悪の組織幹部高校生、拗らせた前世の願いを叶える為に奔走する!! 作:マスターBT
「ふっ、ふっ、ふっ」
日が昇り始めるぐらいの朝に土手沿いを走る……万年、帰宅部だった俺にこんな運動部みたいな機会が訪れるなんて人生どう転ぶか本当に分からないものだな。
レグルスとの戦いから身体を鍛えるべく、格闘技を学べる場所を探したのだが当然と言えば当然、習い事という奴には金がかかる。
そして、俺の親父はあんなのだから小遣いなんて一度も俺にくれてはいないし、この春に高校生になる俺がバイトをして稼いでいる訳もなく鍛えようという目標は敢えなく、金銭の壁に阻まれた。
親父に言って金を工面して貰うのも手だが、ほぼ確実に頼んだ時点で親父が手配した誰かとの模擬戦とかを組まされる事になり、組織内に俺の力量を正確に知ってる奴が出来てしまうのは不味い。
何故かと言えばそういう奴が、師匠面をして俺の戦いに違和感があるとか言い出し、俺がヒーロー相手に的確に手を抜いている事を見抜いてくるかもしれないからだ。
「ふっ、ふっ……よし。一旦、休むか」
今、俺が走っている土手は端から端まで走ってちょうど500mあるので、大体二往復ぐらいする度に少しの休憩を入れている。
肉体が強化されているお陰でノンストップで走っても恐らく、殆ど息切れしないとは思うんだが初めからそこまで飛ばして筋肉痛で寝込みましたとかは嫌なのでゆっくりとやる事にした。
「身体に良いと聞いたから作ってみたが……すっぱいな!」
タッパーにたっぷりと用意したお手製の蜂蜜レモンは作っているときには、これめっちゃ甘いんじゃね?とか思っていたが流石は酸味と言ったら梅干しと並び立つレモン。
使った蜂蜜が大安売りの品とは言え、思わず顔中がシワシワになるレベルの酸っぱさだ。
しかし、こういう栄養素が身体をしっかりと作るのだからちゃんと食べないとな。
「きゃっ!?」
「ん?」
聞こえてきた悲鳴に振り返って見れば、なんとそこには俺に向かってまっすぐ向かってくる黒いスクーターが一台……これはアレだな?
「ひったくりよー!!」
知ってた。
たくっ、こんな朝から杖を着いて歩いてる様な婆さんからスクーター使ってまで、ひったくりをするとかしょうもない奴だな。
「退け!!クソガキ!!」
俺を轢いたら罪が重くなるのはソッチなんだが、まぁこういう小さい犯罪をしている奴は大抵、アドレナリンとかが出まくって正常な判断ができない事が多い。
ここで逃げ切れても日本の警察は優秀だからどうせ、捕まるってのに……ま、今アンタの前に立ち塞がっているのは警察なんかよりも怖い悪の組織の幹部なんですけどね。
「よっと!」
「ガッ!?」
改造手術の恩恵は当然、生身にもあって魔人状態にならなくてもこの様にラリアットでスクーターに乗っている奴を地面に引き摺り落とすぐらいには頑丈なんだよな。
地面に転がっている奴はヘルメットを着けているから、どんな表情をしているか分からないがぶつかる直前から聞こえてきた声からして驚いているか自分の状況を理解して絶望してるってところか?
「意図せず生身のスペック確認が済んだ事には感謝しよう」
「な、何を言って……」
「ただまぁ、運が悪かったな」
「がほっ!?」
さっさと諦めれば良いのにバッグを持って逃げようとするから、腹部にパンチを入れて気絶させ、手放されたバックを拾う。
あ、これ何処かのブランド物じゃん。
なるほどね……相手が婆さんなのと高価な品だから狙われたのか。
「ふぅ……ふぅ……おや、取り返してくれたのかい?」
「ん?あぁ、はいどうぞ。ちょうどそこに居たので」
「ありがとうねぇ……これは警察を呼んだ方が良いかしら」
……一応、悪の組織の人間として警察は不味くね?
隠れ潜んでいるから、表向きには認知されていないだろうけど今後、組織が隠蔽も難しいレベルでデカいことをやらかしたら連鎖的に俺もバレて関わった形跡があるからとこの婆さんまで余計な疑いを掛けられるとか……そういうのは不味いな。
「じゃ、じゃあ俺の事は適当にはぐらかしてくれると助かります」
「あら、どうして?」
「えーっと……ほら、自分今度高校生になるんですけどその変な目立ち方はしたくなくて……」
よしっ、咄嗟だけど思春期らしい言い訳が出来たんじゃないか!?
「あら。うちの孫と同い年ねぇ。分かったわ、私の方で適当に誤魔化しておくけれどお礼はしたいから」
そう言ってお婆さんは自分の鞄を漁ると、手帳を取り出しスラスラと何かを書き込むと破って俺に手渡してきた。
「はい。ウチの住所よ。明日でも来てくれると嬉しいわ」
ううん……これくらいの歳の方特有のプライバシーの欠如がすんごい。
俺がこの住所を悪用したらとか考えないんだろうか……考えないからこうやって渡してきてるんだよな。
「あはは、暇な時に伺いますね。あのそれじゃあ気をつけてください」
「えぇ。お菓子たくさん用意して待ってるわね」
慌てて立ち去る俺をニコニコ笑顔で手を振って見送るお婆さんの綺麗すぎる善良さは、困惑を通り越して誰かに騙されないか心配になるレベルだった。
結局、その後は筋トレをする気にもならなかったので家に帰った次の日、俺は差し出された紙に書かれていた住所を訪ねていた。
「……あんな笑顔を見せられたらな。来ない訳にも行かないだろ」
誰に言い訳をしているんだ俺はとツッコミをしながら、少し大きめな一軒家のインターホンを押す。
ピンポーンっという音がした後、誰かが走ってくる足音が家の中から聞こえてきた……ん?走って?
「はい。雨宮ですけど……えっと、どちら様ですか?」
ガチャっと開かれたドアからは俺と同い年くらいの眼鏡をかけた女子が出てきた。
やっぱり、走ってきた時点でお婆さんではないと思っていたがこの子、恐らくお婆さんが言っていたお孫さんか!?
なんて言えば良いんだ?『昨日、お婆さんがひったくり犯に襲われているところを助けた者ですが』って馬鹿正直に言えば良いのか?……なんだか、それはそれで集りに来たみたいで嫌だな。
「あー、えっと……お婆さん居ますかね?」
「……居ますけど、どういう関係ですか?」
そりゃ疑うわな。
どうしたものか……駄目だ、なんの言い訳も出てこないから此処はもういっそ素直に──
「芹香ちゃんどうしたの?ってあら!!昨日の子ね!来てくれて嬉しいわ。さぁ、上がって上がって!!」
「え!?お婆ちゃん知り合い!?」
「そうよ。昨日、ひったくりに襲われた話はしたでしょ?その時に助けてくれた子よ〜」
「どうも」
猫みたいに目を丸くして俺とお婆さんを交互に見る芹香さん。
なんだかその視線にはどうしてそれを早く言わないのかと此方を責めている様な気がして気まずい。
「……それならまぁ、上がってください」
「うす」
「うふふ。二人とも同い年なんだからもっと肩の力を抜いても良いのよ〜芹香、居間に案内してちょうだい」
「はーい」
切り替えが早いタイプだな芹香さん。
もう俺への気まずさを捨て去ったのか着いてきてと話す彼女の後ろを着いていく……それにしても、なんか妙な気配を感じるんだがなんだ?