連邦生徒会閣僚各位に申し上げる。   作:石田たつを

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身構えている時には、最上級戦術教育BD(ミレニアム)は来ないものだ。


第2話 再会

逃げた先に楽園なんてない。

 

そんなこと、分かってたはずなのに。

 

それでも………夢を見たかった。

 

希望はあるんだ、って……私も、信じてみたかった。

 

でも……もしかしたら、それ自体が夢だったのかもしれない。

 

雨が体温を奪っていく。

 

窮屈なガスマスクのせいで、上手く呼吸できない。

 

身体が、鉛のように重い。

 

それでも………私は、帰ってこれた。

 

 

「おかえりなさい、マイア」

 

 

私は、この声を知っている。

 

どんな時だって、私を助けてくれた…………

 

私を導いてくれていた……………

 

 

「せ、んぱい…………」

 

 

身体の先から力が抜けていく。

 

ぴちゃん、と水が跳ねる音。

 

それと同時に、私は暗闇の中へ落ちていく。

 

視界が闇に染まる直前。

 

最後に見えたのは………………

 

 

「今はただ、ゆっくり休んでください」

 

 

やっぱり変わらない、『スバル先輩』の顔だった。

 

 

 

 

まず、見知らぬ天井を見た。

木目が黒ずんでいない。

埃や蜘蛛の巣もない。

綺麗な木の板が、びっしりと並んでいる。

 

見知らぬ天井だった。

見慣れた天井には、常に小さな穴が空いていたから。

 

次に、もう寒くない事に気づいた。

 

空気が暖かい。

雨漏りも、隙間風もない。

雨に濡れていた服は、いつの間にか、見慣れない……真っ白で、泥汚れ一つない、真っ新な、お洋服になっていた。

 

何が起こってるんだろう……?

 

だからじゃないけど………

私はボーッとしてしまう。

 

もう、早起きしなくていいから。

もう、寝起きの頭に弾丸が撃ち込まれないから。

もう、曖昧なまま朝を過ごしても、大丈夫になった。

 

ちょっと目が覚めてきた。

ふと、また一つ気がついた。

 

背中とお尻が痛くない。

肩も腰も痛くない。

こうやってボーッとしても痛くない。

 

いつもなら痛くなる。

ずっと同じ体勢だったら痛くなるのに。

 

私の下が、ふわふわしている。

いつもの硬い床じゃない。

 

なんだかおかしいな。

ここは何処なんだろう。

 

ボーッとしていると、ガチャリって音がして、なんだろうって思って、少し怖くなって、でも反射的に目を向けちゃって、そしたら……………

 

「っぁ、スバル先輩……!」

 

「………ふふ、おはようございます、マイア」

 

スバル先輩が、いた。

いつもみたいに微笑んで。

優しい顔をしながら立っていた。

 

「っ……ぁあ、せん…ぱぃ、私……わたし……!」

 

目が覚めてきた。

頭が回ってきた。

私は助けられたんだ。

 

スバル先輩が助けてくれたんだ。

 

「ぁぅ」

 

外の世界に逃げて、うまくいかなくて、また逃げてきた私なんかを。

 

「はい、私は……『梯スバル』は此処にいますよ」

 

目の前が滲んで見えない。

耳元で先輩の声がした。

ほんのちょっとだけ苦しい。

なのに、もっと温かい。

 

「泣いていいんです、もっと泣いても」

 

先輩の優しい声。

耳元で、くすぐったいけど。

この声が聞きたかった。

こんな声が聞きたかった。

外の世界に、居場所はなかった。

誰もこんな声で話してくれなかった。

どこにも居場所はなかった。

誰も私をギュッとしてくれなかった。

 

だから消えてしまいたい、とさえ思った。

 

けど、まだ私をギュッとしてくれる人がいた。

 

それだけで良かった。

 

それだけで私は、まだ消えたくないって思えた。

 

「…………………もう、大丈夫です」

 

ボヤけた視界がクリアになってきた。

顔のすぐ横に、先輩の横顔がある。

先輩の吐息で耳がくすぐったい。

それが、少し恥ずかしくて、私は強がってしまった。

 

「私は全然大丈夫じゃないですよ?」

 

「え!」

 

「なのでまだもう少しだけ、このままお願いします」

 

「ぁぅ」

 

あっ………………

身体がちょっとだけカクカクしてる。

先輩、笑ってる。

イジワルだ。

 

………………………………………っ…ぁ、

 

お、お腹鳴っちゃったぁ…………

 

「……………何か食べますか?」

 

「……………………………はい」

 

「ちょっと待っててくださいね」

 

先輩はイジワルだけど、イジワルじゃない。

お腹鳴っちゃったのに、何も言わなかった。

 

『ポカポカ』が、どんどん上に来てる。

今の私って、どんな顔してるんだろ………

 

「はい、どうぞ」

 

ドアから出てちょっとしてから、スバル先輩が『缶詰』を持って帰ってきた。

缶詰のフタは開いていて、中から湯気が立っている。

 

「かぼちゃスープです、まだ熱いから気をつけて」

 

「あ、熱いんですか……?」

 

「ええ、熱いですよ」

 

スープなのに、熱いらしい。

珍しい。

普通、缶詰のスープは冷たいのに。

どうやって熱くしたんだろう。

 

「ふーふー、してあげましょうか?」

 

「大丈夫です!」

 

「そうですか、それは残念」

 

流石に、ふーふーくらい1人で出来る。

でも熱いものを食べるのは久しぶりだから、ちょっと怖い気もする。

 

だけど、このスープは先輩が用意してくれたから、やっぱり怖くない。

 

「っ!?………………っ……?」

 

一瞬、舌がビリッとした。

ビックリして身体が跳ねた気がする。

反射的にスープを強く握っちゃった。

 

「どうですか?」

 

「…………しょっぱい、です?」

 

どうですか?って言われても………

本当に、しょっぱい、としか言えない。

 

「不味いですか?」

 

そう言われると困る。

不味いとか、美味しいとか、わからないから。

 

「わからないです」

 

そう言うと、先輩は少し考え込んだ。

 

「では、このスープはもう食べたくないですか?」

 

「いえ」

 

「なら美味しいって事です」

 

…………………確かに。

さすがスバル先輩だ。

 

先輩は、なんでも知ってる。

 

 

 

 

スバル先輩は、私が『かぼちゃスープ』を食べている間に、色々とアリウスの現状について教えてくれた。

 

アリウス分校の皆は現在、とある『会社』の人たちと共に『復興作業』をしているらしい。

発電所?とか、水道?を自治区に作らなきゃいけないから、って。

 

「でもなんで『外』の世界の人が?」

 

アリウスには会社なんてなかった。

あそこには……マダムと私たち、マダムに逆らう子、マダムに捨てられた子、くらいしかいなかった。

 

「それは…………まぁ、そうですね………直接、説明してもらいましょうか」

 

「え?」

 

「………食べ終わりましたね、じゃあ私について来て下さい………()()()()()()()()がいるんです」

 

「あの、この缶詰は…………」

 

「とりあえず………ん、そこに置いといて下さい、後ここにサンダルがあるので使ってください」

 

言われた通りにして、先輩の後をついていく。

この部屋から出て、ながーい廊下を歩く。

でも廊下は綺麗だった。

窓は割れていないし、穴も開いていない。

埃も石もゴミも薬莢も蜘蛛の巣も水溜まりもない。

ガラス片が落ちていない。

 

いつの間に、こんな…………立派な『お屋敷』が建てられたのだろう。

 

…………………?

でも、なんだか初めて来た気がしない。

見覚えがあるような気がする。

 

「さ、ここです」

 

そう言ってスバル先輩は、おっきな扉を開けた。

すると、中に居たのは、見知らぬ『大人の男の人』と………

 

「久しぶりね、マイア」

 

「セ、セ……セイラちゃん!?」

 

見間違えるはずがない。

金髪のショートカット。

青い眼。

 

間違いない………赤井セイラ。

 

私の()()()()()()()

 

身体が弱くて病気になってしまったから、『退学』になって、それから行方不明になっていた、私の大切な友だち…………

 

「私もいるぞ」

 

「っ!?………レム先輩…!」

 

この人…………赤井レム先輩。

セイラちゃんの、お姉ちゃん。

セイラちゃんが退学になった時、マダムに反抗して『修正』され、それでも尚反抗を続けたから、アリウスから『除籍』された一個上の先輩…………

 

「……皆、生きてた……でも、どうして…?」

 

「それから先は、僕が説明しよう」

 

見知らぬ男の人が、立ち上がって、私のところまでやってきた。

背がおっきい。

スバル先輩どころか…レム先輩よりも身長が高くて、がっちりしてる。

 

「僕の名前は『ハサウェイ・ノア』君たちアリウスの『復興計画』の総責任者だ」

 

「ぁ……私は、立木マイア、です」

 

「マイアちゃんだね、よろしく」

 

男の人……ハサウェイさんは、おっきくてゴツゴツとした手を差し出してきた。

………………どういう事だろう。

なんで、手を差し出してきたんだろう。

 

「あっ、そう………か……ううん、なんでもない」

 

「………………?」

 

「それより事情を話すよ、そこに座って」

 

ハサウェイさんは、ニッコリしてから、木でできてるのに何故かピカピカしてる椅子を指差した。

 

その椅子は、ふかふかしていた。

全然固くなくて、少しだけビックリした。

 

「それじゃあ話すけど……………」

 

そう言って、ハサウェイさんは『事情』とやらを話してくれた。

 

ハサウェイさんは、どうやら『キヴォトスの外』からやって来た人らしい。

キヴォトスに来た理由はあんまり覚えていないらしいけど、たぶん、前やってたお仕事?に疲れて、どこか新しい場所に行きたかったから、らしい。

それから、トリニティ自治区で新しいお仕事を探してたハサウェイさんは、たまたまアリウス自治区に出入りしていた子を見つけた。

その子は傷だらけで、服もボロボロだったから、事情を聞こうとしたけど、銃を向けられた挙句に逃げられてしまった。

普通なら……それも、キヴォトスの外から来た人なら尚更、危ない目に合わない為にそのまま放っておくんだけど、ハサウェイさんはその子が凄く気になって、こっそり尾行してアリウス自治区に入った。

 

そして、アリウス自治区という場所を知った。

 

ハサウェイさんは、マダムのやり方が許せなかった。

だから、マダムが退学にさせた子とか、マダムに反抗する子を廃墟の奥に匿って、アリウスの外で会社を作って稼いだお金で、皆のご飯とかお水とかを用意してあげていた。

 

ハサウェイさんはそれから……どうにかしてマダムをやっつけようとしていたんだけど、ある日マダムは、突然()()()()()()

 

だから、今まで出来なかった………アリウス生徒たちを助ける為に、会社の人と協力してアリウス自治区復興計画を始めた。

 

…………………なんというか、すごい、話だ。

 

正直、頭が追いつかない。

でも………………

 

「ずっと………私たちを……助けてくれてたんだ」

 

「いいや、それでも僕は、君たちを完全に助ける事ができなかった………本当に、ごめんね………」

 

「あ、謝らないでください!だって、セイラちゃんもレム先輩も、ハサウェイさんが助けてくれたんですよね?なら……!」

 

ダメ。

さっきまで散々泣いたのに。

また、泣いちゃう。

 

「あの女の支配が終わり、外の世界で他の学園に転入した子たちがいる、彼女たちの中には、ようやく新しい場所で新しい幸せを掴んだ子だっているだろう……でも、マイアちゃんみたいに、外の世界に馴染めなくて、また居場所を失った子だっているんだ…だから僕は、このアリウスを君たちの居場所にしてあげたい」

 

「…………………ぅ…う…」

 

「僕はアリウスの生徒じゃない、それどころか君たちを助けてあげられなかった『大人』だ……それでも、僕は君たちを……助けても、いいかな」

 

「今まで、貴女に私の無事を教えてあげられなかったのは謝るわ、マイア……でもね、ハサウェイさんは、ずっとマダムの目から隠れながら私たちを匿ってくれたの……どうか、彼の事を信じてあげて頂戴」

 

セイラちゃんが、涙目になりながらお願いしてくる。

レム先輩も、珍しくガスマスクを外して真剣な表情で私を見ている。

スバル先輩も……………

 

「まだ、『大人』は信じられない、って気持ちも……正直あります……」

 

「!」

 

「でも、もしもハサウェイさんがいなかったら………もしかしたら………セイラちゃんは『消えてた』かもしれないんですよね………」

 

「…………………ええ、きっと」

 

「私、信じてみます」

 

今もまだ、私は大人が嫌いだ。

怖くて、酷くて、ズルくて、嘘つきで………

みんな、みんな私をイジメてきて。

 

だけど、目の前の大人の人は………

信じてもいいかな、って思う。

セイラちゃんやレム先輩を助けてくれた。

マダムがいなくなってから、すぐに来てくれた。

何も悪くないのに、謝ってくれた。

 

そしてなにより…………

ハサウェイさんの、目。

綺麗で、透き通っていて、濁っていない。

真っ直ぐで、ピカピカしている目。

 

今まで見てきた、どんな大人よりも綺麗な目。

 

アリウス分校。

 

私が育った場所。

 

私が耐えてきた場所。

 

私が『教え』を受けた場所………

 

そこが私の居場所になる。

それも、前みたいに痛くて、辛くて、苦しい場所じゃなく、みんなが幸せになれる場所に生まれ変わる。

 

そうなれるなら、私は……………

 

もう一度。

 

もう一度だけ……………




赤井セイラ、赤井レムは、ただのモブ姉妹です。

セイラはアリウス生徒の中では最弱レベルですが、レムは平均以上スクワッド未満くらいの強さです。

レムは3倍のスピードで動く事はできませんが、大体いつもガスマスクかグラサンをしてます。
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