ソードアート・オンライン//Quantum   作:あまねぎ

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PCを整理したら昔2話でエタった作品が見つかったんで供養の意味を込めて投下。


プロローグ

 シャムロックの持つ『憑神(アバター)』タルヴォスのデータドレインが背面都市マグメルドと繋がった人の魂を閉じ込める電子監獄――黒い大樹を貫いた。

 

 データドレインによる書き換えでマグメルド全体が光の奔流に包まれる。

 

 そんな黒い大樹の中、小人ともいえるネコヒト型PC(プレイキャラクター)ハーミットとカイト型女性PC(プレイキャラクター)サクヤは見つめ合っていた。

 

 ハーミットはゆっくりと瞼を開けて、サクヤに語りかけた。

 

「田名神透葉にはドナーが必要だった」

 

 とある病気にかかった10歳の少年、田名神透葉が直るにはHLA型が一致する提供者ドナーが必要だった。しかし、HLA型が一致する確率は数十万分の一。彼の親戚、ドナーバンクには彼と一致する遺伝子は存在しなかった。

 

 病院から出られない彼ができた遊びはゲーム。いつもネットゲーム『The World』をやっていた。

 

「そんなある日、ボクは黒枝と巻物を持たされて旅に出た」

 

 七年前、田名神透葉は突如、FMDディスプレイとコントローラーの感覚を失い、彼の魂は『the world』に放り込まれた。目を覚ましたとき、田名神透葉はネコヒトPCハーミット――未帰還者――となっていた。

 

 視界に広がるのは黒い大地と闇の空。もたれかかっていたのは枯れ木のような黒い大樹。葉はなく、八方に分かれた枝の先には木の実のように繋がったハンキングケージに田名神透葉が囚われていた。いや、田名神透葉以外にも多くの人間が吊り籠に囚われていた。

 

 そんな公式の『The World』には存在しないエリアの中、ハーミットが持っていたのは黒枝と一部の日本人リストの書かれた巻物。

 

 黒枝には情報を書き換える能力を持っていた。『The World』内では何でもできる魔法の杖だった。プレイヤーのPCデータ、アイテムはもちろん、個人情報、果てには遺伝子情報を含めたその人物の情報全てが刻まれている体内ICチップ――通称インプラントチップまで読み込めた。

 

 そんな黒枝を持ったハーミットは自分に何ができるか、どうしたいのか考えた。自分が未帰還者になったのは病気のせいだ。だから、病気を治すために『The World』内でドナーを探した。ドナーが見つかり、病気が治れば自分も現実に帰れるのだと信じて。

 

 だが――

 

「旅路の果てにあったのは……田名神透葉の死」

 

 田名神透葉は七年前、死んでいた。目の前にいる田名神透葉に肉体はなく、人間の脳を生体素子の部品とした量子コンピュータ――黒い大樹の部品の一つだった。

 

 そして、たった今、黒い大樹がデータドレインによって書き換えられ、加速的に崩壊していく。あと、数十秒で電子監獄は破壊され、ハーミットは消滅するだろう。

 

 

「ハーミット……」

 

 サクヤは鼻をすすり、涙を流しながら友達の名前を呼ぶ。

 

「サクヤ……最後にわがまま言っていい?」

 

「……うん」

 

「ギュッとして」

 

 サクヤはハーミットを力強く抱きしめる。彼はここにいるのだと証明するように。

 

「ごめん……」

 

 口から出たのは小さな謝罪。

 

 謝罪の理由はわからなかった。未帰還者である彼を助かられない事への罪悪感か、彼の物語を終わらせてしまった後悔か。

 

 サクヤはいっそう強く抱きしめる。

 

 ハーミットも返すようにサクヤを強く抱きしめる。

 

「なんでボクがサクヤに惹かれていたのかわかったよ。……ずっと君の事を探していたんだ」

 

「私は亜澄……あなたのドナー」

 

 二人の出会いは偶然ではない。ハーミット――田名神透葉が探していた人物。世界でただ一人の唯一の存在。数十万分の一の確立、同じHLA型の遺伝子を持った奇跡の双子。

 

「サクヤ……―――だよ」

 

「―――ッ!?」

 

 ハーミットの言葉にサクヤははっと目を見開いて、たちまち頬を紅潮させる

 

 もじもじするサクヤを見てハーミットは微笑んだ。サクヤも涙を拭き、顔をリンゴのように真っ赤になりなりながら微笑えむ。

 

 世界が光に包まれて二人の体は粒子となって消えてゆく。ハーミットの魂は空へ昇り、サクヤの魂はリアルへ還ってゆく。

 

 こうしてまた『The World』を騒がせた事件が終わりを迎え、また一人、『the world』の歴史に勇者の名が刻まれた。

 

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