連邦生徒会閣僚各位に申し上げる。   作:石田たつを

3 / 6
身構えている時には、最上級戦術教育BD(ミレニアム)は来ないものだ。


第2話 再会

逃げた先に楽園なんてない。

 

そんなこと、分かってたはずなのに。

 

それでも………夢を見たかった。

 

希望はあるんだ、って……私も、信じてみたかった。

 

でも……もしかしたら、それ自体が夢だったのかもしれない。

 

雨が体温を奪っていく。

 

窮屈なガスマスクのせいで、上手く呼吸できない。

 

身体が、鉛のように重い。

 

それでも………私は、帰ってこれた。

 

 

「おかえりなさい、マイア」

 

 

私は、この声を知っている。

 

どんな時だって、私を助けてくれた…………

 

私を導いてくれていた……………

 

 

「せ、んぱい…………」

 

 

身体の先から力が抜けていく。

 

ぴちゃん、と水が跳ねる音。

 

それと同時に、私は暗闇の中へ落ちていく。

 

視界が闇に染まる直前。

 

最後に見えたのは………………

 

 

「今はただ、ゆっくり休んでください」

 

 

やっぱり変わらない、『スバル先輩』の顔だった。

 

 

◆

 

 

まず、見知らぬ天井を見た。

木目が黒ずんでいない。

埃や蜘蛛の巣もない。

綺麗な木の板が、びっしりと並んでいる。

 

見知らぬ天井だった。

見慣れた天井には、常に小さな穴が空いていたから。

 

次に、もう寒くない事に気づいた。

 

空気が暖かい。

雨漏りも、隙間風もない。

雨に濡れていた服は、いつの間にか、見慣れない……真っ白で、泥汚れ一つない、真っ新な、お洋服になっていた。

 

何が起こってるんだろう……?

 

だからじゃないけど………

私はボーッとしてしまう。

 

もう、早起きしなくていいから。

もう、寝起きの頭に弾丸が撃ち込まれないから。

もう、曖昧なまま朝を過ごしても、大丈夫になった。

 

ちょっと目が覚めてきた。

ふと、また一つ気がついた。

 

背中とお尻が痛くない。

肩も腰も痛くない。

こうやってボーッとしても痛くない。

 

いつもなら痛くなる。

ずっと同じ体勢だったら痛くなるのに。

 

私の下が、ふわふわしている。

いつもの硬い床じゃない。

 

なんだかおかしいな。

ここは何処なんだろう。

 

ボーッとしていると、ガチャリって音がして、なんだろうって思って、少し怖くなって、でも反射的に目を向けちゃって、そしたら……………

 

「っぁ、スバル先輩……!」

 

「………ふふ、おはようございます、マイア」

 

スバル先輩が、いた。

いつもみたいに微笑んで。

優しい顔をしながら立っていた。

 

「っ……ぁあ、せん…ぱぃ、私……わたし……!」

 

目が覚めてきた。

頭が回ってきた。

私は助けられたんだ。

 

スバル先輩が助けてくれたんだ。

 

「ぁぅ」

 

外の世界に逃げて、うまくいかなくて、また逃げてきた私なんかを。

 

「はい、私は……『梯スバル』は此処にいますよ」

 

目の前が滲んで見えない。

耳元で先輩の声がした。

ほんのちょっとだけ苦しい。

なのに、もっと温かい。

 

「泣いていいんです、もっと泣いても」

 

先輩の優しい声。

耳元で、くすぐったいけど。

この声が聞きたかった。

こんな声が聞きたかった。

外の世界に、居場所はなかった。

誰もこんな声で話してくれなかった。

どこにも居場所はなかった。

誰も私をギュッとしてくれなかった。

 

だから消えてしまいたい、とさえ思った。

 

けど、まだ私をギュッとしてくれる人がいた。

 

それだけで良かった。

 

それだけで私は、まだ消えたくないって思えた。

 

「…………………もう、大丈夫です」

 

ボヤけた視界がクリアになってきた。

顔のすぐ横に、先輩の横顔がある。

先輩の吐息で耳がくすぐったい。

それが、少し恥ずかしくて、私は強がってしまった。

 

「私は全然大丈夫じゃないですよ?」

 

「え!」

 

「なのでまだもう少しだけ、このままお願いします」

 

「ぁぅ」

 

あっ………………

身体がちょっとだけカクカクしてる。

先輩、笑ってる。

イジワルだ。

 

………………………………………っ…ぁ、

 

お、お腹鳴っちゃったぁ…………

 

「……………何か食べますか?」

 

「……………………………はい」

 

「ちょっと待っててくださいね」

 

先輩はイジワルだけど、イジワルじゃない。

お腹鳴っちゃったのに、何も言わなかった。

 

『ポカポカ』が、どんどん上に来てる。

今の私って、どんな顔してるんだろ………

 

「はい、どうぞ」

 

ドアから出てちょっとしてから、スバル先輩が『缶詰』を持って帰ってきた。

缶詰のフタは開いていて、中から湯気が立っている。

 

「かぼちゃスープです、まだ熱いから気をつけて」

 

「あ、熱いんですか……?」

 

「ええ、熱いですよ」

 

スープなのに、熱いらしい。

珍しい。

普通、缶詰のスープは冷たいのに。

どうやって熱くしたんだろう。

 

「ふーふー、してあげましょうか?」

 

「大丈夫です!」

 

「そうですか、それは残念」

 

流石に、ふーふーくらい1人で出来る。

でも熱いものを食べるのは久しぶりだから、ちょっと怖い気もする。

 

だけど、このスープは先輩が用意してくれたから、やっぱり怖くない。

 

「っ!?………………っ……?」

 

一瞬、舌がビリッとした。

ビックリして身体が跳ねた気がする。

反射的にスープを強く握っちゃった。

 

「どうですか?」

 

「…………しょっぱい、です?」

 

どうですか?って言われても………

本当に、しょっぱい、としか言えない。

 

「不味いですか?」

 

そう言われると困る。

不味いとか、美味しいとか、わからないから。

 

「わからないです」

 

そう言うと、先輩は少し考え込んだ。

 

「では、このスープはもう食べたくないですか?」

 

「いえ」

 

「なら美味しいって事です」

 

…………………確かに。

さすがスバル先輩だ。

 

先輩は、なんでも知ってる。

 

 

◆

 

 

スバル先輩は、私が『かぼちゃスープ』を食べている間に、色々とアリウスの現状について教えてくれた。

 

アリウス分校の皆は現在、とある『会社』の人たちと共に『復興作業』をしているらしい。

発電所?とか、水道?を自治区に作らなきゃいけないから、って。

 

「でもなんで『外』の世界の人が?」

 

アリウスには会社なんてなかった。

あそこには……マダムと私たち、マダムに逆らう子、マダムに捨てられた子、くらいしかいなかった。

 

「それは…………まぁ、そうですね………直接、説明してもらいましょうか」

 

「え?」

 

「………食べ終わりましたね、じゃあ私について来て下さい………会(・)わ(・)せ(・)た(・)い(・)人(・)た(・)ち(・)がいるんです」

 

「あの、この缶詰は…………」

 

「とりあえず………ん、そこに置いといて下さい、後ここにサンダルがあるので使ってください」

 

言われた通りにして、先輩の後をついていく。

この部屋から出て、ながーい廊下を歩く。

でも廊下は綺麗だった。

窓は割れていないし、穴も開いていない。

埃も石もゴミも薬莢も蜘蛛の巣も水溜まりもない。

ガラス片が落ちていない。

 

いつの間に、こんな…………立派な『お屋敷』が建てられたのだろう。

 

…………………?

でも、なんだか初めて来た気がしない。

見覚えがあるような気がする。

 

「さ、ここです」

 

そう言ってスバル先輩は、おっきな扉を開けた。

すると、中に居たのは、見知らぬ『大人の男の人』と………

 

「久しぶりね、マイア」

 

「セ、セ……セイラちゃん!?」

 

見間違えるはずがない。

金髪のショートカット。

青い眼。

 

間違いない………赤井セイラ。

 

私の同(・)級(・)生(・)だ(・)っ(・)た(・)子(・)。

 

身体が弱くて病気になってしまったから、『退学』になって、それから行方不明になっていた、私の大切な友だち…………

 

「私もいるぞ」

 

「っ!?………レム先輩…!」

 

この人…………赤井レム先輩。

セイラちゃんの、お姉ちゃん。

セイラちゃんが退学になった時、マダムに反抗して『修正』され、それでも尚反抗を続けたから、アリウスから『除籍』された一個上の先輩…………

 

「……皆、生きてた……でも、どうして…?」

 

「それから先は、僕が説明しよう」

 

見知らぬ男の人が、立ち上がって、私のところまでやってきた。

背がおっきい。

スバル先輩どころか…レム先輩よりも身長が高くて、がっちりしてる。

 

「僕の名前は『ハサウェイ・ノア』君たちアリウスの『復興計画』の総責任者だ」

 

「ぁ……私は、立木マイア、です」

 

「マイアちゃんだね、よろしく」

 

男の人……ハサウェイさんは、おっきくてゴツゴツとした手を差し出してきた。

………………どういう事だろう。

なんで、手を差し出してきたんだろう。

 

「あっ、そう………か……ううん、なんでもない」

 

「………………?」

 

「それより事情を話すよ、そこに座って」

 

ハサウェイさんは、ニッコリしてから、木でできてるのに何故かピカピカしてる椅子を指差した。

 

その椅子は、ふかふかしていた。

全然固くなくて、少しだけビックリした。

 

「それじゃあ話すけど……………」

 

そう言って、ハサウェイさんは『事情』とやらを話してくれた。

 

ハサウェイさんは、どうやら『キヴォトスの外』からやって来た人らしい。

キヴォトスに来た理由はあんまり覚えていないらしいけど、たぶん、前やってたお仕事?に疲れて、どこか新しい場所に行きたかったから、らしい。

それから、トリニティ自治区で新しいお仕事を探してたハサウェイさんは、たまたまアリウス自治区に出入りしていた子を見つけた。

その子は傷だらけで、服もボロボロだったから、事情を聞こうとしたけど、銃を向けられた挙句に逃げられてしまった。

普通なら……それも、キヴォトスの外から来た人なら尚更、危ない目に合わない為にそのまま放っておくんだけど、ハサウェイさんはその子が凄く気になって、こっそり尾行してアリウス自治区に入った。

 

そして、アリウス自治区という場所を知った。

 

ハサウェイさんは、マダムのやり方が許せなかった。

だから、マダムが退学にさせた子とか、マダムに反抗する子を廃墟の奥に匿って、アリウスの外で会社を作って稼いだお金で、皆のご飯とかお水とかを用意してあげていた。

 

ハサウェイさんはそれから……どうにかしてマダムをやっつけようとしていたんだけど、ある日マダムは、突然い(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)。

 

だから、今まで出来なかった………アリウス生徒たちを助ける為に、会社の人と協力してアリウス自治区復興計画を始めた。

 

…………………なんというか、すごい、話だ。

 

正直、頭が追いつかない。

でも………………

 

「ずっと………私たちを……助けてくれてたんだ」

 

「いいや、それでも僕は、君たちを完全に助ける事ができなかった………本当に、ごめんね………」

 

「あ、謝らないでください!だって、セイラちゃんもレム先輩も、ハサウェイさんが助けてくれたんですよね?なら……!」

 

ダメ。

さっきまで散々泣いたのに。

また、泣いちゃう。

 

「あの女の支配が終わり、外の世界で他の学園に転入した子たちがいる、彼女たちの中には、ようやく新しい場所で新しい幸せを掴んだ子だっているだろう……でも、マイアちゃんみたいに、外の世界に馴染めなくて、また居場所を失った子だっているんだ…だから僕は、このアリウスを君たちの居場所にしてあげたい」

 

「…………………ぅ…う…」

 

「僕はアリウスの生徒じゃない、それどころか君たちを助けてあげられなかった『大人』だ……それでも、僕は君たちを……助けても、いいかな」

 

「今まで、貴女に私の無事を教えてあげられなかったのは謝るわ、マイア……でもね、ハサウェイさんは、ずっとマダムの目から隠れながら私たちを匿ってくれたの……どうか、彼の事を信じてあげて頂戴」

 

セイラちゃんが、涙目になりながらお願いしてくる。

レム先輩も、珍しくガスマスクを外して真剣な表情で私を見ている。

スバル先輩も……………

 

「まだ、『大人』は信じられない、って気持ちも……正直あります……」

 

「!」

 

「でも、もしもハサウェイさんがいなかったら………もしかしたら………セイラちゃんは『消えてた』かもしれないんですよね………」

 

「…………………ええ、きっと」

 

「私、信じてみます」

 

今もまだ、私は大人が嫌いだ。

怖くて、酷くて、ズルくて、嘘つきで………

みんな、みんな私をイジメてきて。

 

だけど、目の前の大人の人は………

信じてもいいかな、って思う。

セイラちゃんやレム先輩を助けてくれた。

マダムがいなくなってから、すぐに来てくれた。

何も悪くないのに、謝ってくれた。

 

そしてなにより…………

ハサウェイさんの、目。

綺麗で、透き通っていて、濁っていない。

真っ直ぐで、ピカピカしている目。

 

今まで見てきた、どんな大人よりも綺麗な目。

 

アリウス分校。

 

私が育った場所。

 

私が耐えてきた場所。

 

私が『教え』を受けた場所………

 

そこが私の居場所になる。

それも、前みたいに痛くて、辛くて、苦しい場所じゃなく、みんなが幸せになれる場所に生まれ変わる。

 

そうなれるなら、私は……………

 

もう一度。

 

もう一度だけ……………




赤井セイラ、赤井レムは、ただのモブ姉妹です。

セイラはアリウス生徒の中では最弱レベルですが、レムは平均以上スクワッド未満くらいの強さです。

レムは3倍のスピードで動く事はできませんが、大体いつもガスマスクかグラサンをしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。