悪の組織幹部高校生、拗らせた前世の願いを叶える為に奔走する!!   作:マスターBT

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おや?意外と……

 埃一つも落ちていない年季を感じる木の床を進んだ先にある襖が、芹香さんによって開かれるのと同時に面白みのない造りをしている我が家からは嗅いだ事のない畳の匂いが流れ込んできた。

 うん、前世も含めてこういう家には住んだ事はないが、やはり日本人という血に宿った感覚のせいかなんだか懐かしいな。

 

「適当な所に座ってください。多分、お婆ちゃんがお茶か何か持ってくると思うので」

 

「ありがとうございます……って、同い年らしいし硬いか?」

 

「……そういう時ってこっちに敬語をやめない?って提案してから崩すものじゃない?」

 

「あ」

 

 芹香さんに言われて確かにと頷く。

 すぐに敬語を崩してくれたから然程、気にしてないっぽいが明らかに眼鏡の向こうから向けられる視線に多分に呆れが含まれていて小っ恥ずかしくなるな。

 

「しょうがないだろ。人付き合いはあんまり得意じゃないんだ」

 

 気まずさを誤魔化す様に口を動かしながら、適当な場所に胡座で座る。

 実際、深い人間関係というやつを構成するのは苦手で同じ空間に居る分には、申し分ない関係性を構築出来るが休日等に遊びに出掛けたり一緒にゲームをする様な相手はほぼ居ない……なんなら、今世は居ない。

 

「そんな雰囲気はあるね。そう言えば聞いて良い事なのか分からないけど、お婆ちゃんが散歩してる時間って結構早いよね?なにをしてたの?」

 

「高校まで暇だからな。少し身体でも鍛えようかと思って走ってた」

 

 悪の組織の幹部になりましたなんて言える訳もないので、隠し事はあるけど嘘は吐いてない。

 

「そんなに太ってる様には見えないけど」

 

「別に痩せたい訳じゃないぞ?まぁ、女子から見ればそう思うのかもしれないけど」

 

「男子って単純だもんね」

 

「お馬鹿って言いたい?」

 

「そこまでは言ってないよ」

 

 ほぼ言ってる様なものだと思うんだが……まぁ良いか。

 自分でもちょっと驚くレベルで言葉がスルスルと出てきたんだが、さっきも俺が硬いと言って気楽に返してくれた辺り、芹香さんはかなり話しやすいタイプだな。

 

「自己紹介がまだだったな。常世 零二、よろしく芹香さん」

 

「そっか。お婆ちゃんが私の名前を呼んでいたから……一応、改めて雨宮 芹香よ。よろしく零二君」

 

「おやおや、いつの間にか仲良くなったようだねぇ。芹香ちゃんはあんまりお友達を連れて来ないから今後も仲良くしてくれると嬉しいわぁ」

 

「お婆ちゃん!?」

 

「なんだ。同じ穴の狢か」

 

 人付き合いの下手さを揶揄う様な雰囲気を出しておきながら、芹香さんも同じだった事をお茶を運んできたお婆ちゃんにバラされて顔を真っ赤にしているのを今度は俺が揶揄う様に笑って見てやる。

 

「〜〜!!」

 

 おぉ……怖い怖い。

 恥ずかしいなら逃げれば良いのに、お婆ちゃんの手にある自分の分のお茶を見て芹香さんはキッと俺を睨みつけたまま、向かい側に座った。

 

「改めてありがとうねぇ零二君。昨日は支払いもあったからもし、盗られていたらと思うと背筋がゾッとするわぁ」

 

「お茶いただきます。まさか自分もひったくりに遭遇するなんて思ってもいませんでしたよ……あ、美味しいですねこれ」

 

 一口、口に含むだけで分かるふわりと香るお茶の良い匂いと良い感じの渋みが美味く机の上に用意された羊羹を齧れば、先程の渋みを打ち消す様な甘みが広がりお茶と羊羹の二つがお互いの良さを最大限に引き出し合う。

 

「おや。甘いのが好きなのかい?」

 

「好きか嫌いかで言えば好きですね。特に和菓子は……これ、良いところのやつじゃないんですか?」

 

「あら!性格が善い子かと思ったら、舌も良い子なのかい。そうよぉ、この羊羹はおばちゃんの実家がある京都でも名が売れてる老舗の物なの」

 

「そんな良い物を良かったのですか?」

 

 確かにお金が沢山入ってる鞄を取り返したけど、所詮俺はこの春高校に上がる餓鬼だ。

 上等な和菓子を与える程の格がある相手とは思えない筈なんだが、疑心暗鬼に陥っている俺を見るお婆ちゃんの目は何処までも優しく細められている。

 

「良いのよぉ。君は私を助けてくれたの。善き行いには最大の礼を……それが雨宮の家訓だものねぇ芹香ちゃん」

 

「世の中善い人ばかりじゃないから気をつけてねお婆ちゃん。まぁ、そういう事だから気にせず食べて零二君」

 

 絶対、厨二病か何かとして笑われるだろうけど此処で実は悪の組織の人間なんですよって言ってみたいな。

 いやまぁ、万が一にもあったら俺が処される序でにこの二人にまで危害が及ぶからそんな事は言えないが……なんて事を思いながらたわいの無い話に華を咲かしているとふと、芹香さんが思い出した様に切り出した。

 

「そう言えば零二君って何処の高校に行くの?」

 

「栄決高校だよ。あそこ、部活動の数が多いだろ?今まで殆ど無趣味の人間だったけど、何か新しく始められる事あるかなって」

 

 表向きの理由だがね。

 親父の調べで栄決高校にヒーローが在籍しているとの事で、俺の意思は一切関係なくそこへ進学する事が改造手術を受ける前から決定していた。

 今になって思えば、自然と親父の提案を受け入れていたあたりいつの間にか洗脳か何かの類を受けていたんだろうな。

 

「え!?私もそこに通うんだけど」

 

「……マジ?」

 

 どんな確率だよおい!?

 偶然、朝練をしているところにひったくりに遭遇して助けたお婆ちゃんの孫娘が俺と同い年で今度通う高校まで同じとか……世界って狭いんだな。

 

「マジだよマジ。私は好きな作家が栄決高校出身だから、同じ高校に行ってみたいなって想いと学力的にちょうど良かったのもあってね」

 

「ほー、読書家なんだな」

 

「見た目とあってるでしょ。まぁ、最近は色々とあってあんまり読めてないんだけどね」

 

「そりゃご愁傷様だな」

 

「これでクラスまで一緒だったら笑いを堪える自信ないかも」

 

「そん時は互いに盛大に笑うとするか」

 

 思春期ど真ん中のクラスメイト達の前でそんな事をすれば、入学早々弄られる事になるだろうが此処まできてクラスまで同じとか流石に出来すぎているから冗談として二人で笑い飛ばす。

 そして思っていたよりも数段、居心地が良かったせいかふと外を見れば、日が傾き始めており俺は慌てて立ち上がる。

 

「っと、すみません。こんな時間まで長居してしまって!!」

 

「良いのよぉ。なんだったら夕飯も食べて行く?」

 

「いえ、流石にそこまでは……」

 

 どんだけ善い人なんだこのお婆ちゃん。

 流石の俺も夕飯までご馳走になる図々しさは持ち合わせてないぞ。

 

「そろそろ親父が帰ってくるんで帰ります」

 

「そうかい?残念だねぇ」

 

「楽しい時間をありがとうございました。芹香さんも、長居してごめんな」

 

「引き留めたのはこっちだし良いよ。それに私も同じ高校の人と話せて楽しかったし」

 

 うん、やっぱり芹香さんも善い人だな。

 ……今後、高校でヒーロー探ししている時に巻き込まない様にしないと。

 

「じゃあ失礼します」

 

 手を振り続ける二人に手を振りかえしながら家路へと歩みを進める。

 それにしても人生とはどんな出会いが何処にあるのか、そして繋がっているのか分からないものだな。

 

「……結局、ずっと感じる視線がなんだったのか分からなかったな」

 

 

 

 

 

 

「お婆ちゃん、家に戻ろっか」

 

「そうだねぇ」

 

 曲がり角を曲がって見えなくなった零二君の背中を見送り、お婆ちゃんの手を引いて家へと戻る。

 最初は少し目つきが悪くて、悪い人かと思ったけど話してみれば人の事をよく揶揄ってくるけど似た空気のせいか話し易いし、もしもクラスが同じなら良い関係を続けられると思えるぐらいにはなったかな。

 

『うーん……』

 

「どうしたのレオ?」

 

 零二君が来てからずっと、眉間に皺を寄せた表情で彼を見つめていたレオ。

 お婆ちゃんに聞こえない様に小声で問いかけてみれば、悩んだ声で言葉が返ってきた。

 

『セリカ、あのレイジから時折嫌な気配を感じたんだけど』

 

「……そう?私は話し易いなって思ったけど」

 

『うーん……ボクも三人が話しているのを見て気のせいかなって思ったんだけど、どうにも嫌な気配が連中に似てるのが気になって』

 

「え?」

 

 レオが言う連中ってあの時、私を襲ってきた白いのっぺりとした奴やあの赤紫色の炎を纏っている魔人のことだよね。

 そんな連中の気配と零二君の気配が似ている?……とてもそんな悪い奴には見えなかったけど。

 

「……」

 

『あぁ!?ボクの気のせいかもしれないからそんなに思い詰めないで!?』

 

 思わず黙ってしまった私を見てレオが顔に飛びつき、モフモフとしてきてその気持ちよさに思わず笑みが溢れる。

 

「分かった。気にはしておくねレオ」

 

『ボクも確信を持てたら改めて教えるね!』

 

 零二君……貴方は悪い人なの?




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