社会科見学で訪れたユウナ記念館。歴史と祈り、守る人々の姿に触れ、少年は“平和を支える重さ”を知っていく物語。

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ぼくとユウナ記念館

「はい、並んでくださーい! 走らない!」

先生の声が、ナギ平原の強い風にのってひびいた。

ぼくたちは今日、社会科見学でユウナ記念館に来ている。

正式名称は「大召喚士記念館」。

でも、そんなふうにかたく呼ぶ人は、あまりいないらしい。

「うわ……でっか……」

誰かがぽつりとつぶやいた。

目の前にそびえるのは、空に突き刺さるみたいな白い塔。

外壁は光を反射してまぶしく、てっぺんは雲に届きそうなくらい高い。

そして、その足もとには――

地面をぱっくり割ったような、大きな裂け目。

落ちたら、絶対ただじゃすまない。

ぐるりと頑丈な柵が囲んである。

ここは、初代大召喚士ガンドフがシンと戦った場所。

そう聞いた瞬間、背中が少しだけぞくっとした。

正直、ちょっとこわい。

でも、それ以上に――すごい。

裂け目の底から吹き上げる風が強くて、

草原の草が波みたいにざわざわ揺れている。

塔は、ずっと昔からここに立っていたみたいな顔をしているけど、

先生の話では建ったのは十数年前らしい。

「平和を守るための塔です」

そう説明されたけれど、

塔って何かを守れるのかな。

ぼくは少し首をかしげた。

でも――

なんだか、ただの建物じゃない気がした。

 

 

入口でパンフレットをもらう。

紙は分厚くて、表紙はつるつるしている。

そこには写真つきで館長の紹介が載っていた。

二代目館長:パイン。

本を何冊も出している有名な人で、

歴史や平和について書いているらしい。

ページの横には、本の表紙がずらっと並んでいる。

……うん。

正直、ちょっと難しそうだ。

写真のパイン館長は、きちんとした服を着て、まっすぐカメラを見ている。

でも、ほんの少しだけ笑顔がぎこちない。

先生が小声で言った。

「大召喚士ユウナ様やカモメ団とも関わりがあった方ですよ」

え、あのユウナ様と?

クラスのあちこちで小さなどよめきが起きる。

スピラの三つの大きな団体――

新エボン党、青年同盟、マキナ派。

その代表たちとも親交が深く、

みんなが納得して二代目館長に選ばれたらしい。

(……じゃあ、最初の館長は?)

そう思ったとき。

「残念ながらパイン館長はベベルで会議です」

受付の人が教えてくれた。

有名人に会えないのは、ちょっとだけ残念だ。

 

 

先生が、ぼくたち一人ひとりに丸いスフィアを配った。

「落とさないでよ。大切な音声ナビなんだから」

手のひらサイズの透明な球体。

中で小さな光がゆらゆら揺れている。

スイッチを入れると、ぱっと音が広がった。

「みなさん、こんにちは」

はっきりとした女性の声。

「案内を担当するシェリンダです」

元報道官で、街角インタビューもしていた人らしい。

だからなのか、声がとても聞きやすい。

“この記念館の発案者の名はカイレフ。

彼はグアドとロンゾの血を引いています……”

グアドとロンゾ。

昔は仲が悪かった、と授業で習った。

その争いを仲裁し、スピラのために尽力した人物。

“初代館長カイレフは言いました。

『平和は放置すれば崩れる。

 だから保存する。管理する。育てる』”

保存する?

管理する?

育てる?

平和って、そういうものなの?

“では、続いて、パネルをご覧ください”

展示には、三つの団体の役割が図で説明されていた。

送儀(異界送り)は新エボン党。

保全と警備は青年同盟。

設備と機械はマキナ派。

役割がきれいに分かれている。

主義や考え方は違っても、

ここではみんな誇りを持って働いている。

塔は、理念だけじゃない。

ちゃんと役割で支えられているんだ。

ナビ・スフィアの光が、ふっと強くなる。

塔の中は三つに分かれているらしい。

いちばん上が展示フロア。

ここで歴代の大召喚士たちの偉業や伝承を知れる。

まんなかが研究フロア。

そして――いちばん下が保全フロア。

一日に午前と午後の計二回、決まった時刻に送儀(異界送り)が見られる。

 

 

まずはエレベーターで上へ向かう。

扉が閉まると、ふわっと体が軽くなる。

その瞬間――壁いっぱいに映像が広がった。

浜辺。

青い海がきらきら光っている。

砂漠地帯。

果てしない砂の波。

深い森。

木々の間から差し込む光。

長く続く街道。

旅人の足あと。

草原。

風にゆれる緑の海。

雪山。

白く静かな世界。

そして――雷が落ちる平原。

空を引き裂くような稲光。

「スピラって、広いんだな……」

思わず、声がもれた。

教科書で見るのと、ぜんぜんちがう。

映像は動いていて、風や音まで伝わってきそうだ。

まだまだ、知らない景色がある。

まだまだ、知らない物語がある。

エレベーターが止まり、扉が開いた。

そこは、歴代の大召喚士たちの展示フロアだった。

大きなパネルに、ひとりひとりの姿。

真剣なまなざし。

静かな笑顔。

「ナギ節をもたらした人たちです」

シェリンダさんの声が、静かに流れる。

危険を顧みず、

命を賭して、

シンと戦った人たち。

その横には、いっしょに旅をした“ガード”たちの紹介もある。

剣士、僧侶、戦士、魔導士、機械技師。

それぞれの得意な力と方法で、召喚士を守った。

でも――

パネルの中には、途中で力尽きた人たちの名前もあった。

そして召喚士やガードだけでなく、事故や、魔物や、シンの襲撃などで帰らぬ人もいた。一角の小さな慰霊スペースには、花が供えられている。

だれかがそっと手を合わせていた。

ぼくも、なんとなく背筋をのばす。

楽しいだけじゃない。

すごいだけじゃない。

この塔は、色んな意味があるんだ。

 

 

「おっ、これ見ろよ!」

クラスの男子が大声を出した。

そこには、特徴的な装飾が施されているブリッツボール。

“オハランド大召喚士も使用したとされる、

七曜の武器《ワールドチャンピオン》

(ワッカ氏より寄贈)”

「えっ、ワッカ!?」

思わず近づく。

ビサイド・オーラカにも所属していたっていう、あのワッカ?

「ユウナ様のガードのワッカだぜ? すげー!」

誰かが叫ぶ。

 

 

その先には――

「なりきり衣装コーナー」

クラスが一気にざわついた。

「マジか!」

召喚服のレプリカがずらっと並んでいる。

色んなデザインがある。

きれいな刺繍。

ほっそりしたもの、

だぶだぶと裾が太いもの。

 

露出の多い、オトナ向けのもあった。

(こんな布が少ないのは誰が着るんだろ?)

 

「写真撮っていいってさ!」

もう大騒ぎだ。

友だちが子ども用の召喚服を着て、

まじめな顔でロッドを持つ。

「似合ってるじゃん!」

 

先生も、ちょっとだけ笑っている。

歴史の展示なのに、

ちゃんと楽しい。

 

 

さらに進むと、空気が少し変わった。

「祈りの間・再現コーナー」

薄暗い部屋。

中央に、祈り子の像。

静かで、ひんやりしている。

さっきまで騒いでいたクラスも、

自然と声が小さくなる。

ここで召喚士は祈り、

召喚獣と心を通わせた。

目を閉じると、

遠くから歌のような音が聞こえてくる気がした。

 

 

その奥には、大きなジオラマ。

ビサイド島の浜辺が再現されている。

そして――

ユウナ大召喚士が、

初めて召喚獣ヴァルファーレを召喚した場面。

小さな人形なのに、

光のエフェクトがすごくて、

今にも翼が羽ばたきそうだ。

「ここから始まったんだ……」

誰かがつぶやく。

あの最初の一歩が、

スピラの未来を変えた。

ジオラマなのに、胸が熱くなる。

 

 

その隣には、本物の展示。

ユウナ大召喚士のロッド。

そして、召喚服。

ガラスケースの中で、

静かにライトに照らされている。

 

【挿絵表示】

 

思っていたより、少し小さく見えた。

でも。

だからこそ思う。

この服を着た人が、

あのシンと向き合ったんだ。

ロッドを握った手は、

きっと震えていたかもしれない。

それでも、前に進んだ。

 

 

最後のコーナー。

「失われた召喚獣たち」

今は存在しなくなった召喚獣のスケッチ。

古いスフィア映像。

ぼんやりと映る巨大な影。

光の粒になって消えていく姿。

「もう、いないんだって……」

誰かが小さく言った。

でも。

だから、ちゃんと残さないといけないんだ。

絵に。

記録に。

思い出に。

 

 

展示フロアを一周したころ、

ぼくの胸はなんだかいっぱいだった。

すごい。

楽しい。

ちょっと悲しい。

いろんな気持ちが混ざっている。

でも、ひとつだけははっきりしている。

これは、ただの観光じゃない。

ここは――

“守っている”場所なんだ。

思い出を。

歴史を。

そして、たぶん、未来を。

エレベーターの表示が光る。

次は、研究フロアを通り過ぎて保全フロアへ。

 

 

保全フロアへ向かう途中、

ガラス張りの通路に出た。

その瞬間、みんなの足がぴたりと止まる。

下――

塔の足もとに広がる、あの巨大な裂け目が見えた。

底から、ふわっと光が立ちのぼっている。

青とも緑ともつかない、不思議な光。

「うわ……」

思わず声がもれる。

その光の中を、剣や機械を担いだ人たちが坂を下りていく。

鎧、防護服がきらりと光る。

大きな工具を背負っている人もいる。

ぼくたちの視線に気づいたのか、

ひとりがにかっと笑って手を振った。

「おおー!」

クラスから小さな歓声があがる。

先生が説明する。

「みんな、あれが幻光虫ですよ。命の光のようなものです」

命の光。

たしかに、きれいだ。

でも――

「増えすぎると魔物が生まれます。だから、あの方たちが魔物を退治、駆除しているんです」

え、目と鼻の先で、そんな危険があるの?

ぼくたちは思わずガラスに近づいた。

光はやさしく揺れているのに、

その奥には、見えない緊張があると言うのか…

「そして、ここでは定期的に異界送りも行っています、増えすぎた幻光虫を還すためです」

異界送り、今は“送儀”と呼ばれることが増えた。

元召喚士と、その教え子たちが送儀士を担っている。

その言葉を聞くだけで、

なんとなく背筋が伸びる。

「あ、そろそろ始まる時間ですよ」

先生が時計を見る。

ちょうどそのときだった。

裂け目の縁に、白い衣装の送儀士たちが静かに並ぶ。

空気が変わった。

さっきまでざわざわしていたクラスが、

自然と静かになる。

音楽はない。

けれど、送儀士たちの動きはぴたりとそろっていて、

ひとつひとつが、ゆっくり、ていねいだ。

手が上がる。

袖がふわりと揺れる。

すると――

裂け目の底から、光がすうっと浮かび上がった。

やわらかい光。

まるで、星が昼間の空へ帰っていくみたいに、

ゆっくりと溶けていく。

「……わあ」

誰かが、小さく息をのんだ。

きれいだ。

すごく、きれい。

なのに、胸がぎゅっとなる。

こわくはない。

でも、はしゃぐ気にもなれない。

すごく大事なものを見ている。

そんな気がする。

風が、上へ吹き上げる。

白い衣が、ひらりと揺れる。

 

【挿絵表示】

 

「平和は、自然に続くものではありません」

先生の声が、静かに響いた。

裂け目の底で、また小さな光が揺れる。

きれいなだけじゃない。

かっこいいだけでもない。

誰かが守っている。

誰かが送り出している。

だから、今がある。

塔は、ただ思い出を飾る場所じゃないんだ。

そのとき――

若い女性の声が、静かに流れた。

「いなくなってしまった人たちのこと、時々でいいから……思い出してください」

やわらかいけれど、まっすぐな声。

先生が、そっと教えてくれる。

「これは、永遠のナギ節を成し遂げた大召喚士ユウナ様の、伝説のスピーチですよ」

え。

あのユウナ様の声?

ぼくはもう一度、裂け目を見つめた。

風が吹き上げる。

光がゆらめく。

いなくなった人たち。

戦った人たち。

守った人たち。

全部が、この場所につながっている。

そして――

ぼくたちは、その中へ足を踏み入れていく。

社会科見学のはずなのに、

なんだか、とても大きなものの中に入っていく気がした。

光は、まだ揺れている。

まるで、ぼくたちを見守るみたいに。


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