もしも、ロキファミリアに闇深系少女が入ったら。   作:匿名。

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第7話

 18階層、『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』。

 

 水晶の輝きが天井を彩り、豊かな自然が広がる安全階層。

 

 「……着いた」

 

 フィーナが大きく息を吸い込む。

 

 ここは、セーフティーポイント。モンスターが存在しない場所である。そして、ここまで来れば、最低限の水や自然に生えている食料を補給できるし、何より地上はもう目と鼻の先だ。

 

 張り詰めていた糸が、ほんの少しだけ緩んだ。

 

 ――その油断が、命取りだった。

 

 「あらぁ? 珍しいお客様だこと」

 

 「ほんとぉ。薄汚いネズミさんたちが、コソコソとどこへ行くのかしら?」

 

 森の開けた場所。

 

 そこに、場の空気にそぐわない、極彩色で蠱惑的な二つの影があった。

 

 金髪のサイドテールに、白磁の肌を持つ白妖精(ホワイトエルフ)。

 

 銀髪のツインテールに、褐色の肌を持つ黒妖精(ダークエルフ)。

 

 二人は鏡写しのように左右対称の、踊り子のような露出度の高い衣装を纏っていた。

 

 その目元には、堕落と残虐の象徴のような涙のタトゥー。

 

 アレクト・ファミリア団長、ディナ・ディース。

 

 同副団長、ヴェナ・ディース。

 

 通称『ディース姉妹』。Lv.5の第一級冒険者にして、闇派閥(イヴィルス)きっての快楽殺人者。

 

 「……ッ!!」

 

 フィンが即座に足を止め、二人を庇うように前に出る。

 

 「……アレクト・ファミリア。こんなところで何をしている」

 

 「あら、フィン・ディムナじゃない。久しぶりねぇ」

 

 姉のディナが、愛用の棘付き鞭を撫でながら、ねっとりとした視線を送る。

 

 「何って、下見よ下見。これから始まる『パーティー』の会場選びかしら?」

 

 「ふふっ、ここなら悲鳴がよく響きそうだものねぇ」

 

 妹のヴェナが、巨大な戦斧(バトルアクス)を軽々と回して笑う。

 

 最悪の遭遇(エンカウント)。

 

 今のオラリオ最強はLv.6のオッタル。

 

 それに次ぐLv.5上位のフィンにとって、同格のLv.5が二人というのは、万全の状態でも厳しい相手だ。

 

 ましてや今は、深層帰りで消耗しきっている。おまけに足手まとい(フィーナとアイズ)がいる。

 

 (……まずいな。撤退も難しい)

 

 フィンが冷や汗を流す背後で、フィーナの様子が一変していた。

 

 「…………」

 

 フィーナの瞳から、理性の光が消え失せていた。

 

 あるのは、ドス黒い憎悪と殺意のみ。

 

 彼女は知っている。この姉妹が何をしてきたか。

 

 殺しを「愛」と呼び、生きたまま人を解体し、その苦悶の表情を見て絶頂する外道。

 

 エルフという誇り高い種族の面汚し。

 

 (許さない。許せない。こいつらは、生かしておけない)

 

 フィーナはアイズに目配せを送った。

 

 アイズもまた、フィーナの憎悪に共鳴し、黄金の瞳を剣呑に細めて頷く。

 

 二人の思考がリンクする。

 

 『やる』。

 

フィーナが一歩、前に出た。

 

 「……あら? なあに、その可愛い子」

 

 ディナが興味深そうにフィーナを見る。

 

 フィーナは、最大限の侮蔑と嘲笑を込めて、冷たく言い放った。

 

 「……穢らわしい『妖魔』ごときが、なぜ神聖な森にいるのですか?」

 

 ピキッ。

 

 空間に亀裂が入るような音がした。

 

 ディナとヴェナの笑顔が凍りつく。

 

 『妖魔』。

 

 それは、穢れた血、呪われた存在を指す言葉。自らの美意識に絶対の自信を持つ彼女たちにとって、最大の禁句(タブー)。

 

 「……あぁ?」

 

 ディナのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

 「今、なんて言ったのかしら? このクソガキ」

 

 「耳も腐っているのですか? ……妖魔、と言ったのです。生きている価値もない、醜い化け物」

 

 「ブッ殺してやるッ!!!」

 

 ディナが激昂し、姿を消した。

 

 Lv.5の神速。

 

 フィンが反応するより速く、ディナはフィーナの目の前に現れ、その喉を片手で締め上げた。

 

 「がっ……!」

 

 「フィーナ!」

 

 フィンが動こうとするが、ヴェナが戦斧を振り下ろして道を塞ぐ。

 

 「お前の相手はアタシだよ、勇者サマ!」

 

 分断された。

 

 ディナはフィーナを地面に叩きつけ、その腹の上にヒールで乗り上げた。

 

 「生意気な口ねぇ……。すぐに殺してあげると思った? 残念、たっぷりと『壊して』あげるわ!」

 

 シュッ!

 

 ディナが短剣を取り出し、フィーナの肩に突き立てる。

 

 「ぐぅッ……!」

 

 「いい声! もっと聞かせて!」

 

 ザシュッ、ザシュッ!

 

 太腿、二の腕、脇腹。

 

 急所を外しつつ、神経が集中する場所を的確に切り裂いていく。

 

 鮮血が舞う。

 

 だが、フィーナは回復魔法を使うことはない。ただ、ひたすらに口をつぐんで何かを待っていた。

 

ディナの指が、フィーナの傷口にねじ込まれる。

 

 拷問。蹂躙。

 

 だが、フィーナは悲鳴を上げなかった。

 

 ただ、口を固く結び、時を待つ。

 

 口の中に、温かい鉄の味が広がる。血が溜まっていく。

 

 (もっと……もっと近くへ……油断しろ、このクズ……)

 

 ディナはフィーナの顔を覗き込む。

 

 「どうしたのぉ? 悔しい? 痛い? ごめんなさいって言えば許して……あげるわけないでしょぉ?」

 

 至近距離。

 

 ディナの顔が目の前にある。

 

 その左目にある涙のタトゥーが、歪んで見える。

 

 「ぶっ……!!」

 

 霧状になった血の飛沫が、ディナの顔面に噴射される。

 

 「なっ、ぐあぁっ!?」

 

 不意打ち。

 

 粘着質な血液がディナの両目に入り、視界を奪う。フィーナは回復魔法を使わなかったわけではない。使えなかったのである。舌を噛み切り、口内に血液を溜める。そして、それを悟られないように必死に拷問を耐えていたのである。

 

 血液を使った目眩しは、古くから行われており、実際に戦国時代などでは血液を口に含み噴き出して視力を奪うということは当然のように行われていた技。それを再現したのである。

 

 「目が! 目がぁぁぁッ! 汚い! 汚らわしいッ!!」

 

 ディナが顔を覆ってのけぞる。

 

 その一瞬の隙。

 

 「――アイズさんッ!!」

 

 音にならない、フィーナの叫びに応え、彼女の背後から、黒い風が吹き荒れた。

 

 「【エアリエル】」

 

 アイズ・ヴァレンシュタインが飛び出す。

 

 その身に纏うのは、通常の風ではない。

 

 フィーナへの拷問を見せつけられ、憎悪と殺意で漆黒に染まった『復讐の風』。

 

 スキル『復讐姫(アヴェンジャー)』。

 

 本来はモンスターに対してのみ発動する超高出力スキル。

 

 だが、今のアイズにとって、フィーナを傷つけるこの女は、モンスターよりも醜悪な『怪物』だった。

 

 スキル『比翼連理』の共鳴が、対象の定義をねじ曲げ、フィーナの闇派閥に対する憎悪を共有する。強烈な憎悪の丈によって、アイズのステイタスを爆発的に引き上げる。

 

 Lv.3のアイズが、Lv.5の領域へ肉薄する。

 

 「死ねッ!!」

 

 「なっ、に……!?」

 

 視力を一時的に奪われたディナは、迫りくる殺気に反応して腕を交差させ、防御態勢を取る。

 

 Lv.5の耐久力があれば、格下の攻撃など弾けるはずだった。

 

 だが、アイズの魔法は、物理法則を無視した破壊力を宿していた。

 

 ズドォォォォォォォンッ!!!

 

 黒い風が、ディナの腕ごと胴体を貫通した。

 

 「が、ぁ……?」

 

 ディナの体に、風穴が空く。

 

 防御の上から、肉ごと吹き飛ばされたのだ。

 

 「嘘……あたしが……こんな、ガキに……」

 

 ディナが崩れ落ちる。即死だった。

 

 だが、アイズは止まらない。

 

 「許さない……フィーナを、傷つけた……!」

 

 アイズは倒れたディナの死体に馬乗りになった。

 

 剣を振り上げ、振り下ろす。

 

 ザシュッ! ザシュッ! グチャッ!

 

 美しい顔が潰れる。四肢が切断される。

 

 それは戦闘ではない。死体損壊。

 

 返り血で黄金の髪を赤く染めながら、アイズは無表情で、ただ機械的に「敵」を肉片へと変えていく。

 

 その姿は、英雄というよりは、血に飢えた狂戦士そのものだった。

 

 「お姉……ちゃん……?」

 

 フィンと切り結んでいたヴェナが、動きを止めた。

 

 視線の先には、原形をとどめない肉塊と化した姉と、それを無心に切り刻む金髪の少女。

 

 「嘘……嘘よ、嘘嘘嘘嘘嘘ッ!!」

 

 ヴェナが絶叫する。

 

 「お姉ちゃん! お姉ちゃんんんんんッ!! いやああああああッ!!」

 

 発狂。

 

 ヴェナは戦斧を投げ捨て、頭を抱えて泣き叫んだ。

 

 姉妹の絆は強かった。だが、それゆえに片割れを失った精神的ダメージは、彼女の理性を完全に破壊した。

 

 目の前に、Lv.5の強敵(フィン)がいることなど忘れて。

 

 「……隙だらけだ」

 

 フィン・ディムナは見逃さない。

 

 彼は冷徹に、慈悲なく、その隙を突いた。

 

 ヒュンッ。

 

 黄金の槍が閃く。

 

 ヴェナの首が、音もなく宙を舞った。

 

 泣き叫んでいた表情のまま、首は地面に落ち、胴体が遅れて崩れ落ちる。

 

 静寂が戻った。

 

 あるのは、血の匂いと、アイズが剣を振るう湿った音だけ。

 

 「……アイズ、もういい」

 

 フィンが静かに声をかける。

 

 「……死んでいるよ」

 

 アイズの手が止まる。

 

 肩で息をしながら、彼女はゆっくりと立ち上がった。

 

 その瞳から黒い光が消え、いつもの金色の瞳に戻る。

 

 だが、足元に広がる惨状を見て、彼女自身も少しだけ顔を歪めた。

 

 「……フィーナ」

 

 アイズが駆け寄る。

 

 フィーナは倒れたまま、ピクリとも動かない。

 

 全身を切り刻まれた傷が治っていない。

 

 様子がおかしい。

 

 「フィーナ……?」

 

 アイズはフィーナの肩を揺さぶる。反応がない。

 

 それどころか、胸が上下していない。

 

 顔色が蝋人形のように蒼白で、唇は紫色に変色している。

 

 「……嘘」

 

 アイズの時が止まる。

 

 世界から音が消える。

 

 走馬灯のように、この短くも濃密な一ヶ月の記憶が脳裏を駆け巡る。

 

 初めて出会った日。同じ傷を持つ瞳に、惹かれたこと。

 

 じゃが丸くんを半分こして笑った日。

 

 互いに剣を向け合い、血を流しながら強さを求めた夜。

 

 そして――。

 

 『アイズさんは死なせない! 絶対に!』

 

 深層で、自分を庇って背中を切り裂かれたフィーナの叫び。

 

 いつも、彼女は自分を守ってくれた。

 

 自分が「英雄」になりたいと思っていたのに、先に英雄になってしまった少女。

 

 「いや……いやだ……っ!」

 

 アイズの手が震える。

 

 呼吸が止まっている。

 

 原因はすぐに分かった。口元から溢れる大量の血。

 

 拷問に耐えるため、気配を悟られないため、自ら舌を噛み切り、口の中に溜め込んだ血液。

 

 それが、意識を失ったことで気道に流れ込み、彼女を内側から溺れさせていたのだ。

 

 「フィーナ……死なないで……お願い……ッ!」

 

 アイズは、半狂乱になりながらフィーナの懐をまさぐった。

 

 あった。

 

 最後の砦。ディアンケヒト製の『万能薬(エリクサー)』。

 

 震える手で蓋を開ける。だが、飲ませようとして手が止まる。

 

 呼吸が止まっている状態で液体を流し込めば、さらに窒息させるだけだ。

 

 「……吸い出さなきゃ」

 

 アイズは躊躇なく、血に塗れたフィーナの唇に、自分の唇を重ねた。

 

 血液に濡れ、冷たい。

 

 そして、鉄錆の味。

 

 「ん、ぐぅ……ッ!」

 

 アイズは思い切り吸い込んだ。

 

 口の中に、ドロリとした凝血塊と液体が流れ込んでくる。

 

 それを吐き出し、また吸う。

 

 何度も、何度も。

 

 自分の服が、フィーナの血で真っ赤に染まるのも構わずに。

 

 「……アイズ」

 

 フィンが駆け寄る。その顔には、かつてない焦燥と、そして祈りが浮かんでいた。

 

 「気道を確保するんだ。顎を上げて……そう」

 

 フィンの指示に従い、アイズは気道を確保し、最後の血を吸い出した。

 

 そして、エリクサーを口に含み、口移しでフィーナの喉へと流し込む。

 

 ごくり。

 

 喉が動いた。

 

 エリクサーの神聖な光が、フィーナの体を包み込む。

 

 噛み切られた舌が再生し、肺の機能が修復され、止まりかけていた心臓に活力が注ぎ込まれる。

 

 「……かはっ、げほっ、げほっ……!」

 

 フィーナが咳き込み、肺に残っていた血を吐き出した。

 

 そして、大きく息を吸い込んだ。

 

 ヒュー、ヒューと、掠れた呼吸音が戻ってくる。

 

 「……あ……」

 

 アイズの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

 

 生きている。

 

 その事実だけで、張り詰めていた心が崩壊しそうになる。

 

 アイズはフィーナの胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。

 

「……泣いている暇はないよ、アイズ」

 

 フィンが静かに、しかし厳しく告げる。

 

 「ディース姉妹がここにいたということは、近くに本隊がいる可能性がある。……一刻も早く、ここを離脱する」

 

 フィンは周囲を警戒しながら続ける。

 

 「フィーナを背負えるかい?」

 

 「……ん。背負う」

 

 アイズは涙を拭い、ぐったりとしたフィーナを背中に背負った。

 

 軽い。

 

 命の重さにしては、あまりにも軽すぎる体温。

 

 だが、その温もりが背中にあることが、今のアイズにとって唯一の救いだった。

 

 「戦闘は全て僕がやる。君はフィーナを守ることだけに集中してくれ」

 

 「……わかった」

 

 三人は走り出した。

 

 フィンの速度は、行きよりもさらに速かった。

 

 遭遇するモンスターは、槍の一閃で瞬殺される。

 

 アイズは風を纏い、『エアリエル』の推力でフィンの背中を追う。

 

 背中のフィーナを起こさないように、けれど決して離されないように。

 

 10階層、5階層……。

 

 上層に差し掛かった頃、前方から複数の松明の明かりが見えた。

 

 武装した集団。

 

 「……アストレア・ファミリアか」

 

 フィンが呟く。

 

 すれ違いざま。

 

 先頭を走るアリーゼ・ローヴェルと目が合った。

 

 彼女たちは、夜間に闇派閥らしき集団が侵入したとの報を受け、調査に向かっている途中だった。

 

 「……っ!?」

 

 アリーゼが目を見開く。

 

 すれ違ったのは一瞬。

 

 だが、その一瞬で彼女たちは見てしまった。

 

 返り血で真っ赤に染まったフィン。

 

 ボロボロの装備で、背中に瀕死の少女を背負ったアイズ。

 

 そしてアイズの瞳に浮かぶ、安堵と恐怖がない交ぜになった涙の跡。

 

 「今の……ロキ・ファミリアの……」

 

 リューが足を止めようとするが、アリーゼが制した。

 

 「止めちゃだめ! ……彼らは今、私たちと話している時間なんてない」

 

 彼らの鬼気迫る形相。それは、ただ事ではない修羅場を潜り抜けてきた者の顔だった。

 

 言葉を交わすことさえ、今の彼らにとっては命取りになりかねない。

 

 「……行こう。何かあったのかは、後で聞くしかないよ」

 

 アリーゼは複雑な表情で、遠ざかる三人の背中を見送った。

 

 カグヤが扇子で口元を隠し、低く呟く。

 

 「……あれは『冒険』の顔やない。『戦争』の顔や」

 

地上に出た。

 

 夜明け前のオラリオは、まだ薄暗い静寂に包まれていた。

 

 冷たい夜風が、火照った体に染みる。

 

 「……代わるよ、アイズ」

 

 フィンが手を差し出す。

 

 「僕がフィーナを運ぶ。君も限界だろう」

 

 「……ううん」

 

 アイズは首を横に振った。

 

 背中のフィーナを、強く抱き直す。

 

 「私が、運ぶ。……最後まで」

 

 その瞳には、テコでも動かないという強い意志が宿っていた。

 

 フィンは少しだけ困ったように笑い、そして頷いた。

 

 「わかった。……あと少しだ」

 

 人目を避け、路地裏を抜けて黄昏の館へ。

 

 裏口にたどり着いた瞬間、アイズの足から力が抜けた。

 

 「……着い、た……」

 

 糸が切れたように、視界が暗転する。

 

 アイズはその場に崩れ落ちた。

 

 だが、倒れる瞬間まで、背中のフィーナを庇うように体を丸めていた。

 

 「アイズ! フィーナ!」

 

 「フィン! 無事か!」

 

 待ち構えていたリヴェリアとガレス、そしてロキが飛び出してくる。

 

 三人の凄惨な姿に、リヴェリアの顔色が蒼白になる。

 

 「なんて姿だ……! 早く中へ! 治療班を呼べ!」

 

 「エリクサーを持ってこい! 急げ!」

 

 館の中が騒然となる。

 

 アイズとフィーナは並んでベッドに寝かせられた。

 

 フィーナの容体は深刻だった。

 

 エリクサーで命は繋いだが、大量の失血と魔力枯渇(マインド・ダウン)、そして拷問によって受けた身体的ダメージ。

 

 「……死なせへんで。絶対に」

 

 ロキがフィーナの手を握りしめる。

 

 リヴェリアが回復魔法をかけ続け、追加のエリクサーが惜しげもなく投与される。

 

 長い夜が明ける頃。

 

 フィーナの呼吸はようやく安定し、安らかな寝息へと変わった。

 

 「……助かったか」

 

 フィンが壁に背を預け、ズルズルと座り込む。

 

 彼もまた、満身創痍だった。

 

 だが、その手には、37階層から持ち帰った戦利品――が握りしめられていた。

 

 「……強くなったな、お前たち」

 

 ガレスがしみじみと呟く。

 

 代償は大きかった。だが、彼らは確かに、地獄の淵から生還したのだ。

 

 来るべき『死の七日間』に向けて、可能性を手に入れて。

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