ブルーアーカイブ~~キヴォトスに舞い降りる嵐≪ストーム≫~~   作:ジョージ

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 楽しんでいただければ幸いです。なんかランキング覗いたらこの作品乗っててビビりまくってるうぷ主です(笑)


第4話 シャーレビル奪還作戦・後編

~~~~~~

 ついにシャーレのビルの目前まで迫った俺たちだが、その前に戦車を含めた不良共の防御陣地が立ちふさがった。作戦を立て、俺たちはその陣地に対し、攻撃を開始した。

 

 

~~~~~~

「て、敵襲ッ!敵襲ぅぅっ!あがっ!?」

 叫んだ不良生徒を羽川の狙撃が撃ちぬく。更に俺と守月、レンジャー2、レンジャー4による牽制射撃が不良生徒たちを幾人か打ち倒し、残りの頭を押さえる。

 

「おいっ!敵だっ!早く戦車の砲弾をぶち込んでやれっ!」

「言われなくたってっ!」

 収音マイクによって聞こえる連中のやり取り。とその時、戦車の砲塔が動き出した。狙っているのは、俺と守月かっ!

 

「各自散開っ!砲弾が飛んで来るぞっ!」

「「「「「了解っ!」」」」」

 

 指示を飛ばし、歩兵である不良共に牽制の射撃を加えながら、盾にしていた車の影より飛び出す。直後、戦車の主砲が唸りを上げ、砲弾を放って来た。砲弾が、俺が盾にしていた車に命中し、車は爆散する。

 

「くっ!?」

 爆風を体全体で感じながら、ローリングで路地に飛び込む。すぐさま起き上がり、角から半身だけを晒した状態で、銃を構えている不良生徒共を撃ち、気絶させる。

「総員ッ、各個に攻撃と移動をっ!戦車の動きには要注意だぞっ!砲弾に吹き飛ばされるなよっ!?」

「「「「「了解ッ!」」」」」

 指示を飛ばし、返事が返って来る。

 

「っの野郎っ!」

 だが今はレンジャー3と早瀬が居ない。弾幕の密度はこれまでの戦闘に比べて薄い。故に連中を抑えきれないっ。反撃の銃弾が飛んで来るが、何とか路地裏に戻ってやり過ごす。全員には、事前に『倒すよりも攻撃されない事を重視しろ。最優先目標は戦車の撃破だ。そのためにまずは撃つより動け』、と伝えてあるが……。

 

「閃光弾ッ!行きますっ!」

 

 その時、大通りを挟んで、丁度向かい側の路地に居た守月が閃光弾を投擲した。咄嗟に半身を晒し、不良生徒共に向けて牽制のためにマガジン内部の弾をフルオートでばら撒く。1人は運よく頭にヒットして気絶ッ。他は頭を下げられたが、十分だ。そして俺が路地に体を戻した直後、閃光弾が爆発し、次いで目と耳をやられた不良たちの悲鳴が聞こえて来た。直後、守月が俺の居る路地に飛び込んでくる。

 

「大丈夫ですか先生ッ!」

「あぁ、なんとかなっ。しかし、やはり戦車は厄介だな」

「えぇ。彼女達も、先生がLAWを持っていると分かっているのか、積極的に先生を狙っているようで」

「流石に対戦車兵器持ちをスルーする程バカではないか」

 

 だが、逆に言えば奴らは俺と一番の脅威と認識して警戒しているだろう。銃声や砲声に混じって聞こえる連中の怒声。

「おらおらっ!どうした連邦生徒会の犬どもめぇっ!」

「戦車がいりゃお前らなんて怖くねぇぞぉっ!はっはぁっ!」

 戦車の存在もあって、士気も高いな。あれではまさに『虎の威を借りる狐』、だな。だが問題は連中が、俺たちが少ない事に気づいているかだな。

 

 路地の角から再び牽制射撃を加え、また戻る。

「同じ場所に留まっていては危険だ。路地裏を通って移動するぞ」

「了解っ!」

 例え建物を盾にしていても、戦車の砲弾では壁どころか建物まで破壊される恐れがある。そのため建物で視線を遮りつつ移動する。そんな移動中に考える。

 

 先ほどワカモは、俺たちのチームを視認していた。となると、俺たちの数と装備を把握している可能性がある。そうなれば仲間である連中に何を警戒するべきか、指示を出して居ても可笑しくはない。

 

 普通の指揮官なら、『情報より少ない敵戦力』、『対戦車兵器持ちが1人いない』、とそれらの情報から戦車を狙った奇襲や側面からの攻撃を警戒するはずだ。だが、移動した先の建物の影から連中を見ると、左右を警戒している様子が無い。そもそも、奴らはただこちらに銃をぶっ放しているだけのようだが……。それ自体が演技なのか?

 

 と、敵の作戦について考えを巡らせていた時だった。

 

「やはり戦車は厄介ですね」

 後ろをついて来ていた守月の声が聞こえて来た。

「あぁ。だからこそ最優先で仕留めたい」

「そうですね。……せめて、天羽(あもう)さんが居てくれればっ」

「天羽?そいつは誰だ?」

 不意に聞こえて来た言葉が気になり、思考を中断して思わず問い返した。

「トリニティの生徒です。自警団や正義実現委員会に属している訳ではないのですが、とても強い方で。たまに手を貸してもらう事があるんです。こんな事なら、声をかけておけば」

 苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる守月。

「そうか。だが居ない人間を頼っても仕方ない。俺たちだけで何とかするしかないさ」

 確かに状況は決して楽観できる物じゃない。だからこそこんな、たらればの話も出るのだろう。

 そう、思って居た時だった。

 

「そうですね。『降下翼兵(ウィングダイバー)』の天羽さんがいれば、等と思ってしまいました。この場にいない人を当てにしていてはダメですね」

「………は?」

 

 待て。今守月は、なんといった?ウィングダイバー?

「ちょっと待て守月、その名前は……」

 戦闘中だというのに、頭はその話題でいっぱいになっていた。なぜ守月がその名前を知っている?まさか、この世界に居るのかっ!?『()()()()()()E()D()F()()()』がっ!?しかし直後、銃弾が近くの地面に命中し、意識を戦闘へと戻す。

 

 クソッ、今の話、詳しく聞きたいが話はあとだっ!

「守月ッ!後で少し聞きたい事があるっ!」

「え?は、はいっ!」

 

 後ろ髪を引かれる思いだが、今は戦闘に集中しなければな。俺は少しだけ頭を被り振った後、脳裏に浮かぶ疑問の数々を、一旦は心の中へと押し込み、戦闘を再開した。

 

~~~~~~

 そのころ、レンジャー3とユウカは、既に防御陣地の側面に回り込んでいた。

「ミカメ先生、見えました。戦車です」

「そうか。連中の様子はどうだ?」

 建物の影から僅かに顔だけを出し、様子を伺うユウカ。幸い、不良生徒たちは2人に気づいた様子は全くない。

「あいつら、全くこっちを警戒していませんね。今もイチノセ先生たちと交戦中のようです」

「なっちゃいねぇなぁ。まぁ、おかげでこっちに気づかれてないみたいだが」

 

 そう言ってレンジャー3は念のために周囲を警戒しつつ、M16 のセイフティを掛け、適当な場所に静かに置くと、スリングで下げていたLAWを肩から降ろした。

「周辺警戒を頼むぜ早瀬」

「了解ッ」

 

 ユウカが周囲を警戒する中、LAWを使用可能なように広げる。ロックを解除し、折りたたまれていたLAWを引いて展開していく。それを横目に見ていたユウカだが……。

「そう言えば、ミカメ先生ってそれ、扱った事あるんですか?」

「ん?いや、無いぞ。似たようなのはたくさんあるけどなっ!」

「えっ!?あ、当てられるんですか……?」

 レンジャー3がLAWを展開している中で、ふと、気になった事があってユウカが問いかけてみれば、帰って来た言葉は彼女の不安をあおる物だった。思わずレンジャー3の方を向き、冷や汗を流しながら問いかけるユウカ。

 

「なぁに。言ったろ?似たようなのは何十と扱ってきたからな。何とかなるって」

不安から冷や汗を流すユウカと対照的に、自信に満ちた様子で畳まれていた照準器を起立させるレンジャー3。後は最終安全装置を解除すれば、いつでも撃てる。

 

「おしっ、後は戦車に向けてぶっ放すだけだな」

「周囲に敵影、ありません。いつでも行けますけど、ホントに大丈夫なんですか?」

「心配性だなぁ早瀬は。まっ、最悪俺がドジっても隊長が上手くフォローしてくれるってっ!」

「……ちょっと不安です」

 2本しかないLAW。しかもクルセイダーⅠ型が1本で倒しきれる保証はない。その考えに至ったユウカは心底不安そうだ。一方のレンジャー3は、自信に満ちた笑みを崩さない。

 

 もし外したら?などと考え至極不安そうなユウカと、まぁ外しても隊長が上手くフォローしてくれるか、他に戦車なんて倒す方法いくらでもあるだろ?と至極平気そうなレンジャー3。なんとも対照的な2人であった。

 

「はははっ、まぁそんなに心配すんなってっ!そんじゃ早瀬。ちょっとばかし離れてな。でないとこいつのバックブラストで吹っ飛ぶぞ?」

「り、了解です」

 

 ユウカはレンジャー3の警告を聞くと、手近な障害物の影にしゃがんで隠れた。それを確認したレンジャー3は狙いを安定させるためにその場で膝をつき、最終安全装置を解除し、LAWを肩に担ぐような態勢で構える。

 

 照準器を覗き込み、狙いを定める。彼の視線の先では、今も変わらず、不良生徒たちと戦車が、レンジャー1たちに攻撃を続けている。

 

「『おいた』が過ぎたな悪ガキども。お昼寝の時間だぜぇっ!」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、引き金を引いた直後、放たれ微かな放物線を描いて飛んでいく対戦車ロケット。そして当然、そんなものが来ると予測していなかった不良たちに、対応など出来る訳がない。

 

「え?」

 何かに気づいて、不良の誰かが呆けた声を上げた直後、そのロケットが戦車の側面に突き刺さり、爆発した。

「わぁぁぁぁっ!?!?」

「ぎゃぁぁっ!?」

 戦車の車体が大きく揺れ、更に戦車の傍にいた不良数人が、着弾の爆発によって生じた風や飛散した破片に煽られその場に倒れこんだ。更に戦車の僅かな隙間から黒煙が上がる。

  M72 LAWの成形炸薬弾頭は容易にクルセイダー巡航戦車の脇腹を食い破ったのだ。大量の煙に巻かれながら、衣類がボロボロになった不良たちが顔を出したかと思えば、そのまま戦車から落ちるように地面に倒れ、動かなくなる。

 

「な、なんだっ!?どうしたっ!?」

 突然の事に不良たちは戸惑った。戸惑い、理解が追い付かず、敵が正面に居るというのに攻撃の手を止めてしまった。それは、戦闘中における最悪と言っても良いほどの悪手であった。

 

~~~~~~

 戦闘開始から少しして。飛来したロケットが戦車の側面に命中したッ。レンジャー3の攻撃だっ!しかも突然の側面からの攻撃に、連中は戸惑い攻撃の手を止めたっ!ならばここから、更に押しこむっ!

 

「フラグを投擲するっ!」

 リグに括り付けていたグレネードの一つを取り、ピンを抜いて陣地内部目がけて投擲ッ!

「フラグッ!2個めだっ!」

 するとそれに気づいたのか数秒遅れつつも、レンジャー2が同じようにグレネードを投げる姿が横目に映る。

 

「ッ!?グレネードだっ!逃げっ!」

 手榴弾に気づいたやつが声を上げるが、遅いッ。1つ目のグレネードが起爆し、更に2個目も爆発する。

「「「「ぎゃぁぁぁっ!?!?」」」」

 爆発に巻き込まれた不良共が悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。残っている不良共は半分以下だっ!

「なんだっ!?何が起こったっ!?」「せ、戦車がやられたぁっ!?」「ハァッ!?」

「お、おいっ!早く体勢を立て直せっ!」「うるせぇお前が仕切るなっ!?」「アァッ!?」

しかも突然の事に理解が追い付いてないのか、仲間内で言い争うなどパニックを起こしかけているっ!だがこちらには好都合だっ!

 

「今だっ!畳みかけろっ!」

「「「「「了解っ!」」」」」

 

 混乱しているのならその内に叩くっ!角から飛び出し、混乱している奴らに攻撃を加えていく!

「ぎゃっ!?」「ぐあっ!!」

 次々と銃弾を食らい倒れていく不良たち。

「おらおらぁっ!さっきまでの威勢はどこいったお前らぁっ!」

 側面からレンジャー3と早瀬が合流。2方向からの集中砲火を受けた不良たちは戸惑い、まともな反撃も出来ないままバタバタと倒れていき、最終的に数分で不良共を制圧する事が出来た。

 

 

~~~~~~

「先生ッ」

「早瀬」

 制圧後、合流してきた早瀬から声が掛かった。

「よくやってくれた、レンジャー3。早瀬。お前たちのおかげで戦車を撃破。そして不良共を倒す事が出来た」

「へっ!これくらいプライマーどもの相手に比べりゃ、楽勝だぜっ!」

 そう言って笑みを浮かべるレンジャー3。

「そうだな。しかし笑うのは良いが、まだ油断するなよ。先ほどの戦闘、狐坂ワカモが居なかった」

「そう言えばそうですね」

 そこに、更に集まって来たレンジャー2や羽川たち。思い出したように声を漏らすレンジャー4。

 

「逃げた、のでしょうか?」

「いや。恐らくシャーレビル内部に侵入している可能性がある」

 守月の言葉を俺は首を振って否定し、ビルの方に目を向けた。

「奴はここに最重要物品がある事を知っていると思われる。となれば奴の目的はそれの破壊か奪取だ。そのためにビル内部に侵入している可能性がある」

「では、今から内部の制圧を?」

「あぁ」

 羽川の言葉に頷きつつも、視線を倒れている不良たちに向ける。

 

「だが、流石に全員では行かん。中に入るのは俺たちレンジャーチームだけだ。早瀬たち4人には出入口でもある正面入り口周囲の警戒と防衛に当たってもらいたい。万が一狐坂ワカモが予備の戦力を残していて、そいつらが攻めてこないとも限らないからな。頼めるか?」

「任せてくださいっ、しっかり守りますよ」

「はい、お任せください」

 早瀬が笑みを浮かべながら頷き、羽川も静かに頷く。

「ここは我々にお任せください、先生」

「どうかお気をつけて、先生」

 守月もやる気十分と言った様子で、火宮は俺たちを心配してくれている様子だ。

「あぁ、とにかく。ここを頼むぞ」

「「「「はいっ」」」」

 4人の返事に、もう一度静かに頷き返す。っと。そうだ。突入前に七神に通信を入れておかなければな。

 

~~~~~~

 俺は端末を取り出し七神に通信を繋いでいた。

「七神。こちらレンジャー1。シャーレ部室ビル正面の広場を制圧した」

≪お疲れ様です、先生。今私もそちらに向かっています≫

「分かった。では、俺たちはこれからビル内部に侵入する。それと、先ほどまでの戦闘で狐坂の姿を確認できなかった。恐らく、目標の破壊か奪取のためにビル内部にいる可能性がある。俺たちはこれから入り口の防衛を早瀬たち4人に任せて内部へ突入。最短ルートで地下へ向かい目標物品の回収を最優先に動く。狐坂に気取られない為に、今後一時的に通信を遮断する。構わないか?」

≪分かりました。どうか、お気をつけて≫

「あぁ。行ってくる。通信終了」

 

 通話を終え、端末をポーチに戻す。

 

「よぉしっ!行くぞお前たちっ!俺たち4人はこれから最短で地下室を目指すっ!フォーメーションや室内戦闘訓練は覚えているか?」

「そんなのが役に立たない化け物ばかり相手にしてたから、怪しいっすねぇ」

 その言葉にレンジャー2と4が苦笑する。

「なら死ぬ気で思い出せよレンジャー3。プライマーの化け物どもは倒したってのに、自分の娘位の歳の少女に負けたとあったら情けないからなっ」

「わ~ってますよ隊長ッ!それよりさっさと行きましょうやっ!」

「それもそうだなっ。よしっ!突入開始ッ!」

「「「了解ッ!」」」

 

 俺たちはM16を構え、シャーレのビル内部に侵入を開始した。

 

~~~~~~

 電力が来ていないのか、ビルの内部は全体的に薄暗い。窓からの日の光と、僅かに光るライトのみが室内を照らしていた。この暗さでは、トラップがあっても気づきにくいな。あのワカモにそれらを設置するスキルがあるかどうか分からない以上、あると思って動くべきだな。

 

「トラップを警戒しつつ前進」

「「「了解」」」

 小さく手短に指示を出し、返事も同じように小さく短い。俺たちは銃を構えながら移動を開始した。

 

 側面や後ろ、果ては頭上からの奇襲を警戒しつつ進む。曲がり角では慎重に半身を晒しながら通路の先を確認。地下へ続く階段のドアは、慎重に少しだけ引いて、トラップ用のワイヤーなどが無いことを確認してからドアを開く。階段も、上と下の両方を警戒しつつ降りていく。

 

 そして、部屋までもう少し、という所で。何か聞こえたっ。無言で左手を、握りこぶしのまま掲げる。『止まれ』のハンドサインだ。

 

 そこから更に人差し指と中指を揃えて立てる。EDF式のハンドサインで『要警戒』、つまり『気を付けろ』、『敵が居そうだ』、という類の意味になる。それに対する答えとして、後ろにいたレンジャー2が俺の肩を軽く掴んだ。了解、という意味だ。

 

 そこから無言で、更に奥へと進んでいく。そして、地下の部屋の入口まで来た。部屋の構造自体は、入り口から更に階段で下に下る物になっていた。階段で更に下った部屋には、謎のモノリスや執務机などがある。が、重要なのはそこじゃない。

 

「う~ん?これが一体何なのか、全く分かりませんね?これでは壊そうにも……」

 

 狐坂ワカモがそこにいた。そして彼女はタブレットらしい端末を手にしていた。まさかあれが目標か?だとしたら壊される訳には行かんっ!行くかっ!

 

「そこまでだっ!狐坂ワカモッ!」

「ッ!」

 

 俺の怒声にワカモは即座に反応したっ。タブレットを捨て、左手に持っていた銃を即座に持ち替えながら振り返る。対する俺たちも階段を降り切った地点や階段の上などに別れて立ち、銃口をワカモに向けている。その状況でしばし沈黙が続く。

 

「……そのタブレットをこちらに渡してもらおう。それは俺たちに必要な物だ」

「……。嫌だ、と申したら?」

 そう言ってワカモはわざとらしく銃を小さく揺らす。

 

「悪いが、そいつは今のキヴォトスを救うために必要な物らしくてな。……力づくでも返してもらうッ」

 

 威嚇するように語気を強め、M16を構えながら、すり足でワカモの方へと歩みを進める。

「あらあら、そうですか。……ですが、私としてもはいそうですか、と言ってこれを渡、す、ほ、ど……」

 

 いつでも動けるようにと、目をしっかりと開き、彼女の一挙手一投足を見逃すまいと最大限の注意を払っていた時。彼女の言葉が途切れた。何だ?と内心思いつつも銃口の狙いは外さない。

「あら?あらあらあら?」

 何やら、彼女は戸惑った様子だ。何だ?何に戸惑った?分からない。

「あ、あぁ」

もしかして、俺たちの油断を誘う何かしらの演技、か?とにかく油断は出来んな。

 

「……し」

「ん?」

「しし、失礼いたしましたァァッ!」

 なっ!?こいつ、逃げ出したぞっ!

「ッ!?待てっ!」

 咄嗟にレンジャー4の持つM16の銃口がワカモを追いかけるが、彼女は俺たちが入って来たのとは別の出入り口に飛び込み、そのまま、文字通り『脱兎の如く』逃げた。

 

「「「「……」」」」

 突然のことに、俺たち4人の理解が追い付かない。なぜだ?なぜワカモは逃げた?つい先ほどまで、タブレットは渡さんと言わんばかりの状況だったのに?

 

「これは、どうしますか?隊長?」

「ッ、あ、あぁ。そうだな」

 その時、レンジャー2に声をかけられて俺は我に返った。我に返って、小さく頭を被り振って、意識を戻す。

 

 落ち着け、俺。今の俺たちの任務は、最重要物品の回収だ。そしてそれは、先ほどワカモが置いて行った。俺は、M16にセイフティを掛けると、床に落ちていたタブレットを屈んで拾い上げた。

 

「幸い。目標は確保できた。狐坂ワカモは逃がしたが、彼女の逮捕は今の俺たちの仕事ではない。今は放置で良いだろう」

「了解」

「それにしても、何だったんでしょうね?さっきのあの変わり様」

「ほんの1秒前までやり合う気満々、って感じだったのによ。急に逃げ出したよな、あいつ」

 レンジャー2が頷く傍で、首をかしげているレンジャー4とレンジャー3。

「とにかく。七神に連絡する」

 そう言って俺は端末を取り出し、七神に通信を繋げた。

 

 

~~~~~~

 一方そのころ、ビルの外ではユウカ達が不良たちを、近くのコンビニ内部から見つけて来たガムテープでぐるぐる巻きにして拘束していた。そんな中で。

 

「プライマー」

 ユウカは、レンジャー3とレンジャー1の会話から聞こえて来た単語について、考えを巡らせていた。

 

『プライマーって何だろ?聞いた事無い名前だし。でも文脈からして先生たちが戦っていた相手なのは間違いないみたいだけど。ミカメ先生は、プライマーを相手にするより楽だって言ってた。それに、突入前にプライマーの『化け物』とも言ってたような?』

「早瀬さん?大丈夫ですか?」

「ふぇっ!?な、何ッ?」

 

 考え込んでいたユウカが気になり、思わず声をかけたスズミ。

「あぁ、えっと。何やら随分考え込んでいた様子でしたので、大丈夫かなと思いまして。何かありましたか?」

「あぁえっと、ちょっと考え事してただけですよ」

『あっ。もしかしたら他校の人たちなら、何か知ってるかも』

 そう思ったユウカは、素直に聞いてみる事にした。

 

「すみません。皆さんは『プライマー』と言う言葉を聞いた事はありますか?」

「プライマー?いえ。私は存じませんが?」

「私もです。羽川先輩は?」

「残念ながら私もです」

 ユウカの言葉にチナツも、スズミとハスミも首を傾げた。

 

「その名前がどうかされたのですか?」

「先生たちの会話の中で出て来た単語みたいなんだけど。どうも話の内容からして、そのプライマーって言うのが先生たちが戦った敵みたいで」

「成程。しかし残念ながら、私達は聞いた事も無い名前ですね」

 

 ユウカの言葉に頷きつつも、ハスミはプライマーの名前を知らないと言った。他の二人、スズミとチナツも同じだ。

「そうですか。……どんな敵なのかな、プライマーって」

 

 ユウカは気になった。あれだけの高い戦闘能力を持つレンジャー1たちが戦った敵がどんな存在であるのか。そしてそれは他の3人も同じ。聞いてしまった以上、気になるのが人間の性という奴だ。

 

 しかし彼女達はまだ知らない。今は、まだ。

 

~~~~~~

 俺たちがタブレットを奪回し、七神にその旨を伝えてしばらくすると、七神が地下室に現れた。

「お待たせしました、先生方」

「来たか七神」

 銃を置き、適当な場所で待機していた俺たちに七神から声が掛かる。

 

「目標、というのはこのタブレットで良いのか?」

 俺は回収したタブレットを手に取り、七神に見せるようにして確認を取る。

「はい。それこそが、連邦生徒会長が残した物です。幸い、傷などは無いようですね。安心しました」

 安堵の息を漏らす七神。

 

「で、俺たちがこいつを使って、今のキヴォトスを救う。そうだな?」

「はい。それこそが、連邦生徒会長が先生方に残した物、『シッテムの箱』です」

「シッテムの、箱?」

「このタブレットがか?」

 七神の言葉にレンジャー2とレンジャー3が首をかしげる。

 

「ただのタブレットではありません。確かに見た目はタブレットそのものですが、製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みすら不明。もはやこれは、タブレットの形をした全く別の何か、なのです」

「ふぅむ」

 

 手元のタブレットを見つめながら声を漏らす。見た目は誰もが言う通り普通のタブレットだが。……まぁ今は気にしても始まらないか。それよりも今はキヴォトスを救う事が優先だ。

 

「で、こいつをどう使えば、今のキヴォトスの問題を解決できるんだ?」

「連邦生徒会長からお聞きした話ですが、これはもともと先生の物で、これがあればサンクトゥムタワーの制御権を回復させられるはずだ、とおっしゃっていました」

「何?これが俺たちのものだと?」

「はい」

 

 知らんぞ。俺はこんな物。念のため他の3人に視線を向けてみるが、全員首を横に振るばかりだ。

「我々では起動すら出来なかったものです。ですが先生ならば、きっと」

「……俺も、こいつを見るのは今が初めてなんだがなぁ」

 俺の言葉の後ろの3人の頷く声が聞こえてくる。

 

「ともかく。私が出来るのはここまでです。邪魔にならないよう、一度離れます」

「……あぁ、分かった」

 

 そう言って一度地下の部屋を出ていく七神。

「で、どうするんすか隊長。これを使えったって、俺たちこの何とかって箱を見るの、今日が初めてなんだぜ?」

「分かっているさレンジャー3。だが、使えなければキヴォトスは終わりだ」

「とにかく、電源を立ち上げてみましょう」

「そうだな」

 

 レンジャー2の言葉に促されるまま、とにかくスイッチ類を探して弄り、何とか起動に成功した。

 

≪connecting to Crate of shittim≫

≪システム接続パスワードをご入力ください≫

 

 画面が点灯し、その文章が表示されるが……。

「パスワード?」

 横から画面をのぞき込んでいたレンジャー4が首をかしげる。俺も首を傾げたい気分だ。パスワードなど知らんぞ俺は。………いや、可笑しい。何だ?この、頭の中に勝手に浮かんでくる文字列は?

 

 分からない。分からないが、何故か本能が『これを入力しろ』と訴えているようだ。正直、訳が分からんが、それでもやるしかない。……入れてみるか。

 

「≪我々は望む、七つの嘆きを≫」

「隊長?」

「≪我々は覚えている、ジェリコの古則を≫」

 

 レンジャー2の声が聞こえるが、それを半ば無視しつつ、脳裏に浮かぶ単語を入力する。

すると……。

 

≪接続パスワード承認≫

「嘘だろっ!?入ったっ!?」

「パスワードを知っていたんですか隊長ッ!?」

「い、いや。ただ、脳裏に浮かんだのを入れただけなんだが……」

 

 驚くレンジャー3とレンジャー4だが、正直俺が一番驚いていた。ただ浮かんだ文字を入力しただけのはずなのに、まさかそれが正解だったとは。

 

≪現在の接続者情報はイチノセ、確認できました。シッテムの箱へようこそ、イチノセ先生≫

 無事に起動できたか。とりあえず起動できた事を安堵するべきか。

「ふぅ」

 そう思うと、小さく息をつく。

 

≪生態認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します≫

「ん?」

 

 更に続けて文章が表示されたかと思った次の瞬間、画面が切り替わった。見ると、青い空の下。所々壊れた教室で、机に突っ伏ししている青い髪の少女がいた。スピーカーから、彼女の寝息が聞こえる。

 

「こいつぁ」

「これが、システム?」

「女の子じゃないのか?」

 皆、俺の脇から画面を見つめ驚いた様子だ。まぁ、俺も同じだ。オペレートシステムと言って謎の風景が映し出されているのだ。驚きもしよう。

 

「本当にここは、分からない事だらけだなぁ」

 プライマーとの戦争中だって、分からない事は多かったが、今の状況も負けず劣らず、分からない事だらけな気がするなぁ。

「ふぅ」

 そう思うと、小さくため息が漏れた。……とりあえず。

 

「どうやってこいつを起こすかなぁ?」

 そんなことを考えながら、俺はタブレット、もといシッテムの箱の画面に映った謎の少女を見つめるのだった。

 

 

     第4話 END




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