ブルーアーカイブ~~キヴォトスに舞い降りる嵐≪ストーム≫~~   作:ジョージ

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お待たせしました。楽しんでいただければ幸いです。


第5話 シャーレという仕事

~~~~~~

 シャーレのビルを奪回するため、戦車を撃破し、ビル内部へと侵入。目標のタブレットである『シッテムの箱』と呼ばれるアイテムも、無事ワカモから回収する事が出来た。そしてシッテムの箱を起動してみたところ、画面に浮かび上がったのは、一人の少女だった。

 

 

~~~~~~

「くぅぅぅぅ……Zzzz」

 今、タブレットのモニターに映っているのは、壊れかけの教室だ。そしてその教室にある机の一つに、少女が突っ伏した姿勢で眠っていた。薄い水色の髪に白いリボンが特徴的な少女、だが……。

 

「この少女は、一体?」

「さっき、メインオペレートシステムを変換とか言ってませんでした?」

「じゃあこのガキがそのメインオペレートシステムだってのか?どう見ても小学生のガキだぞ?」

 タブレットを見つめながらワイワイと3人が意見を交わしている。

 

「まぁ待て。とりあえず、彼女を起こしてみよう」

 俺は『カステラにはぁ、いちごミルクより、バナナミルクの方がぁ』、などと呟いている彼女に目を向けた。

 

「おい、起きてくれ。おいっ」

「ん、むにゃぁ。えへっ、まだたくさんありますよぉ」

「おいっ、おい……ッ!」

 声をかけ、少しずつボリュームを上げつつ、指先で試しに画面をタッチしてみる。

「うにゃぁ、まだですよぉ。しっかり噛まないとぉ」

 

「だ~めだこりゃ。完全に寝てやがる」

「う~ん。いっそ耳元で銃声でも鳴らしてみます?」

「ここ室内ですよ。銃撃って大丈夫ですか?」

「待て待て。もう少し様子を見る」

 

 レンジャー3達が何やら物騒なことを言い出したので止めつつ、更に彼女に声をかけたり、指先で彼女の頭の辺りをつつく。彼女はしばらく寝言を繰り返していたが……。

 

「むにゃ。……んもう」

 しばらくして、ようやく彼女は起きたようだ。椅子から立ち上がる。が、その眼はまだ半開きと言った感じで寝ぼけているようにも見える。

 

「……ありゃ?」

 しかし彼女の視線と俺たちの視線が交わると、彼女はゆっくりと目を見開く。

「ありゃ?ありゃりゃ?……え?あれ?あれれ?」

 次第に頬を赤らめていく少女。どうやら目は覚めたようだな。

 

「せ、先生?!この空間に入って来たという事は、ま、ま、まさかイチノセ先生!?」

 ッ。こいつ、どうして自己紹介していない俺の名前を?

「それに周りにいるのって、ニノミヤ先生に、ミカメ先生とシヤナギ先生ですよねっ!?」

「ッ、君はどうして、俺たちの名前を?」

「それはもちろんっ!私は先生たちの秘書ですからっ!」

 

 レンジャー2の問いかけに謎の少女が答える。が、秘書だと?

「君は一体……?」

「あっ!すみません、自己紹介がまだでしたねっ!」

 レンジャー4の言葉に彼女はハッとした表情を浮かべる。

「私の名前は『アロナ』。このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者でありメインOSであり、そして先ほどもお伝えした通り先生方をサポートする秘書ですっ!」

「秘書?」

「秘書ねぇ」

 アロナの言葉にレンジャー4とレンジャー3は怪訝そうな表情を浮かべている。まぁ、あんなふうに居眠りしている所を見てしまったらなぁ。それにそもそも、彼女自身見た目は中学生かそこらの少女だ。秘書、と言われても信じられない、というのが本音だ。

 

 とは言えそのことは口に出さないでおこう。

「やっと会う事ができましたっ!私はここで先生たちをずっと、ずーっと待ってましたっ!」

「その割には、さっき滅茶苦茶寝てたけどな」

「あぅぅ」

 レンジャー3の言葉に恥ずかしいのか顔を赤く染めるアロナ。

 

「そう言ってやるなレンジャー3。ともかくアロナ。改めてよろしく頼む」

「はいっ!よろしくお願いしますっ!」

「あぁ、よろしく。……っと、そうだ。そういえばこのシッテムの箱を起動した時、生態認証がどうの、とシステム音声が言っていたが、何かしなければならない事があるのか?」

「はい。言うなれば利用者登録みたいなものですね。まぁ、このシッテムの箱は先生たち以外に使う事は出来ないのですが、念には念を入れて、ですっ!」

「成程。で、その登録のやり方は?どうすれば良い?」

「えっとですね。ちょっとだけ恥ずかしいんですけど……」

 

 アロナは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、そう言いつつモニターにピトッと自分の右手人差し指を触れさせた。

 

「さぁ、私の指に先生の指をあてて下さい」

「指を?分かった、少し待ってくれ」

 そんな事で良いのか?と思いつつも、グローブを外し、とりあえず右手人差し指を画面に触れさせた。

 

「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

「それもそうだが。……本当にこんな事で良いのか?」

「はい。これで生体情報の指紋を確認するんです」

「ふむ」

「画面に残った指紋を目視で確認するのですが、すぐ終わります!こう見えて目は良いのでっ!」

「そ、そうか」

 

 彼女は自信満々にそう語っていたが、直後。画面を見つめる目が少し険しいような。おいおい、『う~ん』とか言って唸ってないか?……本当に大丈夫なんだろうか?

 正直、幸先不安というか何というか。アロナ自身は悪い子では無さそうだが。ちょっとばかり、不安であった。

 

「はい。これでイチノセ先生の登録は完了ですが、他の先生方の登録はどうされますか?」

「どうするって、どうするお前たち?」

 考えていなかったな。なので、とりあえずレンジャー2達に問いかける。

「そうですね。……アロナ、一つ聞きたいんだが、その登録は後でも出来るのかな?」

「はい。数分もあれば皆さんの登録は、いつでもできますよ?」

 レンジャー2の言葉に画面の中のアロナが元気よく頷く。

 

「であれば、今すぐ急いで登録する必要は無いでしょう。下手に登録者を増やしても、後で誰が持つのかで揉めたりしかねませんし。とりあえず大尉だけ登録すれば良いのではないですか?」

「俺もそれに賛成だな。そのなんちゃらの箱は隊長に任せますよ」

「自分も2人と同意見です」

 

 こいつら。適当な事を言って俺にシッテムの箱、もといアロナをぶん投げたな?だがまぁ、仕方ないか。

 

「分かった。と、そういう訳だ。アロナ。とりあえず今登録するのは俺だけで良い」

「分かりました」

「っと、そうだ。実はアロナにやってもらいたい事があるんだが……」

「はい?」

 

 俺は小首をかしげるアロナに、簡潔に事情を説明した。現在連邦生徒会長が失踪しており、サンクトゥムタワーが機能不全を起こしてしまっている事。その結果キヴォトス全体が混乱に陥っている事。連邦生徒会の生徒から、このシッテムの箱を使えばその問題を解決できると聞かされた事などを伝えた。

 

「成程。それで先生たちは私の所に来た、という訳ですね」

「あぁ。と、そうだアロナ。お前は連邦生徒会長について何か知らないか?」

「残念ながら、先生たちの知りたい事までは分かりませんね」

 念のために問いかけて来たが、アロナは申し訳なさそうに首を横に振るばかりだ。

「私もキヴォトスの情報の多くは知っているのですが、連邦生徒会長については殆ど情報が無くて。彼女が何者なのか。どうしていなくなったのかも」

「そうか」

「すみません。あまりお力になれなくて」

 そう言ってシュンとした表情を浮かべるアロナ。いかんな、フォロー、しておくか。

 

「そう気にするなアロナ。俺たちとしても知っていれば聞きたかったくらいだ。それに、今は連邦生徒会長より重要な事がある」

「サンクトゥムタワーの件、ですね?」

「そうだ。頼めるか?アロナ」

「はいっ!私にお任せくださいっ!」

 彼女は自信満々に頷いた。

 

「では、頼むぞ」

「はいっ!では、アクセス権の修復を行いますっ!少々お待ちくださいっ!」

 

 そう言ってアロナは画面外のどこかへと行ってしまった。それからしばらくすると。

『パッ!』

 保安灯だけで薄暗かった地下室の明かりが付いた。

「おっ?明るくなったな」

「電力が復旧したのか?」

 天井を見上げるレンジャー3とレンジャー2。

 

「お待たせしましたっ。サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了。タワーの制御権を無事に回収できましたっ。今、タワーはこの私、アロナの統制下にありますっ」

「そうかっ。よくやってくれた、アロナッ」

 俺は彼女を褒め、人差し指で画面越しに彼女の頭を撫でた。

「えへへ~♪……って、そうだっ!今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然ですっ!先生が承認して下されば、タワーの制御権を連邦生徒会に移管できますが、どうされますか?連邦生徒会に権限を委譲して、大丈夫でしょうか?」

 

「ん?何か不安な事でもあるのか?」

「不安。……そうですね。連邦生徒会はこのキヴォトスを取り仕切る組織でもありますから、大きな権限を与えられています。ですが、一つの組織に権力が集まり過ぎてしまうと、その組織が腐敗してしまった場合、外から止める手立てがありません」

 俺の問いかけにアロナは真剣な表情で答えた。……アロナに対する評価を改めた方がよさそうだが。しかし……。

「確かに。アロナの言い分にも一理あるが……」

「しかし大尉。自分たちの今の任務はあくまでもタワーの制御権の回復です。如何にシッテムの箱を操作できる我々であり、捜査権限を持つ連邦捜査部に属しているからと言っても、そこに口出しするのは些か越権行為のような気がしますが?」

「そうだなぁ」

 

 レンジャー2の言葉も最もだ。今回の俺たちの任務はあくまでもキヴォトスを救うため、タワーの行政権を回復させる事だ。アロナの言い分も分かる。大きな力を持った組織が内部から腐敗してしまっては、外から止める事は難しくなるだろう。

 

 だが、レンジャー2の言うように、俺たちはあくまでも連邦生徒会に雇われた『先生』だ。その俺たちが『雇う側』である連邦生徒会に極秘で何かをする、というのは越権行為だと言われても仕方ない。

 

 しかしなぁ。アロナの言い分も一理ある。うぅむ。俺はしばし悩む事になった。他の3人もアロナも、俺の意見待ちのようだ。……よしっ。

 

「アロナ。連邦生徒会にタワーの制御権を移譲しろ。ただし、非常時に制御権にアクセスできるよう、『秘密の裏口』を仕掛けておいてくれ。出来そうか?」

「もちろんですっ!お任せくださいっ!」

 ビシッと画面の中のアロナが敬礼をする。

「よろしいんですか?大尉」

 レンジャー4が真剣な表情で問いかけてくる。

 

「念のため、という奴だ。確かに俺たちの立場から考えれば越権行為だろう。だがアロナの言い分にも一理ある。万が一連邦生徒会の権限が悪意ある誰かに利用されてしまうような事になれば、止めるのは容易ではない。秘密の裏口はその万が一が起きた場合に備えての安全装置のようなものだ。使わなければそれに越した事は無い」

「……七神辺りにバレたら、大目玉じゃ済まないんじゃないですか?」

 不安そうに語るレンジャー4。

 

「その時はその時だ。バレたら俺の独断でバックドアを仕掛けた、という事にすればいい」

「それは、大尉1人で責任を被ると?」

「そうだ。これは俺が決め、俺がアロナに指示を出してした事だ。責任は俺一人で取る。それに、そもそもな話、仕掛けをしたとしても使う機会が無ければそれでいい。使わなければ後でバックドアを消去して、その事実を俺たちが墓場まで持っていけばいいだけの話だ」

「しょうがねぇ。隊長が決めたなら俺たちは従うっすよ。いざとなったら、4人で並んで七神に土下座だな」

「良い歳した大の大人の兵士が、それも4人並んで少女に土下座か。大分シュールな絵面になりそうだ」

 

 俺の言葉にレンジャー3とレンジャー2が苦笑を浮かべている。こいつらは、いざとなれば自分たちも一緒に責任を取る、と言ってくれているのだ。

「は~。大尉がやるって言ってるのに、部下の俺が何言っても意味ないじゃないですか。もうこうなったら自分も付いて行きますよ。プライマーどもと殺し合いするよりは楽でしょうし」

 レンジャー4もため息交じりに、諦めた様子で呟く。なんだかんだ言っても、あの戦争を共に生き抜いてきたからな。俺たちの絆は固いと自負している。

「すまん。まぁ、バレないように祈っててくれ」

 そんな俺の言葉に3人がはははっ、と小さく笑う。

 

「さて。そういう訳だアロナ。頼めるか?」

「はいっ!秘密の裏口を密かに設置しつつ、権限自体は生徒会に移譲、という事でよろしいですかっ?」

「あぁ。それで構わない。やってくれ」

「了解ですっ!これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管しますっ」

 

~~~~~~

 その後、俺たちは七神に声をかけて戻ってきてもらった。しばらくすると、彼女の端末に通信が入った。

「はい。こちら七神。………えぇ、そう。それは良かった」

 そう呟く彼女の口元は、安堵の微笑みが零れていた。どうやら無事に連邦生徒会に権限を移管できたようだ。

 

「おまたせしました。先ほど、タワーの制御権が連邦生徒会に譲渡された事が確認できました」

「そうか。ならば俺たちの今回のミッションは無事完了、という事だな」

「はい。これで行政管理も可能となります。改めて、キヴォトスの混乱を止めていただいた事。連邦生徒会を代表して感謝の言葉を送らせてください。ありがとうございます」

「そうか。まぁ、赴任先が1日で潰れられては困るからな」

 

 そう言って俺が笑みを浮かべていると、レンジャー4が『そう言えば』と言わんばかりの表情を浮かべた。

「そうだ七神。確認なのだが、俺たち4人は今後、連邦捜査部シャーレの顧問、という事になるんだよな?」

「はい。その通りです」

「ここに来る前の説明で、各学区での戦闘やら生徒を加入させられる話は聞いていたが、具体的に俺たちは何をすればいいんだ?」

 っと。そうだった。戦闘があったりで忘れていたが、確かに俺たちがシャーレの顧問として何をするべきか、まだ聞いていなかったな。

「そういや確かにその辺りの事、まだ聞いて無かったな」

「そうですね」

 レンジャー3とレンジャー2も思い出したように声を上げている。

 

「そうでした。その辺りの説明がまだでしたね。では、このシャーレの部室となるビルを案内しつつ、その辺りの説明をさせていただきたいと思います。どうぞこちらへ」

 

 そう言って歩き出した七神に俺たちは続く。歩きながら、色々と説明を聞いた。どうやらこのビル全体がシャーレの物であるらしく、仕事場を始め、居住スペースや射撃訓練場、格納庫などもあるらしい。

「まるである種の基地ですね」

 レンジャー4がポツリと呟き、俺たちは確かに、と頷く。

 

「到着いたしました。こちらが、シャーレのメインロビーとなります」

 たどり着いた場所の壁には、張り紙で『空き教室。近々始業予定』と書かれた物が張られていた。

 

「長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎える事になりましたね」

 感慨深そうに呟きながら七神はその張り紙を剥がし、ドアを開けて俺たちを中へと促す。

 

 中に入り、部屋の中を見回す。ガンラックなどが目に付くが、それ以外は至って普通の、オフィスビルの一角にある部屋、と言った感じだ。

 

「ここがシャーレの部室となります。言わば、先生方の仕事部屋、ですね」

「仕事部屋、ねぇ。しかし俺たちは一体何をやればいいんだ?」

「それについて、なのですが」

 レンジャー3の問いかけに七神が答える。

 

「シャーレは、権限だけはありますが、逆に目標の無い組織でもあります。ですので、何かをしなければならない、と言った強制力もありません」

「そうなのか?捜査部、という名前からして各学区の垣根を越えて捜査が出来る、ある種の警察機構なのでは?と思って居たのだが」

「正しく。イチノセ先生のご指摘通りでした。捜査部、と呼ばれてはいますが、その辺りについて、連邦生徒会長も特に触れられていませんでした」

「成程。しかしそうなると、俺たちは一体何をすればいい?連邦生徒会長が行方不明の今、シャーレ設立の明確な理由を知る者は、誰も居ないのだろう?」

「はい。我々も、連邦生徒会長の捜索に全力を挙げていますが、連邦生徒会として行政管理も行わなければならず、捜索に割ける人員は決して多くはありません。ですが、それでもキヴォトス中から上がる問題の対処に追い付いていないのも事実なのです」

「……人員不足、と言った所か」

「はい。何分、数千の学園が集まって出来ているのがキヴォトスですから。上がって来る問題も千差万別で数も多く。とても手が足りていないのが現状です」

「世知辛いなぁ」

 七神の言葉にレンジャー3が言葉をこぼす。

 

「支援物資の要請や環境改善、部活動の支援などなど。そういった苦情が今も届き続けているのが現状です」

 そう言ってため息をつく七神だが、次いで彼女はどこか悪い笑みを浮かべた。

 

「ですが、時間が有り余っているシャーレなら、この数々の問題を、解決できるかもしれません」

「成程。つまり俺たちはキヴォトス各地の問題を解決する、言わば『万屋』か『便利屋』みたいな物、か?」

「そう取っていただいても構いません。何分、猫の手も借りたいほどの忙しさですから」

 ハァ。つまりは体のいい労働力、という訳か。……まぁ、プライマーどもと命がけの殺し合いをするよりはマシ、か?

 

「分かった。とりあえず、しばらくはその苦情とやらの処理をしていればいいんだな?」

「はい。後ほど、それらに関する書類をこちらに送らせていただきます。ですが、今日はもうお休みください。キヴォトスに来たばかりで戦闘をなされたのです。本格的な業務は明日以降で構いません」

「分かった。そうさせてもらおう」

 

 プライマーのアンドロイドやクルールと戦う事に比べれば、今回の戦闘は比較的楽だった。だがそれでも戦闘は戦闘だ。戦闘中は高い集中力が求められるし行軍も戦闘も、体力を消耗する。程度の違いはあれど疲れるのは同じだ。

 

「そうそう。あと、いくつか先生方に渡す物がありました。少々お待ちください」

 そう言ってどこかへ行く七神。少しして彼女は、トランクケースを手に戻って来た。

 

 それをテーブルの上に置き、開ける七神。

「こちらを。イチノセ先生にお渡ししたのと同型の通信端末です。ニノミヤ先生がたもこちらをお使いください。詳しい機能などについては、端末内部にマニュアルのアプリがありますので、そちらのご確認をお願いします」

「助かる」

「んじゃ、ありがたく」

「分かった」

 

 三者三葉の返事をしつつ、端末を受け取る。

「それと、こちらを」

「ん?これは?」

 七神は更に懐から茶封筒を取り出し、差し出してきたので受け取った。

 

「当面の軍資金、と言った所ですね。念のため、先生方4人の端末には決済アプリが入っており、このアプリは先生方の給与が振り込まれる口座と繋がっています。そしてその口座にも、今回の部室ビル奪還の報酬、という形で既にある程度はお金が振り込まれています。当面の生活はこれで大丈夫でしょう」

「そうか。助かるよ七神」

「はい。では、私は一度これで失礼いたします。行政管理機能が回復したとはいえ、やる事は山積みですから。何かありましたら、その端末でご連絡下さい。或いは、こちらからの連絡が届く事もありますので、その時はよろしくお願いいたします」

「分かった」

「では、私はこれで」

 七神は、そう言って一礼をすると部屋を出ていった。

 

「さぁて。これでとりあえず今日の仕事は終わりかな?」

「いいや。まだだぞレンジャー3。早瀬たちを外で待たせたままだ」

 ドカッとソファに腰を下ろすレンジャー3に声をかける。

 

「彼女達には世話になったし、挨拶と。それに気になる事もあってな。守月と話がある」

「気になる事、ですか?それは一体?」

「折角だからお前たちも付いてこい。恐らく、驚くぞ?」

「「「???」」」

 俺の言葉に3人はハテナマークを浮かべるばかりだ。

 

~~~~~~

 その後、俺たち4人はビルの入り口付近へ向かった。ちょうどそこでは、早瀬たち4人がそれぞれ端末を取り出し、どこかへと電話をしていた。

「えぇ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻した事を確認したわ」

 話の内容からして、それぞれの学園への報告をしている所だろう。俺たち4人が近づくと、早瀬たちはそれに気づいて一礼しつつも、会話を続ける。

 

 少しして。

「お疲れ様でした、先生」

「あぁ。早瀬、羽川、守月、火宮。お前たちにも世話になった。ありがとう」

 そう言って俺は、彼女達に敬礼をする。後ろのレンジャー2たちも、それに倣う。

 

「こ、こちらこそっ!先生のお役に立てて良かったですっ!」

 そう言って慣れない敬礼を返す早瀬。羽川たちも早瀬に同意するように頷いている。

 

「本日は、先生方と一緒に戦えて光栄でした。おかげで、その力量もしかと見る事が出来ました」

「はいっ!先生たちの活躍は、きっとすぐにキヴォトスに広まると思いますよっ!」

「そうか」

 羽川の世辞に早瀬が乗っかる。名前が広がる、か。このキヴォトスで仕事をしていく以上、まずは生徒たちに俺たちの事を知ってもらわなければな。そのために名前が広がるのは、上々の滑り出しと言えるか?

 

 っと。そうだった。

「そうだ。お前たちにも俺たちシャーレの事を伝えておかないとな」

「え?シャーレの事、ですか?」

「あぁ」

 小首をかしげる火宮に頷き返す。

 

「七神曰く、シャーレには権限はあっても目的の無い組織だそうだ。捜査部、なんて大層な名前が付いているが、やる事は万屋や便利屋に近いそうだ。いわゆる『何でも屋』みたいな物だな。なので、もし何か人手が足りないとなった時にはシャーレに連絡をくれ。多少の事は手伝えると思うからな」

「分かりましたっ!」

「では、その時は連絡させていただきますね」

「先生方が手を貸してくれるとなれば、心強いです」

「いざという時は、お願いいたしますね」

 

 早瀬も、羽川も、守月も、火宮も、笑みを浮かべながら頷いている。なんだかんだで一緒に戦ったからな。この4人とはある程度信頼関係を結べたのだろう。出だしとしては快調だ。

 

「っと、そうだ。先生方は『モモトーク』はやってるんですか?」

「モモトーク?なんだそれは?」

 

 不意に早瀬から聞こえて来た謎の単語。その後、彼女から話を聞くと、モモトークとはキヴォトスで普及している連絡用アプリとの事で見ると俺たちの端末にもそのモモトークが既にインストールされていた。なので、俺たち4人と早瀬ら4人で連絡先を交換した。これでいざという時、個人同士でもやり取りが出来るようになった。

 

 一応これで、早瀬たちの仕事は終わりだ。彼女達は、後は自分の学園に戻るだけなのだが。

 

「そうだ守月。先ほどの戦闘中で言った事だが……」

「あ、はいっ。なんでもお聞きしたい事があるとか?どういった内容でしょうか?」

「守月。お前はさっきの戦闘中、『ウィングダイバー』の事を口にしていたな?」

「は、はい。それが何か?」

 

「ハァッ!?なんでお前がその名前を知ってるんだよっ!?」

 首をかしげる守月。だが、次の瞬間レンジャー3の大声にビクッと体を震わせた。

 

「え?えっ?」

「落ち着けレンジャー3。守月が怯えている」

 声を荒らげたレンジャー3をレンジャー2が宥める。

「しかし、なぜ守月がウィングダイバーの名前を?」

 改めて、レンジャー4が守月に声をかける。

 

「そ、それはその。私の知人に、そう言った装備で空中を飛べる人が居るんです。名前は『天羽 フウリ』と言って、その人が名付け親なんです。『自分たちは降下翼兵、ウィングダイバーだ』って」

「あの。もしよろしければ、先生方がなぜその名前に興味があるのか、教えて頂けますか?」

 レンジャー3の声に若干怯えてしまった守月を庇うように、羽川が声を上げた。

「……実はな。俺たちはキヴォトスに来る前、とある軍隊に属していた。EDFと呼ばれたその組織には、いくつか兵科があった。俺たちみたいなのは『レンジャー』と呼ばれ、そのほかの兵科の中に女性だけで編成された物があった。それがウィングダイバーなんだ」

「「えっ!?」」

 

 俺の言葉に、守月と更に何故か早瀬が驚いている。羽川と火宮もだ。声こそ出して居ないが、目を見開き驚いているようだ。しかし、驚いているのは俺たちも同じだ。

「正直、偶然の一致という可能性も0ではない。しかしもしこの一致が偶然でなければ。守月の言う天羽フウリはEDFの元兵士か、或いはその関係者という事になる」

「えっ?で、ですが天羽さんは普通の学生です」

「そうか」

 守月の話の通りならば、その天羽という学生は、EDF兵士の関係者なのだろうか?いや、或いは……。

 

 ふと考えを巡らせていると。

「あの、もしよろしければ後日、ウィングダイバーユニットの開発者にお会いになりますか?」

 ふと早瀬がそう俺に声をかけて来た。しかし、開発者だと?

 

「開発者?どういうことだ、早瀬」

「天羽さんの装備しているウィングダイバーのユニット装備は、元々私達ミレニアムサイエンススクールの部活動の一つ、『エンジニア部』が中心になって開発した物なんです」

「ッ。そうだったのか。しかしなぜ早瀬がそのことを?」

「私はミレニアムの生徒会、セミナーの会計ですからね。部活動などに来る開発依頼などは予算申請などの関係で基本的にセミナーを通しますから、そこで見聞きしたんです」

「そうだったのか」

「もしよろしければ、先生が会いたがっている、と伝えておきますが?」

「……」

 正直、早瀬の提案は魅力的だ。ウィングダイバーの名前を持つ生徒に、その開発に関わった生徒。今思うと、その開発者も気になるな。EDFの関係者でもない限り、あのユニットを創れるとは思えん。正直会ってみたいと思った。

 

「分かった。ここは早瀬と守月に頼らせてもらおう。そのウィングダイバーの名付け親の生徒、天羽フウリと、エンジニア部の開発者に、俺が出来るだけ早く会いたがっている、と伝えておいてくれ」

「分かりました」

「はい。私からお伝えしておきますね」

 俺の言葉に早瀬と守月が頷く。

 

「っと、そうだ先生。他に何か伝言などはありますか?あればお伝えしておきますが?」

「伝言か。そうだな」

 

 ならば、伝えてもらおうとしよう。もしその生徒がEDFの関係者かその子供なら、俺たちの事を知っていても可笑しくは無い。なので。

 

「では、守月も早瀬も、相手にこう伝えてくれ。『ストーム2が会いたがっていた』、と」

「「『ストーム2』?」」

 早瀬と守月が異口同音を漏らしながら首をかしげる。

「分かるやつには分かるコードネーム、と言った所だ。そう伝えてくれればそれでいい」

「は、はぁ」

「とりあえず、分かりました」

 2人とも困惑しているな。まぁ仕方ないと言えば仕方ないか。とにかく、今はこれで良い。

 

「さて。改めて早瀬、羽川、守月、火宮。お前たちには世話になった。ありがとう」

「はい。今日はこれでお別れとなりますが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園にお立ち寄りください」

「折角ですから、お越しいただいた時には私達が案内をさせていだきます」

「あぁ。ウィングダイバーの事もあるし、各学園には顔出しをする予定だ。その時は事前に連絡をさせてもらおう」

 羽川と守月の言葉に頷きつつ答える。

 

 シャーレの先生となった以上、挨拶回りは必要だろう。ウィングダイバーの件もあるが、ひとまず各学園には顔を出しておきたい。

「では、私も本日はこれで。風紀委員会への報告がありますので失礼いたします。もしゲヘナ学園に来る事がありましたら、ぜひご連絡を。案内などをさせていただきます」

「あぁ。その時は頼むぞ、火宮」

 

「では先生。私もこれで。エンジニア部の事もありますし、日程が決まり次第、モモトークで連絡させていただきますね」

「あぁ。頼むぞ早瀬」

 

 火宮や早瀬とも言葉を交わしつつ、俺たちは去って行く彼女達を見送った。

「また機会があればな~!」

「助かったよ、ありがとう」

「何かあれば連絡してくれよな」

 レンジャー3達も各々彼女達に声をかけながら、彼女達を見送る。

 

 やがて彼女達の姿が見えなくなった段階で、俺たちはひとまずシャーレのオフィスに戻るべく歩き出した。

 

 だがそんな中で俺は考える。今の状況は、分からない事だらけだ。俺たちをここに呼んだ、とされる失踪した連邦生徒会長。結果、なぜ俺たちが呼ばれたのかも不明。そもそも死んだはずの俺たちが若返った姿でここにいる理由も不明。ウィングダイバーの名を名乗り、それを作り出した存在がいるらしいが詳細は不明。

 

 全く、分からない事ばかりだ。だが、先生という職を任された以上、やれることだけはやらせてもらおう。

 

「とはいえ、プライマーを相手にするのと、青春真っ盛りの娘どもを手伝うの。どっちが楽なんだが」

 

 まだ見ぬ生徒たちに慣れない環境、経験の無い仕事。不安の種は尽きる事無く、俺は自然と浮かんでくる苦笑を浮かべながら、レンジャー2達を追い、ビルへと戻って行った。

 

 

     第5話 END




 って事で、チュートリアルストーリーは大よそここまで、次からアビドス編、ではなくちょっと寄り道してからアビドス対策委員会編に突入していきます。
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