「後で説明して貰うからねレオ!!」
ザッと数えて、十体はいるのっぺりとした奴らは仲間意識が薄いのか、吹き飛ばされたやつの事など微塵も気にしていないようでジャジャ!!と叫びながら私に向かってくる。
喧嘩なんてした事ないけど、さっきと同じように握り拳を作り一番近いやつを殴り飛ばす。
次に向かって来たやつの攻撃をしゃがんで避けて、勢いをつけた回し蹴りで蹴り飛ばせば三体程を巻き込んで遠くに飛んでいき、ボチャンっと海に落ちる音が聞こえた。
「やり過ぎた!?」
『大丈夫。連中は人じゃないから』
「そうなの!?」
本当にレオからは色々と聞かなければならないと思いながら、着地した瞬間、狙っていたと言わんばかりに2体の奴が私に向かって来た。
捕まえようとしてくる動きを見て、それぞれに手を向け掴み取り私の目の前でぶつかり合う様に引っ張る。
「えい!!」
『『ジャジャ!?』』
ぶつかり合い、力無く倒れた二体を無視し、残りの奴を殴り飛ばそうと駆け出した瞬間、現れた時と同じ黒い穴が連中を覆い隠して逃げられてしまった。
『どうやら適格者が先に確保されたから諦めたみたいだね』
「はぁぁ……もう、ほんとなんなの?」
怒涛の展開すぎて、疲れていた私は携帯でこの場所を警察に連絡するとそのまま変身を解いて家に帰った。
どうやらレオは私が変身を解くと、あの紋章の状態から元のマスコット的な姿に戻るようで私の横をふわふわと浮きながら着いてきた。
「……周りには見えてないんだ」
「そうだね。ボクの姿は適格者にしか見えないよ」
「ずっと気になってたんだけどその適格者?ってなに」
「ボク達が見えてボク達の力を纏える人の事だよ。って、あ!そういえばボクまだ君の名前を教わってない」
「今、そこ重要?まぁ……私は
「セリカは並行世界って知ってる?」
「決して交わる事のない異なる選択肢の世界でしょ」
幾つもある人生の選択肢。
何か一つが大きく違えば、その先の選択も変わりそれが続いていくうちに今の私がよく知る世界とは全くの別物になっている世界があるとかそういう概念のやつだったと思う。
「そうだね。ボクはそんな並行世界の一つ、君達とは違って魔法が発展した世界から来たんだよ」
「……怪しいけど信じるしかないよね」
状況証拠ってやつが揃いすぎているし。
私はレオの話を信じることにして続きを待った。
「当然、ボク達の世界でありふれている魔法はこの世界じゃ廃れているんだけど、それでも天性の才能としてセリカみたいに魔法を扱える人も居るんだ。そんな人たちをボク達は適格者と呼んでいる」
「なるほど……じゃあ、その適格者を見つけ出してレオ達はなにをしたいの?」
「一つは君達を守る為。さっき襲われたあののっぺりとした連中はこの世界を征服しようとしている謎の組織の尖兵。大した力はないけど、それでも平均的な人間を上回る力と頑丈さを有している」
「んん?世界征服って言った??」
あー、もう頭が痛い……怒涛の勢いで押し寄せてくる非日常に頭痛が酷くなるのを感じた。
だって、昨今、世界征服なんて子供向けの番組でしか聞かないような単語なのだから。
「そうだよ。そしてこれはボク達の不始末を押し付けるみたいで申し訳ないんだけど、セリカには戦って欲しいんだ。自分の身を守る為に、そしてこの世界が征服されない為に」
──私が知る日常はこうして音を立てて崩壊した。
どうして私がという思いが消えた訳でも、納得した訳でもないけどレオの力を借りて戦わなきゃ私の安全はないと理解してしまったし、元々ウジウジと悩むのはそんなに得意じゃなかった私はレオの言葉を受け入れることにした。
その数日後だった。
「ヒーローって奴は空を飛べるのか?」
祖父母に会いに行った田舎の山奥で、燃え盛る赤紫色の怪人と遭遇したのは。
感想お待ちしております