その車は、最新式のエアカーが空を滑る時代には珍しい、タイヤで地面を噛むタイプの旧式カーだった。
エンジンは低く唸り、振動がシート越しに伝わってくる。
だがヤムチャは、この“古臭い相棒”を気に入っているようだった。
ヤムチャは片手でハンドルを軽く叩きながら、鼻歌まじりに運転している。
助手席のプーアルは、車の揺れに合わせてふわふわと体を浮かせながら、ヤムチャの横顔を見上げた。
「ヤムチャ様……本当に行くんですか?…悪人の用心棒なんてやめましょうよ、クリリンさんなんて今や警察なんですよ」
ヤムチャは苦笑し、アクセルを少し緩めた。
「悪人ね。まぁ、そうだよな。マフィアって言えば」
「そうですよ。ヤムチャ様は、そんな人たちに力を貸すような方じゃありません」
ヤムチャはフロントガラスの向こうを見つめ、肩をすくめた。
「まぁ言っても、俺も元盗賊だけどな」
そう言って、わざとらしく明るく笑う。
だがその笑いには、どこか自嘲が混じっていた。
プーアルは慌てて首を振る。
「ヤムチャ様は、地球のために戦った立派な方です!」
ヤムチャは目を細め、優しい声で続けた。
「はは、分かったよ、プーアル。
でもな、全部が全部“悪”ってわけでもないんだ。
俺が行くのは、先代が死んで堅気になろうとしてる若頭の方だ」
プーアルは耳をぴくりと動かす。
「堅気に…それ、信用できるんですか…?」
「ああ。組を解散して、合法ビジネスに切り替えようとしてる。
でも、それが気に入らない連中がいてな。内部で揉めてるらしい。
俺は“堅気になろうとしてる側”に付く。
悪に加担するんじゃなくて、悪から抜けようとしてる奴らを守るんだ」
プーアルはまだ不安げだが、少しだけ表情が和らぐ。
「…ヤムチャ様が、そう判断されたんなら…いいですけど」
ヤムチャは片方の口角を上げ、古い車のハンドルを握り直した。
「今日はその“用心棒の採用試験”だ。
腕試しして、話して、終わり……のはずだ」
旧式の愛車は、地面をしっかり踏みしめながら目的地へ向かっていく。
ヤムチャの選んだ道は、少し古臭くて、でもどこか真っ直ぐだった。
タイヤ付きカーが、砂利道をバリバリと踏みしめながら屋敷の前に停まった。
ヤムチャはエンジンを切り、伸びをしながら門を見上げた。
「よし、着いたな。プーアル、ちょっと待ってろよ」
「ヤムチャ様、気をつけてくださいね。」
ヤムチャは笑って親指を立てる。
軽く笑いながら門をくぐった、その瞬間だった。
何の合図もなく、三人の屈強な男たちが飛び出してくる。
筋肉の塊のような男たちが、無言で拳を構えた。
「おっと、いきなり来るかよ!」
一人目の拳をひょいとかわし、肘で顎を軽く打ち上げる。
二人目のタックルを逆に利用して地面に叩きつけ、三人目の蹴りを足払いで崩す。
三人はあっという間に地面に転がった。
ヤムチャは肩を回しながら、ため息まじりに呟く。
「…軽い準備運動ってとこか」
すると今度は、ナイフを持った男が一人、影から飛び出してくる。
刃が光るより早く、ヤムチャの手刀が男の手首を叩き、ナイフが宙を舞った。
続けざまに腹へ軽い一撃。男はうめき声を上げて倒れる。
「はい次」
まるで順番待ちでもしているかのように、今度はマシンガンを構えた男が現れた。
銃口がヤムチャに向けられた瞬間、ヤムチャの姿がふっと消える。
次の瞬間には、男の背後に回り込み、銃をひねり取って地面に叩きつけていた。
「これ、もしかしてもう試験始まってるのか?」
倒れた男たちを見下ろしながら、ヤムチャは苦笑する。
「俺も意外とまだなまってないな…
いや、いかんいかん。いつもこうやって油断してポカやるんだ俺は」
自分で自分に言い聞かせるように頭をかきながら、屋敷の奥へと歩き出す。
屋敷の奥、薄暗い監視室。
複数のモニターには、門前で男たちを次々と倒していくヤムチャの姿が映し出されていた。
若頭は椅子から半分立ち上がり、目を見開いて画面に食い入る。
「…すごい。なんだこいつは。
三人を一瞬で…いや、ナイフも、銃も…全部かわしてるじゃないか」
隣に控えていた側近が、腕を組んだまま唸る。
「確かに…ただ者じゃなさそうです。
素手の連中はともかく、マシンガンを持った男まで瞬殺とは…」
若頭は興奮気味にモニターを指差す。
「採用決定じゃないか? あれだけ動けるなら十分すぎるだろ」
側近は静かに首を振った。
「いえ、若頭。
最終試験は、私が行いましょう。
“本物”かどうか…私が直接、確かめます」
「……いいだろう。見極めてくれ。」
側近は無言で一礼し、監視室を後にした。
モニターには、ヤムチャが屋敷の奥へ歩いていく姿が映っている。
屋敷の廊下を進んでいくと、空気が急に張りつめた。
ヤムチャが足を止めると、静かに一人の男が影から歩み出てくる。
黒いスーツに身を包み、無駄のない動き。
その佇まいだけで、先ほどの雑兵とは格が違うと分かる。
男はヤムチャの前で立ち止まり、淡々と告げた。
「なかなかやるようだな。
ここまで来た者は久しぶりだ。
私を倒せれば、試験合格としよう」
ヤムチャは肩を回しながら、気負いもなく笑う。
「そうか。わかりやすくていいな。
筆記試験とかあるんじゃないかとドキドキしたぜ」
側近は微動だにせず、ただ静かに構えを取る。
「安心しろ。ここでは“拳”がすべてだ」
ヤムチャは軽く息を吐き、足を開いて構えた。
「そっちの方が性に合ってるよ。
じゃあ……最終試験、受けさせてもらうぜ」
廊下の空気が一瞬で張りつめ、二人の間に火花のような緊張が走る。
廊下の中央で向かい合ったまま、側近は静かに息を吸い込んだ。
次の瞬間、床がビリッと震えるほどの圧が走る。
「ォォォオオオッ!!」
雄たけびとともに、側近の体から濃密な“気”が立ち上る。
空気が重くなり、廊下の照明がわずかに揺らいだ。
ヤムチャは思わず目を見開く。
「うおっ…!
こいつ、気を扱えるのか?
なるほど…やっぱ油断しちゃまずいな」
側近は低く構え、獲物を狙う獣のような目でヤムチャを見据える。
側近が雄たけびとともに気を高めた次の瞬間、空気が弾けた。
人間の動きとは思えない速度で、側近が一気に間合いを詰める。
拳、肘、膝、蹴り、まるで四方八方から同時に襲いかかってくるような連続攻撃。
だがヤムチャは、驚きつつも身体が自然に反応していた。
上段の拳を紙一重でかわし、肘をスウェーで外し、膝蹴りを逆足で受け流し、回し蹴りをしゃがんで回避する。
その動きは軽やかで、まるで風のようだった。
側近は攻撃の手を止め、目を見開く。
「なんて素早い奴だ…!
だが…一発でも当たりさえすれば!」
ヤムチャは攻撃を避けながら、内心でぼそっと考える。
「そんなに自信あるのか…
受けても大したことなさそうだけどな。
でも、ここで調子乗るとまずいよな…」
一瞬、ヤムチャは足を止め、構えを変えた。
「とりあえず……防御固めて受けてみるか」
肩を落とし、重心を低くし、両腕を前に出す。
“受ける準備”を整えたヤムチャを見て、側近の目が鋭く光った。
「受ける気か…ならば!」
再び側近が踏み込み、渾身の一撃を放つ。
側近が踏み込み、渾身の拳をヤムチャのガードへ叩き込んだ。
廊下の空気が震え、床の板がわずかに軋む。
側近の拳は岩を砕くほどの威力、そのはずだった。
ヤムチャは腕で受け止めたまま、びくともしない。
そして、ほっと息をつく。
「…良かった。全然大したことない」
側近は目をむき、後ずさる。
「なっ……!
何ともないだと!?
俺のパンチは岩をも砕く……!
俺の戦闘力は105だぞ!!」
その言葉に、ヤムチャは一瞬だけ困惑した表情を浮かべた。
「戦闘力…?」
側近はまだ信じられないという顔で、拳を握りしめたまま叫ぶ。
「お前の戦闘力も測った!
105以下だった!
なのに……なぜ私のパンチがきかん!!」
ヤムチャは腕を軽く振りながら呟く。
「戦闘力って、確か…
あの機械が出回ってんのか?…裏にヤバいヤツがいなけりゃ良いけど……」
側近は困惑しながらも構えを崩さない。
ヤムチャはその姿を見て、少しだけ真面目な声になる。
「お前も多少“気”を扱えるんだろ。
だったら、そんな数字に惑わされてちゃいけないぜ」
側近の眉がぴくりと動く。
ヤムチャは拳を軽く握り直しながら続けた。
「通常時は、戦闘力なんてものは全開にはしないもんだ。
数字で測れるのは“平常運転”の強さだけだ。
本気の強さは……あんな機械じゃ分かんねぇよ」
その言葉は、軽口のようでいて、どこか重みがあった。
実戦を重ねてきた者だけが持つ実感。
側近はその言葉に一瞬たじろぎ、しかしすぐに歯を食いしばって気を高める。
「……ならば!
その“本気”とやらを見せてもらう!」
「なら、その機械で俺の戦闘力とやらを測ってみろよ。
ちょっとだけ気を入れてみるからよ」
その瞬間、天井のスピーカーから声が響いた。
「……面白い。やってみてくれ」
ヤムチャは天井を見上げ、伝える。
「ああ、誰か知らんが……見とけよ」
ヤムチャが軽く息を吸い、ほんの少しだけ気を込めた。
空気が震え、廊下の照明が一瞬だけ明滅する。
若頭のスカウターが甲高い電子音を鳴らし始めた。
ピピピピピピピピピピピピッ!!
数字が跳ね上がる。
105……300……800……1500……3000……5000……!
若頭は監視室でスカウターを押さえ、目を見開いた。
「な……なんだこの上昇は……!?」
数字は止まらない。
8000……9000……10000……12000!!
「12000……!?
バカな……!」
側近は数字を聞いて青ざめ、後ずさる。
ヤムチャは気をすっと抜き、何事もなかったように首を回した。
「……こんなもんでいいか?」
その余裕ある声が、廊下に静かに響いた。
側近はまるで雷に打たれたように固り呻いた。
「12000……?!
そんな数字ありえるんですか……!!」
声が震えている。
自分の“105”という数字が、もはや冗談のように思えてくる。
そのとき、天井のスピーカーから若頭の落ち着いた声が響いた。
「……私も信じられない。
だが、確かにそう表示されている」
若頭は監視室でスカウターを押さえたまま、画面のヤムチャを凝視していた。
その目は驚愕と興奮と、わずかな恐れが混じっている。
そして若頭は、側近に問いかけた。
「実際に戦ったあなたの感想はどうなんだ」
側近は息を呑み、ヤムチャを見た。
その表情には、戦士としての本能的な畏怖が浮かんでいる。
その顔には、戦士としての誇りと現実のギャップに打ちのめされた表情が浮かんでいる。
「……確かに……認めざるを得ない……」
天井のスピーカーから、若頭の落ち着いた声が響く。
「では…合格だな」
側近は深く頭を下げる。
「…はい」
その返事には、敗北の悔しさと、圧倒的な実力を前にした敬意が混ざっていた。
廊下には、ヤムチャの軽い気配と、側近の静かな敗北、そして若頭の決断が重なり合うような空気が漂っていた。
側近が敗北を認め、廊下に静寂が戻ったそのときだった。
ギィ……
奥の部屋の重厚な扉がゆっくりと開いた。
ヤムチャはそちらへ視線を向ける。
暗がりの中から、一人の人物が歩み出てきた。
深くフードをかぶり、顔は見えない。
しかし歩き方は静かで、無駄がなく、どこか威厳すら漂わせている。
ヤムチャは思わず眉を上げた。
「若頭か……?
思ったより小柄だな……」
その人物はヤムチャの前まで来ると、ゆっくりと手を上げ
フードを外した。
現れたのは、鋭い目をした若い女性だった。
年齢はヤムチャよりずっと若い。
だがその瞳には、組織を背負う者の覚悟と冷静さが宿っている。
ヤムチャは一瞬だけ言葉を失った。
「…あんたが、若頭か。」
女性は静かに頷き、まっすぐヤムチャを見つめた。
その視線は、戦闘力12000を示した男を前にしても揺らがない。
だが、ヤムチャの脳内では別の反応が走っていた。
「女の人か…昔ほどではないにせよ、やっぱ…緊張すんだよな…」
昔なら、顔を真っ赤にして挙動不審になっていたところだ。
深呼吸して、平静を保つ。
女性は一歩前に出て、はっきりとした声で言った。
「あなたがヤムチャさんですね。ようこそ。私はリョクサ、よろしくたのみます。」
ヤムチャは、照れながら答えた。
「あ、ああ…こちらこそ…」
「ちょっと気になるんだけど…
その機械、どこで手に入れたんだ?」
リョクサは一瞬だけ迷ったように目を伏せたが、すぐにヤムチャを見つめ返す。
「…あなたなら、多分信じてくれるでしょう。
これは先代が“宇宙人”から購入したものです」
ヤムチャは一瞬だけ目を丸くしたが
「なるほど。そんなこともあるのか」
驚きつつも、あっさり受け入れた。
地球に宇宙人が来ることなど、彼にとっては珍しい話ではない。
リョクサはその反応に、思わず口元を緩めた。
「……ふふ。普通はもっと驚くんですけどね」
ヤムチャはごまかすように笑う。
「あはは、そうですか?」
そのとき、側近が一歩前に出た。
先ほどまでの威圧感は消え、代わりに純粋な疑問と畏怖が混ざった目でヤムチャを見つめる。
「私も聞きたい……
あんたは“気”のことも、“スカウター”のことも知っていた。
一体……何者なんだ、アンタ……」
廊下に静寂が落ちる。
リョクサも、側近も、ヤムチャの答えを待っていた。
ヤムチャは端的に短く笑って答えた。
「いや、昔ちょっとね…修行したり、宇宙人と戦ったり……まぁ、色々あったんだ」
それだけ。
深掘りしようと思えばいくらでも語れるはずなのに、ヤムチャはそれ以上言わない。
側近は目を見開く。
「宇宙人と……戦った……?」
ヤムチャは軽く肩をすくめる。
「まぁ、地球って案外いろんな奴が来るんだよ。あはは。」
その“あっさりした受け止め方”に、リョクサも思わずくすっと笑った。
「……あなた、本当に不思議な人ですね」
「いやいや、そんな大したもんじゃないですよ」
だが、その軽い言葉の裏に、側近もリョクサも“底知れなさ”を感じていた。
空気が少し落ち着いたところで、ヤムチャは恐る恐る口を開いた。
「なぁ……ちょっと気になるんだけどさ。
対立してる勢力のバックに……宇宙人とかいないよな……?」
その質問に、リョクサは一瞬だけ目を瞬かせた。
普通なら冗談に聞こえるはずの問いを、ヤムチャは真剣に言っている。
リョクサは慎重に言葉を選んだ。
「……私が認識している限りでは、いないとは思います。
ですが……定かではありません」
ヤムチャはその答えに、ほっと胸をなでおろした。
「良かった……とりあえず大丈夫そうかな?
でも“定かじゃない”ってのがちょっと怖いけど……」
その微妙な表情を見て、側近が力強く言った。
「いや、例え宇宙人がいたとしても……
あんたは次元が違う。恐れるに足らずでしょう」
ヤムチャは苦笑いを浮かべた。
「はは……まぁ、どうだろうな……」
そして内心で、誰にも聞こえない声がつぶやく。
「知らぬが仏ってやつだよ…
この宇宙には、本当に“次元が違う化け物”がごろごろいるのよ…」
その表情は、強さの裏にある“経験者だけが知る恐怖”をほんの少しだけ滲ませていた。
リョクサはその微妙な変化を見逃さず、静かにヤムチャを見つめていた。
会話が一段落したところで、側近が静かに口を開いた。
「分裂派の頭を名乗っている奴の戦闘力は…174だ。
私よりも遥かに強い。
だから我々は外部から用心棒を探す必要があった」
その声には、敗北した者の悔しさではなく、状況を冷静に分析する戦士の誠実さがあった。
そして側近はヤムチャを見つめ、はっきりと言う。
「だが…そんな数字など、アンタにとっては誤差以下だろう」
ヤムチャは苦笑いを浮かべた。
リョクサが側近たちと状況を整理していたその時、廊下の奥から別の部下が駆け込んできた。
「若頭! 分裂派から…“交渉”の申し入れがありました!」
リョクサは目を細める。
「そうか…」
部下は息を整えながら続ける。
「はい。
“無駄に戦争をして資産を破壊したくない”とのことです。
権力決定のための話し合いを求めてきています」
側近は腕を組み、低く唸った。
「…やはり来たか。
あいつらは資金源の半分を不動産と物流に頼っている。
全面戦争になれば、向こうの方が損害が大きい」
リョクサは静かに頷く。
「こちらとしても、無駄な争いは避けたい。」
少し考え込み、やがて決断する。
「…交渉を受けましょう。
ただし、こちらの条件を飲ませる形で進める。
向こうも戦争は望んでいないはずです」
側近は深く頷いた。
「承知しました。
準備を進めます」
リョクサは静かに息を吐き、遠くを見るように呟いた。
「……この街を戦場にはしない。
そのための交渉だ」
廊下の空気が張りつめ、組織の未来を左右する交渉が始まろうとしていた。
交渉の日。
街外れの倉庫街は、普段以上に人影が少なかった。
双方の組織が所有する古い倉庫に、
本家と分裂派の代表がそれぞれ車で乗りつける。
倉庫の外では、
警察が“内部抗争の可能性”を察知し、警戒体制を敷いていた。
覆面パトカーが数台、倉庫街の影にひっそりと停車している。
制服警官たちは物陰に散開し、無線で連絡を取り合っていた。
その中に、クリリンの姿があった。
階級は一般警官。
だが、現場経験は豊富で、上司からの信頼も厚い。
クリリンは倉庫の隙間から様子をうかがいながら、無線に小声で報告する。
「こちら第三区画の巡回員クリリン。
対象の組織が倉庫に入ったのを確認。
今のところ武器の使用はなし」
無線の向こうから、上司の落ち着いた声が返る。
「了解。
絶対に深入りするなよ。
今回は“監視”が任務だ」
クリリンは真剣な表情で頷く。
「分裂派と本家の交渉か…
下手すりゃ銃撃戦になる。
一般市民を巻き込ませるわけにはいかない…」
倉庫の中では、
若頭と側近たちが静かに席につき、分裂派の代表を待っていた。
鉄骨の軋む音、
遠くで鳴るカモメの声、
そして外で警察が息を潜めている気配。
すべてが、
“何かが起きる前の静けさ”を作り出していた。
倉庫の巨大なシャッターが、ゆっくりと閉じられた。
外の光が遮断され、内部は薄暗い照明だけが頼りになる。
空気は重く、張りつめていた。
本家側、若頭が静かに立っている。
その両脇には側近たちが控え、周囲を鋭い目で警戒していた。
リョクサは落ち着いた表情で、分裂派を見据える。
その視線には、恐れも焦りもない。
分裂派の“頭”が姿を現す。
体格は大きく、目つきは鋭い。
戦闘力174という数字が示す通り、ただのチンピラではない。
その後ろには複数の部下が控え、
倉庫内の空気は一気に緊張の色を濃くした。
分裂派の頭が低い声で言う。
「……よく応じてくれたな、若頭。
無駄な戦争は、俺たちも望んじゃいねぇ」
リョクサは静かに頷く。
「こちらも同じです。街を混乱させるのは本意ではありません」
側近たちは一言も発さず、ただ相手の動きを観察している。
倉庫外、警察の緊張
クリリンは倉庫の隙間から内部を見張りながら、無線に報告する。
「こちら巡回員クリリン。
両組織の代表が倉庫内で対峙。
今のところ武器の使用は確認できません」
無線の向こうから上司の声が返る。
「了解。
絶対に突入するな。
発砲があった場合のみ、即応だ」
倉庫内、向かい合う本家と分裂派。
倉庫の薄暗い照明が、双方の顔に影を落としている。
分裂派の頭はふんぞり返り、最初から勝ち誇ったような態度だった。
「じゃあ早速だが……条件を提示させてもらうぜ」
リョクサは静かに頷く。
「聞きましょう」
分裂派の頭は指を一本立てる。
「まず一つ目。
お前らのシマを、こっちに譲れ」
側近たちがわずかに眉をひそめる。
若頭は表情を変えずに聞いている。
「二つ目。
物流ルートの管理権限は全部こっちに寄越せ。
お前らは下請けでいい」
側近の一人が顔をゆがめる。
だが分裂派の頭は止まらない。
「三つ目。
本家の幹部の半分を“うちの監査役”として派遣させろ。
裏切り防止だ」
リョクサの側近たちが一斉にざわつく。
「ふざけるな……!」
「交渉じゃなくて降伏要求じゃねぇか…!」
しかしリョクサは手を軽く上げ、側近たちを制した。
その目は静かで、怒りも焦りも見せない。
分裂派の頭はニヤリと笑う。
「まぁ、これくらいは当然だろ?
俺たちは“本家を超える勢力”になったんだ。
権力の移行ってやつだよ」
リョクサはゆっくりと息を吸い、静かに言った。
「……あなた方の要求は、どれも受け入れられません」
分裂派の頭が吠えた。
「はぁ!?
戦争になってもいいのかよ!」
倉庫内の空気が一気に張りつめる。
外で見張っているクリリンも、その気配に背筋を伸ばした。
「……やばい。
これ、交渉って雰囲気じゃないぞ……」
倉庫の中では、
本家と分裂派の緊張が、今にも爆発しそうなほど高まっていた。
分裂派の頭が笑みを浮かべて言った。
「まぁ、“はいそうですか”とは行かないと分かっていたさ。」
「ここは……マフィアらしく、単純に“力比べ”で決めようじゃないか。」
倉庫内がざわつく。
リョクサが答える。
「それで、無駄に戦火を拡大させずに済むのなら…こちらは、用心棒を使わせてもらいます。」
分裂派の頭が嘲笑する。
「はっ、おもしれぇ、だが用心棒に頼らないといけないとは情けないこった。」
本家の側近は唇をかむ。
リョクサは後方に向かって軽く手を上げて言った。
「入ってきてください」
倉庫の扉がギィ……と開く。
そこに現れたのはヤムチャ。
分裂派の面々が「誰だ?」という顔をする。
本家側の側近たちは、どこか誇らしげに背筋を伸ばす。
倉庫の外で監視していたクリリンは、
扉が開いた瞬間に視界に入った人物を見て、
双眼鏡を落としそうになった。
「……え?」
もう一度覗く。
やっぱりヤムチャさんだ。
「ヤムチャさん!?
あちゃ〜……何やってんだあの人……!」
クリリンは頭を抱えた。
「なんでマフィアの抗争のど真ん中にいるんだよ……!」
分裂派の全員の嘲笑が爆発する。
「……は?
なんだその兄ちゃん。
ウチの若い衆より細ぇじゃねぇか!」
「冗談だろ若頭! なめてんのか!」
分裂派の頭が前に出る。
体格は大きく、筋肉質で、威圧感は十分だ。
「おい若頭ァ……本当にこいつでいいんだな?
細っこい兄ちゃんじゃねぇか。
一発で終わっちまうぞ?」
ヤムチャはただ落ち着いている。
分裂派の部下たちは大笑い。
「親分、秒殺っすよ秒殺!」
「泣きたくなっても知らねぇぞ、兄ちゃん!」
開始の合図、そして一瞬
分裂派の頭が地面を蹴り、
拳を振りかぶって突進してくる。
「うおおおおおっ!!」
倉庫内の空気が震えるほどの勢い。
しかし
ヤムチャはその拳を、
軽く横にずらしただけだった。
「っと」
分裂派の頭の体勢が崩れる。
その胸元に、ヤムチャの指が軽く触れる。
「はい、終わり」
軽いタッチ。
その瞬間、分裂派の頭の身体が床に転がり止まった。
倉庫内が静まり返る。
分裂派、理解不能
分裂派の頭は目を見開き、震える声で言う。
「…な、なんだ…今の…?何をされた……?」
立ち上がろうとするが、膝が笑っている。
「バカな…俺が…一撃も見えなかった……?」
部下たちも青ざめている。
「お、親分が……?
嘘だろ……?」
ヤムチャは頭をかきながら苦笑する。
「いやぁ…あんまり本気でやると危ないからさ。
軽く触っただけなんだけど…大丈夫か?」
その“軽く触っただけ”という言葉が、
分裂派の心を完全に折った。
倉庫外、クリリンが呆れる。
敗北の直後、分裂派の切り札
床に倒れたままの分裂派の頭が、震える腕でなんとか上体を起こす。
顔は怒りと屈辱で真っ赤だ。
「くっ……クソッ……!
まさか……俺が……負けるなんて……!」
部下たちも動揺している。
だが、分裂派の頭はまだ諦めていなかった。
口元を歪め、叫ぶ。
「だがなァ……!
こっちにも“奥の手”の用心棒がいるんだよ!!」
ギィ……と鉄扉が開き、
そこから現れたのは──
肌の色、体格、目の形。
どれも地球の生物とは違う。
明らかに地球人ではない、異星人。
本家側の側近たちは一瞬息を呑む。
ヤムチャも呻く。
「うわ……やっぱ出ちゃったよ……」
「気を感じなかったのは……ちゃんと抑えてやがったってことか」
異星人の用心棒は、静かにヤムチャを見つめる。
その目は獲物を見定める捕食者のようだ。
「……お前が本家の戦士か。
地球人にしては悪くない動きだ」
ヤムチャは苦笑しながら構える。
「やるしかねぇか…」
外で監視していたクリリンは、
倉庫の中から異様な気配を感じ取り、顔色を変える。
「……なんだ、この気……?
地球人じゃない……?」
異星人の用心棒が前に出る。
その顔にはスカウターが装着されている。
分裂派の頭は勝ち誇ったように叫ぶ。
「この方はな、宇宙でも名の知れた用心棒だ!!」
異星人は無言でスカウターを指で軽く叩く。
「お前、これが何か分かるか?」
ヤムチャは苦笑しながら答える。
「人の強さを数値で測る機械だろ?」
異星人はニヤリと笑う。
「ふ……その通りだ。
なら絶望させてやろう」
スカウターがピピッと音を立てる。
異星人の用心棒
「今測ってみた……お前の戦闘力は300、だがわかっているぞ…
さっきの動きからしておそらくフルパワーは1000前後ってところだろう。
これは、地球人としては驚異的な数値だ、うぬぼれてしまうのも仕方あるまい。」
異星人はさらに続ける。
「そして……この俺の戦闘力は、3800!
この宇宙でも“エリート戦士”と呼ばれるレベルだ!」
異星人は挑発的に笑う。
「どうした? 震えて声も出ないか?」
ヤムチャは静かに呼吸を整えながら、相手の“気”を探る。
「よかった、化け物クラスの奴じゃなさそうで…でも、油断は禁物だ。
こういうタイプは、追い詰められると何しでかすかわからない。
しっかり仕留めておかないと、周りが危ない」
その表情は、幾度と死線をくぐった男のものだった。
異星人の用心棒は勝ち誇ったようにヤムチャへ歩み寄る。
「地球人が……俺に勝てると思うなよ」
ヤムチャは軽く構えるだけで、特に緊張した様子もない。
異星人は一気に距離を詰め、
鋭い拳をヤムチャの顔面めがけて突き出す。
「終わりだッ!!」
だが、
ヤムチャは、
ほんの半歩、軽く体を傾けただけで避けた。
拳は空を切る。
異星人の目がわずかに見開かれる。
「……なに?」
続けざまに、
蹴り、肘打ち、掌底、連撃を畳みかける。
しかし、
ヤムチャはすべてを
紙一重でかわし続けた。
異星人の呼吸が荒くなる。
「な……なんだこいつ…なんで当たらない……!」
ヤムチャはゆっくりと構えを変える。
「よし、行けそうだな、誰も危なくなる前に終わらせる。」
異星人の背筋に、恐怖が走った。
異星人の用心棒は、焦りと怒りを混ぜた声で吠えながら突進する。
「ふざけるなぁッ!!」
その動きは確かに速い。
通常、地球人の目では追えないレベルだ。
だが、
ヤムチャは静かに息を吸い、
ほんの一瞬だけ重心を落とした。
次の瞬間。
乾いた衝撃音が倉庫に響いた。
ヤムチャの拳が、
異星人の腹部に正確に、必要最低限の力でめり込んだ。
異星人の目が大きく見開かれ、
そのまま膝から崩れ落ちる。
「……が……っ……」
そして、完全に気絶した。
倉庫内が静まり返る。
分裂派の頭は口を開けたまま固まっていた。
「……う、嘘だろ……
エリート戦士が……一撃……?」
ヤムチャは倒れた異星人を見下ろし、
ほんの少しだけ眉を寄せた。
「……安全のためには、
こいつの手足でも折っておくべきなんだろうけど……」
異星人は気絶しているが、命に別状はない。
「……俺って、意外と“悪役”じゃないのよな」
自嘲気味に笑い、肩をすくめる。
異星人は完全に気絶している。
呼吸はあるが、戦闘不能。
「……でもこいつ、どうするよ。
目を覚ましたら厄介だろうな。
地球の手錠なんかじゃ、すぐぶっ壊すだろうし……」
その時、背中から呆れ声が響いた。
「……ヤムチャさん、何やってんすかぁ…」
ヤムチャはビクッと肩を跳ねさせた。
「えっ、く、クリリン!?
ぜ、全然気づかなかった……!」
ヤムチャの前に立つクリリンは、
完全に“呆れ顔”だった。
「そりゃそうですよ。
気、消してましたからね」
ヤムチャは慌てて言い訳を始める。
「いや、これはだな……その……
堅気になろうとしてる若頭を助けようとして……!」
クリリンは深いため息をつく。
「……はぁ……
ヤムチャさんがどこで何してても驚かないつもりだったけど……
マフィアの抗争の“力比べ”に参加してるとは思わなかったですよ」
ヤムチャは頭をかきながら苦笑する。
「いやぁ……成り行きってやつでさ……」
クリリンは倒れた異星人を見て、眉をひそめた。
「……で、これどうすんです?
地球の留置場じゃ無理ですよ、こんなの」
「だよなぁ……」
クリリンは少し考え、決断する。
「……ブルマさんに連絡しましょう。
あの人なら“強力な拘束具”くらい作れますよ」
ヤムチャはホッとしたように頷く。
「助かる……!」
クリリンはさらに続ける。
「それと…宇宙パトロールにも連絡してもらいます。
異星人の犯罪者は、地球の警察じゃ扱えませんからね」
ヤムチャは苦笑しながら頷く。
クリリンはヤムチャの肩を軽く叩く。
「…で、ヤムチャさん。
このままここにいたら、警察に事情聴取されますよ。
“マフィアの抗争に参加した一般人”って扱いで」
ヤムチャは青ざめる。
「や、やばっ……!
それは困る……!」
クリリンは小声で言う。
「…今のうちに裏口から出てください。
俺がうまく誤魔化しておきますから」
ヤムチャは感謝の表情で頷く。
「クリリン……恩に着る……!」
クリリンはため息をつきながらも、どこか嬉しそうだった。
「まったく…世話が焼けるんだから……」
ヤムチャは裏口へ走り、
警察の包囲網から抜け出した。
数日後の午後、ヤムチャは本家の屋敷を訪れた。
あの日の抗争は、正式に収束し、分裂派は壊滅。
異星人の用心棒はブルマ製の拘束具でがんじがらめにされ、
宇宙パトロールの船に乗せられていった。
門をくぐった瞬間、
以前は警戒していた側近たちが、
まるで英雄を見るような目で駆け寄ってくる。
「ヤムチャさん! よく来てくださいました!」
「アンタこそ……宇宙一の戦士だ!!」
ヤムチャは、苦笑しながら頭をかいた。
「いやいや……宇宙一はさすがに言いすぎだって……」
側近たちは本気で言っている。
「だって、あんな異星人を一撃で倒したんですよ!?
あんなの、映画の中だけだと思ってました!」
「俺たち、あの日からずっと話してるんです。
ヤムチャさんは宇宙最強なんじゃねぇかって!」
ヤムチャは内心でため息をつく。
ヤムチャは、宇宙の現実を知っていた。
「宇宙一ねぇ…
あいつらの顔を思い出すと、冗談にしか聞こえないよな」
彼は宇宙の“本物の怪物”を知っている。
だが、
「……ま、悪い気はしないけどな」
側近たちの尊敬は本物で、
その純粋さにヤムチャは少し照れくさくなる。
リョクサが静かに歩み寄り、深く頭を下げた。
「ヤムチャさん。
あなたのおかげで、組織は無駄な血を流さずに済みました。
本当に……感謝しています」
ヤムチャは照れながら手を振る。
「いやいや、俺はちょっと手伝っただけだよ。
若頭が筋を通したから、こうなったんだ」
リョクサは微笑む。
「あなたのような方にそう言っていただけるとは……光栄です」
側近たちはますます目を輝かせる。
「やっぱりヤムチャさんは宇宙一だ!」
「いや、だから違うって……!」
ヤムチャの声は、屋敷の広い玄関に虚しく響いた。
だがその表情は、どこか嬉しそうだった。