シェリーの助手君   作:メリーさんのアモル

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第1話「最初の別れから再会までの物語」

 圧倒的強者から振るわれる理由のない暴力。

 あなたはそれに晒されていた。

 それでも、あなたはそれを苦にはしなかった。

 だって、あなたには大切な人がいたから。

 とってもとっても大好きな人。

 シェリー。

 彼女も一緒だと思えば耐えられた。

 思えば、男なら自分が盾に慣れれば本当は良かったのだけれど、あなたにはまだその力がなかったから。

 ただ、二人で耐えるしかなかった。

「助手君、今日も調査に向かいましょう!」

 理不尽な暴力に晒されている中でも、シェリーはいつも元気だった。

 シェリーはミステリ小説が好きだった。そして、シェリーは探偵になりたがった。あなたはシェリーさえ楽しければそれで良かったので、助手を名乗り出た。そうすれば自由時間を一緒にいられると思ったから。

 もちろん、シェリーとの共通の話題があるに越したことはない。あなた自身もミステリ小説を愛読していた。

 広いとは言えない施設の中をシェリーとあなたは歩き回った。不思議なことを見つけて、それについて考察する時間が楽しかった。

 施設の人間に怒られることは日常茶飯事だったけど、それが今更なんだと言うのだろう。元々多かったものがさらに増えるだけのことだ。

 暴力は嫌だったけれど、それさえ除けば、何と満ち足りた日々だっただろう、とあなたは思っていた。

 自由時間、大好きなシェリーを独り占めして、ずっと過ごせた。

「どうしたんですか、助手君。私のことをじっと見て。もしかして、何か不思議なことにでも気付きましたか!?」

「いや、なんでもないよ」

 けれど、シェリーが自分を異性として見ていないことは明らかだったから、あなたはシェリーに愛を告げることはしなかった。

 ずっと一緒にいられるなら、それで良かったのだ。

 

 やがて、その時間は終わりを迎えた。

 シェリーは新しい両親に引き取られ(たちばな)シェリーとなることになった。

「私達、これで離れ離れかもしれませんね」 

 別れ際、シェリーがそんなことを言った。

「もしかしたら、もう二度と会えないかもしれません」

 そんなことを言うシェリーはちっとも悲しそうではなくて、明るかった。

 尤も、シェリーが悲しそうな顔をしたとしても、それがシェリーの本心であると信用出来るほど、あなたのシェリーの理解は浅くなかったのだけれど。

 シェリーは激しい暴力を受けた末に、そう言う少女になってしまっていたのだ。

「それでも、あなたのことは忘れませんよ、助手君」

 だから、シェリーは最後まで笑って、新しい両親の元へ引き取られていった。

 どこまでがシェリーの本心なのかは、あなたには最後まで分からなかった。

 けれど、そんなことはどうでも良かったのだ。あなたがシェリーを好きと言う事実は、揺るぎないことなのだから。

 

 それから、幾ばくかの月日が流れた。

 あなたの元に里親を希望する人が現れた。

 それをあなたは受け入れた。

 だって、そうすれば施設の外に出られるのだから。

 もしかしたら、シェリーに会えるかもしれないのだから。

 施設に里親を希望しに来る人など滅多にいない。だから、一も二もなかった。選ばれたのなら、それは幸運なことだった。

 

 そうして、あなたは理不尽な暴力から解放され、外の世界に飛び出した。

 それから、中学に通いながら、シェリーのことを調べた。

 なんのアテもなかった。

 なんのツテもなかった。

 それでもあなたはシェリーを見つけ出し、会いに行くと決めていた。

「ボクは探偵の助手なんだ。これくらいの情報を見つけるくらい出来ないと、シェリーに顔向け出来ない」

 そう呪文のように呟きながら、寝る間も惜しんで、こっそりと布団の中でスマホを弄って、情報を探し続けた。

 

 そうして、中学も三年生になり、高校受験の事も俄かに話題になり始めた頃、あなたはようやく、シェリーらしき人間の情報を見つけた。

 SNSにアップロードされていたとある女子高生の自撮り写真。

 学校で撮られたその写真には一切に肖像権への配慮がなく、何人かの生徒が写り込んでいた。

 その中に、見えたのだ。青い髪に三つ編みを円形にまとめた髪型の少女。片目だけ見える瞳の色は、見間違えるはずもない琥珀色。

 シェリーだ、とあなたは思った。

 そうなれば話は早い。その写真をあげたアカウントと、そのフォロワーを調べればいい。

 そうして、ある学校に行き着いた。

 それが自分達のいる街から電車で一時間で行ける学校だったのは幸運という他ない。

 あなたは小躍りしたいくらい、その幸運に感謝した。

 

 金曜日の放課後。あなたはお小遣いを握りしめて、電車に乗り込んだ。友達と遊ぶから遅くなる、そう義理の両親に嘘をついて。

 本当はあなたには友達がいなかった。必要性を感じなかったのだ。だってあなたにはしぇりーさえいれば良かったのだから。

 友達付き合いなんて、シェリーを探すのに邪魔なだけだったから。

「友達か! それはいい。そんな事初めてじゃないか」

「えぇ、楽しんできなさい」

 義理の両親は高校受験生だと言うのに、その嘘に喜んだ。その様子にはちくりと胸が痛んだけれど、それでも、あなたにはシェリーの方が大事だった。

 あなたはシェリーらしき少女の通う学校の近くにまでやってきた。

 多くの中学生が、通学路を歩いている。

 あなたは校門前まで移動し、気付かれない程度に離れた角に身を隠した。駅で買っておいた新聞を開いて読んでいるフリをしながら、ちらり、ちらりと校門の様子を伺う。

 そうして、あなたはシェリーを待った。

 あとは、シェリーが既に下校しているかどうかの賭けになる。

 果たして、あなたは賭けに勝った。

 シェリーらしき少女が校門から一人で出てくるのを、あなたは確かに見た。

 生で見て、あなたは確信した。間違いなく彼女はシェリーだと。あなたの大切なシェリーなのだ、と。

 ならば、後は話しかけるだけだ。そのためにここに来たのだから、それ以外手はない。

 幸いなことにシェリーは一人だ。女の子は集団で行動する傾向にあるので、シェリーが一人なことには多少の違和感を覚えたが、むしろ今は幸いだった。

 けれど、けれど。

 いざ角から飛び出そうとすると、途端に足がすくんだ。

 もし、もし。

 シェリーが自分のことを忘れていたら?

 声をかけて、不審者だと思われたら?

 それはとてもとても恐ろしい可能性で、あなたは途端に怖くなったのだ。

 そうしているうちにシェリーは角の向こうに消えていく。

 あなたは態度を決めかねながらも新聞を読むフリをしながら、その後を追う。

 尾行術についてはミステリ小説で読んだから知っている。

 位置は対角線を意識しつつ、うまく相手の意識から外れるのだ。

 幸い、シェリーは振り返る様子もない。

 さて、後は自分が覚悟を決めるだけ、と言う時。

 何を思ったか、シェリーは唐突に走り出した。

 あなたは慌てて追いかけた。シェリーを見失うわけにはいかなかった。

 慌てて角を曲がると、そこにはにっこり笑顔のシェリーがいた。

「標的が走ったからと、慌てて追いかけるのは失策ですよ、助手君」

 ピンと指と立ててシェリーはなんと言うことはないかのようにそう言った。

 シェリーは、あなたのことを覚えていた。そして尾行にも気付いていたのだ。

「カーブミラーへの注意が足りていませんでしたね。カーブミラー越しに丸見えでしたよ」

 なんて助言までくれた。

 けれど、そんなことはどうでも良かった。

 あなたはシェリーと再会できたことが嬉しくて、そして何より、覚えていたことが嬉しくて、シェリーに抱きついた。

 そんなことをしたのは初めてのことだったが、あなたは止まれなかった。

「おぉ、びっくりしました。ふふ、久しぶりですね、助手君」

 シェリーはそんなあなたに驚きこそすれ不快感を示すことはなく、ただそう言った。

 この時は、まだシェリーもあなたも知らなかった。この再会がどうでも良かったと思えるほどの再会をする時がこの先また待っていると言うことは。

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