シェリーの助手君   作:メリーさんのアモル

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第5話「エマの反論」

 あなたはシェリーに連れられ、牢屋敷を案内してもらっていた。

「ここが最初の殺人事件の現場だったんです! 現場は一面が白いペンキに塗られ、足跡はなし。胸はクロスボウの(ボルト)で撃ち抜かれ、ボルトはそのまま白いペンキで塗られた床の上に落ちていました。さぁ、助手君にこの謎が解けますかー?」

「流石に情報が少なすぎるよ。質問しても良い?」

「いいですよー。水平思考ゲームの要領で行きましょうー」

 どこへ行っても、だいたいシェリーは殺人事件の話をしていた。

 あなたはそれに付き合って、推理を披露するなどした。

「うーん、なかなかの難問だった。二階から落としたんだろうって分かるところまでは早かったと思うんだけどな」

「いやー、いい線いってたと思いますけどね。流石の助手君でも真相にたどり着くのは難しかったですかー」

 一行は中庭を離れ、ゲストハウス・ウンディーネの間へと向かう。

 シェリーが気楽にいろんな事件の話をするものだから、あなたはすっかり楽しくなって、そこに現実の加害者と被害者がいる事件であるということを忘れそうになっていた。

「助手君、このエレベータでも、殺人事件が起きたんですよ!」

 そういって、シェリーが事件の話を始めると、少しずつハンナの顔が青くなっていく。

「エレベータの定員が事件の鍵だね。二人ずつしか乗れないエレベータか」

 ちなみにエレベータの定員は、脱走などを防止するために意図的に低く設定されていたものだったので、現在は四人で乗ることが出来ている。

「うーん、普通に考えると二つの死体を同時にエレベータ内には隠せないよね、ヒロさんだってそれが理由でエマさんの死体を外に運び出したんだし……」

 あなたもシェリーもそんなハンナの様子には気付かず、推理ゲームを続けてしまう。

「二人とも、ちょ、ちょっとやめようよ」

 そんな二人の楽しげな光景にエマが割り込む。

「エマさん?」

「ハンナちゃんが苦しそうだよ……」

「! すみません、ハンナさん。私、そんなつもりじゃ……」

 エマの指摘にようやくハンナの青い顔とその理由に思い当たったシェリーが謝罪する。

 その様子を見て、あなたはやっぱりハンナはシェリーにとって大切な存在になっているのだと、更に認識を強める。

「……」

 その様子を見て、エマは一瞬逡巡してから、更に言葉を発する。

「シェリーちゃん、ハンナちゃんを医務室に連れて休ませてあげようよ。案内はボクが続けるから」

「え? エマさんが助手君と二人っきりで案内するんですか?」

 エマの思わぬ提案にシェリーが驚いたように聞き返す。

「助手君は私の助手君なのですから、私が案内した方が良いと思うのですが……」

「え、えっと、ボク、丁度、聞きたいことがあったんだ。ほら、外でヒロちゃんと会ったって言うから、その時の事とか」

「なるほどー、そういうことでしたか。で、あれば少しの間、助手君をお願いします」

 行きましょう、ハンナさん、とシェリーがハンナに肩を貸して、到着したばかりのエレベータを引き返していく。

「シェリー、昔ならハンナさんくらい担いで移動できただろうに、本当に魔法が使えなくなったんだね……」

「ごめんね、本当はシェリーちゃんといたかったよね?」

「いや、ハンナさんの様子も気になるし、ハンナさんもシェリーと一緒の方が安心出来るだろうから」

 それは丁度、自分がシェリーと一緒であれば安心なのと相似しているはずだ、とあなたは思った。

 通路を抜けて、管理室に入ると、そこには先客がいた。

「あらー、エマちゃん。男連れだなんて隅に置けないわね。ヒロちゃんがいない間に彼氏を作って浮気?」

 黒髪をショートボブ程度に切りそろえた紫を基調とした服の少女。これまでの推理ゲームの中で名前だけは知っていた。宝生(ほうしょう)マーゴだ。

「ち、違うよ。この人はシェリーちゃんの幼馴染で……」

「冗談よ。島に入ってきた時点で話題になって、ココちゃんが配信で話してたから知ってるわ。シェリーちゃんの助手なのよね?」

「はい、シェリーの助手をさせていただいてます。マーゴさんですよね? よろしくおねがいします」

「えぇ、よろしくね」

 あなたの挨拶にマーゴは美しく微笑んだ。

「ところで……、やっぱりシェリーちゃんと付き合っているのかしら?」

 それは本日二度目の問いだった。だから、答えるのは容易かった。

「違います。ボクとシェリーはそういう関係ではありません。ただの探偵と助手です」

 ただの探偵と助手。自分の発した言葉がズキリと自分の心を苛む。

「……」

 エマはその言葉をしばし黙って聞いていたが。

「駄目だよそんなの」

 と口を挟んできた。

「え?」

「大切な幼馴染なんでしょ? それをただの探偵と助手、だなんて矮小化しちゃ駄目だよ。シェリーちゃんだって、君の事をただの探偵と助手だなんて思ってないはずだよ」

 真剣な眼差しでエマが告げる。

(シェリーちゃんが助手君の事をただの助手だなんて思っていない証拠、それは……!)

 エマはスマホを取り出して、一枚の写真を提示した。

「それは……虫眼鏡? ボクが誕生日に送った……」

「うん。シェリーちゃんはね、魔法を失って牢屋敷での束縛義務がなくなったその日、真っ先に没収されていたこの虫眼鏡を返して欲しいって嘆願して、取り返してたんだ。シェリーちゃんの衣装には、衣装に合った虫眼鏡が別に用意されていたのに、だよ? これって、この虫眼鏡がよっぽど大切じゃないとおかしいよね?」

「シェリー……」

 あなたはエマの提示した証拠に思わずジーンときてしまう。誕生日に贈ったプレゼントをそんなに大切に思ってくれていたなんて。

「一度目にハンナちゃんに恋人なのか聞かれた時だって、恋人であることは否定してたけど、助手だって言う前に幼馴染だって事を先に言ってた。

 それに、さっきだって、いつもなら素直にハンナちゃんを優先するところを、一回は君を放置する事を嫌って反論していたよね。シェリーちゃんは君のことをただの助手だなんて思ってない。大切な幼馴染だと思ってるはずだよ」

「そ、そっか。ありがとう、エマさん。そこまでボクとシェリーの事を気にかけてくれて」

 自分達にそんなに気をかけてくれるなんて、とあなたはお礼を言う。

「ううん、いいんだ。ボクにも大切な幼馴染がいて、一度は仲違いしちゃったんだ。それで、もう一度関係を修復できるかもってところまで行くのにも長い時間がかかっちゃった。君とシェリーちゃんには同じようなことになって欲しくないんだよ」

「エマさんの幼馴染……、そっか。そうなんだ。うん、ありがとう。気をつけるよ」

 エマの言葉であなたは幾分救われた気持ちになった。

「へぇ、流石エマちゃんね。私のやりたかったこと、取られちゃったわ」

 その様子にマーゴが妖しく微笑む。

「でも、一番肝心なところを聞けてないわよねぇ?」

「マーゴちゃん!? ま、まだそれは早くないかな?」

「結局、探偵さんの助手さんは、探偵さんのことを好きなのかしら?」

 そう言って、マーゴはあなたの心へ踏み込んでいく。

「好きだよ。大切な幼馴染だもの」

 エマに説得されてシェリーへの想いを再認識したあなたは迷わず返答した。しかし、マーゴはそれでは納得しなかった。

「うふふ、それは友達としてライク(好き)ってことよね? 分かっているんでしょう? 私が聞きたいのは、そうじゃなくて、異性としてラブ(好き)なのか、ってことよ」

 マーゴの視線は妖しく、しかしまっすぐで、あなたは逃げられない。

「ぼ、ボクは……」

 シェリーを恋人にしたいと思っているのか、改めて問いかけられると分からなくなってしまった。だって、今のままで充分居心地が良い。それを告白してそんな想いを抱くことで壊してしまいたくない。

「素直になって……。じゃないと、シェリーちゃんがどっちを選ぶかはまだ分からないんだよ」

 エマも観念したようにあなたに助言する。

 言いたい事はあなたにもよく分かった。今のままで居心地が良いのは、今だけの話で、この先は分からない。今、心を決めなければ一生後悔するかもしれない。きっとそう言いたいのだ。

「ボクは、好きだ! 異性として、恋人にしたい!」

 あなたは意を決して自分の想いを言葉にした。それが偽らざる本心だと、最初からあなたは分かっていた。

 そのタイミングで、管理室の扉が開いた。

「ハンナさんは一旦ナノカさんにおまかせしてきました。やっぱり助手君をエマさん一人におまかせするの……は……」

 シェリーであった。

「シェリー!?」

「シェリーちゃん!?」

 突然のことにあなたは驚愕する。エマも同様のようだ。

「あ、すみません、私お邪魔だったみたいですね」

 何を思ったか、シェリーが一歩後退る。

「ま、待ってシェリー」

 あなたが一歩シェリーに踏み込むと、シェリーは一歩下がった。そのまま、エレベータに戻っていく。

「シェリー!」

 あなたは駆け出したが、エレベータが閉まるのには間に合わなかった。

「うふふ、面白くなってきたわね」

 その様子をマーゴは一人で微笑むのだった。

 

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