ブルーアーカイブ~~キヴォトスに舞い降りる嵐≪ストーム≫~~ 作:ジョージ
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トリニティで再会したスプリガンこと天羽フウリの情報をレンジャー2たちと共有した翌日。俺はかつて共に戦ったフェンサーの1人、グリムリーパーが居るとされるゲヘナに向かった。そこで偶然銃撃戦に遭遇した俺はゲヘナの風紀委員たちに手を貸した。そしてそこで俺は、アイテールのようにキヴォトス人の少女として転生したグリムリーパーを目撃したのだった。
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市街地での銃撃戦の後、俺は念のため風紀委員たちに少し声をかけてからその場を離れた。そしてゲヘナ学園の近くにある、シェルターと見紛う駐車場にハンヴィーを止めた。正直、最初はここに車を停めるようアロナに提案された時は、『そこまで?』と内心思ったが、あの銃撃戦やゲヘナ市内の様子を見た後では、納得するしかないな。
アロナ曰く、『もし何の防犯対策も無い野ざらしの駐車場に車を停めてしまえば、銃撃戦で穴だらけの小破や中破もありえますし、近距離で手榴弾が爆発して、最悪大破どころか爆発炎上もありえます』、と言われ、内心小首をかしげていたが今となっては納得せざるを得ない。
しかしここまで治安が悪いとはなぁ。この辺りの改善策なども考えなければならないのか?俺が?
いや、そもそもゲヘナ学園のトップは何をしているんだ?校風に自由を謳っているとは言え、いくら何でもこれでは不味いだろう。まぁ、そのことに関して今の俺が考える事ではない、か。念のため火宮にモモトークで先に連絡を入れておくか。
『これから向かう』、と連絡を送ると問題ありません、お待ちしておりますとの返事が来た。ならば、行くとするか。俺はハンヴィーモドキを降りて、学園の正門へと向かって歩き出した。が、しばらく歩いていると……。
「ちょいと待ちなぁ」
不意に、数人の人影が俺の歩みを遮るように立ちふさがった。素早くホルスターに手を伸ばしつつ、相手を観察する。
現れたのは、5人の生徒たちだ。しかし生徒の前に不良、という単語が付きそうな、ガラの悪い生徒たちだ。
「なんだ?俺に何か用か?」
「実はさぁ、うちら今金欠なんだよなぁ。だからさぁ、恵んでくれよおっさん」
1人、リーダーらしい不良がわざとらしく銃を揺らしながら近づいてくる。銃は、SMGか。チラリとリーダー格の少女以外の不良に目を向ければ、同じくライフルやマシンガンを装備している。
「ちっ!おらっ!怪我したくなけりゃさっさと出しなっ!」
無言の俺に苛ついたのか、あからさまに銃を突き付けてくる。……成程。このキヴォトスの不良共にとって銃は、俺たちの世界の、不良たちが持つナイフと同じものなのだろう。案外簡単に手に入り、最も手近な武器だ。
だが、俺にとっては銃だろうがナイフだろうが同じ。容易に『人の命を奪える武器』だ。それを振り回すこいつらに、少々『教育』をしてやるべきだろう。
「……一つ、言っておく事がある」
「あ?なんだ?許してくれ、とでもいうつもりか?」
そう言ってニヤニヤと笑みを浮かべるリーダー。更に後ろの不良たちまでそれにつられて笑う。……冗談じゃないんだがなぁ。
「俺にはヘイローが無くてな。お前の銃の銃弾一発で簡単に死ぬ存在だ」
「……は?」
俺の言葉に、不良共の視線が頭上に集中する。
「そんな俺に銃を突きつけるって事は、『殺してでもお金を奪う』って事だ。つまり、ここから先は、本当の殺し合いだ」
一歩、リーダー格の女に近づく。そして、真っすぐにリーダー格の不良を見据える。
「ひっ」
それだけで彼女は小さく悲鳴を漏らす。
「お前たちに質問だ。人殺しになってまで金が欲しいのか?」
「え?い、いや、え?」
二歩、リーダー格の女が後ずさる。
「お前たちにとっては銃なんて喧嘩の道具程度でしかないのだろう。だが、俺にとって銃は『人殺しの道具』だ。そいつは容易に他人を、俺を殺せる武器だ」
更に近づけば、彼女は更に後ずさる。周囲の不良仲間もだ。俺と距離を取るように後ずさる。そして、リーダー格の女は、ついに壁にまで追い込まれた。壁に背を付け、怯えた様子で俺を見上げている。
「もう一度聞く。俺を殺して、人殺しになってまで金が欲しいのか?どうなんだ?」
「い、いや、あの、その、えと」
「はっきり答えろぉっ!!!」
「「「「ひぃっ!?」」」」
目の前のリーダー格だけでなく、周囲の不良たちまで震えあがる。ちょうどいい。元軍人としての威圧感。たっぷり味わってもらうとしようか。
「その手を他人の血で汚してまで金が欲しいのかと聞いているんだっ!だとしたらお前たちは糞にも劣る畜生だっ!!で、どうなんだっ!?お前たちは人殺しの外道で畜生かっ!そうでないのかっ!どっちだっ!!!」
「い、いらない」
「何っ!?聞こえんぞっ!もっとはっきり声を出せぇっ!」
「ひっ!?……い、いらないですぅっ!!!」
ついに、顔を青くし、恐怖で滝の如く涙を流しながらリーダー格の不良が脱兎の如く逃げ出した。更に俺は、周囲の不良たちにも睨みを利かせる。
「リ、リーダーッ!」
「待ってくださいぃっ!」
「置いてかないでぇっ!」
すると、残っていた連中も涙を浮かべながら脱兎の如く逃げ出した。それを見送り、姿が見えなくなったところでふぅ、と息をつく。
「戦闘にならなかっただけマシか」
そう口に出して呟いた時。
「先生ッ」
「ん?あぁ火宮か」
不意に声が聞こえ、振り返ると慌てた様子でこちらに駆け寄って来た。
「どうした火宮?随分慌てていたようだが?」
「ハァ、ハァッ。お言葉ですが、それはもう慌てます。私達と違い、ヘイローを持たない先生が不良に絡まれる、というのは私達とは訳が違いますから。ハァ」
少し荒い呼吸を整えつつ話す火宮。
「それもそうだったな。まぁ幸い、威圧だけで追い払えたから助かったが」
そう言って不良たちが逃げていった方に目を向ける。が……。
「先生は、怖くはないのですか?」
「ん?」
声をかけられ彼女の方を向くと、火宮はどこか心配そうな目で俺を見つめていた。
「このキヴォトスでは、生徒はみな基本的に銃を所持しています。つまり、皆が先生を殺せる道具を備えている、という事でもあるのですよ?それが、怖くはないのですか?今の先生は、そう言った恐怖が見られません」
「……恐怖、か」
天羽と話をした時も思ったが、プライマーとの戦争を経験してしまっているせいか、銃を持った悪ガキ程度、怖いなどと思えないのが正直な所だ。もちろんだからと言って油断して死ぬのはごめんだから油断などしない。……しないのだが……。
「軍属だったからな。俺も」
「え?」
「これでも一応、苛烈な戦争を生き延びて来た身だ。感覚がマヒしているのかもしれん。あの戦争の悲惨さと凄惨さ、そして敵の恐ろしさに比べれば、銃を持った不良たち程度、怖いとも思えん」
天羽の言う通り。プライマーどもの魚人やらイカ野郎にタコ野郎、自爆アンドロイドやアリの化け物共に比べれば、銃を持った不良たちなど、『可愛い物』だ。
「銃を持つ生徒を前にして、恐怖を感じなくなるほどの、過酷な戦争、ですか。それは、一体どんな地獄だったのですか?」
「……残念だが、戦争談義なんて物をする気はない。あんなもの、お前たち生徒が知る必要は無いさ」
俺は真っすぐ火宮を見つめながら、はっきりと、しかしあの地獄を思い出しながら、少しだけ吐き捨てるようにそう言った。
「そう、なのですか?」
「あぁ。地獄を知っているのは、戦争経験者だけで十分だ」
そう言って俺は肩をすくめた。そうだ。あんな地獄を知っているのは、俺たちのような大人だけで十分だ。子供たちは、知るべきではない。あんな、命が簡単に消し飛ぶ絶滅戦争の地獄など。
「それより、今日は無理を言ってすまなかったな。ゲヘナ学園を見ておきたい、などと」
「いいえ先生。幸い今日は私も時間がありましたので。では、どうぞこちらへ」
「あぁ」
戦争関係の話を早々に切り上げ、俺は火宮に案内されながらゲヘナ学園の中へと足を踏み入れた。
「そう言えば火宮。もし可能であれば、なんだが。ゲヘナの代表に挨拶をしたい。アポイントは無いが、可能だろうか?」
そう、前を歩く火宮に問いかけたのだが……。
「………」
振り返った彼女の表情が、露骨に嫌そうであった。な、なぜ?
「ど、どうした火宮?何か気に障る事でも言ったか?」
「……いえ。先生が悪い訳ではないんです。ですが、そうですね。敢えて一言言わせてもらうのであれば、例え機会があってもゲヘナの代表、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の長である『羽沼マコト』議長には、お会いしない方が賢明です」
「……何?」
会わない方が賢明?どういう事だ?
「なぜ、会わない方が賢明なんだ?訳を教えてくれ」
「……一言であの人を表現するのなら、無駄にカリスマのある、権力と欲望を持った阿呆、でしょうか?」
「は?」
な、なんだって?火宮の発言に俺は思わず呆けた声を上げてしまった。
「一言で羽沼議長を表現するのなら、『自己中心的』と言えるでしょう。いえ、決して無能という訳ではないんですが。……あの人は最もゲヘナを体現した存在と言えるでしょう」
「それは?」
「自由と混沌です。あの人はある意味、それを体現しています」
火宮はそう告げつつため息をついた。
「刹那的というか、行き当たりばったりと言うか。自分のやりたいようになっている人、と言えば良いでしょうか」
「成程。言うなれば、自由人という訳か」
「それが更にカリスマと権力を持っているのでなおの事、質が悪いのですが」
そう言って再びため息をつく火宮。
「その反応からして、火宮は羽沼マコトを嫌っているようだな?」
「えぇはい。実は議長と私達風紀委員会のリーダーである『空崎ヒナ』委員長はことあるごとに対立しているんです」
「何?原因は?」
学園の治安維持を職務としる組織と行政組織でもある生徒会が対立しているのか?それは学園運営の足かせにならないだろうか?ふとそんな考えが脳裏をよぎり、思わず火宮に問いかけた。
「それが、私にも分からないんです。委員長は議長の話題を出すと不機嫌になりますから、聞くに聞けず」
「そうか。しかし大変だな。行政と治安機構の長同士が対立しているのは」
「えぇ、全く。特にそのせいか議長からはことあるごとに揚げ足取りをされたり、難癖をつけて予算を削減されたり、面倒な仕事を押し付けられたり……」
「そ、そうか」
どこか怒気を孕んだ火宮の表情と語気に思わず冷や汗が流れる。い、いかん。話題を変えないと。そうだ。
「そ、そう言えばここに来るまでに市街でゲヘナの風紀委員と共闘したんだが、聞いているか?」
「え?……あぁ、そう言えば。確かに先ほど戻った方たちからお聞きしました。なんでも力を貸していただいたとか?」
「殆ど何もしていないさ。直後に来たグリムリーパー、と名乗った隊の者たちの方が活躍していたくらいだしな」
あ、危ない。危うくグリムリーパーが、と言いかけて訂正した。火宮にはまだトドロキたちの転生の事は話していないしな。
「あぁ、先生もハデス先輩たちを目撃されたのですね」
「そうだ。しかし火宮。そのハデスなる少女が纏っていたあの装備はなんだ?」
「あれは『フェンサーユニット』や『パワードスケルトン』と呼ばれるパワードスーツの一種です。あれを装備する事で個人では携行できないサイズ、それこそ砲と呼べる程度には巨大な火器を携行する事や、背面に搭載されたスラスターで高速移動が可能になるのです」
「そうなのか」
やはり俺が知るフェンサーと同じだな。だが、今となっては驚きもせん。幸いな事に、開発元の『あて』はあるからな。
「しかし、あれだけの物をゲヘナだけで作ったのか?だとしたら凄まじい技術力だが?」
「いえ。実際にはゲヘナの風紀委員会とミレニアムの共同開発という形になっています。といっても、開発にはかなりの時間がかかってしまって。実戦配備が始まったのもつい最近の事なんです」
「そうだったのか」
やはりな。確認の意味も兼ねて質問してもたが、予想通りだ。アイテールが関わっているのだろう。あいつが居るのなら納得だ。と言うかあいつ、分かっていて俺にグリムリーパーの件を話さなかったのか?だとしたら後で小言の一言でも言ってやるか。……いや、今はそれより。
「火宮。出来ればそのグリムリーパーの隊長をしている生徒に会いたいのだが、可能だろうか?」
「ハデス先輩にですか?少々お待ちください」
そう言って足を止めた火宮は端末を取り出すとどこかに電話をかけ始めた。どうやらグリムリーパーに連絡を取っているようだ。少し会話をした後。
「はい。ありがとうございますハデス先輩。ではすぐに先生をお連れします。はい。失礼いたします」
そう言って通話を終えた火宮。
「どうだ?」
会話の内容からして、大丈夫そうだが念のために確認の声をかける。
「大丈夫だそうです。この後、風紀委員の執務室までご案内します。ハデス先輩はそちらでお待ちとの事ですので。ただ、本日は皆忙しそうで。ハデス先輩と私以外の主だった風紀委員は席を外しております。その点はご容赦ください」
「構わないさ。ゲヘナの様子を見れば、お前たちの忙しさにも納得だしな」
その後、俺は火宮の案内で風紀委員の建物へと入って行った。しかしゲヘナ学園の内部を見てみたが、風紀委員の建物以外は、なんと言うか荒れていた。自由と混沌を校風に、と言うがこれはもはや『世紀末』と言った言葉が似合いそうな雰囲気だ。
と、歩いている時に俺はある事に気づいた。
「そうだ火宮。一つ良いか?」
「はい、何でしょう?」
「グリムリーパーを率いている、ハデスという生徒に会う前に風紀委員会の委員長に挨拶をするべきか、と思ってな。確か、空崎ヒナ、という名前の生徒だったか?会えるだろうか?」
「成程。しかし申し訳ありません。ヒナ委員長は本日臨時でお休みでして」
「休み?それも臨時で?」
その内容に俺は少しだけ眉を顰めた。組織の長が予定にない休みとは。何かの病気とかでなければ良いのだが……。
「なぜ今日急に休みを?体調不良か何かか?」
「いえ。そう言う訳ではありません。ただ、ここ数日はキヴォトス全土の混乱のため、ただでさえ治安の悪いゲヘナ各地で問題が多発し、委員長や他の風紀委員たちもその対応に追われていたんです」
そう説明されて、俺は納得した。
「あぁ。それもそうだったな。すまん、考えが回らなかった」
「いえ。それで、委員長なのですが。ここ数日もかなり長時間労働をされていたようで。見かねたハデス先輩が『後は俺がやっておくから今日一日は、自宅でスマホの電源も落として寝ていろ』、と言って強引に委員長を帰宅させてしまって」
「そうだったのか」
「本来のヒナ委員長であれば、私や他の風紀委員が同じことを言っても『大丈夫』の一点張りなのですが。流石に同級生で付き合いの長いハデス先輩の言葉は聞いていただけるんです」
「成程。つまり仲が良いのだな。2人は」
あの死神と呼ばれた男が、転生して美少女になった挙句、風紀委員とはな。あいつもあいつで、中々に目まぐるしい第2の人生を歩んでいるようだな。そう思うと、自然と笑みが零れた。
「えぇ。ヒナ委員長とハデス先輩は、『ゲヘナの双璧』と呼ばれる程ですから。正直、あのお2人が居なければゲヘナの治安はどうなっているか、想像も出来ません」
そう言って火宮は歩きながら窓の外に視線を向け、俺も続いた。
「っと、こんな話をしている場合ではありませんね。どうぞ先生。こちらです」
「あぁ」
火宮の後に続いて、部屋を目指して歩く。しかし、とその道中で思う。一組織に異存した治安維持。しかも火宮の発言からして、その組織自体も力のあるトップとナンバー2が大黒柱となっているようだ。ミレニアムもトリニティも所々問題があるようだが、ゲヘナも同じか。
「では先生。こちらへ」
っと、そうこうしている内に目的地にたどり着いたようだ。ドアをノックし、失礼しますと一言言ってから入る火宮に続く。中に入ると、先ほど見かけたグリムリーパーと思わしき黒髪の少女と、そのほかに数人の、同じ服を着た風紀委員らしき生徒たちが書類仕事をこなしていた。
「ハデス先輩。お疲れ様です」
「あぁ。お疲れ、火宮」
書類に走らせていたペンを停めて視線を上げる黒髪の少女。そして、俺と一瞬視線が合う。が、即座に彼女は視線を外して火宮と、更に周囲で仕事をしていた生徒たちに目を向ける。
やがて、彼女はどこからか、財布のような物を取り出した。
「火宮。すまんが皆に何か甘い物を奢ってやってくれ。金は、適当にここから出しておいてくれて構わん」
そう言って少女は席を立ち、火宮に財布を手渡した。
「え?よろしいのですか?」
「あぁ。ここの所、仕事続きだったからな。皆、少し休んでくると良い。皆、そう言う訳だから、少し休憩だ」
そう言って少女は周囲の生徒たちを見回す。
「えっ!?良いんですかハデス先輩ッ!」
「あぁ。俺の奢りだ。ただし、あんまり高いのは無しだぞ?」
「はいっ!ありがとうございますっ!」
「流石ハデスお姉さまっ!」
周囲で仕事をしていた生徒たちが、目に見えて嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「そう言う訳だ。すまんが頼むぞ火宮」
「分かりました。あっ」
と、そこで火宮が僅かに振り返る。
「けれど、すみません。私には先生の対応が……」
あぁ。そのことか。
「俺のことは気にするな火宮。何も問題はない」
「……先生が、そう仰るのであれば」
手を振って、大丈夫だ、と伝えると火宮は戸惑いながらも頷いた。
「その男性が、俺に会いたいと言っていた、例のシャーレの先生なのだろう?なら俺が対応しておく」
「分かりました。お願いします、ハデス先輩」
「あぁ。……っと、そうだ。購買部と食堂の警備隊の連中にも何か差し入れてやってくれ」
「分かりました。では、私達は一度失礼します」
「あぁ」
火宮や他の生徒たちは、ハデスと呼ばれる少女に一礼すると、『何食べよっか?』などと談笑しながら部屋を後にした。
これで部屋に残されたのは俺と彼女だけだ。立ったまま俺たちは数歩の距離を置いて向かい合う。
「さて。まずはようこそゲヘナへ、というべきかな。そちらは、連邦生徒会傘下の組織、連邦捜査部シャーレの顧問である先生、とお見受けするが?」
「あぁ。その通りだ。そしてそちらについては、どう呼べばいい?」
俺がニヤリと笑みを浮かべながら問いかけると、彼女もふっ、と息を吐いてから笑みを浮かべ、肩をすくめた。
「昔の通りで良いさ、大尉殿。それとも、軍曹かな?」
やっぱりだ。こいつは、間違いない。あの地獄の戦場にあって、それでも幾多の敵をなぎ倒し、貫いて来た漆黒の死神。グリムリーパーだ。
「久しぶりだな、グリムリーパー。戦友よ」
「あぁ。久しぶりだな、ストーム2」
俺は右手を差し出し、それにグリムリーパーも答えた。互いに、堅く握手を交わす。
「それにしても、随分変わったな。あの死神と呼ばれた寡黙な男が、今は黒髪の美少女か」
「そう言う貴様は、あの頃と変わらず。いや、若返っているというべきか?何とも羨ましい事だ。こちらなぞ、女の体に慣れるのに大分苦労したというのに」
「ふっ、アイテールも似たような事を言っていたよ。知っているのだろう?」
「あぁ」
グリムリーパーは、俺の言葉に頷くと手近な机に寄り掛かるようにして両手を胸の前で組み、楽な姿勢で言葉を続けた。
「ひょんなことから、あいつと、トリニティにいるスプリガンの事を知ってな。パワードスケルトンの開発のためにも、接触した」
「ひょんなこと。というと、天羽のウィングダイバーユニットの件か?」
「そうだ。スプリガン、もとい天羽フウリとも会っているのか?」
「昨日な。それより、お前の方はどうだったんだ?一応トドロキたちから聞いているが……」
「転生に関してなら、俺もあいつらと同じだ」
それから俺は、グリムリーパーから話を聞いた。が、内容はトドロキやフウリと同じであった。
戦後、年老いて老衰で永眠したはずが、気づけばこのキヴォトスで赤子として転生していた事。何とか、『大神 ハデス』という第二の生を得たため、なし崩し的に成長し学生となり、このゲヘナに入学した事などなど。
「とまぁ、俺の経歴についてはこんな物だ。そちらは?」
「殆ど同じだ。俺と他の三人も、老衰で死んだはずが、次に気づいた時にはこのキヴォトス。正確にはDU地区のサンクトゥムタワー内部で目が覚めた。お前たち三人と違うのは、戦争当時の姿に若返った状態で目覚めた事、くらいか」
「3人?火宮から話は聞いていたが、やはり先日彼女と共闘したのは、お前の部下たちなのか?」
「あぁ。あいつらも俺と同じように、戦争当時まで若返った姿で、俺と一緒にタワー内部で目覚めた」
「そうか」
俺の話を聞くと、しばしグリムリーパーは顎に手を当てた。
「俺たち3人にそちらの4人を含めた、元ストームチームの7人がこのキヴォトスへとやってきた、か。多少の差異はあれど、偶然と割り切る方が無理がある」
「確かにな。俺としても、この一件には何か、作為的な物を感じる。しかし、こんな事が出来そうなプライマーは、俺たちとの戦争の結果、存在そのものが消滅したはずだ」
「プライマー。……懐かしい名前だ。聞きたくない名前でもあるが」
俺の言葉にグリムリーパー。いや、ハデスが眉を顰めた。
「軍曹は、今回の件にプライマーが関わっていると考えているのか?」
「正直な所、半信半疑、と言ったくらいだ。確かに俺たちはプライマーを滅ぼした。だが、こんな紙の御業と見紛う事が出来るとしたら、奴ら以外にありえまい?」
「まぁ、確かにな」
「もちろん、奴らが滅んだ事は分かっている。敵であるEDFの俺たちをこんな場所に送り込む理由もないはずだ。しかしなぁ……」
「まぁ、言わんとしている事は分かる。確かにこんな事が出来るとしたら、それは神か、或いは神と見紛う程の力を持った、プライマーくらいだろう」
ハデスはそう言って俺の考えに同意した。
「と言うか、お前たちは連邦生徒会の会長に呼ばれたのではないのか?火宮が代行の七神リンからそう聞いた、と言っていたが?」
「残念ながら俺たちもそれ以上の事は知らないんだ。知りたくても、当の本人は失踪中。七神たちも、『連邦生徒会長が呼んだ人材』、程度の事しか知らん」
「そうだったのか」
ハデスがそう答え、しばし部屋に沈黙が流れる。それを破ったのは、俺だ。
「分からんものだな。俺たちがここにいる理由など」
「……あぁ」
俺の言葉にハデスは小さく頷いた。
「いや、すまん。この話題はやめよう。どうせ現時点で答えの出る問いではないのだからな」
「そうだな。……それに、そんな話をするために来たのではないのだろう?」
「あぁ」
ハデスの言葉に頷く。
「グリムリーパー。いや、大神ハデス。お前は今後、どうするつもりだ?元EDFの兵士としての素性を持つ、お前はこのキヴォトスでどう生きる?」
「そうだな。……今はとりあえず、このゲヘナを卒業する、以上のことは考えていない。その先の人生については、何も考えていないのが現状だ」
「そうなのか?」
「あぁ」
ハデスはそう言って少し疲れた様子で笑みを浮かべる。
「ゲヘナはこんな有様だからな。ここじゃ明後日どころか明日がどうなってもいるか分からん。問題児どものキヴォトス随一のマンモス校だからな。ここをヒナ1人でカバーするのは無理だろう」
「ヒナ?というと、空崎ヒナ。ここをまとめる風紀委員長の事か?」
「あぁ、そうだ。……いわゆる幼馴染、という奴だ。そしてあいつは今、風紀委員の長として頑張っている。だが、どうにも目が離せない奴でな」
「というと?」
「なんというか、『自分がやった方が速いから』、なんて言う理由で仕事を引き受けるような、ワーカーホリックに近い物があってな。正直見ているこっちが心配になるほどだ。だから今は、ここでの仕事以外の事など考える余裕もない、という事だ」
「そうか」
空崎ヒナの働き方に対してだろうか、ハデスはやれやれと呆れた様子で首を振りながら息を吐く。しかし、あの死神と呼ばれた男がなぁ。そう思うとニヤニヤが止まらん。
「な、なんだ?」
どうやら俺の表情に気づいたのか、ハデスが怪訝な顔をする。
「いやなに。かつて死神と呼ばれていた男が、1人の少女を真剣に心配するとなわ。変わったものだなと思っただけだ」
「……はったおすぞ貴様」
そう言って俺を睨みつけるハデスだが、僅かに頬が赤い。そんな表情で凄まれてもなぁ。
「すまんすまん。だが、お前も変わったな」
「……そっちは相変わらずか。性別の変化という難題に悩まなくて済みそうで、羨ましい限りだ」
そう言ってハデスはそっぽを向いてしまう。
「俺の招待も分かった事だし、もう用はないだろう?さっさと帰れ。こっちは貴様の相手をしている程、暇じゃないんだ」
「そうか。ならば、そうさせてもらうとしよう」
見事な照れ隠しだが、これ以上藪をつついて蛇を出すのもな。ここは大人しく退散するとしよう。
「ではな、ハデス。用がある時は火宮を通じてコンタクトしてくれ。俺たちのシャーレというのは、キヴォトスの何でも屋みたいなものだからな」
「……分かった。その時は、こき使ってやるから覚悟しておけ」
「了解した」
ハデスの言葉に苦笑しながら踵を返して歩き出そうとした時。
「そうだ。俺から一つ、聞き忘れていた」
「なんだ?」
ハデスの言葉に、足を止めて振り返る。
「ストーム2のお前たち4人は、ただ先生として訳も分からずこのキヴォトスにやってきた訳だが、お前たち自身はどうするつもりだ?このキヴォトスで、どうやって生きていく?」
真っすぐ、真剣な目でハデスは俺を見つめていた。その視線に、俺も自然と表情を引き締め、正面から向かい合う。
「なぜ俺たちが先生なんて仕事を与えられたのか。正直疑問でしかない。俺たちなんかが、何かを教えられるとしたら、それは戦闘技術くらいだ」
本当に、なぜ俺たちが教師としてこのキヴォトスに呼ばれたのか、謎だ。もっと良い人選があるんじゃないか?と素直に思ってしまう。
だが、それでも……。
「けれども、こうして任された以上は、全うしようと思う。ここにいる生徒たちの倍以上は生きて来たんだ。そんな人生経験から、彼女達に何かを教えてやれるかもしれん」
「だから、先生をすると?」
「あぁ。折角得た第2の人生だ。人を育てるのに費やすのも、悪くはないだろう」
「……そうか」
俺の答えを聞くと、ハデスは満足そうに笑みを浮かべて頷いた。が、次の瞬間にはその表情が再び真剣な物へと変わる。
「ならば、お前たちよりも長くこのキヴォトスで生活してきた先輩として、一つ忠告をしておく」
「忠告?」
「そうだ。このキヴォトスの中心は、連邦生徒会だ。そしてその下に、無数の自治区としての学園が存在する。ゲヘナしかり、トリニティやミレニアム。それ以外の学園もだ。だが、そこを収めるのは、まだ年端も行かない少女たちだ。当然、行政管理など慣れていないだろう。だが、それ以上に彼女達はまだ、若く、そして圧倒的に経験値の足りない子供だ。どれだけ背伸びをしたとしても、『子供』なんだ。だからその心は、脆い」
「……」
まだ、多感な時期の子供たちだ。その心はまだ、世界の理不尽を知らないのかもしれない。あの、プライマーどものような『圧倒的な理不尽』を。
「圧倒的な理不尽を前に、それでも戦い続けて来た俺たちとは違う。だというのに、彼女達は大人と同等か、それ以上の重荷を背負っている者も少なくない。だからこそ、そんな彼女達には、手を差し伸べてくれる大人が必要なんだ」
「それが、俺たちだと?」
「そんなところだ。だが、簡単な事ではないだろう。このキヴォトスで生徒たちの抱える問題は千差万別だ。……先生という職を全うするというのなら、気張っていけ。そう簡単ではないからな」
「そうか」
確かに、簡単な仕事ではないだろう。これまで見て来た学園でも、色々な問題がありそうだった。それを俺たちが解決するのか、と思うと少し頭が痛くなってきた。
だが、それでもやるしかないだろう。なぜなら俺たちは、先生なのだから。
「忠告感謝する、ハデス。だが、やると言ったからには、やり遂げて見せるさ」
「そうか。……まぁ、人手が欲しければ声をかけろ。暇だったら手伝ってやる」
「分かった。ではな」
最後にそう言い残して、俺は部屋を出て、そのままゲヘナを後にした。
さて、これで一先ず三大校を巡って、アイテールたちとも再会できたし。明日からはいよいよ、レンジャー2たちにまかせっきりだった仕事に俺も加わるとするか。
第12話 END
次回からアビドス編ですが、正直仕事が忙しくて執筆時間取れてなくて。気長に待っていただけると助かります。感想や評価など、お待ちしてます。