ブルーアーカイブ~~キヴォトスに舞い降りる嵐≪ストーム≫~~ 作:ジョージ
何なら書きたい部分の一つを後回しにしてこれです。仕事も忙しくて投稿頻度は落ち気味ですが、まぁ楽しんでいただければ幸いです。
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ミレニアムで転生したアイテールであるトドロキとの出会い後、トリニティへと向かった俺。正直、予想はあった。そしてそれは当たった。トリニティに在籍していた生徒、天羽フウリとは、かつてアイテールと同じように俺たちと共にプライマーと戦った女傑、ウィングダイバーの精鋭部隊スプリガンの隊長を務めた、ストーム4であった。更に彼女との話し合いの中で、俺はゲヘナにも、『俺たちと同じような人物がいる事』を知った。
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スプリガン、すなわち天羽と別れた俺はシャーレのビルへと戻った。戻ったのは、俺が最初か。まだ執務室に明かりはついていない。オフィスへと入り、電気をつけシッテムの箱を執務机の上に置く。
「ふぅ」
椅子に腰かけ、息をつく。しかし、まさかアイテールとスプリガンが生徒として転生していたとはな。が、2人もその理由は知らず不明のまま。そして俺たちも、連邦生徒会長に呼ばれてこのキヴォトスに来た、という事にはなっているが、本人が居ない以上その話もどこまで信用出来るか。おまけに死者蘇生に若返り。『神の御業』、としか言いようのない事だが。
このキヴォトスには神がいるのか?それが俺たちやアイテールたちを呼んだのか?或いは、連邦生徒会長が神そのもの、もしくは同等の力を持っているのか?
……ダメか。こんな事、考えた所で答えなど出る訳もない。思考を切り替えなければな。
俺はテーブルの上に置かれた、昨日仕分けをした依頼書の山に目を向けた。と、その時。
「失礼します先生」
「ん?どうしたアロナ」
シッテムの箱が起動し画面にアロナが現れる。
「ニノミヤ先生たちのハンヴィーに搭載されているGPS反応を検知しましたっ。もう間もなくお戻りになられますよっ」
「そうか。あいつらも帰って来たか。なら、茶でも用意してやるか。あいつらの今日がどうだったかも、知りたいしな」
レンジャー2たちが戻って来る、と聞いてとりあえず、買っておいた2Lのペットボトルからコップに茶を注ぎ、適当な場所に置いていると、レンジャー2たちが戻って来た。
「ただいま戻りました、隊長」
「あ~~。疲れたぜ~~」
「全くです」
レンジャー2を先頭の他の二人が続いて戻って来る。
「あぁ。お疲れ」
オフィスに入って来た3人の様子を見る。3人とも、服のあちこちをそれぞれ汚していた。
「まぁ座れ。まずは、今日あった事の報告だ」
俺が促すと、3人はすぐさま適当な椅子に座る。まずは4人揃って茶でのどを潤す。
「ふ~~~。生き返るぜ」
レンジャー3が瞬く間に茶を飲み干す。レンジャー2と4は、多少残っているが、それでも半分以上を一気に飲み干している。戦闘程ではないが、やはり疲れているようだな。
「それで、どうだった?今日の仕事は?」
全員がコップを置いたタイミングで、俺が声をかける。
「正直な所、殆ど経験の無い建設作業の手伝いでしたからね。塹壕掘りなど、陣地形成などはレンジャー時代に多少経験しましたが、やはり違いから戸惑う事などもありまして。戦闘とはまた違った大変さでした」
「俺もだぜ。現場はどこも人手不足で、あちこち駆けずり回るハメになったなぁ」
「自分もです。それに工事費の工面とか、色々アドバイスを求められましたよ。が、戦闘工兵でもない自分は素人ですから、答えに困る事も何度かありました」
3人とも、多少なりとも疲れた様子で言葉を漏らす。慣れない作業に従事したのだから無理もないが。
「相当大変だったようだな」
俺の言葉に3人は静かに頷く。
「えぇ。ですが素人であろうと手を借りたいのが実情のようです。幸い、軍人として相応の体力はありましたから、慣れてしまえば肉体労働も大して苦ではありません。ある程度仕事が出来ると分かると、彼女達も大分信頼してくれるようになりました」
「まぁ俺の所も同じ感じだな。よっぽど大人の男が珍しいのか、最初はパンダでも見るような目だったが、仕事をしていくうちに何とか打ち解けられた、って感じだ」
「自分も、工事などに対して可能な限りアドバイスをしました。まだ多少なりとも壁を感じる事はありますが、『掴み』は悪くないとかと」
「悪くない滑り出し、という事か」
仕事の初日に、生徒たちに嫌われる事は無かったという事か。それはありがたい。初日、つまり最初から生徒と俺たちの間に溝が出来てしまえば、それを埋めるのは簡単ではないからな。
「っつぅか。そっちはどうだったんで?開発者の生徒には会えたんすか?」
「あぁ。会えた」
「それで?その生徒は一体?EDFの関係者か何かなのですか?」
レンジャー3とレンジャー2が問いかけてくる。……しかしこの話、こいつらに信じてもらえるだろうか?とりあえず、話してみよう。
~~~~~~
その後、俺がアイテールとスプリガンの話をすると。
「え、え~っと?そのミレニアムサイエンススクールの、エンジニア部に属している磐井トドロキなる人物が開発者で?」
「しかもそいつが、あのアイテール?」
「加えて名付け親が、あのスプリガンのリーダー?加えて彼女もキヴォトス人として転生して今はトリニティで学生?」
3人とも、案の定頭を抱えてしまった。無理もない。もし俺がこいつらの立場だったら、そう簡単に信じることは出来ないだろう。それほどまでに摩訶不思議な事だ。
「正直、俺も最初は信じられなかったさ。何しろ、これが今のアイテールだからな」
俺は端末を取り出して操作し、トドロキ、つまりアイテールが映っている過去のエンジニア部の写真を探し出し、3人に見せた。
「えぇ?これが、このオレンジ色の髪の女の子が、アイテール?」
「面影もへったくれもねぇな」
「にわかには信じられませんね」
レンジャー4は困惑し、他の二人も戸惑っている。
「正直、俺だってそう思ったさ。しかし奴は間違いなくアイテールだった」
「大尉がそう言うのなら……」
完全に納得した、という訳では無さそうだが、レンジャー4が頷き他の二人も黙ったまま否定はしない。
「しかし、まぁ確かにアイテールやスプリガンが居るのなら、ウィングダイバーユニットの生産くらいは出来そうですね」
「確かになぁ。アイテールの奴は戦闘工兵でよく文句垂れながらあいつらの装備を整備したりしてたし」
「そう言えば、隊長はミレニアムの様子を見て来た訳ですが、どうでしたか?」
「一言で言うのなら近未来の学園、と言った所か。このキヴォトスの、大半の最新技術がミレニアムで誕生したという話らしいが、それが本当だと思わせるくらいには、技術開発や研究が盛んな所だったよ」
「成程ねぇ」
俺がレンジャー4の言葉に頷いていると、レンジャー3が大仰に頷く。
「しっかし、こうなってくると大将やグリムリーパーも居そうだな、なんてな」
レンジャー3が冗談っぽく口にするが……。正直それは半分当たっている。こいつらにもあの件を伝えておくべきだろう。
「それについてだが……」
「「「??」」」
「ストーム1はともかく、居るらしいぞ?死神が、ゲヘナに」
「えぇっ!?」
「マジかよっ!?」
俺の言葉にレンジャー4とレンジャー3が驚く。
「それは本当なのですか?」
「あぁ。天羽フウリ、つまりスプリガンからの情報だ。『ゲヘナの風紀委員会に、死神と呼ばれる奴がいる』、とな」
レンジャー2の疑問に答える俺。仲間内で、死神が何を指すのか分からない俺たちではない。仲間内で死神と言えば、グリムリーパー以外にない。
3人は、少し戸惑いつつも即座に否定はしなかった。こんな状況で俺が嘘をつくような人間ではない事はこいつらも分かっているだろう。
「アイテールにスプリガン、それにグリムリーパーまでいるのか」
「これで大将が出てくりゃ、ストームチーム再結成だな」
「でも、本当なのでしょうか?ゲヘナにグリムリーパーが居る、なんて」
静かに驚くレンジャー2。冷や汗と共に苦笑を浮かべるレンジャー3。レンジャー4は、この話が本当なのか疑っているようだ。
「正直俺としても半信半疑だがな。だが、聞いてしまった以上は確認しておきたい。幸い、お前たちが帰ってくる前に火宮と連絡がついてな」
そう言って俺は端末を取り出し3人の前に置いた。点灯した画面には俺と火宮のモモトークの履歴が表示されている。
「話を要約すると、明日の午後であれば予定が空いているそうだ。ただ、ゲヘナの治安はキヴォトスでもワースト一位のため、何かしらの治安維持業務が入る可能性もあり、確実に会える保障は無いそうだ」
「えぇ?」
「どんだけヤベー所なんだよゲヘナって」
説明を聞いたレンジャー4とレンジャー3が呆れた様子でそうこぼしている。
「それで大尉。大尉は明日ゲヘナに行かれるおつもりですか?」
「一応な。まぁ行くかどうかは正直分からん。火宮以外にゲヘナの知り合いも居ないしな。あいつに会えないとなれば無理に行く事も無いだろう」
「そうですね」
レンジャー2が俺の言葉に頷く。
「それより、問題はあの山積みの書類だ」
俺が山盛りの書類に目を向けると3人も続いた。
「引き続き、地道にやっていくしかないだろう」
「うへぇ。俺、デスクワーク苦手なんだがなぁ」
「あの量を観たら誰だってそうなりそうですよ」
ため息をつくレンジャー3とそれに同調するレンジャー4。
「泣き言を言うな2人とも。戦場で撃ちあいをするよりかはマシだろう?」
「そりゃそうですけどぉ」
情けない声を上げるレンジャー3。こいつはデスクワーク類が得意ではない。だからこその現場主義的な人間なのだ。
「っと、そうだ隊長。実は自分の派遣先からとあるお願いがあがりまして」
「ん?なんだ?」
レンジャー2がそう言って話題を変えて来た。しかしお願いとは何だ?気になるな。
「それが、我々に不良に占拠された重要施設の奪還を依頼したい、と言って来たのです。どうやら我々が早瀬たちを率いて少人数でシャーレのビルを奪還した話が広まっているようで。その強さを見込んで頼みたい、と」
「……成程なぁ」
「あっ、それだったら俺の所もあったぜ?折角あちこち直しても、発電所の一つが占拠されてて電力不足が深刻だからどうにかしてほしいって」
「自分の所も、ですね。大型物流倉庫の一つが占拠されていて、不良たちが内部の物資を荒らしている。どうにかしてほしい、と」
「そうか。元々似たような依頼はいくつもあったが……」
確かに届いた依頼書の山の中には、それに似た依頼がいくつもあった。だが、俺たちだけでそれをこなすのは無理だ。重要施設の制圧となると、下手に銃撃戦に発展させるわけにもいかない。内部で撃ちあえば施設が壊れる恐れがある。そうしないためにも用意周到な策を用意しなければならない。だが、それを4人でやるとなると、施設1つの奪還に何日掛かる事か。
「流石に俺たち4人だけでは無理だな。一つ奪還するのにも時間がかかるだろう」
「っつぅか、キヴォトスの治安維持機構とかはどうしてるんだよ?なぁおいアロナ、その辺どうなってんだ?」
俺の言葉に続いて愚痴をこぼしていたレンジャー3が、シッテムの箱の画面に映る、いちごミルクを飲んでいたアロナに声をかけた。
「そうですねぇ。こういった事に真っ先に対応するのは『ヴァルキューレ警察学校』の生徒さん達なのですが……」
ん?何やら聞きなれない学校名が聞こえて来たな。
「アロナ、そのヴァルキューレ警察学校というのは?」
どうやら俺と同じ疑問を持ったのか、レンジャー2が問いかける。
「警察、の名の通りキヴォトス全般での治安問題に対処する学校です。特定の自治区を持たない代わりに、各学園の内部にいくつもの拠点を持っています。ただ、キヴォトスにおける各学園は自治区内の自治権を認められていますから、どうしてもヴァルキューレ側だけで勝手に動く事は出来ません。それでは各学園の自治区を侵害してしまいます。加えて動くにしても書類関連から初動対応の遅さがどうしても問題になってしまって……」
「詰まる所、頼りにならない、と?」
「残念ながら、その通りですね」
レンジャー4の言葉に、アロナは言葉を濁しつつも肯定した。
「加えて、矯正局を脱走した生徒たちの数も多いですから。それの捕縛等に人員を割いているのが現状のようです。そのため、他の自治区の要請に応える事も出来ないのでしょう」
「あわよくば力を、と思って居たが。無理そうか」
人手を集めたいと思って居たのだが、ヴァルキューレは頼れそうに無い、か。
「アロナ、他に俺たちと協力して施設制圧や施設強襲が出来そうな連中は居ないのか?」
「そうですねぇ。う~ん」
アロナは画面の奥の棚から分厚いファイルを持ってくるとペラペラとめくって行く。
しばらくして。
「あっ。一つだけありました。『SRT特殊学園』です」
「SRT?どんな学校なんだ?」
「はい。この学校は言わば、特殊部隊のための学校です。ヴァルキューレが警察組織とするなら、SRTはヴァルキューレでは対処しきれない重大事案などに対応するための部隊の、育成を目的にした学園です」
「特殊部隊の学校か。しかし、今の今までSRTの生徒が出張って来たという話を聞かないが?この非常時に動いていないのか?」
アロナの言葉にレンジャー2が質問する。
「確かに。ヴァルキューレで対処できない事態への対処が目的なら、もう出て来ても可笑しくは無いですね。なぜ出てこないんだ?」
「あ~~。実を言うとですね」
レンジャー4の言葉にアロナは少しばかり目線を泳がせつつ答えた。
「SRT特殊学園の生徒さん達は、言わば連邦生徒会長の、直属の部隊なんです。連邦生徒会長の権限によって、令状無しでの強制捜査や、捜査・逮捕権など、キヴォトスにおける最強の法執行機関なんです。彼女達の捜査や逮捕権は連邦生徒会役員にまで及ぶとされています。ですが現在は、肝心の連邦生徒会長が不在のため、その活動に責任を持つ人がいないのです。そのため、今のSRTの生徒さん達は『動きたくても動けない』。そんな状況になっているんです」
「成程な。そういう事か」
話を聞いて納得した。SRTには強い権限が与えられているが、今はSRTを動かせる人物、連邦生徒会長が居ないから動けないと。しかし、今は非常時だ。責任者が居ないから、と言う理由だけで戦力を遊ばせておけないのも事実だ。
「とは言え、現状を打開するためには戦力が必要だ」
「それは分かりますが、現状責任者が居ない状況のようですし」
「なら俺が一時的にでも責任者になればいい話だ。どのみち、俺たち4人だけでは施設1つの奪還だって日数を要する」
レンジャー4の言葉にそう返す。
「なので俺は明日、七神に会いに行ってみる。上手くSRTの生徒の力を借りられないか、交渉してみようと思う。まぁ、この後連絡を取り合って見て、なんだがな」
「隊長がそう判断されるのなら俺たちは別に構いませんが」
「確かに治安回復のために今は1人でも戦力が欲しいですね」
「そう言う難しい交渉事は大尉に任せますよ」
レンジャー4、レンジャー2、レンジャー3の順にそう答える。
「そうか。逆にそっちばかり悪いな。現場の方をまかせっきりにしてしまって」
「良いですよ。丸1日戦場で戦うよりかは、まだ楽ですし」
「そうですね」
「俺はこういう体動かす方が性に合ってるし、どうってことねぇさ」
そう答えるレンジャー2と4、レンジャー3もそう言って笑っている。
「そうか。なら、ひとまず明日次第、だな」
とりあえず、今日は最後に七神とやり取りをして、それで終わりだ。明日に備えて俺たちはそれぞれの部屋で休んだ。
そして翌日。いつも通り4人で軽い朝食を取り、3人は引き続き業務に出かけ、そして俺は午前中、七神に会いに行き、そして彼女を説得する事が出来た。
責任は全て俺たちが追う事を条件に、七神や『不知火カヤ』という連邦生徒会の防衛室長から許可を貰い受けた俺は、『現在のキヴォトスの状況が落ち着くまで』という事で一時的にSRT特殊学園のチームに対する指揮権を与えられたのだった。
(※※ この辺りの物語とSRTとの共闘はサイドストーリー枠で執筆予定です ※※)
その後、午後には火宮の会うため、そしてゲヘナ風紀委員会にいるとされている死神と出会うためにゲヘナへと向かった。
ハンヴィーを走らせ、ゲヘナの区画にやってくるが……。銃撃戦が日常茶飯事とされるキヴォトス内部でも輪をかけて悪いとされる治安。そのせいか、町全体の雰囲気が何と言うか、落ち着かなかった。まるでいつでも戦いが始まってもいいように、誰もかれもが密かに身構えているような、そんな感じだった。それによく見れば、銃撃戦に巻き込まれたのか、弾痕が壁面に残ったまま仕事をしている店がそこそこ目に映る。
これがゲヘナか。学園一つ、それを動かすトップが異なればこうまで違ってくるものなのか。そう考えつつハンヴィーを走らせていると……。
『『ダダダダッ!!』』
「ッ!?銃声ッ!?」
前方にマズルフラッシュは無かった。だが聞こえた。間違いなく銃声だ。咄嗟にハンヴィーを路肩に停め、周囲を見回して敵らしき人物がいないのを確認してから、車から飛び出す。車体の影に隠れつつ持ってきていたFDP-9を抜いてレバー操作で変形。銃の形となったFDP-9を構える。
「アロナッ!」
そして、俺は持ち運び用のケースに入れ、肩から斜めに下げたショルダーケース内部の、シッテムの箱に向かって叫んだ。
「はいっ、先生っ!」
「今すぐ周辺で何が起きているのか情報収集だっ!急げっ!」
「はいっ!」
指示を出しながら車体の影より周辺の様子を伺う。銃声は聞こえるが、少なくともすぐ近くじゃない。僅かに遠い。そして銃声を聞いたゲヘナ地区の人々が、慌てて店の中に戻ったり、店のシャッターを下ろしている。
「先生ッ!」
その時、シッテムの箱からアロナの声が響く。
「周辺にある監視カメラ映像から確認しましたっ!ここから100メートルほど離れた地点でゲヘナ風紀委員会の小隊と不良グループが銃撃戦を行っているようですっ!」
「やはりかっ!アロナッ、風紀委員会の小隊の所までルート案内を頼むっ!」
「了解っ!音声によりルートガイドを開始しますっ!」
「頼むっ!」
俺はアロナの案内の元で走り出した。誰も彼もが銃声から離れようとする中で俺はその流れに逆らって走る。細い路地に飛び込み、銃声がする方へと向かう。
「前方の角を右に曲がって下さいっ!ですがその先で戦闘中ですっ!」
「分かったっ!」
そのまま角の傍まで走り込み、そこで一度停止する。建物の壁に背中を預け、角から僅かに視線だけを出し、様子を伺う。
「おらおらっ!どうした風紀委員共っ!頼りの委員長と死神がいなきゃそんなもんかぁっ!?」
「ひ、怯むなっ!撃ち返せっ!」
案の定というべきか。ゲヘナの風紀委員と思われる、統一された制服を纏った少女たちと、恰好も武器もバラバラな、統一感の無い不良たちが道路で撃ちあっていた。周辺には持ち主が逃げ出したのか動かない車がいくつも停まっていた。それを盾にした様子で2つの勢力が撃ちあっている。……が。
「痛っ!?」
「あっ!?だ、大丈夫っ!?」
不味いな。風紀委員たちの士気がかなり低い。このままでは直に押し切られるな。やむを得んっ!!
「ッ!」
すぐさま路地より飛び出し、ショットガンを手に風紀委員たちに迫ろうとしていた不良の腹部に銃弾を叩き込む。
「おごっ!?な、にっ!?」
ライフル弾と違い、1発で行動不能には出来ないかっ!だが、足が止まったならっ!
『ダンダンッ!』
連発で腹部にもう2発叩き込む。
「うっ!?ぐ、げぇっ!!」
連続で食らうのは流石に限界だったようだな。腹を抑えてその場にうずくまり、胃液らしいものを吐しゃして動かなくなったっ。
「な、なんだあいつっ!?」
「敵かっ!?」
「風紀委員、じゃないっ!?」
「バカッ!とにかく撃てっ!」
突然の俺の出現に、不良共は戸惑い、攻撃が一瞬止まる。誰かが撃てと叫んでいたが、遅い。俺は近くの、風紀委員数人が隠れていた車体の影に飛び込んだ。
「だ、誰っ!?」
「待て撃つなっ!」
近づいてきた俺を恐れてか、銃を向けて来た風紀委員に対し、銃を持たない左手を掲げて制止する。
「自己紹介を簡潔にさせてもらうっ!俺は連邦生徒会傘下の組織、連邦捜査部シャーレ所属の者だっ!縁あってゲヘナを訪れていた時にこの戦闘音に気づいたので援護に来たっ!」
「み、味方っ!?」
「シャーレって、確か火宮さんが言ってた?」
「いや待てっ!そのシャーレ所属という証拠はっ!?」
証拠か。七神から貰った通信端末内部に、身分証を示すアプリが入っていたが、残念ながら悠長にそんなものを開いている時間は無い。
「証拠は、これで不十分かっ!?」
不良たちの射撃による圧力が弱まった刹那、車体から体の一部を出してFDP-9で射撃。
セミオートで牽制射撃を加える。
「あがっ!?」
運よく1発が不良の頭に命中し、そのまま倒れた。
「野郎っ!?」
すぐさま車体の影に隠れる。
「とにかく信じてくれっ!俺は味方だっ!」
「………」
俺の言葉に、彼女は押し黙った。
「せ、先輩?」
そんな彼女に、傍にいた別の生徒が声をかける。先輩、という事は2年生か3年生なのか。しかし、彼女はどう判断する?
「……分かりました。では今この時だけは、あなたを味方だと仮定して動きます。ですが、あくまで仮定です。あなたをシャーレの先生だと信じた訳ではありませんので。下手な動きをすれば、背後から撃たれる覚悟もしておいてください」
そう言って半ば睨みつけるような視線を向けられるが、だがまだまだだな。その程度で怯える程、軟ではない。
「分かった。今はそれで、十分だっ!」
彼女の言葉に答えつつ、不良共の射撃の合間を縫って撃ち返す。
「ぐあっ!?」
盛大に銃弾をばら撒いていた不良のMGに弾が当たり破損。不良が悲鳴を上げ後ずさる。再び襲い掛かって来た銃弾の雨を、車に隠れてやり過ごす。
「それでどうするっ?正直、俺の銃は自衛用でな。今の所は牽制程度にしか役に立たん。部隊指揮は経験があるが?」
「いえ、このまま牽制射撃をお願いします。援護には感謝しますが、部外者に指揮権をゆだねる事も出来ません」
「だが、このまま撃ちあってもじり貧、だろうっ!どうするんだっ?」
時折体を晒しつつ、牽制射撃を加えながら問い返す。
「問題ありません。先ほど既に救援要請は出して居ますし受理されています。直に……」
そう、彼女が言いかけた刹那。少し離れた、大通りの交差点の角から、複数の装甲車らしいものが現れた。が……。
「あれはっ!?」
間違いない。車体上部に砲塔こそ備えていないが、あれは間違いなくEDFの正式装甲車両のグレイプにそっくりだ。それが2両。俺たちの傍に、タイヤでアスファルトを擦り音を立てながら停車する。
「GOGOGO!」
停車したグレイプモドキの後部ランプが開き、数人の武装した生徒たちが現れる。その見た目は、今まで俺が出会ってきた生徒たちの中でも、軍人らしかった。普通の制服ではあるのだが、その上にタクティカルギアやヘルメットなどを装備している。更に戦闘に入るまでに迷いなどは見られなかった。よく訓練されているな。
彼女達はすぐさま手にしていたライフルで制圧射撃を開始した。だが、驚くのはまだ早かった。
最後に、1台のグレイプモドキから何かが現れた。
「ッ!……やはり、なのか」
それを見て思わず俺は息を飲んだ。天羽の、つまりスプリガンの話を疑っていた訳ではない。しかしそれでも、実際に見るまで俺は信じられなかった。
だが、間違いない。俺の視線の先で、死神が立っている。漆黒の軍用強化外骨格を纏った、重装甲の歩兵。それがフェンサーだ。そのフェンサーが今、確かにそこにいる。ハハッ、全く。本当にレンジャー3の言う通り、後はストーム1が来ればストームチーム再結成だな。
と、心の中で苦笑しつつも意識をフェンサーに、すなわちグリムリーパーに向ける。
まず彼女を見ていて一つの疑問が浮かんだ。それは姿だ。その姿と言うか、恰好が俺が知っているEDF時代のグリムリーパーと、今俺が見つめている少女では違う。
俺が知る物と違うのは、フェンサーは全身をパワードスケルトンの装甲で覆う。戦闘用衣類の上に装甲を備えたアーマーやパワーアシストを手足に備え、更に背面に大型のバックパックを装備する。
だが、目の前の彼女は違う。どちらかと言えば、ただパワードスケルトンを纏っているだけだ。工事作業現場などで、衣類の上に民間のパワードスケルトンを備えた工事関係者を見た事があるが、あれに近い。
黒いボディスーツだけを纏い、その上にパワードスケルトンを纏っているようだ。一瞬、なぜアーマーを?と考えたが、すぐに理解が追い付いた。
そうだ。キヴォトス人の彼女達には銃弾どころか砲弾も致命傷になりえない。故に体のガードは最低限で事足りるのだ、と。
「グリムリーパー隊、現着。これより友軍部隊の支援を開始する」
「「「「了解ッ!!」」」」
その名前、やはりかっ。ならばやはり、あの黒髪の少女が、グリムリーパーなのか?……まったくもって面影が無いが。
いや、今は戦闘中だ。とにかく戦闘に集中しなければ。グリムリーパーだと思われる少女に率いられた生徒数人が四方へと散開し、それぞれの場所から火力支援を開始した。
「ぐあぁっ!?」
「このやっ、がぁっ!?」
不良たちも応戦しようとするが、射撃の精度が一般の風紀委員たちと違う。今度は不良たちが一方的に撃たれ始めた。更に……。
「突入する。隊の指揮は任せる」
「はっ!」
近くにいた部下に指示を出したグリムリーパーは、次の瞬間背中のバックパックより炎を吹き出しながら、大地を疾走する。
「き、来たぞっ!死神がっ!!」
「来るな来るな来るなぁぁぁっ!!」
不良たちが半狂乱になりながら銃を撃つ。しかしジグザグに疾走し、時に跳躍する彼女の3次元的運動を捉えるのは難しい。そして接近を許せば、終わりだ。
『ドパァンッ!ドパァンッ!』と、どう聞いても個人の持つ火砲から聞こえるはずのない大音量の銃声が複数回に渡って響いた。見れば、彼女が携えていた武器はEDFフェンサーの武器の一つ、『デクスター自動散弾銃』のそれと同じか、よく似ていた。そしてそこから放たれた散弾は、容易に不良の2人を、背後の建物まで吹き飛ばし、その壁に激突。あまつさえめり込ませた。
巨大生物相手に作られた銃、いや、もう砲と呼んでも差し支えない武器だ。近距離で人間が食らえば、跡形もなく消し飛ぶだろう。だが、以前に聞いた銃声より少し音が小さい。どうやら威力をEDFの物より抑えているな?
とは言え、仲間があんな吹き飛び方をすれば戦意を砕く事など用意だ。
「あ、あぁ……ッ!」
「嘘、だろ……ッ!」
不良たちは戦闘中にも関わらず、後方へと吹き飛んだ仲間に視線を集めていた。それが結果的に、死神に無防備な背を向ける行為だというのに。
「貴様ら」
「「「ひっ!?」」」
声こそ静かだが、その威圧感は容易に人を震え上がらせるだけの『圧』があった。不良たちが顔を青くし、悲鳴を漏らしながら振り返る。
そして1人の生徒の眼前にあったのは、デクスター自動散弾銃の銃口だ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!」
眼前の銃口に、彼女は悲鳴を上げその場にへたり込んでしまった。恐怖で顔を引きつらせ、終いには泣き出している。
「喜べ。お前たちに選択肢を与えてやる。ここで俺に叩きのめされて、全身ボロボロの状態で、病院のベッドで目が覚めるのと、今ここで素直に降伏するの。どっちが良い?」
「「「ここ、降伏しますぅっ!!」」」
……哀れな不良たちだ。もし彼女がグリムリーパーなら、俺たちと同じ地獄を生き延びた豪傑の1人だ。そんなあいつに睨まれては、多少銃が使える程度の小娘など、ただで済むはずがない。
そして現に、不良たちは一切の抵抗する意思を捨て、大人しく風紀委員会の生徒たちに従っている。よっぽどグリムリーパーの奴が怖かったと見える。で、肝心のあいつは、というと……。
「負傷者の確認と移送を最優先だ。動ける者は学園に帰還しろ」
「「「「はいっ!」」」」
「あ、あのっ!ハデスお姉さ、じゃなくてっ!大神先輩はこの後は?」
「俺たちは念のためグレイプで周囲をパトロールしてから戻る。お前たちは、戻って休め。ご苦労だった」
そう言って、ハデス、と呼ばれた黒髪の少女は風紀委員会の生徒たちを労うと歩き出した。あれがあのグリムリーパーか。全くアイテールと言い、男が美少女に転生とはな。笑える話だ。
と、その時。少し離れた所で様子を見ていた俺と、彼女の視線が交差した。が、彼女は僅かに眉を動かしただけで、それ以上は何も反応らしい反応は見せなかった。
しかしそれも無理はない。今は周囲に外野が多すぎる。とてもではないが話せる状況ではない。幸いこの後、俺は予定通りゲヘナに行く。そこでであれば良いだろう。なんて思いながらグリムリーパーの乗ったグレイプモドキ――と言うかあいつがはっきり『グレイプ』と言っていたので恐らくグレイプ――に乗って走り去っていくのを見送った。が……。
「あぁ、ハデスお姉さま~♪」
「今日もお姉さまはカッコよくて素敵♪」
……なんか、生徒の一部がグリムリーパーの走り去った方を見つめながら熱い視線を向けている。……と言うか、お姉さま?
「ははっ、元男のあいつがお姉さま呼ばわり、か。全く驚きには事欠かないなぁ、ここは」
思わず苦笑が零れる中で、俺はハンヴィーに戻るために踵を返して歩き出した。
しかし、これでキヴォトスの3大学園とされるミレニアム、トリニティ、ゲヘナにストームチームのメンバーが1人ずつ、か。そうなると、あいつも来ているのだろうか?
「お前も、ここにいるのか?このキヴォトスに。……ストーム1」
俺は、答えの返ってこない問いかけを、空に向かって投げかけた。
~~~~~~
そこは砂漠であった。砂漠に飲まれた町だった。ここは、『アビドス』。かつて栄華を誇った学区あり、しかし今はその名残など欠片も残っていない、砂に飲まれゆく街だ。
そんな廃墟同然の外郭地区を、『7人』の人影が歩いていた。彼女達は、今もこのアビドスに残り、故郷を守るために戦っている者たちである。しかしふと、最後尾を歩いていた、ヘルメットとプロテクターを纏い、銃を携えた男が、その足を止めた。
「あれ?『嵐』さん?」
それに気づいた、前を歩いていた6人の少女の1人、『薄く緑がかった青い髪の少女』が足を止めて振り返る。
「どうかしたの?」
「……いや。なんでもない」
しばし夕暮れに染まる空を見上げていた、嵐と呼ばれた男は、静かにそう答えて再び歩き始めた。
「嵐さ~ん!『ユメ』先ぱ~いっ!何してるんですか置いて行きますよ~!」
「ひぃんっ!待ってよ『ホシノ』ちゃ~んっ!」
ピンクの髪の少女の言葉に、ユメと呼ばれた女性は独特な悲鳴を上げながら慌てて走り出し、それに少し遅れて嵐と呼ばれた男が続く。
ここはアビドス。多くの者に見捨てられた町。だがそれでも、足掻く少女たちは今、ここにいる。そしてその隣には今、1人の男がいた。
かつて、人類の代表としてプライマーとの戦争に終止符を打った男。
文字通り、プライマーの神を倒し、『神殺し』をなした男。
その名は、『ストーム1』。
だが、まだ嵐は吹き荒れない。『今は』、まだ。
第11話 END
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