シェリーが目の前にいる。その事実だけで感極まりそうだったあなただったが、シェリーの側に三人も友達がいるという状況に、思わずフリーズしてしまっていた。
「あれ? 助手君、どうしたんですか?」
その様子にシェリーが首を傾げる。
「あ、分かりました! ハグですね!」
そして、嬉しそうにシェリーが両手を上げた。
「助手君、感極まった時はいつもハグしますもんね!」
ほーら、来ていいんですよー。とシェリーがぴょんぴょんと跳ねる。
確かに。周りに友達がいるというビックリ要素がなければあなたはきっとシェリーを抱きしめていただろう。そこに疑いはなかったので、あなたはシェリーに歩み寄り、抱きしめた。
「おや、助手君。今日はなんだか優しい感じですね」
そう言いながら、シェリーも抱き返す。
「そう言うシェリーも今日は随分優しい感じだよ」
「あぁ、それはちょっと事情がありまして……」
耳元で囁き合う二人。
「いきなりいちゃつくなですわー!」
その様子を見て、近くにいた少女が声を上げた。
「わわっ」
あなたは驚いてシェリーから離れる。
声の主を見る。緑を基調とした服を着た、金髪ツインテールの少女だ。確か、シェリーはハンナ、と紹介していただろうか。
「ハンナちゃん、折角シェリーちゃんと幼馴染さんが再会したところなんだから……」
もう一人の少女、白い髪の先端がピンクに染まった白を基調とした衣装の少女がそんなハンナに声をかけている。確か、シェリーがエマと紹介していた少女だ。
「それで、助手君は結局どうやってここに?」
「シェリーを探してて、それで、行方不明から返ってきた少女、二階堂ヒロさんの噂を聞いて、そこから……」
「つまり、私のこと、ずっと探しててくれたんですね。一度目に再会した時と同じように」
「そうだよ。それでようやくここに辿り着いたんだ。だってボクらたった二人の幼馴染なんだもの」
シェリーのまとめにあなたは頷く。そうだ。シェリーはたった一人の大切な人。自分にとってその心は一つだ。
「シェリーさん。あなた、こんな健気な幼馴染に心配されてやがりましたのに、ずっと一人で『高まりますねぇ』とか、騒いでたんですの!?」
「いやー、照れますね〜」
「褒めてねぇんですのよ!」
「あはは、シェリーらしいね」
シェリーの性格を考えれば、突然事件に巻き込まれれば、それはテンションが上がるだろう。そんなシェリーをあなたは否定する気にはなれなかった。
「この目で見たかったよ。微笑ましかっただろうな」
そんなあなたの言葉にハンナとエマは、あ、ちょっとこの人もズレた人だ、と感じたと言う。
「そ、そうだ。シェリー、こんなところに閉じ込められて、怪我とかはないの?」
「はい、二回死にましたー!」
「どう言うこと!?」
そこでふと、シェリーが心配になったあなたに、シェリーは元気一杯によく分からないことを言った。
「ヒロちゃんに会ったんだよね? ヒロちゃんからは詳しい事情を聞いてないの?」
「……そういえば、シェリーに会いたいばかりで、詳しい話は聞かずにきちゃったな」
「もー、助手君、ダメじゃないですかー、ちゃんと人の話を聞いて、情報を収集しないと。傾聴の姿勢が足りてないですよ」
「あなたのどこをひっくり返せば傾聴なんて言葉が出てくるんですの!」
やり取りを見ていて分かった。ハンナはシェリーと随分仲が良くなっている。気の置けない友人、と言って差し支えない様子だ。
ズキリ、とあなたの心が一瞬痛む。自分は、そこまでシェリーと仲良かったと言えるのだろうか。
「あ……」
その様子を見て、エマが小さく呟く。
「ん、どうしたんですか、エマさん?」
「ううん、なんでもないよ。そんなことより、事情を説明してあげるのがいいんじゃないかな」
「それもそうですね」
エマの言葉にシェリーが頷く。
「立ち話もなんですわ。食堂に参りませんこと?」
と言うハンナの一言で、四人は食堂に向かう。
そして、あなたに事情を説明する。
魔法のこと、魔女のこと、牢屋敷のこと、二階堂ヒロの魔法による影響、そして、黒幕のこと。
「え、えーっと。流石に情報量が多くてパンクしそう。シェリーに関する部分だけ掻い摘むと、シェリーは二度死んでいて、でもそれはなかったことになってて、今はその時の記憶も持ってる、ってこと?」
「客観的な事実を知っている程度ですけどね」
「なかったことになった、と言うのは違うかも。確かにそういう世界はあったんだよ。たまたまこの世界がそうならなかっただけで」
「エヴェレットの多世界解釈か。じゃあ、たまたまこの世界のボクがシェリーと再会できただけで、再会できなかった世界の方が多かったんだ」
エマの説明に、あなたは自分の幸運に感謝した。
「そんなことより、特筆すべきは名事件の数々ですよ、助手君。しかも、その殆どが私じゃなくて、エマさんが最終的に解決しちゃったんですよ」
「へぇ、てっきり殺人事件が起きると聞けば、シェリーが全部解決したものかと思ったよ」
すごいんだね、とあなたは感心する。
「ところで……」
ハンナがふと、と口に出す。
「やっぱりその……お二人は恋人ですの?」
「へ?」
「へ!?」
ハンナの言葉にシェリーによる疑問の声とあなたによる素っ頓狂な声が響いた。
「あ、あの、それは……」
あなたは言葉に窮した。事実だけを言えば違う。でもそうなりたかったはずだ、想いを伝えると決めていたはずだ。
「違いますよー」
けれど、あなたがどう言葉を返すか悩んでいる間に、なんてことのないようにシェリーは否定の言葉を口にした。
「あ……」
「私と助手君は幼馴染で、探偵と助手。そう言う関係で、恋人じゃありません」
言葉を挟む余地もなかった。シェリーは、自分との関係を一切否定した。
「あ、うん。ボクとシェリーは幼馴染で、探偵と助手。そう言う関係だよ」
あなたの心がズキリと痛む。分かっていたはずだ。シェリーが自分を異性としては見ていないと言うことくらい。
それでも、いざその事実が突きつけられると辛かった。
「で、助手君、助手君。助手君にこの謎が解けますか?」
そんな苦しみを知って知らずか、そう言って、シェリーは唐突に殺人事件の話を始めた。
密室の首吊り殺人だ。犯行現場では直前まで魔法儀式のテストに使われており、死亡推定時刻は絞り込まれている。しかし、その頃にアリバイがあった人物が圧倒的に多数だ。
「シェリー、足怪我したの!? 銃を持った相手に殴りかかるなんて無茶を……」
「相手の右腕も使えなくさせてやりましたからおあいこですよ」
「そうかなぁ。ところで、ハンナさんがなんか妙な表情してるけど本当にこの話を続けて平気? ってかこの被害者って……」
「まぁ、それはいいじゃありませんかー。この当時生きてた容疑者はこのメンバーですよ」
そう言って、シェリーはスマホからアプリを呼び出し、女の子が並べられた一覧を見せてくれる。
「これ、ノックスとヴァン・ダインには遵守してるの?」
「あー、ちょっと破ってるかもですね?」
「じゃあ、犯人はシェリーだよね」
「え、もうトリック全部分かっちゃんですか?」
「いや、当て推量から入ったけど。シェリーならまずは自分の起こした事件を誇るかなって」
「流石幼馴染ですわね、シェリーさんのこと、よく分かっていらっしゃいますわ」
「でもそこから考えたら、トリックは概ね分かったよ。シンプルな入れ替えトリックだね。足は自分でやったの?」
「はい! 完全犯罪のためには避けられなかったんです」
「よくやるなぁ」
でも、あなたが気になったのは、それ以上に、シェリーがなんのためにそんな殺人をしたのか、だった。
どうも被害者はハンナのような気がする。当時からハンナとシェリーは仲が良かったはずだ。仲が良かったからこそ、致命的な決裂が生まれるという事もあるだろうが、それなら今も仲は悪いままのはず。
「お、その顔は
そう、あなたにはシェリーがなぜそれをしたのかだけが分からなかった。あなたはシェリーの理解者のつもりだったのに。
それがどうしようもなく、悔しかった。
「私はですね、ハンナさんとの約束を守ったんです」
「約束?」
「はい。ハンナさんが、自分が魔女になるくらいなら……」
「ちょ、恥ずかしいからおやめなさい」
語る言葉はハンナに遮られた。
「んー、何するんですかー」
「まぁ、だいたい分かったから大丈夫だよ」
つまり、シェリーはハンナのためにハンナを殺したのだろう。それで自分が処刑されることも厭わずに。
もし、自分がハンナの立場にいたら、シェリーは自分のために殺害を犯しただろうか。
自分は今、ハンナより大事にされていないのではないか、あなたは今、そんな不安に駆られていた。
「……」
そしてその様子をじっと見つめるエマの姿があった。