【Fate/Heian】   作:就活生

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二話

――警告。霊長類圏における深刻な汚染を確認。

 ――定義変更の試みを検知。対象カテゴリー『平家』による、ホモ・サピエンスの定義書き換えを棄却する。

 

 状況は「人理焼却」には至らずとも、「人理凍結」の恐れあり。

 認定。これは剪定事象の萌芽である。

 

 抑止力は作動した。

 しかし、相手は既に政権を掌握し、日本の霊脈を支配した巨大な生体魔術組織である。

 通常の守護者を召喚するには、土地の霊的基盤があまりに『平家』に汚染されすぎていた。

 故に、世界は外部記憶を参照する。

 

 日本という土地に残された、古い、古い「遺物」。

 神代の昔、大陸より飛来し、あるいは土着の神として祀られた「機神」の残骸。

 それらを起動キーとして、対抗勢力を選抜した。

 

 選ばれたのは、東国。

 かつてより、武力と馬を崇めた武士団。

 清和源氏。

 伊豆国、蛭ヶ小島。

 流刑の地とされたその場所で、男は土を掘っていた。

 

 

 

 源頼朝。

 父を殺され、地位を奪われ、この地に流された敗北者。

 だが、彼の目は死んでいなかった。むしろ、冷徹な計算機の光を宿していた。

 

「佐殿。……掘り当たりました」

 

 従者である北条時政が、泥にまみれた顔で這い出してくる。

 頼朝は無言で頷き、掘削された穴——古墳のような地下空洞へと降り立った。

 そこには、巨大な「腕」があった。

 岩盤に埋没した、金属ともセラミックともつかぬ巨腕。

 表面には幾何学的な紋様が走り、かすかに青白い燐光を放っている。

 

「……第五世代・対粛清用多脚戦車。コード『ハチマン』の予備パーツか」

 

 頼朝は、まるで昨日の夕食の献立を語るかのように、その超常の物体を呼んだ。

 彼の脳内には、先祖代々受け継がれてきた「源氏の血」——ナノマシンを含んだ血液記憶が、設計図を展開している。

 

 源氏とは、ただの武家ではない。

 帝の血を引くと同時に、古代の技術遺産を管理・運用するために調整された「管理者」の家系。

 彼らが操るのは呪術ではない。科学だ。

 神秘が薄れゆく時代において、唯一神秘を殺せる物理法則の具現。

 

「平家は、人を辞める道を選んだ」

 

 頼朝が巨腕に手を触れる。

 指先から火花が散り、神経接続が繋がる音が、脳髄に直接響いた。

 

 <認証(ID):Minamoto_no_Yoritomo>

 <権限:総司令クラス>

 <状況:緊急事態。敵性生命体『HEIKE』の増殖を確認>

 

「ならば我らは、人の道具(武器)となる道を選ぼう」

 

 ズズズ、と大地が震える。

 伊豆の山々が共鳴し、地下深くに眠っていた兵装群が起動シークエンスに入る。

 

02. 襲撃と認証

 

「――見つけたぞ、源氏の生き残り.

お前も一つに、幸せになるのだ」

 

 空洞の上から、平坦な声が響く。

 ドサリ、ドサリと何かが降りてくる音。

 平家の監視兵たちだ。だが、その姿は異様だった。

 皮膚は紅色の漆を塗ったかのような硬質光沢を帯び、その顔はのっぺりとした「能面」のような無表情へと変貌している。

 否、無表情ではない。彼らの口元は、一様に裂けるような「慈悲の笑み(アルカイックスマイル)」で固定されていた。

京からの遠隔接続により、自我を削除され、生きたまま解脱させられた成れの果て。

 敵は十体。対してこちらは、鍬を持った時政と、丸腰の頼朝のみ。

 だが、頼朝は動じない。

 彼は懐から、一つの端末を取り出した。

 

「時政。……接続は?」

「完了しております。ですが、頼朝様! この機体を稼働させるには、外部認証が必要です!」

 

 時政が叫ぶ。

 機神の遺産を動かすには、源氏の血(ハードウェア)だけでは足りない。

 それを制御し、運用権限を承認する「鍵」を持つパートナーが必要なのだ。

 

「鍵なら、ここにあります」

 

 凛とした声が、闇を切り裂いた。

 頼朝の背後。

 北条時政の娘、政子が立っていた。

 彼女の手には、輝く短刀――否、起動回路が握られている。

 

「政子殿……」

「お待たせいたしました、頼朝様。

 北条の家系に伝わる『整備士』の権限、今こそお使いください」

 

 政子は微笑む。

 彼女は英霊を喚ぶ魔術師ではない。古代の機械を整備し、管理する技術者の一族。

 彼女の右手の甲には、赤い紋様――生体認証コードが浮かび上がっていた。

 

 

 

 怪物が飛び掛かる。

 だが、その爪が頼朝に届く寸前、政子が起動鍵を頼朝の胸に突き立てた。

 

 殺傷ではない。

 入力。

 

「――承認。

 全リミッター解除。

 対界兵装接続、出力固定!」

 

 政子の宣言と共に、地下空洞の「巨腕」が粒子となって崩壊し、頼朝の体へと吸い込まれていく。

 頼朝の体が、流体金属のようなナノマシンに覆われていく。

 

 それは鎧ではない。

 神代の合金で編まれた、外骨格強化装甲。

 

 それは日本刀ではない。

 分子結合を断ち切る、高周波振動ブレード。

 

 白銀の装甲。無機質なフルフェイスの兜。

 その姿は、後の世に語られる「武者」の原型でありながら、あまりにも異質。

 機械仕掛けの神を降ろした、鋼の英雄。

 

「起動。……システム・ゲンジ、オールグリーン」

 

 兜の奥で、頼朝の声が電子的なノイズ混じりに響く。

 彼はゆっくりと、政子の方を向いた。

 蒼いカメラアイが明滅する。

 

「問おう」

 

 頼朝の声は、もはや人のそれではない。

 冷徹で、強大で、けれどどこか懐かしさを帯びた機械音声。

 

「――貴女が、私の管理者(マスター)か」

 

 政子は涙をこぼし、強く頷いた。

 

「ええ。私が貴方の管理者。そして、貴方の妻です。

 征きましょう、頼朝様。この狂った世界を、私たちの手で管理する(取り戻す)ために」

 

 

 

「――契約完了」

 

 頼朝が前を向く。

 眼前の怪物たちが、本能的な恐怖に駆られて後ずさる。

 

「ヒッ、バケモノ……!? チガウ、アレハ、天敵ダ!」

 

「これより、害虫駆除を開始する。平家にあらずんば人にあらず、と言ったか。……結構」

 

 頼朝が刀の柄に手をかける。

 抜刀の動作は見えなかった。

 ただ、空間に銀色の線が走っただけ。

 

 キィィィィン――。

 高周波の共鳴音が遅れて響く。

 次の瞬間、十体の怪物は、分子レベルで切断され、肉塊となって崩れ落ちた。

 血飛沫すら上がらない。

 切断面が高熱で焼灼され、炭化しているのだ。

 

「対象沈黙。戦闘時間、〇・二秒」

 

 頼朝は刀についた灰を振るい、鞘に納める。

 蒼いカメラアイが、西の空――京の方角を睨み据えた。

 

「我らは人ではない。人の世を守る、秩序(システム)だ」

 

 雨が止む。

 雲の切れ間から差し込む月光が、白銀の武者を照らし出す。

 

 歴史の歯車が、軋みを上げて回り始めた。

 これは、人と、かつて人だったモノたちによる、鋼鉄の叙事詩。

 赫き星の夢を砕くため、黒ガネの王が進撃を開始する。

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