ブルーアーカイブ~~キヴォトスに舞い降りる嵐≪ストーム≫~~ 作:ジョージ
あぁ、長い人生だった。
自分の命が消えようとしているのが分かる。だが、悔いはない。長く戦場に身を置き、戦ってきた。
かつて、この星は異星人から攻撃を受けた。
『プライマー』。遥か未来の火星に生まれ、そして過去の地球に飛来した破壊者。そんな連中を相手に俺は戦った。
『EDF』という、この星を、人類の故郷である地球を守る組織の、一兵士として。
プライマーとの戦いは人類の勝利で終わった。その戦いの中でプライマーは消滅。どうして消滅したのかは、知り合いの科学者に昔聞いた事があるが、難しい話だったのであまり良く覚えていない。
まぁ、そんな事は良い。重要なのは、人類は外の星から現れた侵略者を倒し、平和を勝ち取った。俺は、そんな人類と地球の未来を守る戦いの、最前線に居て、生き残った。
色んな奴らが集まった、ドリームチーム。『ストームチーム』の一員として、戦い抜いた。
あぁ、ホントに。いつ死んでも可笑しくなかったあの戦いを、俺は生き延びたんだ。正直、老衰で死ねるとは、あの頃は夢にも思わなかっただろう。
あぁ、もう、『時間』、か。……願わくば、俺の子供たちが、あんな化け物どもと戦う事の無い、平和な、世界が、続く、事、を……。
~~~~~~
その日、一人の英雄が永い眠りについた。未来からの侵略者、プライマーの侵略を退けた、英雄たちのドリームチーム、『ストームチーム』の『ストーム2』のコールサインを背負った、一人の男が。
だが、彼の物語は、まだ、終わらない。
だが、彼だけではない。かの大戦を生き抜き、やがて眠りについた英雄たちの魂は、透き通った青空の元へと、導かれる。
そして、『嵐』の名を背負いし英雄たちは、様々な形で、『キヴォトス』へと導かれる。
かつて『大尉』と呼ばれた彼もまた。その一人であった。
~~~~~~
「……私のミスでした」
なんだ?声が、聞こえる。俺は、死んだんじゃ、無いのか?目も明かない。体も動かない。何も感じない。なのに、声だけが聞こえる。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
状況とは、なんだ?君は、一体。問いかけたい。なのに、口は動かず、唸り声1つ発する事が出来ない。
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかった事を悟るだなんて」
何かが、見える。目は開いていないはず、なのに。白い服に、脇腹辺りから血を流す、傷だらけの少女。
「……今更図々しいですが、お願いします。先生」
先生?俺、が?
「……きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
ちょっと、待ってくれ。状況が飲み込めない。これは……。
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから」
選択とは何だ?状況とはなんだ?
「ですから、大事なのは経験ではなく、『選択』。あなたにしか出来ない選択の数々」
俺にしか、出来ない選択?俺に、何が選べる。人生の大半を、戦う事に捧げて来た俺に。
「責任を負う者について、話した事がありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが、今なら理解できます」
待て。俺は君と話をした事など、覚えは……。いや、まさか?
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延べも」
もしかして、これは、『未来の記憶』、なのか?君には、プライマーのタイムマシンのような、力があるとでも……。
「ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたになら」
君は、俺に何を求める?
「この捻じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を」
結果を、変えろと。未来を、変えろとというのか。君は、俺に。
「そこへつながる選択肢は、きっと見つかるはずです」
俺に、『
「だから先生、どうか……」
そこから先の声は、聞こえない。景色が、急速に遠ざかって行く。
「……う」
「お…、…ろ」
入れ替わるように、声が聞こえる。女性のものじゃない。男の声?それも、複数。だが、俺はこの声を、知って……。
~~~~~~
「大尉ッ!」
「ッ!!!」
声が聞こえた瞬間、俺は飛び起きたっ。体を震わせ、目を開け、正面を見据える。突然の事に目が追い付かない。数回瞬きをして、改めて正面を見据える。
そこに居たのは、3人の男だった。だが、『こいつら』は……。
「お、お前たち?」
忘れるはずがない。プライマーとの戦争で、いくつもの戦場を共に戦った部下が、目の前にいた。それも、あの戦争当時の姿で。
「良かったっ!目が覚めたんですね大尉ッ!」
そいつは、部下の中では最古参の、最も付き合いの長い奴だ。レンジャー2のコールサインを持つ、冷静沈着な部隊の参謀役でもある。
「全くいくら声かけても目を覚まさないからビビりましたよっ!」
2人目は、ジョークが好きな部隊のムードメーカーでもあるレンジャー3。
「とにかく、起きていただいてほっとしましたよ、大尉」
3人目は、部隊で一番若い男だ。文系出身で、常々転職したいと言っていたが、それでも俺たちと最後まで一緒に戦い抜いた男で、コールサインはレンジャー4。
「お前たち。なぜ……?」
疑問は、湯水のごとく湧いて来た。ここはどこだ?俺は死んだのではないか?目の前のこいつらは?なぜ若返っている?しかも、全員が同じ色の、EDFのレンジャーたちに支給される専用のプロテクターを纏っていた。
「ここは?それに、俺は?」
「混乱されるのも無理はありません。まずは、ご自分の状態をよくお確かめください」
レンジャー2の言葉を聞きながら、改めて自分の体に目を向ける。今の俺は、プライマー戦争時代の、こいつらとはカラーリングが異なる薄紫のプロテクターを纏っていた。更に、近くにあった窓ガラスを見るとオレンジ色のヘルメットを被っていた。次に、四肢に力を入れる。
年老いた、枯れ木のような腕や足じゃない。鍛え抜かれた、兵士の体だ。これは……。
「今の俺は、俺の体は、プライマーどもとの戦争初期当時と同じ、なのか?」
「えぇ。恐らく。そして我々も」
レンジャー2の言葉に、他の二人も頷く。
「なぜ、俺たちは若返っている?そもそも、俺は……」
「えぇ。大尉は老衰で、『永眠』されています。それはあなたを見送った自分たちがよく知っています」
死んだ、という単語をぼかすレンジャー2。
「実は、大尉が起きられる前に自分たちも色々、認識のすり合わせをしていたんですが、その……」
「なんだ?」
言い淀むレンジャー4に問いかけるが、答えない。
「俺ら全員、死んだ直後なんだよ、隊長」
すると、レンジャー3がため息交じりに伝えて来たが、何だと?
「死んだ直後?どういうことだ?」
「より正確に言うのであれば、認識として『死んだと思ったら若返った姿でここで眠っていた』、でしょうか?」
問いかけに答えたのはレンジャー2だ。
「私も2人も、それぞれ自分が死ぬ寸前までの記憶があるんです。ですが、意識が途切れた直後、なぜかここで目を覚ましたのです。それも、戦争当時の若さまで若返った姿で」
「大尉は、如何ですか?」
「……同じだ」
レンジャー4の言葉に、俺も小さく頷いた。
「病院のベッドで、お前たちに見送られながら、眠ったと思ったら、俺は、ここに……」
≪いや、違う、か?何か、夢を見ていたような。だが、思い出せない。クソッ≫
何かを忘れているような気がするが、思い出せず苛立ちが募る。この意味不明の状況についてもだ。
「一体、何が起こっている?なぜ俺たちがここに。というか、ここはどこだ?」
俺たちは窓ガラスの方へと歩み寄る。そこから見えるのは、近代的な都市だ。晴れ渡った空の下に都市が広がっている。が、見覚えの無い都市だ。
「都市、ですよね?間違いなく」
「あぁ。だが、俺には見覚えの無い町並みだ」
レンジャー4の言葉に、振り返る事無く答える。
「お前たちはどうだ?この町並みに見覚えは?」
問いかけるが、全員が首を横に振った。誰も覚えはない、か。
「まさか俺たち、プライマーの奴らに、何かされたんじゃ?」
「ありえんっ」
不穏な予測を口にするレンジャー3を、俺は即座に一喝した。
「詳しい事は分からん。だが奴らは、あの決戦の結果、タイムパラドックスで世界から、宇宙から消滅したんだ。俺たちEDFの攻撃で、そもそもプライマーは『
「け、けどよぉっ!おかしいだろっ!俺たち全員、死んだはずだぜっ!?それが若返ってるなんてっ!プライマーってタイムトラベルが出来たんだろっ!?じゃなきゃ俺たちが若返ってる事に説明が……ッ!」
「落ち着け、レンジャー3」
レンジャー2が宥めようと肩に手を置く。
「これがプライマーの仕業、と決めつけるのは早いぞ」
「なぜ、そう思うんですか?」
レンジャー2に問いかえるレンジャー4。
「プライマーにとって俺たちEDFの兵士は敵だ。始末すべき存在だ。それをわざわざ、生き返らせる意味が無い」
「そうだ。レンジャー2の言う通りだ」
≪とはいえ、こんな風に時間に干渉するような行為が出来るとすれば、プライマーしか思いつかないのも事実だがな≫
この言葉は部下たちにいらぬ不安を与える事は、想像に難くない。だからこそこの言葉は飲み込む。
「とにかく。まずは現状整理だ。老衰などでくたばったはずの俺たち4人が、なぜかプライマー戦争初期の頃まで若返っている。その上装備は、EDFレンジャーに支給されるプロテクターだ。他に装備は?」
「部屋の中を探しましたが、ありません。今着ているプロテクター、これだけです」
「ではこの場所を示す地図やそれに類似する物は?」
「部屋の中を調べたが、それっぽい物は無かったぜ。地図や書類とか、なんも無しだ。まるで学校か会社の応接室みたいだぜ、ここ」
「ドアがあるが、外の様子は確認したか?」
「いえ。我々も大尉より少し早く起きたばかりでして。外へ出るにも大尉が起きてから、というレンジャー2の意見もあり、外の様子は不明です」
レンジャー2、3、4の順に答えたが、『以前状況は不明のまま』、という事以外分からん。
「……情報を集めるには、外に出てみるしかない、か」
俺は、外に通じているであろうドアに視線を向け、他の3人もそれに続いた。
「あのドアの向こうに、何があるんでしょうね?」
「分からん。だがここでじっとしていても始まらん」
ドアの外は、文字通り『未知』だ。だが、進まなければ情報は何も得られそうになり。
「やむを得んが、ここから出て周囲の偵察を……」
「ッ!しっ!」
その時、レンジャー3が何かに気づいて人差し指を立てた。
「……なんだ?」
俺が小声で問いかけると、奴はドアの方を一瞥した。
「……足音だ。近づいて来てる」
「「ッ」」
こいつの言葉に他の二人は息を飲みつつ、俺たちは少し離れた。ドアの正面から移動し、それぞれがソファやテーブルの傍に立つ。いざとなれば、それらを倒して身を隠す為に。
やがて『コンコンッ』とドアがノックされる。
「先生、いらっしゃいますか?」
声が聞こえた。女の声だ。それも、若い女の声だ。即座に周囲に居た3人が俺に目配せし、頷いてくる。『判断は任せる』、と言った所か。
「……先生?」
これは、囮か。それともそうでないのか。ドアを開けた瞬間撃たれる、何てことは無い、と願いたいが。……一か八か、か。
「声の主を招き入れる。が、警戒は怠るな」
俺の小声の指示に3人が頷く。そして俺は深呼吸をしてから、声を上げた。
「あぁっ、どうぞっ」
「失礼します」
俺が促すと、ドアが開き、一人の少女が入って来た。長い黒髪に白を基調とした衣類。青いネクタイと、同じく蒼い瞳に眼鏡、人間の物とは少し違う、確かエルフだったか?あれのように長い耳。そして何より気がかりなのは、彼女の頭上に浮かぶ、王冠のような青い物体。
だが、それ以上に気になる物があった。『ホルスター』だ。彼女の右腰に下げられたホルスターには、確かに拳銃が収められている。それに気づいた俺以外の3人が一斉に体を強張らせる。
「すみません、お待たせして、んっ?」
彼女は開口一番に謝罪を述べたが、他の3人の雰囲気に気づいた様子で、少しだけ困惑したような表情を浮かべた。
だが、彼女が敵対するつもりなら、わざわざ入室する許可は求めないだろうし、ホルスターに手をかけていても可笑しくはない。だが、彼女から敵意や殺意などは感じない。……とりあえず、会話を求めてみるか。
「すまない。見ての通り俺たちは軍人でな。君のその腰に下げた物に反応してしまったようだ。申し訳ない」
「あぁ、そうですね。失礼いたしました」
彼女はそう言うと、持っていたタブレットを手近なテーブルの上に置き、慣れた手つきでホルスターから拳銃を抜いた。更にマガジンを抜き、スライドを引いてチャンバーチェックを行うと、スライドを後部まで引ききった、スライドオープンの状態で拳銃をテーブルの上に置いた。
「これでよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ」
慣れた手つきだ。とても昨日今日銃を持った人間の手つきではない。プライマーとの戦中なら、若い子供たちにも非常時の為にと銃の教練はあったはずだが……。おっかなびっくり、或いは興味津々と言った感じのド素人な子供たちと比べても、それでも彼女は、『慣れ過ぎている』。
「っと、そういえば自己紹介がまだでしたね。改めまして、私の名前は『七神リン』。この学園都市、『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」
「キヴォトスに、連邦生徒会?」
知らん単語が出て来たな。咄嗟に他の3人に目配せをするが、3人とも知らんらしく、首を横に振った。
「皆さんがご存じないのも、無理はありません。皆さんはこのキヴォトスの外から来られた方々だと聞いております」
外。外国という表現とも違う。なんとも曖昧な言い方に聞こえるな。
「七神。本来ならば俺たちは名乗るべきなのだろうが。俺たち全員、今の状況が飲み込めていない。出来ればその辺りについて詳しく聞きたいのだが?」
「そうですね。ですが申し訳ありません。私も、詳しい事は分からないのです」
「ッ、どういう事ですか?」
レンジャー4が息を飲み即座に問いかえす。
「皆さんをここにお呼びしたのは、連邦生徒会長です。我々はあの方が『先生』となる人物をお呼びした、という事くらいしか知らないのです」
「先生だぁ?俺たちがぁ?」
レンジャー3が心底驚いた様子で自分を指さしているが、同感だな。
プライマーとの戦争前は、歴戦のベテランという事で新米EDFレンジャー部隊の相手役などを務めた事はあるが、教師としての経験など、まして教員免許すら持っていないぞ、俺は。
「はい。正直に申しますと、連邦生徒会長がなぜ皆さまをお呼びしたのかも、私を含めた幹部たちは、知らないのです」
「ならば、その連邦生徒会長に会わせてくれないか?俺たちが呼ばれた真意を聞きたい」
レンジャー2の言葉に、しかし七神は首を横に振った。
「申し訳ありません。今、あの方と会う事は実質不可能なのです」
「不可能?なぜです?何か理由が?」
レンジャー4が即座に問いかける。
「はい。それらの事も踏まえて、順を追ってお話をしたいのですが、今キヴォトスは未曽有の危機に襲われていて、先生方にやっていただければならない事があります」
「それは、一体?」
「……この学園都市の命運をかけた事、としか今は」
レンジャー2の言葉に七神は答えるが、随分抽象的な表現だ。だが、嘘という訳でも無さそうだ。
「時間に余裕がありません。説明は歩きながらになってしまいますが、よろしいですか?」
「……」
七神の言葉を聞き、少し考えこむ。他の3人は俺の様子を伺い、指示を待っているようだ。
突然の蘇生、不可解な若返り、纏った覚えのない装備に、聞き覚えの無い土地。情報は何もない。目の前の七神とて、信頼して良い物か。そして俺たちをここに呼んだとされる生徒会長も会えない、らしい。……情報は皆無。だが、それが無ければ今後の方針も決められん。
それに、七神をよく見れば目元に、化粧に隠れているがうっすらと目の隈らしきものが見える。俺から言わせればまだ子供な彼女は、そこまでしなければならない事態とは一体なんだ?と気になる。
そして何より、子供に頼られて断るのは、EDFのタフガイがやる事じゃない。
ここは、仕方ないか。
「分かった。七神、歩きながらで構わない。とにかく、色々教えてくれ」
「ッ、ありがとうございますっ」
彼女は小さく笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
そして俺たちは、銃を回収した彼女の後に続いて部屋を出た。そのまま俺たちはエレベーターに乗り、階を移動していく。そして、外が見えるタイプのエレベーターだったため、目の前にはキヴォトスの景色が広がっていた。
「『キヴォトス』へようこそ、先生」
「「「「……」」」」
俺も含めて4人とも、窓ガラス越しに見える景色を食い入るように見つめていた。
「このキヴォトスは、数千の学園が集まって出来た、巨大な学園都市でもあります。そして、今日から先生である皆さんが働く場所でもあります」
「働く?俺たちがここで?」
「はい。このキヴォトスは、皆さんがいらっしゃった所とは、様々な違いがあり、最初は戸惑う事も、慣れないと思う事もあるかもしれませんが、恐らく皆さんであれば、大丈夫だと私は思います」
七神はそう語っているが……。
「そう思う根拠は?」
「皆さんは、あの連邦生徒会長が選んだ方々ですから」
そう言って彼女は笑みを浮かべている。
「答えになっているようでなってない気もするが、まぁ良い」
見ず知らずの相手に信頼されている、と言われてもな。正直信じられん。
「それより、ここと俺たちが居た場所の違いって、具体的に何があるんですか?」
「それについての説明は、追々。さぁ、目的階に着きます」
レンジャー4の質問内容は、正直俺も聞きたい事であった。だがエレベーターは目的階に到着したようだ。開いたドアから七神が降り、俺たちもそれに続いた。
「ッ!」
「なんと……ッ!」
「おいマジかよ……ッ!?」
「嘘だろ……ッ!?」
目の前の光景に俺たちは絶句した。
「ちょっと待ってッ!代行!見つけたッ、待ってたわよっ!連邦生徒会長を呼んできてっ!」
俺たちが到着した階では、少女たちの姿があった。制服の意匠もバラバラ。共通する部分があるとすれば、10代後半、大よそ高校生くらいの若い少女たちである事。七神のように頭上に何かしらの物体を浮かべている事。中には腰元から翼が生えている者まで居るが。
だが、そんな事よりも俺たちの注意を引いたのは、全員が全員、『銃』を携帯している事だった。
俺たちがついた時に、真っ先に声を上げた菫色の髪の少女は、その手にSMG、サブマシンガンらしい銃を持っていた。だが彼女だけではない。その場にいる少女全員が、前時代的なライフルやらハンドガン、更にはまるでアクセサリーのようにホルスターやベルトタイプのマグポーチなども携帯していた。
「俺目がおかしいんすかね、なんか物騒な女子高生が見えるんすけど」
「残念だが、俺もだ」
「自分もです」
「喜べお前ら、俺も同じ景色が見えている」
レンジャー3の言葉にレンジャー2とレンジャー4が同意するが、生憎俺も見えていた。しかし、見た目は女子高生としか見えない子供たちが、こうも当たり前に銃を持っているとは。プライマーとの戦争前のアメリカより物騒な気がするが、気のせいか?
「うん?後ろに居る、大人の方たちは?え?」
SMGの少女は七神に詰め寄るが、直後に俺たちに気づいたようだ。他の少女たちも俺たちに気づいてこちらを見つめてくるが、どうやら俺たちの恰好が問題だったようだ。皆困惑したような表情を浮かべている。
が、数人がすぐ、ハッとした様子で七神の方へと歩みを進めた。
「首席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
追加で声をかけたのは2人。黒い制服にライフル。腰から羽、いや翼か?それらしいものを生やした黒髪長身の女生徒。もう1人は眼鏡をかけ、左腕に風紀と書かれた腕章をつけたブロンドへアの女生徒。
「あぁ、面倒な人たちに捕まってしまいましたね」
と、小さく独り言を漏らす七神。よく見ればその表情は『面倒くさい』と言わんばかりだ。
「こんにちは、各学園からわざわざこんなところまで訪問して下さった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」
「なんか、彼女めちゃくちゃキレてないか?」
「皮肉たっぷりですね」
後ろでレンジャー3と4がひそひそと話をしているが、同感だ。
「こんな暇そ、んんっ、大事な方々がここを訪ねて来た理由は、よくわかっています」
「今彼女、暇そうって言いかけましたよね?」
「言うな言うな。……七神自身、目元に隈が出来る程忙しいんだろう。予定にない来客に、皮肉を言いたくなるぐらいにはな」
「それだけ状況が切迫している、という事でしょうか?」
「恐らく、な」
レンジャー2と小声で会話をしてみる。
「今学園都市で起きている混乱の責任を問うために、でしょう?」
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよっ!連邦生徒会なんでしょ?!数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよっ!この前なんかウチの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだからっ!」
SMGの生徒から。
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したとの情報もありました」
眼鏡に風紀という腕章を付けた生徒から。
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が困難になっています」
先ほどの3人とはまた別の、銀髪に灰色の制服を着た生徒から。
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流出も2000%上昇しました。これではこれでは正常な学園生活に支障が出てしまいます」
黒髪にライフルを備えた黒い制服の生徒から。
何やら次々と不穏な状況が報告されてくる。というか、武器の流出が2000%増加ってなんだ?20か、200ならまだ分かるが。
「インフラの停止に、治安の悪化、それに伴う武器の流出。どうやら状況はかなり悪いようだな」
「のようですね」
今はとにかく、七神たちの話を聞きつつ状況を確認する。かなり不味い状況なのは、話を聞く限り既に分かり切っているがな。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせてっ!」
「……」
SMGを持った菫色の髪の少女の言葉に、七神は何も言わず、一度だけ深呼吸をした。
「連邦生徒会長は、今席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「えっ!?」
SMGの少女の間の抜けた声が、いやに響く。それだけ皆、七神の言葉に思わず黙り込んだのだ。だが、それは俺たちも同じだ。
「どういう事でしょうか、隊長。俺たちを呼んだ生徒会長とやらが、行方不明との事ですが?」
「俺にも分からん。だだ言えるのは、先ほど七神が俺たちに会うのが実質不可能、と言った理由はこれだろう」
「って事は、俺たちがここに呼ばれた理由を知ってる奴、誰も居ないって事かよ……ッ!?」
俺とレンジャー2の会話を聞き、困惑するレンジャー3。
戸惑う俺たちだが、生徒たちも同じだ。そしてそれを一瞥しつつもリンは言葉を続けた。
「結論から言うと、『サンクトゥムタワー』の最終管理者が居なくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」
成程。その生徒会長とやらが居なくなったせいで、行政は回らず、結果的に今の状況を引き起こしている、という訳か。しかし、ただ一人が居なくなっただけで破綻する行政とは何だ?随分危ういように思えるが。
「認証を迂回する方法を探していましたが、先ほどまで、そのような方法は見つかっておりませんでした」
うん?今七神は何といった?『先ほどまで』?
「その口ぶりですと、今は方法がある、という事ですか?首席行政官」
恐らく誰しもが聞きたかっただろう質問を、黒羽の生徒が問いかけた。
「はい。ここにいらっしゃる、この方たち、先生たちこそが、フィクサーになってくれるはずです」
「何?」「え?」「は?」「はい?」
突然俺たちの方に話が振られ、俺たちはそれぞれ疑問符を浮かべた。そして生徒たちの視線が、俺たちに集まる。だが、皆戸惑っているようだ。
「この方達が?」
まるで生徒たちの思いを代弁するかのように黒羽の生徒が首をかしげている。だが、正直首を傾げたいのは俺たちも同じだ。いきなり行方不明の人物に呼び出され、しかも俺たちがフィクサーだと?一体全体、どういう事なんだ。意味不明な状況の連続で頭が混乱してきたぞ。
「ちょっと待って。そういえばこの先生?……たちは、どなた?どうしてここにいるの?」
「キヴォトスでは無い所から来られた方々のようですが、先生、なのですか?」
菫色の生徒が首を傾げ、黒羽の生徒も疑問符を浮かべている。そして更に言えば、2人とも、いや2人だけではなく生徒たちは皆、俺たちの方を向いて『先、生?』と言いたげな表情をしている。
まぁ、こんなゴリゴリのプロテクターを纏った男4人が先生だと言われても信じられんだろうな。『軍事教練の教官』、と紹介された方がまだ信ぴょう性がありそうだ。
「はい。こちらの先生方は、これからキヴォトスで先生として働く方々であり、連邦生徒会長が特別に指名した方々です」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名?ますますこんがらがって来たじゃないの」
そう言って怪訝な表情をする菫色の髪の生徒。
「正直、俺たちも同じだ。会った事も無い生徒会長とやらに呼ばれてここにいる以外、何をすればいいのか全く分からん。が、どうやらそれについてお喋りしている暇はない。そうだな?七神」
「はい。事態は急を要します」
「お前は先ほど、認証を迂回する方法がある、と言っていたな。そして俺たちがフィクサーだとも言った。それについて簡潔に説明を求める」
「分かりました」
七神は頷くと説明を始めた。
「元々、先生方は連邦生徒会長が立ち上げたとある部活の顧問としてこちらに来る事となっていました。部活、と言いますがその実態は一種の超法規的機関です。その名は、連邦捜査部、『シャーレ』」
「シャーレ?」
「はい。連邦組織の機関であるため、キヴォトス内の学園の生徒全てを制限無く加入させることが可能であり、各学園の自治区で制約無く戦闘を行う事が可能な組織です」
「随分権限を持った組織のようだが、なぜそんな組織が?」
「分かりません。我々もシャーレ設立の理由については、聞かされていないのです。知っているのは、連邦生徒会長だけ、なのです」
「成程。っと、話の腰を折ってすまない。続きを頼む」
思わず問いかけて話題を反らしてしまった。今は、そのことは後回しだ。
「はい。現時点で重要な事、ですが。ここより30キロほど離れた外郭地区に、シャーレの部室となる建物があります。今はほとんど何もなく、人の立ち入りも皆無な建物ですが、その地下に『とある物』が持ち込まれています。そして、そのとある物があるビルまで、先生方をお連れしなければなりません」
「そのとある物、とやらを俺たちが使えば、この混乱を収められるのか?」
「はい。少々お待ちを。今、目的地までの移動用にヘリを用意させます」
そう言って七神はポケットから端末を取り出し、どこかへと通信を始めた。
「モモカ?シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど?」
『シャーレの部室?あぁ、外郭地区の?そこ今『大騒ぎ』だけど?』
ん?何やら、不穏な単語が聞こえて来たな。
「大騒ぎ?どういうこと?」
『矯正局を脱出した停学中の生徒たちが騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ?』
「「「「ッ」」」」
戦場。プライマーとの戦争以後、殆ど聞かなくなった単語に、兵士たちである俺たちの間に緊張が走る。
『連邦生徒会に恨みを抱いて、周囲の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしているなの。巡航戦車までどっからから手に入れてきたみたいだよ?』
不良共の暴動で戦車と来たか。プライマーとの戦争前のアメリカなどのデモ活動などを見た事があるが、流石に戦車まで出てきた事は無いはずだが。
『それで、連邦生徒会所属のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か『大事な物』でもあるみたいな動きだけど?』
「……情報が漏れたのか?」
「考えたくはありませんが……」
俺の言葉に、七神は空いている手で目頭を揉む。
『まぁでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから別に大したことな、あっ。先輩、お昼ご飯のデリバリー来たから、またあとで連絡するねっ!』
通信相手は、そう言うと一方的に通話を切った。
「………(ワナワナ)」
無言で端末を持つ手が震える七神。
「七神」
そこで、俺が声をかけ、こちらを向かせる。
「大よその状況は理解した。そして、猶予が無い事も今までの話で分かった。だから後は任せろ」
「先生、それはどういう?」
それだけ告げると、俺は後ろの3人の方に向き直る。
「聞いての通りだお前たちッ!正直、俺たちがここへ呼ばれたのかっ、その理由は今も不明なままだっ!だが今のこの状況を打開するためには、俺たちが目標の物品を回収しなければならないっ!加えて、その存在を知っていると思われる敵対武装勢力が存在するっ!だがそれでも、俺たちはやらなければならないらしいっ!覚悟は良いかっ!」
「「「sir,Yes,sir!!!」」」
「よしっ!ならば行くぞお前たちっ!久々の実戦だっ!暴れている悪ガキどもを懲らしめに行くぞっ!」
「「「sir,Yes,sir!!!」」」
部下3人の返事を聞いて、再び七神の方へと向き直る。振り返れば、生徒たちは皆、唖然としていた。何だ?軍隊のノリについてこれてないのか?まぁ良い。
「七神、そういうわけだ。移動手段と、そうだな。暴徒鎮圧用の非致死性『武器』の手配を頼む」
「え?えっ?た、戦われるのですかっ?先生たちが?」
七神は、心底戸惑っているようだ。そんなに俺たちが戦う、と言い出したのが信じられないのだろうか。
「当たり前だろう。俺たちは腐っても兵士だ。これくらい問題はない」
「し、しかしっ!相手は銃火器で武装していますっ!銃弾1発でも先生方には命の危険がっ!」
「分かっている。だがな、これでも地獄のような戦場を生き抜いてきたという自負がある。心配するな」
銃を装備した悪ガキ数十人に戦車か。プライマーの自爆アンドロイド数十体の方がよっぽど恐ろしい気がするがな。
「……分かりました。正直、議論している時間は無さそうです。本当なら前線に立つ事はやめて頂きたいですが。仕方ありません」
「すまん、軍人としての性、なのだろう。後ろで見ているだけ、というのは出来ん。今までは自分たちの後ろにいる人々を守る仕事ばかりしていたからな」
「はい。では、すぐに装備とヘリの用意をさせますが、流石に先生たちだけで行かせるわけにはまいりません。ですので……」
そう言って、なぜか七神はその場に集まっていた生徒たちに目を向けた。
「え?ちょっ、なんでこっち見てるの?」
「折角です。こうして暇を持て余した皆さんが居る事です。その力、役立てていただきましょう」
「え?えっ?」
何やら悪い笑みを浮かべている七神と、事態が飲み込めず困惑する生徒たち。
だが、どうやら時間はそう多くないようだ。分からない事の方が多い現状だが、やるしかない。EDFのタフガイとして。そして、仮にもあの大戦で名を馳せた、『ストームチーム』の一員として、今は、やれるだけの事をやろう。
俺はそう決意を固めながら、部下3人と共に、窓の外のキヴォトスの町並みへと視線を向けるのだった。
第1話 END
楽しんでいただければ幸いです。趣味でやってて、でも仕事は結構忙しくてドン亀更新になるかもしれませんが、よろしくお願いします。