シェリーの助手君   作:メリーさんのアモル

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第2話「幸せの絶頂とそこからの転落」

「そうですか。助手君も新しいご両親が見つかったんですね、よかったですね」

 喫茶店に入って事情を説明したあなたにシェリーはそう言って微笑んだ。

 体躯も変わって大きくなっていたけれど、あの頃と同じあなたの大好きで大好きで仕方ない、シェリーだった。

 思わず涙が出そうになるくらい、それが嬉しくて、あなたは思わず俯いてしまった。

「どうしました? もしかしてご両親とうまくいってないんですか?」

 いつものように明るく、そう尋ねてくるシェリーに、あなたは首を横に振った。

「ううん。お母さんもお父さんもいい人だよ。今日もね、友達に会いに行くって言ったら、明るく送り出してくれたんだ」

「そうですか! よかったですね」

 シェリーは変わっていないな、とあなたは思った。こっそり人差し指でそっと目尻の涙を拭って、あなたはうん、と頷いた。

「それにしても、よく私を見つけられましたね」

 そんなあなたの様子にシェリーはなんということはない顔をして、そういえば、と話を切り替える。

「あぁ、それは……」

 話し出そうとして、あなたは悩んでしまう。どこまで真実を話すべきだろうか。

 外に出て行こうずっと探し続けてきた、と語れば流石に特別な感情に気付かれてしまうかもしれない、とあなたは思った。

「実は、SNSをみてたら、たまたまシェリーにそっくりな人を見かけたんだ」

 だから、あなたは少し嘘をつくことにした。

「へぇ、本当だ。私がチラッと写ってますね」

 照れたようにシェリーが頭を掻く。

「じゃあ、それを見て、ここまで探しにきてくれたんですか?」

「そうだよ。だって……」

 君が好きだから、と言えるわけはない。

「だって、ボクらは施設で仲良しの幼馴染。探偵と助手、でしょ?」

「幼馴染……」

 まるで思いもしなかったという風にシェリーが驚いた顔をする。

「あ、違った? ごめん。ボク勝手に……」

「いえ、私達は幼馴染ですよ。これからも仲良くしましょうね、助手君」

 失言したかと慌てるあなたに、シェリーが手を握ってくれる。

 

「では、助手君! 今日も事件を探しにいきましょう!」

 そうして、あなたとシェリーを巡る恋の物語が再び動き出した。

 土日には友達と遊びに行く、と言ってシェリーのいる街に行って、シェリーと街を駆け回った。

 平日には会える時間も少なかったので、流石に毎日会うとはいかなかったが、それでも連絡先を交換してチャットアプリで毎日やりとりをした。

【ねぇ、まだ進学先決めてないって言ってたよね】

【はい、まだなんです。両親からも早く決めるようにって言われてるんですけどね】

 ふと、あなたはそんな話を切り出した。

【だったらさ、一緒に煎夏(べいか)高校を目指さない? あそこなら、ボクらの住んでる中間くらいの位置で、お互いに通えると思うんだ】

 あなたがそのメッセージを送信すると、一瞬、シェリーからの応答が止まる。

【助手君と同じ高校ですか、楽しそうですね】

 ややあって、そんなメッセージが返ってくる。

 慌てて取り繕おうとしたあなたはそのメッセージにホッとする。

【でも、今調べましたけど、そこ、結構レベル高いですよ。私達で入れますかね?】

【そこは二人で頑張ろうよ】

【そうですね、頑張りましょう】

 こうしてシェリーとあなたは、街を駆け回るだけでなく、勉強会もすることになった。

 

「ごめん、ちょっと机に向かい続けるの疲れたよ。ボク、ちょっとストレッチ……」

「えぇ、もう疲れちゃったんですか? 助手君、体力が足りないんじゃないですか?」

「そりゃ、体力に関しては、シェリーには勝てないよ……」

「えへん、体力には自信ありますから」

 そうだ。シェリーは本当に体力がある。

 街を駆け回る時もいつも先に音を上げるのはあなたの方だった。

 あなたはそれが情けなくて、平日は勉強以外に筋トレや走り込みなんかも初めて体力をつけ始めた。

(シェリーの隣にずっと立ち続けるなら、シェリーが恥ずかしくない存在でいなくちゃ)

 そう、あなたはシェリーのためなら頑張れるのだから。

 だから、体力作りだって勉強だって、苦じゃなかった。

「ねぇ、シェリー。ここの証明が結局よく分からないんだけど……」

「仕方ないですね。いいですか、助手君。ここはまず……」

 シェリーも探偵を自称するだけあり地頭は良いので、勉強会はお互いに分からないところを教えあう有意義な時間になった。

「すごいよ、シェリー。もうこんなに単語覚えちゃったんだ」

「そうでしょう。シェリーちゃん可愛い大好き、えらいねすごいね天才、と褒めてくれていいんですよ」

「だ、大好きって……。え、えと。シェリーちゃん可愛い大好き、えらいねすごいね天才」

「えへへ」

 お互いにテストを出し合って採点しあったり、褒めあったり、とても充実した日々だった。

 なぜかあなたは赤面しながらシェリーを褒めることになったりもしたのだけれど。

 

「シェリー、誕生日おめでとう」

 夏休みに入る直前の七月二十九日。あなたはシェリーとささやかな誕生日パーティを開いた。

「ありがとうございます」

「これ、プレゼント、選んできたんだ」

 あなたはおずおずとラッピングされた箱を渡す。

「わぁ、ありがとうございます」

 雑にバリバリとラッピングを剥がすシェリー。

「これ……からくり箱ですか?」

「うん、ただ渡すのもつまらないでしょ。折角だから、謎を解いて開けてみてよ」

「ほほー。助手君から探偵への挑戦状というわけですね、受けてたちましょう」

 箱をジロジロと見回しながら、シェリーはあぁでもないこうでもないと箱を弄り回している。

 その様子がとっても可愛らしくて、あなたはこのプレゼント——まだ外箱だけれど——を選んで正解だった、と確信する。

「それにしてもこれ、自分で作ったんですか? 助手君、器用なんですね」

「まぁ色々調べながらだけどね。シェリーを探すのに比べたら簡単だったよ」

「私を?」

「あぁ、違うよ。えっと……」

「やっぱり、ずっと私の事を探してたんですね。そんな事だと思ってましたよ」

 シェリーちゃんには見通しなのです、とシェリーは誇る。

「開きました! 開きましたよ、助手君! 勝負は私の勝ちですね」

 そうして、そんな話をしているうちに、シェリーはついにからくり箱を開けることに成功していた。

「これは……虫眼鏡?」

「探偵といえば虫眼鏡でしょ。シェリーにきっと似合うな、と思って」

「ありがとうございます。嬉しいです」

 そう言って、シェリーはあなたに微笑んだ。

 

 それから夏休みが始まって、あなたは毎日のようにシェリーに会いに行った。

 街を駆け回ったり、勉強会をしたり。わざわざ書くほどのことではないけれど、たくさんの思い出ができた。

 文字通り、あなたは夏休みの間、シェリーを独り占めできて、あなたは幸せの絶頂にあった。

 この日々がずっと続けばいい、とあなたは思った。

 

 そして、月日は流れる。夏休みは終わり、二学期も秋休みも早々と過ぎていった。

 クリスマスも一緒に過ごした。

「今度はもっと自信作のからくり箱だよ」

「ほほう。解いてみせましょう」

 

「うぅ、不安だよ」

「あんなに頑張ったんですから、大丈夫ですよ」

 やがて二人はそれぞれの学校で願書を提出し、同じ高校で入学試験を受けた。

「シェリー、大問2の3って何にした?」

「私は、『ろ』の『あはれ』にしましたよ」

「あぁ、やっぱりそうだよね」

 休み時間の僅かな時間に答え合わせをするなどしていると、試験の時間でさえ、シェリーとの逢瀬のような気分だった。

「あれって妖精さんよね? 話しかけてる男、誰?」

「知らない。彼氏?」

「え、妖精さんに彼氏?」

 などという話題を密かに呼んでいた事は、シェリーもあなたも知らないことだ。

 

 そして、受験の結果発表の日。当然、あなたはシェリーと一緒に、番号が並ぶ発表の場を訪れた。

「やった、番号あったよ!」

 その番号を見た時、あなたは感極まって、またシェリーにハグしてしまった。

「おぉ。助手君は感極まるといつもこうですね。えぇ、私もありましたよ!」

 シェリーもそれを怒ることなく受け入れる。

 

 その後の冬休みはゆったりとした時間だった。

 もう勉強もしなくていいので、思う存分に街を駆け巡った。

 そうして過ごしている間に、四月。

【じゃあ、また明日。学校で】

【はい、また明日、学校で】

 そうチャットして、あなたはベッドに入った。

 明日からは高校生活。学校の中でもシェリーと一緒にいられる。それがどれだけ幸せな生活になるか、あなたは嬉しくて仕方なかった。

 

 翌日。

 シェリーは学校に来なかった。行方不明だった。

 

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