連邦生徒会閣僚各位に申し上げる。   作:石田たつを

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身構えている時には、ピックアップは出ないものだ。


プロローグ

その日……早瀬ユウカは、ドギマギしていた。

 

彼女は、連邦捜査部『S.C.H.A.L.E(シャーレ)』の当番が好きだ。

面倒見が良くお人好しな性分の彼女は、あの日………つまり『サンクトゥムタワー奪還』の日以降、何かと放ってはおけない『先生』のお手伝いをする内に、『』を敬愛するようになった。

彼の真摯に生徒たちを想う姿勢が『大人』として尊敬できると思ったからだ。

けれど同時に、彼のどこか子どもっぽい……無邪気な感性や、意外とだらしがない側面を見て、やはり……『しょうがない人』と思う事も多々あった。

 

彼女は『先生』に対して、『親しみやすいお兄さん』といった印象を抱いていた。

 

だが、その件の先生は、()()()()()()()()

 

少し癖のある黒髪は、今日は寝癖一つなく整えられているし、普段どこか眠たげで柔和な表情は、キリッとした精悍な顔つきに変わっている。

パリッと着こなしたグレーのスーツには(シワ)一つなく、毛玉もくっ付いていない。

喉元までしっかりと締められた紺色のネクタイは、高級そうな艶を帯びている。

机に置いてある白いマグカップからは、いつもの真っ黒なコーヒーではなく、茶柱が立っている緑茶の湯気が立っていた。

 

「せ、先生…?」

 

"おはよう、ユウカ"

 

「お、おはようございます……き、今日はなんだか、雰囲気が違いますねっ」

 

端的に言うと、早瀬ユウカは先生にギャップ萌えしていた。

 

貴方も想像して欲しい……!

普段はポワポワとした年上お姉さんが、ある日急にキッチリとスーツを着てキリッとした顔をしていたら萌えるだろう…!

 

つまり、そういう事である。

 

"今日はお客さんが来るんだ"

 

そんなユウカのドギマギを知ってか知らずか……

先生は壁際にあるホワイトボードを指差して、穏やかに微笑んだ。

 

赤くなった顔を悟られないように、指差した方向に向いたユウカは、ホワイトボードに書いてある文字を見て、少しだけ驚いた。

 

『株式会社ロンド・ベル様 11:00〜』

 

その会社名に見覚えがあったからだ。

 

「ロンド・ベルって……!」

 

"知ってるの、ユウカ?"

 

「カイザーほどじゃないですけど、なかなか大きい企業ですよ!結構利回りが高いので、投資家たちの間では優良株として有名なんですっ!」

 

"流石ユウカ、詳しいんだね"

 

「そ、それほどでも……じゃなくて、なんでシャーレにロンド・ベルの人が来るんでしょう……?」

 

"……本当に何でだろうね?"

 

早瀬ユウカは個人で株取引や投資、先物取引なども行っており、それなりの利益を出している。

つまり、キヴォトス内の企業には詳しいのだ。

株式会社ロンド・ベルについての情報は勿論把握しているし、なんなら一時期は投資しようか検討していた程。

 

"ちなみにどんな企業なの?"

 

「薄利多売なイメージのカイザーとは対照的に、厚利少売(こうりしょうばい)をウリにしている印象ですね………主に銃器販売を主軸にしているようですが、あんまり裕福じゃない『農業高校』とかにお金を寄付したり、浄水場開発とかの公共事業を支援したりと、慈善事業も多く行ってるみたいですね」

 

"おお、すごい企業なんだね"

 

「代表の方はフットワークの軽さに定評があると聞いた事はありますが……これほどとは……」

 

なんて大袈裟にたまげているが、彼女は特に心配してはいなかった。

なんせ多くの『慈善事業』を行なっているクリーンな企業なのだ。

シャーレに接触を図ろうとしている意図は不明だが、まぁ悪い事にはならないだろう、というのが彼女の見解だった。

 

"ユウカも同席する?"

 

「何言ってるんですか先生!確かに私はシャーレに所属してますけどその前にミレニアムの生徒ですよ!」

 

"あっ、そっかぁ……"

 

すっかりいつものような雰囲気になってきた所で、ユウカは自身の緊張が(ほぐ)れている事に気づいた。

 

 

 

 

時間はピッタリ午前11時丁度。

シャーレの応対室には、キヴォトスでは珍しい()()()()()が『2人』、和かな表情で向かい合っていた。

 

「今日は貴重なお時間頂きありがとうございます、(わたくし)、こういうものです」

 

先生の対面に座る、少し癖のある茶髪を短く切り揃えた青年は、懐から名刺を取り出して、しっかりと両手で先生に手渡す。

 

"頂戴します"

 

手渡された名刺を見た先生は、そこに書かれた苗字を見て、少しばかり驚いた。

 

『株式会社ロンド・ベル代表:ハサウェイ・ノア』

 

まさかの早瀬ユウカの親友、生塩(うしお)ノアの名前と全く同じ苗字である。

しかし先生はだからと言ってここで言及した所で、あんまり話題が盛り上がらないだろうと判断し、一旦飲み込む事にした。

大人の判断である。

 

「今日は連邦捜査部『S.C.H.A.L.E(シャーレ)』の先生である貴方に、ご挨拶させて頂こうと思って参りました」

 

そう言って穏やかな表情でハサウェイは微笑む。

その姿からは邪気や悪意などは感じない。

 

「シャーレと言えば、このキヴォトスを支える超法規的機関、これから何かと入り用になるでしょう………その時は是非、この『ロンド・ベル』がご協力させて頂きたいのですよ」

 

"有難い限りです"

 

先生は感動した。

目の前の青年は、見た所まだ若い。

恐らく自身と同年代だろう。

にも関わらず、キヴォトスの現状や未来の為に、努力しようという気概を持っているように見える。

 

「私は唯のごく普通の青年ですが、それでも何かお力になりたいものです」

 

そう言ってニッコリと笑うハサウェイに、親しみを感じた先生は、これから困った事があれば『ロンド・ベル』と協力したいと考えた。

 

そうして、このキヴォトスでは珍しい『同年代の男性同士』の会話は、次第に盛り上がっていった。

 

キヴォトスについて、ロンド・ベルについて、先生について、そして……ハサウェイ・ノアについて。

 

正午を回る頃には、2人はすっかり打ち解けていた。

 

「おっと、すっかり話し込んでしまいました……では私は、そろそろこの辺で失礼しますね」

 

"今日は会えて嬉しかったです"

 

「とんでもない!私の方こそ、今日はお会いできてよかった」

 

ハサウェイは、左手に持っていた『手帳』をテーブルに置いて、先生に握手を求めて右手を差し出した。

それを握り返した先生は、立ち上がって応接室から出て行こうとするハサウェイを慌てて呼び止める。

 

テーブルに『手帳』が置きっぱなしだったのだ。

 

意外とうっかりさんなハサウェイに親近感を覚えながら、手帳を拾い上げた先生は、チラリと『手帳に書いてある名前』を何気なく視界に入れた。

 

HathaWAyNoA

 

"(……ッ!?)"

 

それは異様なサインだった。

全ての文字がグチャグチャで『A』の筆跡に至っては、恐らく全て()()()()()()

 

不気味だった。

 

今までの和やかな青年が書いたとは思えないような、言い表しようのない『悍ましさ』の様なモノが、文字から滲み出ていた。

 

「おっと、僕とした事が……ありがとうございます」

 

"………いえ、大丈夫です"

 

「?…………では、今度こそ失礼しますね」

 

一瞬、ハサウェイは先生の態度に怪訝な顔をしたが、直ぐにまた和やかな表情を浮かべて、ドアの前で軽くお辞儀をしてから退出した。

 

"(………気のせいかな)"

 

先生は、何か名状し難い不安に襲われた。

何かを見落としているような感覚………

だが彼は、その正体を暴く気にはなれなかった。

 

あの青年から邪気を感じなかったから。

 

 

 

 

果たして僕は、いつから此処にいたのか。

 

分からないし、分かりたいとも思わない。

 

けれど僕は何か強烈な憤りを感じていて、それと同時に簡単には棄て去る事の出来ない『使命感』のようなモノを感じていた。

 

かつて、争いがあった。

 

戦争だ。

 

大きな力を持ってしまったが故に、或いは傲慢であったが為に迫害され、多くのモノを失い、やがて強者は弱者たちと成り果て、その中でも夕暮れた弱者は更に弱い者たちを叩いた。

 

僕はそれが許せなかった。

 

あの『赤い女』が夕暮れた者たちを束ねた時…………

僕は更に弱い者たちの為に戦おうと思った。

 

少女たちの殆どは、あの赤い女に服従する事で安寧を得た。

だが中には()()()()()()()()()()()()()()()もいた。

 

その子たちを見捨てる事は簡単だったろう。

 

そして、全ての『責務』から逃げる事もまた……

 

けれど、僕の中の鮮烈な憤りは、時間と共に肥大していって、やがて大きな『執着』のようなモノに変貌していった。

 

僕は誓った。

 

彼女たちが『安寧』と『自由』を得る為ならば………僕はどんな手段を用いても、どんな方法を使っても、どれだけ醜い外道に堕ちようとも…………

 

彼女たちの為に戦い続けると。

 

世界は『閃光』の様な速さで変貌していく。

中には『閃光』の様に疾走する世界から振り落とされる少女たちもいる。

 

ならば僕は……………………

 

「ハサウェイさん」

 

「どうしたんだいスバル」

 

「ハサウェイさんは、私たちを見捨てませんよね?」

 

少女の目は昏い。

 

彼女は戦争をしていたのだ。

仕方のない事だ。

 

今でこそ多少は安息を得たが、それでも、あの日の傷は癒えていない。

当たり前だ。

戦争の傷は多くの悲劇を生む。

 

「大丈夫だ、大丈夫だよスバル…………………僕は『マフティー・ナビーユ・エリン』なんだ、君たちが『自由』を得るその日まで、僕は決して諦めない」

 

分かっている。

 

分かっているとも。

 

僕の行いが間違っている事は。

 

 

でも……………

 

 

 

ならば…………

 

 

 

 

じゃあ教えてくれよ………

 

この仕組みの深さを破壊する方法を……

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