第1話 1000年後の戦士
レジェスター歴850年。この時代はウズクチョの英雄と評されたUがウズクチョを始めて訪れた年であった。そんな彼がウズクチョの英雄の称号を得たのは実に5年も後であったが………そこから彼が現れた事で最悪の状態となっていたウズクチョは平和な国となり、彼やその仲間が持ち込んだ技術や知識は後世の時代にも莫大な影響を与えるきっかけとなった。そしてレジェスター歴1850年。Uがウズクチョを初めて訪れてから実に1000年の時が経ったこの年。ウズクチョはとてつもない歴史を辿る事となった。これは現代の人々の想像を超える異能の少年を中心に始まった、激動の物語である………
「………という次第でありまして。この森に現れた魔物の数は実に100を超える数。ここまでに3級魔法使い3人、3級能力者2人を送り込みましたが、5人目以外は誰も帰還せず………オマケにその5人目も死に至り………最低でも2級案件と上層部が判断しました」
ある日の冬。雪が降り積もる日において、森の近くのテント内にてスーツを着た人物が、近くの椅子に腰掛けるローブ姿の水色髪の女性へ状況を説明していた。
「判断があまりにも遅くない………? これ以上死人が出るのは私としては不本意なんだけど?」
女性は呆れた様子で対応が遅い事を愚痴っていた。
「仰る通りです。しかし、ここまで被害が出てしまった事には上層部もかなり動揺しておりまして………そこで、御足労をおかけする事を承知で貴女様に任務の引き継ぎをお願いさせて頂く運びとなりました。メイル=レミール1級魔法使い様」
スーツの人物は目の前の女性、メイル=レミールの名を口にしながら、彼女へ任務の依頼がやってきた経緯を説明する。
「どうせ上層部は思ってない癖に………でも分かった。1級案件なら私が引き受けるわ。1級の魔法使いや能力者は昔から希少だし、他の御三方はどうせ別件対応中でしょう?」
メイルは呆れながらも1級案件を受けられるのが現状自分しかいない事を理解しており、その依頼を受け入れた。
「お願い致します」
スーツの人物はメイルへ頭を下げた。その後メイルはゆっくりと腰を上げ、近くに置いていた自身の杖を手にすると、テントの外へ出た。
「さて、行くわよ」
メイルはそう言うと、森の中へと入り込むのだった………
メイルが森に入ってから5分は魔物が出現しなかった。しかし、人間の物による血痕は所々で散乱しており、メイルは犠牲者の事を想像するかのように表情を歪めていた。
「(この様子だと恐らく色んな場所で任務に赴いた魔法使い達が殺されている………こんな馬鹿げた連鎖は私が終わらせないと………!)」
メイルは自身がこの悲劇を終わらせる事を決意していた。その直後、メイルは近くから別の気配を感じていた。その気配は魔法の残穢と思わしきものであり、メイルが魔力探知を行ってみると、自身の周囲には無数の魔力の残穢があった。更にその残穢がある場所には残らず何か刃物のようなもので断絶された跡が残されていた。
「(魔法の残穢………!? でもその残穢がある場所には例外なく何かで切断したような跡が残っている………いったいどういう事なの………? )」
メイルは残穢の跡から何が起きているのか理解出来ない様子を見せていた。だがその直後、メイルの周囲から草木が揺れ出し始める。
「(空気が大きく変わった。これは………)」
メイルは空気が大きく変化した事を察知し、魔力を身体から放出する。その直後、近くの草木から多数の魔物が飛び出した。だがメイルは臆する事無く魔物達の奇襲をかわし………
「………大魔法{バーニングブラスト}!!」
そのまま目の前の魔物達に対して巨大な炎を放ち、一気に蹂躙して見せた。その直後に他の魔物達数十体も現れるが………
「………大魔法{インフェルノ}!!」
メイルはバーニングブラストを上回る火力の炎を放ち、魔物達をまとめて吹き飛ばした。
「(多分これで50〜60くらいは吹き飛ばした。後は………)」
メイルは距離を取ると、残りの魔物の数を模索する。すると残った魔物の数を目にすると共に、残った魔物達の裏には大型の魔物がおり、メイルが1人で魔物を倒し続ける光景を前に痺れを切らしたのか、前へ歩き出してきた。
「(大型の魔物………まともにやり合ってもいいけど能力を持たれていたら面倒ね………)」
メイルは大型の魔物の登場を前にし、長期戦を避けたい意思を見せる。そして杖を地面へ突き刺すと、そのまま両手を組み合わせ………
「………出血大サービス。私の切り札で一気に吹き飛ばしてあげる………極大魔法{アトミックヘルフィニッシュ}!!」
メイルは自身の身体を起点に膨大な魔力を展開。これにより周囲にいた魔物達を巻き込む形で炎の結界を展開し、周囲は炎一帯の空間となった。するとその直後、空間が完成したと同時に中に巻き込まれた大型の魔物以外は身体が突如として焼き切れ初め、次々と倒れ出す。
「(極大魔法{アトミックヘルフィニッシュ}は私が得意とする炎の魔法を最大限展開する極大魔法。炎の魔法と親和性のある私の魔法なら、並の魔物や人間は入っただけで焼き切れる………!! そしてこの中なら私の炎の魔法によるバフも大きく乗っかる。つまり………)」
そして、メイルは自身の手元で炎の魔力を集束させると共に、その照準を大型の魔物へ定めると………
「拡張魔法{マスターブレイズ}!!」
彼女の両手から極大の炎の渦が放出され、魔物を軽々と燃やし、灰へと変えてしまった。その直後にメイルは極大魔法を解除する。だがメイルは極大魔法を発動した代償で酷く消耗しており、地面へ膝を着いた。
「はあっ、はあっ………(やっぱり極大魔法に拡張魔法を使った後はとてつもなく疲れるわね………)」
メイルが大きく消耗し、息を上げる様子を見せていた直後、また近くから足音が聞こえると共に、大型の魔物が出現した。
「なっ!? (もう1体の魔物!? しまった………! 身体が動かない………!!)」
メイルはこの時点で消耗しきっており動けない様子だった。思わず死を覚悟するメイルだったが、その直後魔物は突如として悲鳴を上げて大きく吹き飛ばされる。
「えっ………!?」
メイルは一瞬何が起きたか分からない様子だった。だがその直後、メイルの前にはネイビーの髪色をした少年が立っており、彼の身体からは魔力が放出され、同時に刀身が燃えている剣を所持していた。
「(剣が燃えている………!? 魔法………なの? 魔力は感じられるけど………)」
メイルは目の前の少年の技術に困惑していたが、その直後、少年が困惑した様子を見せ………
「あの………大丈夫………ですか?」
思わずメイルへ声をかけてしまった。
「えっ………!? あっ………ええ、大丈夫」
メイルは慌てつつも平静を装って杖を支えに立ち上がる。どうやら極大魔法を使った反動も落ち着いたようだ。
「助けてくれてありがとう。貴方、お名前は? 私はメイル。メイル=レミール、1級魔法使いよ」
メイルは少年に対して感謝の言葉と共に自らの素性を明かし、少年の素性を問いかける。
「………私はハルと申します。旅人として流浪の生活を過ごしております」
ハルは恭しい様子で自身の素性を語る。それを聞いたメイルは、ハルの見た目に反した礼儀正しさに驚かされていた。
「(この子………とても礼儀正しいのね………?)」
ハルの礼儀正しさにはメイルも驚いていた。
「ハル………ね。旅人って言ってたけど………何処かに住んでいるとかじゃないの?」
その直後、ハルが旅人であるという点について興味を抱いたメイルは、ハルの素性について深堀りする質問を問いかける。
「特に住居は持ち合わせておりません。こうして剣の修行と共に人生を過ごしている日陰者でございます」
ハルは自身に住処は無い事を語った。それを聞いたメイルは………
「………そう」
ハルに後ろめたい事情があっては失礼に当たると感じたのか、これ以上踏み込む真似はしなかった。
「ねぇハル。折角私を助けてくれたんですもの………何かお礼がしたいわ」
メイルはハルに対する感謝の話を再開し、彼へお礼を述べたい様子を見せた。
「ありがとうございます。しかし、私のような者がメイル様とご一緒させて頂いてもよろしいのでしょうか………?」
ハルは身分の違いを感じているのか、恐れ多い様子を見せていた。だがメイルはフッと笑いを零すと………
「良いに決まってるでしょう? それに………私に対してそんなに気を使わなくていいの。多分無理して敬語を使っているんでしょう? 私の前でくらいなら別に大丈夫だから」
そう言ってハルの回答に肯定すると共に、彼に対してもう少し柔らかい態度を取るよう要求する様子を見せた。
「流石に敬語無しでの会話は出来ませんよ………!!」
だがハルはあまりに距離が近くなっては失礼と感じていたのか、慌てた様子を見せていた。
「………それもそうよね。なら堅苦しい敬語は無しにしない? 助けてもらった身としては、恩人に距離を感じさせたくないし………ね?」
そこでメイルは自身から距離を感じさせないよう、代理の提案を行った。それを聞いたハルは………
「………分かりました。私は本来用いる一人称が違いまして………メイル様の前では本来の一人称を使わせて頂いてもよろしくでしょうか?」
自身の一人称が本来は私では無い事を語り、それを用いていいかと提案する様子を見せる。
「様付けも無し………その条件ならそれでいいわ。徐々に慣らしていく方が良いのかなと私も思ってるから」
だがメイルは自身を様付け以外で呼ぶよう条件を足してきた。これを聞いたハルは一瞬困惑したが………
「………はい、なら今後はメイル様の事は………メイルさんと呼ばせていただきます」
彼女をさん付けする事を提案する。この2人の様子を第三者が見た場合、メイルの方が保護者に見える為、ある意味妥当とも言える呼び方だ。
「うーん、私としてはもう少し馴れ馴れしくてもいいんだけど………今はそれでいいか」
メイル本人もその妥協を渋々受け入れる様子を見せたのだった………
1級魔法使いメイルと流浪の旅人ハル。この2人はこの時の戦いを契機に邂逅を果たすが、これが2人の長い関係を作るきっかけとなった事を、互いに知る由も無かったのであった………
To Be Continued………
次回予告
ハルとメイルの2人は森を脱出し、任務の完了を報告。そしてメイルは帰還の道中にて、ハルに対し自身の中で考えていたお礼の内容を明かすのだった………
次回「1級魔法使いのお礼」