悪の組織幹部高校生、拗らせた前世の願いを叶える為に奔走する!! 作:マスターBT
「ベタだけど入学式に桜が満開って良いよな」
栄決高校入学式の朝、普段の癖で早く起きていた俺は9:00開始ではあるが一時間早い8:00に校門前に来て桜を見上げている。
案外、現実では地球温暖化の影響だったりで季節感がズレ、入学式に桜が咲いているというのは珍しくなったがこの世界ではお約束に忠実な様で満開の桜が春特有の暖かな風に乗り、綺麗な桜吹雪を散らしていく。
「おや?その綺麗な制服……もしかして新入生かい?」
「あ、はい。少し早く来てしまいましたかね」
「いや構わないよ。もう少ししたらきっと他の人達も来るだろうからね」
聞こえてきた落ち着きのある声に振り返って見れば、その声の印象通りに大人びた雰囲気を纏う栄決高校の制服を着ている女子が立っており、胸元のリボンが赤い事から三年生だと分かる。
確か泣きぼくろと言ったか、右目の下にあるホクロと白い肌に真っ直ぐと映える濡羽な色の髪が歳不相応な色気を放っているな。
「私は
「俺は常世 零二って言います。えぇまぁ、親は仕事で忙しいんで」
あの親父は例え暇だろうと、入学式になんて絶対来ないだろうけどな。
「……すまない。答え辛い事を聞いてしまったね。お詫びと言ってはあれだけど、互いに少し時間を持て余している身だ。君さえ良ければ簡単な案内をしようじゃないか」
「それは……」
反射的に断ろうと思った言葉を途中で止める。
正直、出会ったばかりの先輩しかも異性と二人きりという状況はどう考えても息苦しいもので拒否したいが、入学直後は色々とイベントがあり自由時間の確保が難しく、ヒーロー調査に充てられる時間は少ない。
高校の作りを早めに把握できるチャンスなら、俺個人の気まずさなど無視すれば良いだろう。
「……ありがとうございます鴉羽先輩。入学前に緊張を解す良い機会ですね」
「ふふっ。新生活は不安が一杯だからね。少しでも君の不安を取り除ける様に尽力しようじゃないか」
それにしても随分と口振りが仰々しいというか、一々演技っぽい感じの人だな鴉羽先輩。
今も普通に言えば良いのに、壇上に立つ役者みたいに胸に手を当ててお辞儀をしてから歩き出しているし。
「君達新入生は実に運が良い。これから行われる入学式はちょうど建て替え終わった綺麗な第一体育館で行われるからね」
「耐震工事か何かですか?」
「いや単に老朽化が原因さ。屋根の一部が壊れたらしく、本格的に崩れ落ちる前に建て替えに踏み切ったそうだよ。無事だったから良いけど、その古い体育館を使って劇をしていた身としては肝が冷えるね」
先輩の後ろを着いて行き、少し遠くに見える体育館を指差しながら話してくれた内容でこの人の芝居かかった理由を理解した。
生徒会長でもあり、演劇部でもある……人の前に立つ事に慣れている人らしい。
「どんな役柄でも似合いそうですね」
「嬉しい事を言ってくれるね。零二くんは演劇に興味があったり?」
「いやぁ、人前に立って演技はちょっと……」
「なにそう難しい事じゃないさ。明日には部活動見学が開放される。是非とも来て欲しいな。っと、この新校舎の一階、右奥が生徒会室だよ。何か不安があったら足を運ぶと良い。ちなみに絶賛、庶務を募集中だ」
「勧誘しすぎでは?」
「機会は多い方が得だろう?」
「そうですけど」
初対面の一年生にする事ではないと思う。
そんな意図を込めた視線に気がついたのか、鴉羽先輩ははっはっは!!と高笑いをして誤魔化し、その足を広いグランドへと向ける。
「君も知っているだろうけど栄決高校は部活動の数が多い。グラウンドもここ以外に二つあって、この第一グランドでは最も結果を出しているサッカー部と陸上部が使っているよ。大会が近い時とかは彼らの活気だけで気温が二度くらい上がった感覚になる」
「どちらも全国常連でしたね。その点で言えば、野球部も甲子園に出ていたと思うんですが」
「よく調べているね。野球部は第二グラウンドを実質、専用の形で使っているよ。第一グランドじゃ、校舎が近すぎて打ち上げた時に窓を割ってしまうからね」
「なるほど」
「すぐ近くにある第二体育館は剣道部や柔道部、卓球部なんかも使ってる。併設されている弓道場はボクシング部も使ったりしてたかな」
本当に広いな……沢山ある部活が十分に活動できる様にしているんだろうけど、この中からヒーローを探し出すとなると骨が折れそうだ。
「呆気に取られている様だけど、もちろん運動部以外も沢山あるからね。私達、演劇部に吹奏楽部、化学部や漫画・小説部にロボット部など……専門性の高い部活動も沢山だ」
クルリと俺の方へと振り返り、綺麗な微笑みを見せる鴉羽先輩はタイミングを見計らったのか、ちょうど良い風が吹き背後を桜吹雪が彩り一瞬で此処が別世界なんじゃないかと錯覚する美しさを作り出す。
「零二くんのこれからが是非、楽しく笑顔で満ち溢れたものになってくれる事を私は願っているよ。少し早いけど──ようこそ栄決高校へ」
これが生粋の役者が為せる技か……折角、丁寧な演出も合わせて俺のこれからを願ってくれたのは嬉しいが、あいにくと悪役である俺にそんな真っ当な褒美が与えられるとは思えないな。
でもまぁ、今この瞬間くらいは──
「はい。ありがとうございます鴉羽先輩!」
──こうやって笑顔を浮かべるぐらいは良いだろう。
俺だって暗い結末を迎えたい訳じゃないからな。
一年一組。
そこには入学の受付を終え、配布されたクラス割の紙を手にして集まった新入生達が続々と集まっており、その中には魔法少女レグルスこと、雨宮 芹香の姿もあった。
新入生特有の綺麗な制服に身を包み、この日の為に新調した赤縁の眼鏡を身につけた彼女は周りの喧騒とは真逆に静かに座り、本を開いていた。
『……セリカ?周りのみんなみたいにグループを作らなくて良いのかい?』
「中学の友達は違う高校に行ってるからね。初日なんてこんなものだよ」
新しくなった環境でスムーズに馴染めるタイプではない彼女は、実のところ全く読み進めていない本を片手に自分にしか見えていないレオと言葉を交わす。
側から見れば完全な独り言だが、新生活に浮かれている教室では誰もその事実を気にかける者はいない。
そんな折、扉が開かれる音が聞こえクラスメイト達の騒がしさが一瞬、静かになるがどうやら入って来たのは新しいクラスメイトの様で再び賑やかさを取り戻す。
「……流石に怖くなってきたな?」
「私も同じ感想だよ零二君」
運命の悪戯か、同じクラスになった芹香と零二は互いに顔を合わせて笑い合った。
そこから入学式が始まるまでの間、二人でたわいもない時間を過ごしたのは語るまでもないだろう。