シェリーの助手君   作:メリーさんのアモル

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第6話「告白」

 エレベータが戻ってくると同時、あなたはエレベータへ駆け込んだ。エマとマーゴもそれに続く。

「きっと大丈夫だよ。手分けして探そう? 見つけたらすぐ教えるから。これ、連絡先」

 エマがあなたに連絡先を教えてくれる。

 あなたは頷いて、エレベータが地上に到達するのを待つ。

 遅いエレベータの移動に、気分が焦れる。

 エレベータが到着する。

「ボクは牢屋敷の一階を探してみる」

「なら、私は二階を探してみるわ」

 エマとマーゴがそう言ってくれる。

 まだ牢屋敷には完全に慣れていないので、牢屋敷を探してくれるのはあなたとしても助かった。

 あなたは牢屋敷の外を探しに走り出した。

 

 やがて、湖のほとりで、あなたは見覚えのある髪型の後ろ姿を見つける。

「シェリー!」

 あなたはスマートフォンでエマに発見の報告を入れてから、速度を緩め、シェリーに近付く。

「いいんですか、私に構っていて。エマさんのこと、異性として好きになったんですよね?」

 シェリーの声はこれまでに聞いたことのない冷たさを帯びていた。

「違うよ、そんなわけない。あの言葉は、エマさんに向けたものじゃないよ……」

 その言葉にあなたは首を振りながら、また一歩踏み出す。

「そうなんですか? じゃあ、マーゴさんの方でしたか。助手君の好みを読み違えましたかね」

 いつものようにふざけたような声色。でも、どこか拒絶の意図が混じっているのを感じる。

「何を言ってるの。シェリーほどの名探偵が、あの言葉が誰に向けられた言葉か分からないわけないよね。あの言葉は、ボクがシェ……」

「嫌です」

 言い終わる前に、シェリーの拒絶が待っていた。

「シェリー?」

「その続きを聞くのは、嫌です」

 そう言うと、シェリーはその場から逃げ出すように駆け出した。

「待って、シェリー!」

 シェリーは何も言わなかった。いつもなら、「捕まえてごらんなさいなー」とかそんなふざけた言葉が聞こえてくるはずなのに。

 でも、シェリーの走る速度は追いつけないほどじゃない。あなたも駆け出して追いかけ始めた。

 広い広い牢屋敷の外。そこをシェリーとあなたは走り続けた。

 やがて、シェリーが倒れた。疲れからか足をもつれさせたらしい。

「シェリー!」

 あなたはシェリーに駆け寄ろうとして、疲労により転倒。シェリーの隣に倒れ込んだ。

「あはは、魔法が使えなくなると、私、助手君と体力、そう変わらないんですね」

 そう言って、シェリーが笑った。いつものような明るい声だった。

 シェリーがごろんと仰向けになる。

「見てください助手君。虹が綺麗ですよ」

 言われて、あなたもシェリーの隣で仰向けになる。確かに、虹が青空によく映えて、綺麗だった。

「助手君、私達、あの施設で一緒に育ちましたよね?」

 ややあって、ぽつり、とシェリーは語り出した。

「あそこは酷い場所でした。何も感じなくなるには十分でした」

「そうだよね、シェリーはあの場所でそう言う少女になった」

「やっぱり、助手君にはバレてましたか」

 テヘッ、とシェリーが笑う。

「助手君。私、助手君のことは大切な幼馴染だと思ってます。そう信じたいです。でも、だからこそ、助手君の言葉を聞きたくないんです」

「どう言うこと……?」

 あなたは聞き返す。今なら、話してくれると思った。

「私は痛みも何も感じない少女です。もし、助手君の告白を聞いて、私が何も感じなかったら……? そうしたら、助手君のことを大切な幼馴染だって思っていたことも嘘ってことになるんじゃないかって……」

「シェリー……。それは恐怖だよ」

 あなたは冷静にシェリーに告げる。シェリーは完全に人間らしさを欠落した少女なんかではない、とあなたは再確認した。

「恐怖……。そうなのかもしれません。助手君、私は怖いんです」

 シェリーは思ったよりすんなりと、その言葉を受け入れた。シェリーも内心では、どこかこの心の動きはシェリーにとっての正常とは異なるものなのだと感じていたのかもしれない。

「助手君から大切な幼馴染だと言われた時も、高校に誘われた時も、いつか、この時が来ると思って、私、悩んでしまいました。おかしいですよね、何も感じないはずなのに」

 だから、あの時、間があったんだ、とあなたは頷く。

「でも、きっと大丈夫だよ」

 あなたはそんなシェリーを安心させるように優しく声をかける。

「もし、シェリーがボクの告白に心を動かさなくても、幼馴染であることは変わらないよ」

 そう言って、シェリーが大事そうに虫眼鏡を掴んでいる右手に手を添える。

「だって、シェリーはずっとこの虫眼鏡を大事にしてくれてたんでしょ? その気持ちは嘘じゃないはずだよ。ボクとシェリーが恋人になれなくても、ボクがシェリーの幼馴染で助手であることは、きっと変わらないよ」

「助手君……」

 あなたの優しい言葉に、シェリーは小さく頷いた。

「でも、恐ろしいことはまだあるんです」

 しかし、シェリーはそう言って、言葉をさらに続けた。

「助手君、私達、あの施設で一緒に育ちましたよね?」

 それはさっきと同じ語り。

「あそこは酷い場所でした。家族とか家庭とか、そんなものを信じられなくなるのには十分でした」

 けれど続く言葉は少し違った。

「うん。そうだったね。正直ボクも、まだ今の家族と十分に馴染めてるとは言い難いよ」

「そうですよね。なんだか、家族って言われても、家族ごっこをしているような気分で、家族を信じられないんです。家族ごっこを嫌い、と言ってもいいかもしれません」

 そっか、とあなたは頷き、そして続けた。

「まぁ、実はシェリーが家族とうまくいっていないんだろうな、とは知ってたよ」

「え?」

 だって、シェリーは、再会した時、真っ先に自分と家族がうまくいっていないのではないかと心配してくれた。それは、自分がうまくいっていない裏返しではないか、と少し気になっていたのだ。

 シェリーはそうでしたか、と頷く。

「助手君。もし、もしですよ? 助手君が私に告白して、私が了承して、恋人になったら。いつかはきっと、結婚しますよね?」

「そうだね、もしボクがシェリーに告白するなら、きっといつかそうなって欲しいと思うと思う」

「でもそれは、私と助手君が家族になる事を意味します」

「あっ……」

 あなたにはシェリーの言いたいことが分かった。

「その時、私は助手君との家庭を信じられるんでしょうか」

「確かにそれは、恐ろしい想像だね、シェリー」

 だから、あなたはシェリーの言葉に頷く。それはきっとどこかで家族を信じきれない、あなたも同じことだったから。

「でも、それなら大丈夫だよ。シェリー」

「え?」

「ボク、シェリーと結婚出来なくてもいい。いつか、シェリーが心から家庭を信じられると思った時に、ボクと結婚してくれればいいから。その時が永遠に来ないなら、永遠に恋人のままでいいから」

「助手君……」

「だから、シェリー」

「ま、待ってください、助手君。私、まだ……」

 あなたの真剣な眼差しに何かを悟ったのだろう。シェリーは心の準備が出来てない、とばかりに硬直する。

「もう待たない。シェリー、好きだ。ボクと恋人になって欲しい」

「助手君……!」

 シェリーが少し頬を赤くする。

「どうかな? やっぱり何も感じない?」

「分かりません。でもなんだか、心の奥から不思議な気持ちが湧き上がってきます。もう少しだけ、もう少しだけこの気持ちを確かめたい。助手君、付き合ってくれますか?」

「勿論。ボクはシェリーの助手で、恋人なんだから」

「ちょっと、まだオッケーって言ってませんよ」

 あなたの言葉にシェリーが笑って抗議する。

「じゃあ、ダメなの?」

「ダメじゃないです。この気持ちが恋じゃないと分かるまでは、恋人でいましょう、助手君」

 なんだそりゃ、と二人で笑いあう。

「ねぇ……、助手君?」

 シェリーがためらいがちにあなたに声をかける。

「何、シェリー」

「私達、恋人になったんですよね?」

「そうだよ」

 さっき自分がそうオッケーしたんだろうに、とあなたが笑う。

「けど、今のままじゃ何も変わってないですよね」

「まぁ、関係性のラベルを張り替えただけ、みたいなものだからね」

 こう言う考え方がお互いよくないんだろうな、と思いながら、あなたは返事をする。

「少しだけ、行動してみませんか? 何かちょっとだけ、恋人っぽいことを」

「……じゃあ、手でも繋ぐ?」

「そうしましょうか」

 立ち上がって、お互いに手を差し出し、そしてお互いの手を握る。

「いやー、なんか照れますねぇ」

「そうだね」

 施設でずっと過ごしてきて、一年、中学三年生を過ごして、手を握るなんて、その間一度もなかったことだ。

「な、なんだか、気合いが入ってきました! 助手君、走りましょう! ハンナさんにも報告したいですし!」

「え、ちょ、ボクまだ疲れて……」

 シェリーが駆け出す。手を繋いでいるから、あなたはそれに引っ張られるように走り出す。

「うふふ、若いって良いわねぇ」

 その様子を影で見ていたマーゴがそう言って微笑んだ。

「いや、マーゴちゃんも同い年だよね」

 同じく影で心配そうに様子を伺っていたエマが突っ込む。

 

 ややあって、シェリーとあなたは牢屋敷を出て日常生活へと戻っていった。

 二人揃って同じ高校へ恋人として通った。

「ねぇ、シェリー。高校を卒業したらさ。一緒に探偵事務所を開かない?」

「良いですね! やりましょう!」

「うん、ボク、高校の間に頑張って開業資金を貯めるよ」

「助手君だけにがんばらせたりしませんよ。二人で頑張りましょう」

 そうして、二人は幸せな高校生活をおくったのでした。

 

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