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年月が経つのは早いもので、私がアークもどきの研究所にて人類規模のカスが書いた手紙を読んでから既に3年ほどの月日が流れていた。
失意の中でもここにいてはいけないと思った私は、アークもどきを再び閉鎖し、地上に出ると近くにあった山間の集落の古民家に居座り、その畑に出ている。
私は麦わら帽子を被り、肩にタオルを掛け、畑に成った数々の野菜の具合を見つつアーク市民には味わえない青空を眺めた。
「うふふ、空が綺麗ですね、ピナさん」
『………………』
青い空に白い雲。そして、触手で肌身離さず持っているピナさんの首。ええ、いつも通りの光景です。
たったひとりの3年間は非常に応えるものでしたが、こうして時々ピナさんの頭に話し掛けることで、どうにか私は心の平穏を保っていました。ピナさんは私の言葉を黙って聞いてくれるので、とても助かっていますね。まあ、喋れないし、意識もないんですけれど、うふふ。
肥料はその辺の生物的な要素を含むラプチャーをバラして撒けば賄える上、働き続けても全く問題ない身体のお陰で今年の作物も豊作だ。
「あらあら、食べ切れもしないのにこんなに作物を作って、私はどうする気なんでしょうね?」
あの日以来、食べ物が喉を通らず、食べると全て吐き戻してしまうため、私は水すら飲めていない。だと言うのにヘレティックな私は万全の状態を維持し続けている。なんとエコな身体なのでしょう?
人間の食を断って、太陽光だけで生きている私は、ブレサリアンと化していますね。フェミニストも大喜びです。まあ、全てのフェミニストはもうラプチャーの餌になったでしょうけれど。
なので、去年と一昨年の分の作物は丸々凍結させて保存している。尚、私の凍結能力は単純な温度変化による固体化ではなく、凍らせたモノを時ごと止めているようなもの。つまりは私の意思なしで凍結したものが自然に溶けることはない。我ながら天才ですね、どうやって作ったんですかこれ?
「思考転換とか……できたら……あはは」
残念ながらヘレティックにそんな機能は付いておらず、むしろ前世のカスが思考転換した結果が私と言えるかも知れない。
寝なくてもいい身体でも寝ている時が一番マトモな精神状態なので寝ているけれど、寝るときはピナの頭を抱えていないと眠れない。最初の頃は見ていると死にたくなるので、カチューシャと髪飾りは引き千切って修復を切っていたが、寝て起きたら再生しているので諦めた。
まあ、死ねないんですけど。致命傷を負うと勝手に自動修復されちゃうので、自殺しようと頭を撃ち抜いても意識を失うことすらありません。再生能力の高さもあって、アンチェインドのようなものがないと本当に不死身みたいですね私。つまり、バラバラにされても意識がある可能性があるわけで、最悪の場合、永遠に死ねずに動けなくなるかも知れないということです。
「アークの郊外をちょろちょろしてたら元ゴッデスの方々に絡まれますし……」
私が何をしたって言うんですか……。
意識を取り戻す前にゴッデス部隊の殆どを拐って侵食した上で冷凍して壊滅させ、ピナさんの手足をバラバラにして胴体をドロシーに撃たせた挙句、頭部を持ち去って今も持ち歩いているだけじゃないですか。
うお……ちょっとやりすぎ……。
ちなみに通算で――。
ドロシー:17回
スノーホワイト5回
ラプンツェル:2回
ほんにょん:7回
――と割りと洒落にならない回数元ゴッデス部隊に襲われている。まあ、この中でラプンツェルは他ふたりがいる時しか戦闘はしないので、単独で襲い掛かってくる数はドロシーが圧倒的だ。夢に出るぐらい怖い。
「はぁ……」
凹んでる割には私が大丈夫そうにも思えるのは、恐らくあれですね。結局のところ私の精神は、あの害悪カス前世の物だからでしょう。アレは理性を保ちながら狂っていたので、思考転換する気配もありませんでしたからね。うふふ……私は世界と身体しか取り柄のない女を比べて後者を取るような奴なんですよ……? うふふ……。
「100年後ぐらいに我らが指揮官様から生成したアンチェインドを受け取り……それで楽に死ねるのがいいですね……」
私にまさを考えながら畑作業を終えた私は古民家の土間に入り――凡そ古民家には似つかわしくない機材が所狭しと並んだ居間に直接入る。
「うんしょ……」
身体の半分ほどのサイズなので、室内では邪魔になる両脚を外して土間に置き、膝から下の部分が無くなった私は腕と触手で這って居間にある低い作業台まで行く。
それからそこに座り込むと、作業台にピナさんの首を置いてから大きく深呼吸をする。
「…………では今日もやりましょうか、ピナさん」
ピナさんにそう言ってから私は触手に多数の器具を持たせ、自身の身体を器具で切開し、周囲の機器を体内に差し込み、背部・頸部・頭部などから神経や侵食誘発装置そのものを引きずり出してその中にある生きた侵食コードそのものを取り出す。
「……ッ…………ぁぅ……!」
機械に脳を乗せたヒューマノイドのニケとは違い、ヘレティック……というよりも私の身体の構成は機械生命体とでも言うべき存在なせいか、感覚をON/OFFで切り換えるようなことができない。そのために痛みはあるけれど、直ぐに化膿や傷が残ることなく再生するから何も問題ない。
この3年間、私は侵食コードの解析をし続けて来た。無論、侵食型ヘレティックの私に侵食されたピナさんとゴッデス部隊の量産機たちを元に戻すためだ。後者に関しては……頭を抱えるような別の問題もあるのですが、それは施設から離れることで考えないようにしています。なんであれ、先に侵食を治せるようにならなければ……。
レッドシューズが進化して人間が理解出来るモノでは無くなったと言っていた侵食コードを、私はヘレティックという人間でない視点を持っているせいか、頭だけは良いせいか、その両方なのかは分からないが、理解が出来ないという程でもない。たぶん、これは私にしか出来ないことだ。
そもそも侵食とはという話だが、ニケの脳にあるNIMPHという制御機能や記憶の管理などを可能とするナノマシンである。それに侵食誘発装置を備えた侵食型のラプチャーが侵食コードを流し込むことでNIMPHの制御を掌握し、ニケの脳そのものにに強制的かつ持続的な命令をすることた。要するに人間がゾンビになるようなことのニケ版と言ったところ……いや、バイオの作中で言えば厳密には全然違い――この話は必要ありませんね。
そして、その侵食型ラプチャーが持つ侵食コードを作り出したのが、他でもなく最悪なことに私のオリジナルということになるレッドシューズというニケになります。しかも関係者には行いがバレた上で死んでいます。うふふ……私が彼女の知り合いに出会ったらどうなるかは火を見るより明らかですね……。
なぜそんなイカれたことをしたのかと問われれば、イカれてるからとしか言いようがないが、一応理由としてはラプチャーに人類は勝てないので、ニケがラプチャーになることにより、ラプチャーと共存をしようというカスみたいな考えによるものである。ゾンビ映画でのゾンビの人権保護団体みたいな思想ですね、やったことはただのババアインパクトですけれど。私がこの顔で、こんなこと言ってるのは既にギャグですよ……私はまるで笑えないという点を除けばですが。
ちなみに元々侵食誘発装置の侵食コードは精々数秒ニケの動きを止める程度の能力しかなかったが、それを態々ここまで強化したのが、他ならぬレッドシューズの功績である。
そんな侵食は、約100年でも解消は疎か予防手段すら存在せず、対症療法として初期状態なら記憶を全て抹消すれば取り除ける程度であり、ニケにとっては狂犬病よりも遥かに恐ろしい病なのだ。まあ、そもそも主人公の指揮官はチュートリアルでその侵食によるマリアンショックを受けて始まり、NIMPH自体を破壊するアンチェインドを求める話に繋がるため、逆に言えば侵食がなければ物語が始まらなかったかも知れないが、そもそも侵食が無ければ人類がアークひとつに押し込められるほど追い詰められるようなこともなかっただろうから慰めにもならない。
侵食についてはさて置き、侵食コードというものが何故人間に理解できないかという話をすると実に単純なこと。常に進化し続けており、コードの内容が定まらないからだ。その上、ナノマシンのNIMPHはサドル……もといそれ自体の構造を理解せずに使われている技術なため、そこに手を出されては対処のしようがないという理由も大きいでしょうね。例えるなら1900年代頃の脳腫瘍のようにアークの人類に於いて理解の範疇を越えているんです。
ただ、私が研究している限り、侵食コード自体は決して解析不能なものではない。そもそもコードという認識からいけないのだと思う。これは決して機械的な情報などではなく、極めて生き物に限りなく近い何かだ。
簡単に例えるならインフルエンザウィルス。
NIMPHという
私がヘレティックでなければ侵食コードの型の違いなど突き止めようもなかったので、人間には理解が出来ないのだろう。
なので、実のところ既に予防手段の方は出来ていたりする。単純に流行りの型の抗ウィルス薬もとい侵食コードのみをブロックするようなプロテクトをNIMPHに行えばいいのだ。そんなプロテクトの生成は10分もあれば、私が作れますね。
ただ、その型そのものにしか効果がない上、予防と初期段階の治療にしか恐らく効果はない。
例えばタイラント級の侵食型ラプチャーであるブラックスミスと、侵食型ヘレティックな私の侵食コードはまるで異なるため、片方のプロテクトはもう片方のプロテクトには一切効果がない。また、侵食コード自体が時間が経てば進化する上、地域差などもあるため、常にプロテクトを更新し続ける必要があるため、正直なところあまり現実的な方法ではないというのが現段階で言えることだ。
それに侵食され切っている状態の治療となると話が変わる。それこそ狂犬病の初期状態の治療と、末期状態の治療レベルに話が変わる。
何せ侵食コードがNIMPHに作用した場合、それはほぼ不可逆と言っても過言ではない。要するにコーヒー牛乳をコーヒーと牛乳に戻せるかというレベルの話になってしまう。いえ、流石にそこまで不可能な話ではありませんが、例えに狂犬病が出る辺りで難易度は察して頂きたいですね……。
ただ、幸いなことに侵食コードを打ち込んだラプチャーはここにいます。なので、私自身の侵食コードを解析し、それに沿った特効薬さえ作れれば治療も不可能では無い筈です。
アンチェインド? 確かにNIMPHを破壊すれば解決はしますね。うふふ……ですが、それは精神病を治療薬で治そうとしているのに脳の一部を破壊して治すなどと話すようなものですから止めてくださいね? まあ、NIMPHがきな臭いのはそれはそうなのですが……だからといって壊して良いものでもないでしょう。
とは言ったものの現在の私の侵食コードの治療薬の完成度は精々5%前後と言ったところで、とても現実的な状態ではない。だが、時間だけはあるため数十年掛かれば不可能な話ではない……と思いたいところですね。実際のところ作れるかと確実なことは言えません。
けれどそれでも私は決めたことをやるだけです。それしかありませんが、それだけなら出来るのですから。
「ピナさん……少しずつですが、絶対に助けますからね? だから――」
"いつか話し相手になって欲しい"という言葉を私は飲み込んだ。そもそも私が仕出かしたことな上、仮に治療出来たとしても凍結していて意識のない彼女が私を見れば、殺し掛けて来た宿敵としか思えないだろう。
そう考えると、一体何のために私はこんなことをしているのか? 何故ここまで苦しんでまでラプチャーを裏切り、人間側に付こうとしているのか? 私はいったい何のために生きているのか? そもそも私は生きていたいのか――?
「っ……ッ!?」
色々疑問が私の中に浮かびましたが、それらを考えることは止め、自身の体内に挿し込んでいる器具を強めて痛みで思考を振り払うと作業に戻る。
"少しでも償いになるのならきっとそうするべき"
それだけが今の私の生きるよすがでした。
〜 QAコーナー 〜
Q:この娘、レッドシューズっぽいだけのお姉さんじゃねーか!
A:カルピスを原液のままで美味しく飲めますか? フグを内臓ごと食べますか?