「今、助手君が上げてくれた証拠が全てです。そういうわけですので、犯人は、トレバーさん、あなたです!」
あなたに背中を預けたシェリーがビシッと犯人に指を突きつける。
「く、クソ、まさかバレるなんて……」
指摘された犯人が同様するように一歩後退る。
「それは自供と判断していいのかな?」
あなたとシェリーによって集められていた関係者のうちの一人である
「よ、寄るな! くっ
犯人はポケットからバタフライナイフを取り出し、麗土を威圧する。
「それは! 凶器の刃物! やはり未だに持っていましたか! 麗土さん、彼を逃さないでください! それは動かぬ物証になります!」
「ちくしょう、いちいちウルセェ女だ! まずはテメェから黙らせてやる!」
シェリーの言葉に麗土が反応するより早く、犯人が動く。
バタフライナイフをかざし、シェリーに迫る。
「哀れな人ですね。私を殺しても、逃げられるわけないのに」
しかし、シェリーはその犯人を前に、一歩も怯まず、動じなかった。
「シェリーには触れされない」
そして、犯人のナイフがシェリーに触れるより早く、あなたが動いた。
振り翳されたナイフを持つ手首を掴み、そのまま流れるように犯人を投げ飛ばす。
「がはっ!?」
地面に激突し、肺の空気を全て出すしかなくなった犯人。
「十四時三十二分。最低でも傷害の現行犯で逮捕だ」
その犯人に麗土が近づき、その手に手錠をかける。
「いやぁ、シェリーさん。今回もお世話になってしまいました」
そういって、麗土が二人に笑いかける。
「構いませんよ、難事件あるところに探偵あり。それが当然のことですから」
それに対し、シェリーは笑顔で返す。
シェリーとあなたが二人で高校生活に戻ってから、あっという間に三年の月日が流れた。
高校に戻る直前に話していた通り、シェリーとあなたは高校卒業と同時に探偵事務所『橘探偵事務所』を開業。
猫探しから浮気調査、果ては難事件の解決まであらゆる仕事を請け負った。
「ハンナさーん、ただいま戻りましたよー」
「ただいま、ハンナさん」
そして、橘探偵事務所にはもう一人メンバーがいた。
「あら、おかえりなさいまし」
シェリーの大親友、
「事件は解決しましたの?」
「バッチリですよ、今回もこの私がズバッと解決しちゃいました!」
「いや、シェリーは相変わらず推理がぶっ飛ぶから、方向性を戻すのに苦労したよ」
シェリーは頭が良いし、大変に勘が鋭い。だが、頭の回転が早すぎるためか、時折推理が変な方向に飛躍してしまうことがある。そこで、あなたは必要に応じて推理の間違った部分を指摘し、正しい方向に修正する必要があった。
けれど、そのコンビネーションは最高で、最終的にはいつも事件を解決に導いてきた。
シェリーとあなたはこうして二人で行う推理をとあるミステリゲームのシステムからとって「共同推理」と呼んでいた。
「まぁ、いいじゃないですか、どちらにしても、事件は無事解決したんですから」
「ま、それはそうだね」
さて、ハンナがここにいる理由についても説明が必要だろう。
「それで、ちゃんと褒賞は出るんでしょうね?」
「あ、聞いてませんでした」
「そういえば事件解決で満足して聞いてないね」
「はぁ、あなたたち、またですの?」
二人で探偵事務所を始めたシェリーとあなただったが、何を隠そうこの二人、経営というものとはとことん無縁であった。
会計に関してザルどころかどんぶりもいいところであり、折角の二人の「共同推理」も台無しというレベルであった。
シェリーの大親友であるハンナはそんな様子を見るに見かねて、橘探偵事務所に事務員として入ることにしたのだ。
「ま、まぁ、また捜査特別報奨金が入るんじゃないかな、多分」
「多分そうですよねー」
「あぁ、もう。担当は麗土警部ですわね? 電話で確認しますわ」
事務所用固定電話の受話器を取り外して、プッシュボタンに手をかける。
「ねぇ、助手君。そんなことより、事件も解決したんですし、キスしましょう! キス!」
「もちろん、いいよ」
二人は殺人事件の調査中はキスをしないというルールを定めていた。ちょっと不謹慎だとあなたが感じたからだ。
なので、事件が終わると、必ずシェリーはあなたにキスをせがんだ。
チューと唇を重ね合わせる二人。
「人が仕事してるのにいちゃつくなですわ!!」
ダンと、ハンナが机に手を叩きつける。
「えー、もうすぐ夫婦になるんだからいいじゃないですかー」
シェリーが不満そうに反論する。
「事件の調査中だけじゃなくて、仕事中もキスするのは控えてくださいまし」
「じゃあハグしましょう、ハグ!」
「いいよ、シェリー」
「だから!!」
という調子でシェリーが無自覚にボケ倒すので、ハンナが実際に電話をできたのはもう少し先のことになった。
「あ、そういえば、今日、行きがけにノアさんとアンアンさん、マーゴさんからも招待状の返信が来てたのを見たよ。これで、牢屋敷のメンバーは全員だね」
ふと思い出したようにあなたがそんなことを呟く。
「あら、そうですの。なら、来月は久しぶりに牢屋敷メンバーの同窓会ですわね」
「そうですねー、そうなってくると一人足りないのが寂しく思えてきますが……」
「ボクは会ったことないからなんとも言えないけど、苦楽を共にした十三人なんだもんね、全員揃わないのは、少し寂しいよね」
「はい、助手君にも紹介したかったです」
そして、それから一ヶ月後。結婚式場。
あなたが祭壇の前に立っている。
「それでは、新婦の入場です」
シェリーが義理の父親に連れられながらバージンロードを歩いてくる。
純白のウェディングドレスで着飾ったシェリーは本当に綺麗で、あなたはここに立っているのが自分でよかった、と心から思った。
「本日、私たちは、ご列席くださった皆様の前で夫婦の誓いをいたします」
シェリーとあなたは声を合わせて、事前に決めておいた誓いの言葉を口にする。
「私はシェリーさんを生涯の妻とし、どんなに仕事が忙しくても、ふたりの時間や記念日を大切にすることを誓います」
あなたの誓いが紡がれる。
「私は助手君を生涯の夫とし、どんなときでも笑顔を忘れずに、どんなときでも感謝の気持ちを忘れないことを誓います」
シェリーの誓いが紡がれる。ハンナがちょっとそこは名前を呼ぶところですわよ!? と焦っていたが、些細なことだ。
「私たちは、これからなんでもふたりで話し合い、協力し合って、笑顔あふれる明るい家庭を築いていくことをここに誓います」
そして、二人の誓いが改めて紡がれる。もう、家庭に恐怖を怯える二人はいない。
指輪を交換し、あなたはシェリーのベールを上げて、誓いのキスをする。
もうずっと一緒だ。絶対に離さない。二人はキスをすると同時に、そう誓った。
結婚証明書にサインをすれば、もう挙式は終わりだ。
振り向いた二人の笑顔の前には十二人の大切な友人と両親達。そして、あの事件以降に知り合った友人達。
全員から祝福の言葉と拍手を受けながら、二人は退場する。
やがて、披露宴の時間が来る。
「それでは、新郎新婦の入場です。二人の顔が見えたら、皆様どうぞ大きな拍手でお迎えてあげてくれたまえ」
司会を任せた
「改めまして、司会を任せていただきました。蓮見レイアです」
改めてレイアが華麗にお辞儀をする。
「それでは、新郎新婦の紹介をさせていただきます。ここにいる皆さんは高校時代以降の友人が多いと思うので、二人の片方しか知らないという方はいらっしゃらないかもしれませんが、一応ね」
「やっぱりレイアさんに任せて正解でしたね。司会に澱みがないです」
「だね」
レイアの澱みない司会進行を聞きながら、シェリーがあなたに耳打ちする。あなたもその言葉に頷くしかない。
レイアといえば今をときめく有名な芸能人だ。それが自分達の司会を勤めてくれるなんて、何度考えても驚きでしかない。
「二人は同じ施設で育ちました。ずっと探偵と助手として二人で生きてきた。一度はそれぞれ違う里親に貰われ、別々になりましたが、二人は再会しました。さらに高校入学直前、更なる悲劇による離別が二人を襲いましたが、それも乗り越えました。そして、その離別が二人の絆をより深くしました。二人は恋人になったのです」
レイアの紹介は続く。
「そこからはご存知の方も多いでしょう。恋人となった二人は高校時代を共に生き、そして今や橘探偵事務所という日本でも有数の有名な探偵事務所の探偵と助手となりました」
そうして、レイアは再び華麗にお辞儀をする。どうやら紹介は終わりのようだ。
「では、続いて、主賓の挨拶を。麗土君、ハンナ君、頼むよ」
新郎の主賓としては麗土に頼んだ。あなたにはあまり親しい友人がいなかったので仕方なかった。
続いて、新婦側の主賓は、ハンナ。緊張した様子で挨拶を述べる。
「と、とにかく、おめでとうですわ!!」
「では、乾杯と行こう。乾杯の音頭をとってくれるのは、二人の仲を取り持とうと苦慮してくれたエマ君だ!」
「え、えーっと。乾杯!」
エマの言葉に合わせて、一同がグラスを掲げる。
「続いて新郎新婦の二人には大切なセレモニーを行っていただこう。ケーキ台の前へご移動頂き、 二人によるケーキ入刀、ファーストバイトを行うよ」
シェリーとあなたはケーキ台の前に立ち大きなケーキに向き直る。
「それでは! 参りましょう。新郎新婦によりますケーキ入刀です! お願いします!」
レイアの号令に合わせて、二人でケーキに刃を入れる。
そして、カットした最初の一切れをお互いに食べさせ合う。
「んー、新郎だけスプーンが大きいのはやっぱりずるいです」
なんてこっそり言いながら、二人は微笑ましくケーキを食べさせ合う。
なおハンナだけは、「いつもの光景ですわ」とちょっと冷ややかだ。
そして、歓談とテーブルラウンドの時間。
あなたとシェリーは特に十二人と友人と言葉を交わした。
「シェリーちゃん、助手君。おめでとう。あの時勇気を出して助手君を説得してよかった」
そう言って、エマは泣いた。
「シェリー、それに新郎君。おめでとう。新郎君に尾行されて引っ張り出した時のことを思い出すよ。あの時、君を牢屋敷に案内したのは正しかった。この挙式を見て、そう思えたよ」
そうヒロは言った。
「……。【幸せになれ】」
静かに、アンアンは言った。もう魔法はないけれど、その想いは伝わった。
「えへへ、おめでとう二人とも。二人のために絵を描いたよ。もらって欲しいな」
ノアはそう言ってイラストを一枚差し出してくれた。
「やぁ、シェリー君、助手君。司会、問題なかったかい? 頼んでくれて光栄だよ」
レイアはそう言ってウィンクした。
「あはは、おめでとう〜。おじさん、それ以外に祝福を告げる方法を知らないや。本当におめでとう〜」
頬を描きながらミリアは笑った。
「おめでとう、シェリーちゃん、助手ちゃん。たくさん面白いところを見せてもらったわ。これからも仲良くね」
マーゴは相変わらず妖しく笑っていた。
「橘シェリー、おめでとう。まさかあなたが一番に結婚するとは思ってなかったわ」
「橘、それに助手も。めでたいな。お前らにはたくさん救われた。お前らも幸せになれよ」
ナノカとアリサがそう言うのに、シェリーはもう橘じゃないですけどね、と笑った。
「結婚おめでとう〜。ねぇねぇ今度結婚記念コラボしねぇ?」
なんて、ココも笑っていた。
「おめでとうですわ。でも、結婚したからといって、仕事場でいちゃいちゃしないでくださいましね」
とハンナは指を突きつけた。シェリーとあなたは「わかってますよ」と返し、ハンナは「絶対わかってねーですわ」と返した。
やがて、余興、スピーチ、挨拶と時間は光の矢のように過ぎていく。
「さて、只今のご挨拶を以って、二人の結婚ご披露宴をおひらきとさせていただくよ。シェリー君、助手君、本日は本当におめでとうございます!」
再び拍手が場に満ちる。
「それでは、新郎新婦の二人には一足お先にお進みいただきます。二人にとっての新たな人生の第一歩、皆様どうぞ今日一番の大きな祝福でお見送りください! おめでとうございます!」
これからも二人の物語は続く。死が今度こそ二人を分かつその時まで。
これにて、一旦物語は完結となります!
これまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
要望があったので、この後、高校自体の話や、事務所創設当初の話などを「閑話」として公開するかもしれませんが、一旦はこれで完結とさせていただきます。
余談ですが、ここまでに登場していなかったキャラクターとの関係は高校時代に深めて、こうして結婚式にまで来てくれるようになった、と言う設定で納得頂ければ幸いです。
これで完結ですので、よろしければ感想などお聞かせください。
直接コメントやリプライするのが恐ろしい方はマシュマロ(匿名質問箱)もございますのでご検討頂けますと幸いです。
https://marshmallow-qa.com/m_amor000
また、「閑話としてこんなエピソードが見たいよ!」と言った要望も大歓迎です。
最後にもう一つ余談を。
当初の予定では結婚式を書く予定はありませんでした。二人が家庭を持つというその決断をするにはもっと時間がかかるかなと思っていたんです。
なので、当初のエピソードタイトルは「橘探偵事務所」で、最後は新たな事件の捜査に出発、と言うところで終わる予定でした。
ところが、ちょっと二人をいちゃつかせてみたら、私の中のシェリーが突然、「えー、もうすぐ夫婦になるんだからいいじゃないですかー」と反論し出しまして。私としては「え? そうなの?」と言う気分だったんですが、「でも、そう言うことなら、結婚式で終わらせる方が圧倒的に大団円だな」と言うことで、思い切って結婚式を書くことにしました。
こちらは期待通りの終わり方だったでしょうか。賛否もあるかなと思うので、こちらも意見を聞かせてもらえると、励みになります。
そして、最後になりましたが、今回のエピローグを最初に読んでくださった弊サークルの蒼井 刹那より、表紙絵兼挿絵を描いて頂きました。
pixiv上ではこちらで確認できますので、併せてお楽しみいただければ幸いです。
https://www.pixiv.net/artworks/134452748