連邦生徒会閣僚各位に申し上げる。   作:石田たつを

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身構えている時には、推しの別衣装は実装されないものだ。


第1話 マフティー・ナビーユ・エリン

生きる為には食糧と水がいる。

必然的に其れ等を買う金が必要になる。

アリウス自治区は廃墟の町だった。

建物は汚れ、穢れ、壊れ、廃れている。

此処には誰も居ない。

打ち捨てられた少女たち以外は。

 

だから僕には金が必要だった。

多くの少女たちの食糧と水の為に。

 

クリーンな手段で稼げる金では足りない。

もっと多くの金が必要だった。

アルバイトだとか、サラリーマンだとかで稼げる金では足りない。

必要なモノが多過ぎた。

 

だから僕は、外道に堕ちてでも金を得た。

 

社会の裏には闇と陰謀が渦巻いている。

汚職、横領、詐欺、強盗、暗殺。

飽くなき欲望は罪さえ恐れない。

僕は罪を背負う事で欲望を叶えた。

 

初めて『誰か』を殺した時…………

つまり丁度60発目の弾丸を撃ち終えた時。

僕の手の震えは止まっていた。

涙は一筋も流れず、額は乾いていた。

 

次にまた『誰か』を殺した時………

もう最初から手は震えていなかった。

 

その次もまた『誰か』を。

『誰か』を。

『誰か』を。

『誰か』を……………

 

間違っている手段である事は分かっている。

 

ならば、どうしろというんだ。

 

これは一刻も争う事態なんだ。

 

今にも、誰かが凍えている。

今にも、誰かが飢えている。

今にも、誰かが渇いている。

 

だから僕は、こうした。

 

 

 

 

パシリカの『至聖所』がある方から、けたたましい『銃声』が鳴り響いた。

 

パン、パン、パァン。

パン、パン、パァン。

パン、パン、パァン。

 

何度も何度も何度も何度も鳴り響いた。

 

儀式の『生贄』として捧げられた『秤アツコ』の救出に向かうアリウススクワッドと『先生』は、その銃声が『秤アツコ』に向けられて鳴ったものだと思った。

儀式の『生贄』だという話だ。

彼女の命を絶つ事が、儀式を始める……或いは終える合図や行程という可能性が、頭の中を(よぎ)った。

 

「姫ッ!」

 

錠前サオリは、至聖所の扉を抉じ開け、中にいるであろう『ベアトリーチェ』と相対する為に至聖所に飛び出した。

 

しかし、そこには……………

 

「もういいよ……もうやめて………!」

 

「…………………………」

 

アリウス生徒たちに攫われ、儀式の生贄に捧げられた筈のアツコは、五体満足だった。

 

見たところ無傷。

彼女に負傷はない。

磔にされてもない。

そもそも、拘束されていない。

ベアトリーチェが命令していた、あの『マスク』も着けていない。

 

だが、彼女はその場で蹲って泣いていた。

 

「……………マ、マダムが……」

 

"死んで、いる……"

 

それは惨状だった。

 

血溜まりが床に染み、『彼女だった破片』が、あちらこちらに飛び散っている。

 

そう、ベアトリーチェは()()()()()

 

全身の銃創から鮮血を垂れ流しながら。

 

「………………………」

 

"これは貴方がやったんですか"

 

下手人は、目の前……アツコの直ぐ側に佇んでいた。

 

その下手人は異様な姿をしていた。

 

身長は『先生』とそう変わらない。

体格は大人の男性らしくガッチリとしている。

左手には『H&K G36』と思われる黒いアサルトライフルが握られていて、その銃口からは硝煙がゆらゆらと立っていた。

 

そして、最も目につく特徴…………

 

彼は『かぼちゃの様なマスク』を被っていた。

そして、そのマスクの額にあたる部分には、『(マーク)』のような意匠があった。

 

「アリウス分校生徒各位に申し上げる」

 

彼は駆けつけてきたアリウススクワッドと先生に対し、凛とした佇まいで、『変声機』で歪められた声を発した。

 

(わたし)は『マフティー・ナビーユ・エリン』だ」

 

「…………貴方が、マダムを」

 

「この女は、アリウス分校生徒を(わたくし)の兵、つまり『私兵』として洗脳し、エデン条約締結阻止を目的としたテロを首謀した!よって私『マフティー』の手によって『粛清』させて頂いた」

 

マフティー』と名乗った男は、そう宣言した後に、足下で横たわる『ベアトリーチェ』の亡骸に、もう一度弾丸を撃ち込んだ。

 

「っ!」

 

「私の目的はこの女の『粛清』ただ一つのみである!貴方たちに何をする訳でもない………」

 

「……そうか、マダムは、死んだのか………」

 

「貴女たちを支配していた者はもういない、これからは健やかに暮らしていくがいい……では、さらばだ」

 

"待って!どうして殺してしまったの!?"

 

その場から立ち去ろうとする『マフティー』と名乗った男に対し、先生は声を荒げて叫んだ。

 

「貴方に申し上げる必要はない」

 

だが男は、それだけ呟いて、姿を消した。

 

あまりにも異常な光景に、唖然としていたアリウススクワッドは、暫く放心していた。

だが、やがて気を取り直すと、()()()()()涙を流している『秤アツコ』を抱きしめ、彼女の無事を喜んだ。

 

先生は彼女たちが涙を流しながら抱擁する姿を見た。

 

ハッピーエンド。

 

大団円。

 

めでたしめでたし。

 

そんな言葉が似合う美しい光景。

 

だが彼は、やはり名状し難い不安に襲われ、純粋な気持ちで彼女たちの無事を喜ぶ事ができなかった。

 

"(マフティー……一体、何者なんだ…?)"

 

キヴォトス最大の『禁忌』であるはずの『殺人』を、こうも容易く躊躇なく行える者が、この世界にいる。

 

その事実が、彼の中で重くのしかかっていた。

 

 

 

 

やっと、僕は成し遂げた。

あの『赤い女』を『粛清』したのだ。

これでアリウス分校は、もう誰にも支配されない。

今まで用意してきた食糧や物資が、ようやく皆の手に渡る。

皆、暖かくて柔らかいベッドで眠れる。

お風呂に入って、漫画や雑誌を読んで、年頃らしくお洒落して、外の世界に出ていく自由さえ手に入れる。

 

もう廃墟の奥底に潜む必要はなくなった。

匿っていた少女たちも、ようやく学校に通えるようになるだろう。

病を患ったり大怪我を負った子たちも入院できる。

それどころか、やがて病院だって建てられるだろう。

 

あの日……………

僕が『マフティー・ナビーユ・エリン』になった日。

 

あの日から僕は、穢れた金で食糧と水を掻き集めて、打ち捨てられた少女たちを救おうとした。

だが、僕には『力』がなかった。

あの女を除く為の力が………!

 

最初は暗殺しようと思った。

だが、あの女はアリウスに引き篭もって外部に出る事など一度もなかった。

更に、日替わりで護衛の生徒を少なくとも3人以上はつけていた。

ロボットでも獣人でもない、ヘイローもない僕では、あの女を暗殺する方法がなかった。

 

だから僕は『協力者』を作って、アリウス分校の生徒たちの為に隠れて支援し続けた。

 

トリニティの自治区で『ロンド・ベル』という会社を興したのもその為だ。

 

暗殺者『マフティー』として得た金は、青年実業家『ハサウェイ・ノア』の手に渡り、『ロンド・ベル』はその金を元手に事業を拡大していって、より多くの金を得た。

全ては、あの子たちの居場所をより良くする為に。

『ロンド・ベル』に入社した者たちは、僕の理念……つまり、『弱き子どもたちの為』に賛同してくれる者たちばかりだった。

というか、そういう者たちしか集めなかった。

彼ら、彼女たちは皆、キヴォトスをより良くする為に働いてくれている。

もちろん皆には、僕の裏の顔を見せる事はできない。

それがストレスに感じる事もある。

強い罪悪感もあった。

だが、僕はそれでも()()()()()()()()()()()

 

次に僕は、匿った少女たちだけでなく、アリウス分校にいる生徒たちも救う方法を考えた。

今まで匿った子たちは皆、アリウスから脱走した子や、大怪我や病で棄てられた子、そしてアリウスの『任務』によって除かれた、反ベアトリーチェ派の子しかいなかった。

だが、僕は彼女たちだけでなく、アリウスで『私兵』にされている子たちも救いたかった。

 

だから、僕はとある少女と接触した。

 

梯スバル

 

彼女は、ほんの僅かな自由時間を費やして、脱走した元生徒たちを、誰かに命じられる訳でもなく…………たった1人で捜索していた。

保護した元生徒たちの子は皆、彼女を慕っていた。

優しい子、なのだろう。

あんな歪められた教育を受けて尚、他者を思いやれる強さが彼女にはあると判断した。

 

僕は彼女が『単独任務』でアリウス分校から離れた際、元生徒の子をメッセンジャーにして、匿った子たちが潜む隠れ家に招待した。

 

彼女は最初こそ僕に警戒していたが………

棄てられた子たちが丹精を込めて作った温かい手料理と、元生徒たちの言葉を信じて、話を聞いてくれるようになった。

 

アリウス分校の食糧や物資は、全て……あの女が掌握している。

だからバレない範囲で、缶詰めなどの保存食や毛布、応急処置用の包帯や消毒液などを、単独任務や脱走した生徒の捜索の際に『現地調達』した、という事にして彼女に少しづつ渡し続けた。

幸い、あの女はスバルが『()()()』を捜索している事に対して、無頓着だった。

それ故に、スバルが物資を持ち帰っても、外部の反ベアトリーチェ派と繋がっている、と疑われる事はなかった。

あの女は、アリウスから脱走した生徒たちを、ただの落伍者……脱走兵としか見ていない。

そういった無関心さに付け込む以外、彼女たちを支援する方法がなかった。

 

「なぜハサウェイさんは私たちに……」

 

初めて彼女と会った日、スバルは『昏い目』のまま、ポツリと呟いた。

 

その姿は痛ましかった。

 

脳が焼き切れるくらいの憤りと、全身から熱が失われるほどの悲しみを感じた。

 

「僕は、君たち子どもが『何とでもなる筈』と信じられるようにしてあげたいんだ」

 

「何とでも……なる、はず…?」

 

「そう、例えどんな事があっても、どんな現実に打ちのめされようとも、未来はきっと『何とでもなる筈』と信じて、この世界を……『自由』に生きられるようになってほしい」

 

「どうして………私たちを……」

 

「君たちが、このキヴォトスで最も過酷な経験………戦争をやっていたからさ……僕は、戦争で傷ついた者たちの為に戦いたいんだ」

 

「……………なぜです」

 

「一体どうしてだろうね…?わからないけど、きっと忘れてしまっただけで、僕もなにかを失ったり傷ついた事があって、その時に誰も救ってくれたり何も教えてくれなかったから、なのかもね」

 

僕は、そう言って本音を伝えた。

嘘偽りのない本音を。

 

僕は何故キヴォトスに居るのか…或いは来たのか……

その理由がわからない。

僕が何者で、どんな過去があって、どんなことを経験してきたのかさえ殆どわからない。

 

だけど、僕の中に憤りと使命感がある。

 

子どもが大人たちの手によって利用され、搾取され、傷ついていくなんて、決して許してはならない。

 

生命(いのち)は………生命は力なんだ。

生命は、この宇宙を支えているものなんだ。

そして子どもたちは、やがて未来の宇宙を支えていく力であり、宝なんだ。

 

それを、大人たちの手によって失っていくのは……

それは……それは、酷いことなんだよ。

 

それが分かるんだよ。

 

「だから僕は………君たちを救いたいんだ」

 

「………………………バカなひとです」

 

「そうかもね」

 

その日から『梯スバル』は、僕の同志となった。




この世界線では色彩はまだ来てません。
ベアおばが儀式前にブッ殺されているので。
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