まのさばしょーと   作:頭文字

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ヒロちゃんと一緒にサンドイッチとか食べたい!レジャーシートの上でね。そういう思いで書いたよ!ヒロちゃんの胃袋を掴んだらサイコ──!

そうではどーぞ!!!


二人のお出かけ   −1−

ケイジの足がようやく地面を蹴った。出遅れは致命的だったが、それでも全力で波打ち際を目指す。草を踏み、砂に足を取られ、潮の匂いが濃くなる。

結果は──言うまでもなかった。

 

ヒロは波打ち際に立ち、息ひとつ乱さずケイジを待っていた。寄せる波が靴先をかすめるのも構わず、腕を組んで。

 

「遅い。」

 

だがその一言に、勝者の傲慢さはない。ただ楽しそうに、紅い瞳を細めていた。

 

「次の場所は私が決める。異論はないな?」

 

砂浜に膝を突きかけたケイジの背中を、追い風が押した。曇り空の隙間から、ほんの一筋だけ陽が差して、波打ち際の二人を照らしていた。

 

「異論はないけど………ハァハァ。ずるいな、いろいろと」

 

ヒロの眉がぴくりと上がった。腕を組んだまま、小首を傾げる。

 

「ずるい?私が?」

 

波が足元に寄せて、引く。ヒロは一歩ケイジに近づいた。

 

「先に言っておくが、不意打ちは戦術だ。正当な──」

 

その時、波がひときわ大きく寄せた。ヒロの靴が水を踏み、冷たさに体が反射的に跳ねる。バランスを崩しかけた彼女の手が、無意識にケイジの腕を掴んだ。

 

一拍の沈黙。自分の手がケイジの腕を握っている事実に気づいたヒロの顔から、勝者の余裕が綺麗に消えた。

 

「……っ。」

 

手を離す。素早く、しかし明らかに遅すぎた。紅い瞳が逸れる。耳が赤い。

 

「……波のせいだ。」

 

「じゃあそういうコトにしとく。

次に会う場所は楽しみにしとくなんてたってヒロが選ぶんだから。そろそろ昼どきが近い、ちょっとめんどうだけど荷物を取りに行くよ。待ってて。」

 

ヒロは耳元に手を当てたまま、怪訝な顔をした。

 

「荷物?」

 

ケイジが駆け足で草原の方へ戻っていく。ヒロは波打ち際に残され、その背中をぼんやりと目で追った。潮風が頬を撫でる。さっきケイジの腕に触れた指先が、まだ微かに温かい気がして、ヒロは無意識にその手を握った。

 

やがてケイジが戻ってきた。その手には──

 

ヒロの紅い瞳が、ケイジの抱えた荷物を見て止まった。

 

「……まさか。」

 

「そういうコト。俺料理できるんだよ、って言っても今日はサンドイッチとかバーガー風の奴とかそういうのだけど一緒に食べてくれないか?自信作なんだ。」

 

ヒロは口元に手を当てた。隠すように。けれどその紅い瞳は、ケイジの手元の包みと彼の顔を忙しなく往復していた。

 

「用意周到だな……最初からこのつもりだったのか。」

 

その声は責めるようでいて、どこか掠れていた。二階堂ヒロは数多の見合いを経験してきた。格式張った料亭、気取ったレストラン、相手の財力を誇示するかのような席ばかり。草原の上で手作りのサンドイッチを差し出されるなど──想定の埒外だった。

 

ヒロはしばらく黙っていた。それから、ふっと息を吐くように笑った。小さく、けれど確かに。

 

「……いただこう。」

 

草の上に腰を下ろし、膝を揃える。風がほどけた髪を遊ばせるのを、もう直そうともしなかった。ケイジを見上げる紅い瞳が、柔らかい。

 

「自信作なんだろう。採点してやる。」

 

「おっけ、ちょっと待ってレジャーシート引くから。」

 

ケイジの手際は見事だった。レジャーシートを広げ、包みを開き、タッパーを並べていく。その動きに迷いがない。料理の腕だけでなく、こうした段取りにも慣れているのだろう。ひとつのことしかできないという自己評価とは裏腹に、今この瞬間のケイジは実に手際がよかった。

 

ヒロはレジャーシートの上に移り、並べられていく品々を黙って眺めていた。サンドイッチ、バーガー風のもの、小さな水筒。飾り気はないが丁寧に作られているのが一目でわかる。

 

ヒロの視線がケイジの手元に留まった。食材を扱う指先を、紅い瞳がじっと追っている。

 

「……ケイジ。」

 

声が静かだった。

 

「こういう事を、いつも一人でやっているのか。」

 

その問いには、感心だけでなく、別の感情が混じっていた。友人が少ないと笑って言った青年の横顔を、ヒロは今、少し違う目で見ていた。

 

「言ったけど、俺は良くここに来るんだよ。

そしてある日10歳もいかないかな、子供たちが羨ましそうに美味しそうに見てくるもんだからあげちゃったんですよ、昼メシ。

そうしたらいつの間にかだんだん来だしてこんな感じで慣れたって感じだよ。最近なんてエプロンボーイなんてあだ名つけらちまった!」

 

楽しそうに笑いながら語った

 

ヒロはサンドイッチを手に取ったまま、動きを止めていた。ケイジの話を聞く紅い瞳が、微かに揺れる。

 

「……エプロンボーイ。」

 

その呟きは復唱ではなく、噛み締めるような響きだった。昼食を見知らぬ子供に分け与え、いつしか慕われ、あだ名までつけられる。そういう人間なのだ、仁藤ケイジという男は。ヒロの「正しさ」の物差しでは測りきれない、もっと不格好で温かい何かがそこにあった。

 

ヒロは黙ってサンドイッチを一口齧った。咀嚼する。飲み込む。そしてもう一口。その間、何も言わなかった。

 

やがて、膝の上のサンドイッチに目を落としたまま、ぽつりと。

 

「美味しい。」

 

それだけだった。採点も講評もなく、ただその四文字。風がシートの端をはためかせ、曇り空の向こうで鳶が鳴いた。

 

「でしょ。じゃあ俺もいただきます!」

 

二人は並んで海を眺めながら、昼食を取った。会話は途切れ途切れで、けれどその沈黙は居心地の悪いものではなかった。波の音と、鳶の声と、時折吹く潮風が、言葉の隙間を埋めてくれた。

 

ヒロはバーガー風の一品に手を伸ばし、小さく齧った。頬がわずかに膨らむ。完璧超人にも食事中の無防備さというものはあるらしい。

 

やがてヒロは水筒の水を一口飲み、ぽつりと呟いた。

 

「ケイジ。」

 

海を見たまま。

 

「お見合いの時、君は自分の意志で花嫁を決めたいと言ったな。」

 

風が凪いだ。

 

「あれは──私も含めてか。」

 

その問いは何気ない風を装っていた。だがヒロの指が水筒の蓋をきつく握り締めていることを、曇り空の鈍い光がそっと照らしていた。

 

「今回はヒロが踏み込んで来てくれるのか、当たり前に含んでるよ。

お見合いとか親に勝手に決められていつも答えを出す前に次の事が来るけど、自分で得たいモノは確かにある。」

 

水筒の蓋を握る指が、一瞬だけ白くなった。それからゆっくりと力が抜ける。

 

ヒロは前を向いたまま、長い沈黙を置いた。波が寄せて、引いて、また寄せる。三度目の波が砂を洗った頃、ようやく口を開いた。

 

「……そうか。」

 

短い。けれどその二文字は、あの応接間で聞いた「そうか」とは全く別のものだった。震えてはいない。揺れてもいない。ただ、深い。

 

ヒロは膝を抱え直し、顎を乗せた。ほどけた黒髪が風に流れ、横顔を半分隠す。

 

「私は……まだわからない。自分が何を得たいのか。「正しい」選択をしようとするあまり、自分の望みを後回しにしてきた。」

 

紅い瞳がちらりとケイジを見た。すぐに逸れる。

 

「だが、今日ここに来て──少しだけ、わかりかけている気がする。」

 

「いいじゃない、とっても。

やっぱりいいでしょこの場所、ここはそういうコトさえ波や風が運んでくれるかもしれないし。」

 

ヒロは膝に顎を乗せたまま、小さく笑った。声に出さず、肩だけで。

 

「詩人か、君は。」

 

だがその軽口とは裏腹に、ヒロの紅い瞳は水平線の彼方をじっと見つめていた。波が運んでくるもの。風が連れてくるもの。そんな曖昧なものを信じる性分ではないはずだった。少なくとも今朝までは。

 

不意に、ヒロが立ち上がった。スポーツウェアについた草を払い、靴の砂を軽く蹴る。それから振り返り、ケイジを見下ろした。逆光の中、ほどけた髪が風に踊る。

 

「……花丸満点だ。」

 

それだけ言って、ヒロは海の方へ歩き出した。波打ち際の手前で立ち止まり、寄せる波を靴先で避ける。その後ろ姿は、さっき競争で駆け抜けた時よりもずっと穏やかだった。

 

ケイジの表情が更にぱぁっと明るくなった

 

その笑顔を、ヒロは背中越しに見ていなかった。見ていなかったはずだった。けれど波打ち際に立つ彼女の耳が、また赤く染まっていたのは──潮風のせいばかりではあるまい。

 

やがて日が傾き始めた。曇り空が茜色に滲み、海面に鈍い光を散らしている。レジャーシートの上には空になったタッパーが並び、二人の影が砂浜に長く伸びていた。

 

ヒロが波打ち際から戻ってきた。靴の先が少し濡れている。ケイジの隣に腰を下ろし、膝を揃えた。

 

「そろそろ帰らないと暗くなる。」

 

言いながらも、立ち上がる気配はない。紅い瞳が横目でケイジを捉えた。

 

 

「……次は私が場所を決める約束だったな。連絡する。」

 

一拍の間。

 

「待っていろ。」

 

「待ってるよ、楽しみにしとく。待ってる間にたくさん夢詰め込んで期待を膨らませているよ。」

 

ヒロは立ち上がりかけた体を止め、ケイジを見た。夕暮れの鈍い光が紅い瞳に映り込む。

 

「……ハードルを上げるな。」

 

そう言いながらも、ヒロの口元には隠しきれない笑みが浮かんでいた。二人は荷物を片付け、砂浜を後にした。帰り道、駅までの十分間、ヒロは行きよりも半歩だけケイジに近い位置を歩いていた。本人が意識していたかは定かではない。

 

改札の前で足が止まる。

 

ヒロは髪を結び直しながら、ケイジに背を向けた。

 

「今日は──。」

 

言葉を探すように、一度だけ瞬きをした。

 

「……楽しかった。」

 

それだけ残して、改札を抜けていく。振り返らなかった。けれどホームへ向かう階段の途中、携帯を取り出して何かを打ち始めたその速さは、二階堂ヒロらしからぬ焦りを帯びていた。

 

ケイジの携帯が震えた。

 

「帰ったら連絡しろ。──二階堂」

 

「口で言える距離にまだいるじゃないか。」だがケイジのその呟きは改札の喧騒に溶け、ヒロの耳には届かなかった。階段を降りていく黒髪の後ろ姿が人混みに消える。ケイジは携帯の画面を見つめたまま、しばらくそこに立っていた。

 

帰路の電車の中、ケイジは約束通りメッセージを送った。

 

そしてその夜──ヒロからの返信は、驚くほど早かった。

 

「了解した。おやすみ」

 

たった八文字。素っ気ない。だがケイジがメッセージを送ってから、わずか十四秒後で返って来た。

 

携帯を握りしめたまま眠りについた人間が、この夜、少なくとも二人いたことを、初夏の月だけが知っていた。




ヒロちゃんの知見をジャンジャンください!!!
俺に二階堂ヒロを教えてくれ(懇願土下座。足ペロペロを添えて)
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